17話 空の贈り物
「あれ?」
「あぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
“空の頂き”の2合目についてスウィートは首を傾げ、フォルテは絶叫をあげた。2匹が見ているのは別々の方向である。
「あっ、やったよアル! 今回は僕らの勝ち!」
「俺を含めるな」
シアオの言葉をばっさりと切ったのはアル。そしてフォルテは射殺さんばかりの目でシアオを睨みつけている。当本人は気付いていないが。
そしてスウィートが首を傾げた理由は二合目が一合目と少し違ったからである。
すると3匹のポケモンがスウィートの方に近づいてきて、スウィートは慌ててフォルテの後ろに隠れる。フォルテも3匹に気付いたようで、シアオを睨むのをやめた。
「やあ! 俺たちはプロジェクトPの調査チーム『フロンティア』! 俺の名前はキトノ・サティレス」
「俺は『フロンティア』の隊長、ゴケル・アーテン」
「私はリイエット・フィレア。リイエ、と呼んでくれて構わないよ」
順に自己紹介したのはキノガッサ、ゴーリキー、そしてクチートだった。
『フロンティア』に続いてシアオが自己紹介しようとすると、リイエが「あぁ、大丈夫よ」とシアオの言葉を遮った。
「この世界を救った英雄の探検隊の名前はきちんと覚えているわ! 小説には書かれていなかったけれど……そっti
に隠れているのがリーダーのスウィート・レクリダ。で、シアオ・フェデスにフォルテ・アウストラ。そしてアルナイル・ムーリフ、よね?
私、あの小説のファンで、セルルから……あぁ、カフェにいるパッチールのことね。から、聞いてたの」
本物に会えて良かったわ。リイエは嬉しそうに話すが、『シリウス』の反応は各々だった。
1匹は知られていることに泣きそうになり、1匹は自己紹介の手間が省けたと喜び、1匹はちょっと自慢げにし、1匹はここにいない作者と発信者に悪態を心の中でついた。
そんな4匹に気付かず、ずいっとキトノが『シリウス』とリイエの間に割り込んだ。
「そっちの話がしたいんじゃないんだよ! リイエ、話を逸らすなよ!」
「まあいいじゃない。少しくらい。だって英雄になんて滅多に会えないもの」
トレジャータウンに行けばほぼ毎日のように会えます。
英雄とよばれた4匹は心の中でそう思うだけ思い、黙っておいた。言ったらいったで面倒なことになりそうだからである。
するとリイエに抗議の声をあげていたキトノが『シリウス』に向き直った。
「で、本題に入るけど……この山って高いし登るの大変だろ? それに救助も頼めないし……だから、この2合目に基地を作ることにしたんだ」
「基地?」
シアオが復唱した言葉に、そう、とキトノが頷く。するとリイエが会話に入ってきた。
「ガルーラ像とか、ゴンドラを用意したの。ガルーラ像はおそらく知ってると思うから説明はしないけど、ゴンドラはしとくわね。ゴンドラを使えばすぐにシェイミの里まで戻れるわ。
今はまだ2合目だけだけど、これから他のところにも基地を作るつもりよ。そしたら登るのも楽になるはずだしね」
「これはプロジェクトPのリサイクルで賄っている物だから、全部タダだ。好きに使うといい」
「それは本当ですか!?」
ゴケルが説明し終わると同時に声がし、『シリウス』と『フロンティア』がそちらを見る。
すると2合目に到着したばかりの『アズリー』とスティアがいた。もっと詳しく言うと、メフィとスティアはボロボロで、凛音は無傷で立っていた。
スティアは凄い速さで『シリウス』達の方へ向かい、そして少し涙目になりながら声を荒らげた。
「素晴らしいのですよ、助け合いの精神は! さすがです! そしてお聞きしますが……帰れるのですよね!? ゴンドラを使えばすぐに! シェイミの里へ!!」
「帰らせると思ってるのですか?」
