15話 同行者
「ではまた明日。おやすみ」
「お、おやすみなさい」
「おやすみ〜」
クラウアが一通り説明し、そして先ほど部屋を案内してから帰っていった。
『シリウス』の宿の部屋でぐたーっと楽な姿勢で、それぞれのベッドに座っていた。けっこう遠出をしたので疲れたらしい。
「にしても明日はついに山登りだね! 楽しみだな〜」
「まあ、秘宝っていうのは気になるわね」
シアオとフォルテの会話を聞いてスウィートが苦笑する。
するとアルが2匹に目をむけた。
「凛音とメフィを待たせることのないよう、早起きしろよお前ら。……置いていくからな」
「なっ、起こしなさいよその場合!!」
「お前は起こしたら火炎放射うってくるだろうが」
アルに言われてもフォルテは文句を言い続けている。フォルテも“空の頂”には興味があるらしい。
するとシアオが声をあげた。
「そういえば僕 考えたんだけどさ、誰が1番早く山を登れるか競争しようよ!!」
するとスウィートはぴたっと作業を止めてシアオを見る。フォルテは鬱陶しげにシアオを見て、アルは溜息をつきながらシアオを見た。
それぞれの様子にシアオは首を傾げる。
「あれ? 何かダメ?」
「いや……大丈夫なのかなぁ、って思って」
“空の頂”って高いらしいのに、とスウィートは付け足した。
いつも登っている山と、“空の頂”は違うのだ。何せ噂で天まで届くといわれている山だ。どれだけの高さかは分からないが、相当の高さがあるのは確かだろう。
すると今度はフォルテが発言した。
「あたしは構わないわよ? 負ける気はしないし。特にシアオには!!」
「何で僕だけなのさ!?」
フォルテの発言にシアオが文句を言うが、フォルテは諸ともしない。
スウィートが困った顔をしていると、アルが容赦なく2匹の頭を叩いて言い合いを止めた。
頭をおさえている2匹を見てアルは溜息をついた。
「競争すんのは別にいいが、その場合はペアになってやれ。何かあったときに1匹じゃ困る」
「じゃあスウィートはあたしと一緒に行きましょ!」
アルの発言を聞いて、フォルテがバッとスウィートの方を見る。
どう反応していいのか分からないスウィートは、アルに「助けて」という目線を送った。そして案の定アルは溜息をついた。
「あー、俺とシアオで組むから2匹で行って来い。ただスウィート」
「え、な、何?」
何か言われると思っていなかったスウィートは困惑する。何か注意事項があるのだろうか、と身構えた。
「フォルテのことはしっかり見張っておけよ。あと何かしでかしそうだったら何をしてでも止めろ。いいな」
「えっと……は、はい……?」
「ふざけんじゃないわよ、アル! あたしが何かしでかす訳ないでしょ!?」
「いや、フォルテだったら十分ありえるって」
「アンタに言われたくないわよ」
「え、ちょ、それどういう意味!?」
アルの言葉に反応し、またフォルテとシアオが言い合いを始める。
これ以上 干渉する気はないらしいアルは寝る準備をしており、スウィートは言い合いを見て苦笑しながら寝る準備を進めた。
一方、クラウアとスティアの家に泊まることになった『アズリー』も準備をしながら4匹で話していた。
そして他愛ない会話をしていると、クラウアが不意に話題をかえた。
「そういえば『アズリー』。探検隊というのは依頼も受けてくれるのだな?」
「えっ、あ、はい!」
メフィの返事を聞き、クラウアがふむ、と何かを考えるような素振りを見せる。
それに凛音が怪訝そうな顔をしてから、クラウアに話しかけた。
「何か頼みたいことでもあるのですか?」
「あぁ……とてもくだらないことなのだがな……。その前に1つ聞いておいてもよいか?」
「はい」
「『アズリー』は山頂を目指しにきたのだよな?」
クラウアの問いに凛音とメフィが顔を見合わせ、メフィが元気よくその問いに答えた。
「えっと……一応そのつもりですよ? あと此処の秘宝も探すつもりで……」
「そうか。……では、依頼をしてもよいか?」
「私は別に構いません。依頼をする場合は家に泊めていただいたお礼として、無償で受けますが」
