12話 少し後の話をしよう
「あぁぁぁぁぁ火炎放射ァァァァァァ!!」
「え、ちょ、ぎゃぁぁああぁぁぁぁぁぁ!!」
スウィートが慌ててフォルテの火炎放射を喰らったシアオに駆け寄る。見事に直撃したシアオはぷすぷすといい具合に焼けていた。
フォルテは完全に不機嫌であり、イライラしているのが表情だけで分かる。まるで般若のような顔だ。
どうしてシアオがフォルテの火炎放射をうけることになったのか。
サメハダ岩に戻り、フォルテが起きたと同時にシアオがアリアの伝言をそのままそっくり伝えたからである。そして何度か「あのクソ兄貴ィィイィィィィ!」と文句を言ってから、冒頭にいたる。
「何なのアイツ! あー、腹立つ!!」
フォルテの怒りはおさまらないらしく、ブツブツと文句を言っている。
アルは何も言わない。「甘かったのも負けたのも事実」と心の中で思っているが口にはださない。シアオの二の舞になる可能性があるからである。
しかしこのままでは住居が燃やされてしまう。
「おい、フォルテ。暴れるなら海岸に行って来い、海岸に」
「はぁ!? 嫌に決まってるじゃない」
「なら火炎放射やら火の粉や此処で撃つな」
するとむすっとした顔をフォルテがする。頭では分かっているらしい。
しかしアリアの一言と負けたことについて納得がいかないため、じっとできずに技でストレスを発散するしかないようだ。
アルに軽く睨まれ、フォルテはまだ納得いかないようにボスッと自分のベッドに座った。
スウィートはズルズルとのびているシアオをベッドまで引っ張っていっている。流石にアルが手伝いに入り、最後はアルがシアオをベッドに投げた。
「よし」
「ア、アル……全然よしじゃないよ……」
「シアオが悪い」
「何も悪くないと思うんだけど……」とスウィートの言葉に「バカが悪い」と言い直してアルは自身のベッドに座った。
まだ何か言いたそうなスウィートだったが、アルと同じように自分のベッドに座った。
「……そういえばフォルテ」
「何?」
少しイライラしたような口調だが、どうやら答えてはくれるらしい。
スウィートはバレないようにほっと息をつき、質問をフォルテに投げかけた。
「シアオやメフィちゃんも言ってたんだけど……どうしてその、フォルテはアリアさんやフェロさんと同じような道に進もう、って思わなかったの?」
スウィートがそう言うと、フォルテは肩をすくめた。
「懐かしいわね、その質問。「何で同じ道を進まないの?」って……。
まずあたしはああいうコトをやりたくない。それが1つ。あと何か同じ道を進むのが当たり前ー、とか思われてる道に進みたくなかった」
「へ、へぇ……」
フォルテらしい。スウィートもアルもそう思った。
そんな2匹に気付かず、フォルテはそのまま続ける。
「あたしはあたしのやりたい様にやる。誰かに指図されるなんて真っ平ゴメンよ。……これでいい?」
「う、うん。何かフォルテらしくて、納得した」
「何それ」
フォルテがやれやれ、と言ったような表情をした後、逆にスウィートに質問した。
「スウィートはさ」
「ん?」
「この生活が終わっったらの話だけど……やりたいこととか、あるわけ?」
スウィートが頭にたくさん疑問符を浮かべているのを見て、フォルテは困った顔をして言葉を探す。
すると黙って聞いていたアルが口を挟んだ。
「この探検隊の生活が、ずっと続くとは限らないだろ? もしかしたらこの中の誰か……おい、フォルテ。例えだから口はさむなよ」
「……何であたし限定なわけ?」
「で、もし誰かが家庭をもったら、この生活は続けられるか?」
「まず仮定がありえない。気持ち悪い」
「口はさむなって言ったよな。例えだって言ってんだろうが」
2匹のやりとりに苦笑してから、スウィートはアルの「もし」の話を考えた。
確かに、もし誰かが家庭を持ったならば、この生活が続けられるわけがない。誰かはその家庭の家で暮らすのが当然だろう。もしかしたらその誰かは探検隊をやめるということになりうる。
あぁ、そういうことか。スウィートはフォルテの言ったことを理解した。
永遠に、という訳にはいかないのだ。この生活が永遠に続くという保障はないし、最終的にこの探検隊がどんな形になるかどうかなど分からない。
もし、この生活が終わったら。誰かが違う夢をもって、探検隊をやめて、最終的に解散という形になったら。
その後に、自分はどうするのか。
「……確かに、ずっと続くかは分かんないもんね」
スウィートは困ったように笑い、フォルテとアルの方を見た。
「けどさ、私はできるだけ探検隊を続けたいなぁ。ずっと、なんて贅沢は言わないけど……とりあえず出来るだけ皆と一緒にいたいかな」
「もし、探検隊を解散なんてことになったら?」
「うーん……。私は特にやりたいこととかないから……それを探そうかなぁ」
「おい、それ意味ないだろ」
そうかなぁ、と笑うスウィートにアルは溜息をついた。
するとスウィートがまたしてもフォルテに、そしてアルに質問を投げかけた。
「フォルテとアルは? やりたいこととか、あるの?」
するとフォルテはえー、と声をあげて探し、アルは手を顎にあてて考え始めた。どうやらこの様子ではちゃんとやりたいこと等はないらしい。
少し待っていると「うーん」とシアオが声をあげて、起き上がった。
「シアオ、大丈夫?」
「う、ん……。だいじょうぶじゃない……」
ただ寝ぼけているようで大丈夫のようだ。スウィートはそう判断した。
するとフォルテが「そうね」と声をあげたのでシアオが構えた。しかしそれは杞憂に終わった。
「あたしも特にないかしら。……まあその内見つかることを信じてるわ。今はこのままで満足してるし」
「そっか」
フォルテの言葉を聞いてスウィートが嬉しそうに笑うと、フォルテはつられるように笑った。
そしてアルは少ししてから返事をした。
「俺も……今はこのままでいいと思ってる。不満は……シアオとフォルテさえ大人しくしてくれればないしな」
「「ちょっと待て」」
またいつものようにシアオとフォルテがアルに抗議の声をあげる。
その光景を見てスウィートが苦笑するのも、いつものことだ。
(少しでも、この生活が長く続きますように)
そんなことを考えながら眺めたのは、いつもと違うところ。