スティアの後ろからまるで氷のような声が聞こえ、ビクッとスティアと『シリウス』が肩を揺らした。
ゆっくりと5匹が振り返ると、シアオとスティアが「ひぃぃっ!!」と情けない悲鳴をあげた。スウィートとメフィは顔をひきつらせ、アルとフォルテは「触らぬ神に祟りなし」といったように顔を背けた。
そして原因の当本人は、いつもの無表情である。
「私は途中で依頼を放棄するというのは絶対に嫌なので、スティアには何が何でも山頂まで登ってもらいます。……よほどのことがなければ」
「よほどってどのくらいのことなのです!? 死ぬ寸前まで登らせるつもりに見えるのですよ!」
「それが何か?」
「問題大有りなのですよ!!」
抗議しているスティアに、凛音は表情1つ変えずに淡々と返している。メフィは色々と諦めているのか、『フロンティア』に基地についての説明を受けていた。
何だか自分たちと似たようなマイペースな探検隊になってるなぁ、などと思いながら3匹は『アズリー』とスティアを見るのであった。
――――空の頂 3合目までの道のり――――
「帰らせてほしかったのですよ……」
「言ったでしょう。途中で放棄するのは嫌だと。クラウアさんの依頼は何が何でもやり通します。一晩泊めていただいたお礼があるので」
「私の家でもあるのですよ!?」
「クラウアさんの方が優先順位が上です」
「さ、差別……!」
「スティアー。いい加減 諦めた方がいいよ? 凛音は頑固だから余程のことがない限り自分の考えてることを貫き通すもん」
のんびりと進んでいるのは『アズリー』とスティア。
あのままゴンドラで帰ろうとしているスティアはやはり凛音の蔓によって無理やり引きずられ、そして今に至る。
メフィはオレンの実を食べながらついていっている。といっても、敵の殲滅はほぼメフィが行っている。強くなるため、とメフィが率先して戦っているからだ。
「そういえば……“空の頂”にすっごい秘宝があるっていうのは本当なの?」
「へ? あ……あぁ。凄いのかどうかは知りませんが、他では見つけられない秘宝があるのは本当なのですよ。
今のところ見つけていませんが……“空の頂”には時折空の贈り物≠ニいうものが落ちているのです。しかしそれは開けてみても、空っぽです」
「え?」「…………。」
メフィが目を丸くし、凛音が少しだけスティアに視線を寄越してからすぐに前へと戻した。
そのままスティアは続ける。
「空の贈り物≠ニいうのは、名の通り、贈り物≠ネのです。
だからもしメフィが見つけたとして、メフィがあけても中身はありません。ただメフィが感謝の気持ちをこめて凛音に渡したとしたら、中身が入っています。中身は開けてみないと何か分からないのですが……。ただ、それを受け取った人は幸せな気持ちになるといわれています。
それが空の贈り物=Bこの“空の頂”にしかない、宝ですよ」
「……なるほど。案内役もできないことはないんですね」
「ひ、酷いです……! 勉強はきちんとしていたのですよ。……登らないだけで」
「でも登れないんだったら案内役できないよねー。あっ、別にスティアのことを悪く言ったわけじゃないよ!?」
メフィが慌てていったが、分かってますよぅとスティアは少しいじけてしまった。どうやら自覚はあるらしい。
すると凛音がバッと振り返り、後ろにいたスティアとメフィが大げさに体を揺らした。しかし凛音は2匹を見ておらず、違う、遠い方向を見ている。
これまで散々な目にあっている2匹は、タラリと汗を流した。
「ポケの……音!!」
「ぎゃああああああッ!!」
「凛音ぇぇぇぇ!! スティアを引きずんないで――っていうかあたしを置いていかないでー!!」
おそらくポケの方へ凄い速さで走っていく凛音にスティアは引きずられていき、メフィは慌てて追いかけていった。