「あっ、そっか。お礼しなくちゃいけないしね!」
するとチラリとクラウアがスティアを見た。それに気付いたスティアが頭に疑問符を浮かべたが、すぐにクラウアが視線を逸らし、『アズリー』を見た。
それに気付き、依頼内容を聞くためにメフィが聞く姿勢に入るとクラウアに「楽にしてよい」と言われた。
「別にそこまで難しい内容を言う訳ではない。……山頂まで、スティアを連れて行って欲しいという、とても単純な依頼だ」
「え!?」
「スティアさんを山頂へ、ですか?」
意外な依頼内容に、メフィと凛音がきょとんとする。
しかし名前をだされた当事者は慌ててクラウアに抗議の声をあげた。
「そ、そんなこと頼まないでいいのですよ! じ、自分は……」
「そなたの意見はハナから聞く気などない。そして拒否権もない」
「えぇ!?」
クラウアの言葉にどんどんスティアが顔を青ざめさせていく。
それを見ながら『アズリー』は首を傾げた。スティアが何を嫌がっているかが分からないからだ。
するとクラウアが説明してくれた。
「最初に言ったであろう。シェイミはもともと“空の頂”の案内役であったと」
「そういえば……言ってましたね」
「その案内役をするにあたって、“空の頂”について熟知しとかねばならん。しかし、だ……」
クラウアはゆっくりとスティアを見た。ジーッと見られ居心地が悪かったのか、目を明らかに逸らしながら、口をパクパクさせて言葉を捜している。
そんなスティアにクラウアは溜息をつき、また『アズリー』に向き直った。
「スティアは、頂上に登ったことがまだ一度もない」
クラウアがそう言った後にスティアを見ると、スティアはバツが悪そうに目を逸らした。
「え、えぇぇぇぇぇ!? 案内役なのにですか!?」
「メフィ、黙ってください。煩いです」
『アズリー』が、というかメフィがそういった反応をすると、スティアがしどろもどろに言葉を紡ぎだした。
「で、でも、の、登ろうとはして……ただ、頂上に辿り着けないだけで……その……だから……」
どんどん小さくなっていく声。内容はただの言い訳である。
そんな妹の姿を見てクラウアがはぁ、と溜息をついた。それにビクリとスティアが体を揺らすが、もう何か言うこともできないらしい。
不意にメフィが「ちょっと質問!」ときり出した。
「どうしてスティアさんは山頂までいけないの? やっぱり何か理由があるんですよね?」
それを聞き、「そういえば言っていなかったな」とクラウアが呟いてから説明しだした。
「“空の頂”を登る前に……父上とともに小さな山をスティアと私で登りに行ったことがあってな。その山は小さかったしすぐに山頂につけた。
しかし……山の天候はかわりやすいというだろう? 山頂は大荒れだったんじゃ」
「天気が悪かった、ってことですか?」
「あぁ、雨は酷く雷もなっていた。それで……雷が」
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!! もういいです、話さないでほしいのですよ!!」
「スティアの真横に落ちた」
「何で言うのですか!?」
「つまりそれがトラウマだと」
凛音が静かに言うと、クラウアが首を縦にふった。
スティアは涙目で、メフィが「ドンマイ」とでも言うように頭を撫でている。
それさえも気にせず、クラウアは『アズリー』の方を見た。
「“空の頂”は10合目まである。10合目が山頂じゃ。スティアが登れたのが8合目……それ以降を引っ張っていってほしい。引きずってでも」
「分かりました。引きずってでもスティアさんを山頂までお連れいたしましょう」
「凛音!? 引きずるのはやめよう!?」
至極 真剣な顔をしながら恐ろしいことを言ってのけるクラウアと凛音に、スティアとメフィが顔を青くする。特にスティアが。
しかし全く気にしていないといったように、凛音はスティアの方を向いた。
「では改めまして宜しくお願いします、スティアさん。……何が何でも山頂までお連れいたしますので」
凛音の言葉にクラウアは満足そうに笑い、メフィは頬をひきつらせ、スティアはただただ顔を青くさせるしかなかった。