11話 兄VS妹
「……ていうかホントに兄貴とお姉ちゃんは何しに来たわけ?」
フォルテが叫んだ後にギルドを出て、今はパッチールのカフェで『シリウス』とフェロとアリアがゆっくりとジュースを飲んでいた。
ジュースを全て飲み終わるとふぅ、とアリアが行きをついた。
「様子を見に来たって言っただろう。様子みれたしもう他にやることはないというか」
「そういえばフォルテはアリアに「バトルだー」って突っかかんないの? あれすっごく面白かったのに」
フェロの発言からしてフォルテはアリアに「バトル」と言って突っかかっていたらしい。
するとその質問にフォルテは自信満々に答えた。
「だって今はあたしの方が強いから比べる必要はないもの!!」
「564戦中0勝564敗の奴が何をぬかしてんのかなー」
「痛い痛い! はなせ兄貴!!」
またしても地面ではないが机に頭を押し付けられているフォルテを見ると、アリアよりフォルテが強いなどと考えられない。
3匹が苦笑いしかできないでいると、フェロが「そうだ!」と言った。
「じゃあ最後にフォルテとアリアの勝負を見て帰りましょう! いや、帰るんじゃなくて仕事にいくんだけど……」
「ええっと……それってアリアさん大丈夫なんですか……?」
スウィートが心配そうに声をあげると、当の本人は呑気にあははと笑った。
「大丈夫だよー。要は無傷で勝てばいいってことだしね」
「へぇ〜……。言ったわね、兄貴。仕事にいけないほどズタボロにしてあげるわよ!!」
「アル、フォルテの死亡フラグがどんどんたっていく」
「言うな。アイツもきっと自覚済みだ」
「アンタらも兄貴が終わったあとに相手するから覚悟しときなさい」
どうやら本気でやるらしい。
スウィートが困ってフェロに目をむけると「かわいー!!」と抱きつかれた。駄目だ、誰も話を聞いてくれない。
そう悟ったスウィートだったが、すぐにフェロが引き剥がされた。笑顔なのに目が笑っていないアリアが引き剥がしたのだろう。
「困っているだろう? あと誰が人様に許可なく抱きついていいと言ったかな?」
「い、いや、可愛かったから、つい」
「今すぐ警察に突き出してあげようか? セクハラで」
「いや、セクハラじゃなくてスキンシップ――すみませんでしたぁぁぁぁああぁぁぁぁぁ!!」
あまりのアリアの笑顔の怖さにフェロが頭を深く下げた。
フォルテもだが、フェロもアリアには勝てないようであった。
「後悔しないでよ、兄貴! 仕事のキャンセル入れんなら今のうちよ!」
「あっはは、俺がフォルテなんかに負けるわけがないじゃないか。もしフォルテが俺に勝てるだなんて思っているなら驚きだなー」
「っんの口も今すぐきけなくしてやるわよ……!!」
メラメラと燃えているフォルテとは真逆で、アリアはとても落ち着いている。というか呑気だ。
スウィートがハラハラしながら見守る中、他の3匹も呑気であった。
「あー、フォルテ終わったね。死亡フラグがたちまくってるもん」
「どうしてあの子は理解をしないのかしら」
「バカだからです」
「あぁ、なるほど」
本人がいないからと酷い様である。
スウィートはそんな3匹を見てから、フォルテとアリアを見る。しかしどうしようもなく、ただ視線を動かすだけしかできない。
「じゃあいくわよ!!」
「フォルテからどうぞどこからでも。一発でも当てられたらいいねー」
するとピキッとフォルテが青筋を浮かべた。
「一発どころか百発あててやるわよ、クソ兄貴! シャドーボール!!」
「火炎放射」
真っ直ぐ向かってきたシャドーボールをアリアは火炎放射で打ち消す。フォルテはでんこうせっかで移動し、そのままアリアの頭を狙った。
「アイアンテール!」
「っと……オォォォォォン!!」
いきなりアリアが叫び、アイアンテールが当たる前にフォルテの体が吹っ飛ぶ。そして体を岩に打ち付けた。
それにシアオが首を傾げた。
「さっきのって……」
「吠える、よ。それでフォルテの体が吹っ飛んだってワケ」
あぁ、とシアオは納得した。しかしまた首を傾げる。
アリアが攻撃しようとしないのだ。フォルテが起き上がるのをニコニコしながら見ている。ある意味 恐ろしい光景で、おかしい光景でもある。
するとフォルテの青筋が増えた。そしてアリアに向かって大声で怒鳴る。
「アンッタねぇ……ナメてんの!?」
「ナメてる、ナメてる」
あぁ、それ以上キレさせちゃダメだ。
そんなスウィートの心情も知らず、勿論そんな見下されたような言動を聞き流すわけでもなく、フォルテは更に怖い顔をする。シアオがビクッと体を揺らすぐらいに。
「へぇ、へぇぇぇぇぇ……!! 今すぐくたばれ兄貴!! エナジーボール!!」
「よっ、と」
まるでフォルテが何をするか分かっているかのように、アリアは綺麗に技を避けた。それも笑顔つきで。
フォルテはそのままアリアを狙って攻撃を仕掛ける。
「火炎放射!!」
「え?」
フォルテの出した技に、スウィートが目を丸くする。アルもだ。
2匹がフェロを見た。するとニッコリと笑いながら「勿論アリアの特性は貰い火よ?」と言った。
特性が貰い火。つまりフォルテのお得意の炎技は相手の能力値をあげるだけ。しかしフォルテは火炎放射を撃った。スウィートとアルは苦い顔をするしかない。
その火炎放射をもちろん避けずにニコニコして見ているアリアだったが、すぐ近くまで火炎放射が迫ると笑顔が消えた。そして悪の波動で火炎放射を打ち消した。
これはフェロも目を見開いた。スウィート達もだ。
そんな4匹を知らないといったように、フォルテは移動していた。
「シャドーボール!」
「残念だけど、遅いかなー」
またしても笑顔になったアリアはひょいっとフォルテの攻撃を避ける。
しかしそれはフォルテも承知済みで、でんこうせっかで少しアリアの背後に近づく。
「エナジーボール!」
「おっと」
背後にまるで目がついているかのように、アリアは的確に避ける。
そのまま避けるときにフォルテの方を向き、およ、と言って笑顔が消えた。
「……ふういん、か」
「そーよ! 残念だったわね! いくら兄貴でも頭にアイアンテール直撃されれば気絶するから、その間にギッタギッタにしてやるわ!」
何て恐ろしいことを考えているんだろう。
同じ『シリウス』のメンバーは頭の片隅でそんなことを思った。まあフォルテらしいといったらフォルテらしいのだが、結構 卑怯である。
するとフェロがポツリと漏らした。
「……早く攻撃した方がいいんじゃないかしら」
確かに、と3匹が思った。
だがフォルテは尻尾に力を溜めている。どうやら一撃で終わらせたいらしい。しっかりとパワーをためている。
そして終わったとともにアリアに飛び掛った瞬間、
「アイア……」
「甘いよ、フォルテ。はかいこうせん」
「ンテールって――うなぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
普通じゃない威力になっているはかいこうせんに、観戦していた4匹は目を瞑る。
そして収まった後に目をおそるおそる開くと、アリアが相変わらずの笑顔で立っていた。フォルテはちょっと遠くの方で倒れていて、気絶しているのか立ち上がる気配がない。
「うっわぁ……」
「フォルテ!!」
フェロが声をあげたと同時に、スウィートがフォルテの方へ駆け寄っていく。
するとアリアがフェロの前まで行き、ニッコリと効果音がつきそうなほどの笑顔で言い放った。
「俺が気絶した後うんたらかんたら言ってたけど……フォルテで実現してやった方がいいかな?」
「やめてあげて!?」
それは流石に酷すぎる、とフェロは声を荒げてアリアを止めた。
アルは何ともいえない顔で見ている。するとシアオがアリアに話しかけた。
「なんでアリアは火炎放射うけなかったの?」
「あぁ、フォルテが火炎放射に見せかけてシャドーボールを中に仕込んでたからだよ。流石に喰らうのは遠慮したかったから」
その言葉にシアオでなくフェロが「フォルテすごーい!」と声をあげた。
するとまたしてもシアオが質問を投げかけた。
「じゃあはかいこうせんの威力が凄かったのは?」
「それはわるだくみのお陰かなー。何回かしてたんだけど、フォルテは気付かなかったみたいだし」
何かぜんぜん勝てる気がしない。アルは密かにそう思った。そしてフォルテを見る。
そのフォルテはやはり気絶しているようで、スウィートに数度呼びかけられた後、一生懸命 運んできたスウィートにのびた状態で連れて来られた。
「あの、気絶、してる……みたいです……」
全員の視線がフォルテにいくが、起きる気配は全くない。
「それじゃあフェロ、結局一発も喰らわなかったことだし仕事に行こうか」
「あら、フォルテに挨拶しなくていいワケ?」
「言うことないしねー。あ、伝言 頼める?」
するとシアオが「オッケー!」と大きく返事した。その伝言というので、スウィートとアルとしては嫌な予感しかしなかった。
アリアはニッコリ笑って、言った。
「単細胞って、言っておいて」