10話 幼少期の暴露
「フォルテ先輩の家族って聞いたことなかったですけど、有名人だらけですね」
「え?」
アリアとフェロの説教を大人しくとはいえないが受けているフォルテを見ていると、メフィが急にそう言った。
スウィートはどういう意味だろう、とメフィを見る。アルもシアオも凛音もだ。
「だってアリア・アウストラにフェローチェ・アウストラっていったらアイドルですよ、ア・イ・ド・ル!!」
「え、えぇぇええぇぇぇぇぇぇ!?」
メフィの言葉に煩く反応したのはシアオだった。アルは煩いとシアオの頭を叩いた。凛音はやはり無表情だ。
そのまま思い出すかのように上を見てメフィは続ける。
「確か……2匹の父親と母親は……父親がすっごい有名なデザイナーさんで、母親が昔のトップアイドルって記事に載ってましたもん」
「うえぇぇぇぇ!? す、凄いね……」
「まさかそんなポケモンの間に生まれた奴だったとは」
「……驚きですね」
シアオとアルと凛音がそれぞれの意見を述べる。
するとスウィートがこてん、と首を傾けて4匹に聞いた。
「……アイドルって、何?」
シアオとメフィが頭を壁に打ち付けた。アルが遠い目をした。
そんな3匹の反応にスウィートが困っていると、凛音が溜息をついた。
「あちらの世界ではそんな平和な職業がなくても仕方ないでしょう。スウィート先輩が知らなくても無理はないです」
ましてあの世界でアイドルなどとやっても職業にならないだろう。今の世界と、スウィートが生まれた世界では色々と違うのだ。
「例えば演技をしたり、歌を歌ったり、写真を撮って写真集や雑誌に載せて売る職業です」
「へぇ……。あの、写真って?」
「写真というのはカメラという物で撮れる物です。絵とは違い……撮ったらそのままそっくりコピーして、それが絵のように紙に写されるんです。まぁカメラなんて高級品ですから持っているのは貴族とかそこらじゃないでしょうか」
「へぇ〜……」
話題がズレていっているが、まぁこれも仕方ないことなのだろう。
「それで、そのアイドルっていうのは……つまり有名人?」
「間違いではないです。……私たちが依頼で稼いでいるのであれば、アイドルというのは自分を売って稼いでいるのです。
アイドルになれるのは一部の者だけですから、集まっている家系というのは珍しいのですよ」
「じゃあフォルテは凄い家族の中に生まれたんだね……」
「そういうことになります」
スウィートは納得したように頷く。だから皆が驚いていたのか、と。
シアオとメフィはじーっとアリアとフェロを見て、アルはそんな2匹に溜息をついて「おい、怒られるぞ」と言って止めていた。
「でもさー、それだったらフォルテもそういうアイドルとかいうの目指すのが普通だったんじゃないの? 似合わないけど」
「お前いったらフォルテに殺されるからな。……まぁ、何らかの理由があるんじゃないか?」
「別に決められてるわけじゃないし……フォルテはやりたくなかったんじゃないかなぁ」
「あ、もしかしたら父親さんの方……デザイナーさんを目指したんじゃないですか? それを勉強してるとか?」
「していたのを見たことがありますか、メフィ」
「ちょっと可能性を言っただけじゃんかー!!」
それぞれ勝手に推測を言っていく。メフィの場合は凛音にばっさりと切り捨てられたが。
「向いてないのもあるんじゃないでしょうか。フォルテ先輩は他人に指図されることを嫌うようですし。アイドルなんてスケジュールとかぎっしりみたいですしね」
「確かに……自分の時間は自分のもの、みたいな感じがあるもんね。つまり自己中心ってことだよね!!」
「だーれーが自己中心よ、このヘタレ!!」
「うわっ、たっ!?」
シアオが敏感に反応してギリギリ火の粉を避けた。しかし変な方向に体を捻ったからかゴロゴロと転がっていったが。
スウィートがばっとシアオがいた場所を見ると、それより少し後ろの方にフォルテが仁王立ちしていた。どうやら説教は終わったらしい。
「フォルテ! 友達にむかって何てことしてんの!? アンタいつも外でもこんな感じなの!? 嘘でしょう!?」
「煩い、お姉ちゃん!」
「アハハ、見事に反抗されてるフェロを見るのは楽しいや」
「アリア!? 酷くない!?」
フェロは弄られる役らしい。アリアは清清しい笑顔だ。
シアオはすぐに戻ってきて、フォルテに抗議の声をあげる。アルはアリアに話しかけていた。
「用事で寄ったって言ってましたけど……時間とか大丈夫なんですか?」
「お昼には此処を出ないと間に合わないかな。まぁまだ朝だから何とかなるよ」
「はぁ……」
アルが曖昧に返事すると、違う方向で話し声が聞こえた。
「うわぁぁあぁぁぁぁ、やっぱり可愛い! 若いっていいわね! 可愛いわよ、貴女たち!」
「あ、ありがとう、ござい、ます……」
「若いって……フェロさんも十分若いですよね?」
フェロが興奮しながら話しているのはスウィートと『アズリー』の2匹。
可愛いといわれてスウィートは恥ずかしそうにし、メフィはツッコんでいる。凛音は相変わらずの無表情だ。
「若いって……あと何年かすれば成人よ?」
「十分若いです」
「仕方ないんだよ。頭の中が年寄りだから」
「アリアは何でそんなこと言う訳!?」
フォルテの腹黒さは絶対に兄譲りだな、とこの時に全員が思った。
それに口を尖らせていたフェロだが、フォルテを見てからニッコリと笑った。
「それにしてもよかったわ。きちんと友達もできて、仲良くやっているようだし……本当はうまくやってないかと思っていたんだけど」
「失礼ね! あたしはきちんとできるのよ!!」
「あらー、どの口が言うのかしら。ちっこい頃は特定の友達としか交流なくて泣いてたくせに」
「うわぁぁぁああぁぁぁぁぁぁ!!」
「痛っ!!」
フォルテの小さい頃を暴露したフェロの頭をフォルテが殴る。その顔は赤い。おそらくフォルテにとっての黒歴史なのだろう。
スウィートは苦笑いしかできなくて、2匹を見る。仲のいい姉妹だなぁと思いながら。
するとそのフェロの発言にシアオが食いついた。
「ねぇ! フォルテの小さい頃はどんなだったの?」
「フォルテの小さい頃? あはは、懐かしいなぁ。泣き虫だったよ」
「わぁぁああぁぁぁぁぁぁぁ!! 兄貴、余計なこと言わないでいい!」
暴露したアリアも叩こうとしたフォルテだが、華麗に避けて逆に地面に沈められた。そのときシアオは「怖っ!」と思っていたのは本人しかしらない。
アリアはそのままいい笑顔で続ける。
「泣き虫? フォルテが?」
「そうそう。ビービー泣いて俺とフェロがよく慰めてた。あぁでも俺が1番フォルテを泣かせて母上と父上の元に送らせたかもしれない」
怖ぇぇぇ……。話を聞いていた全員が思った。
それに気付いていないのか気付いているのか、アリアは愉快そうに爽やかな笑顔で笑う。フォルテの兄はフォルテよりずっと恐ろしい。
フォルテは赤面してギャーギャー文句を言っているがアリアは止まらずフォルテの頭を押さえつけている。
「10歳にもなればそんなことは無くなって来たんだけど……それはそれで寂しかったわ。あと恥ずかしがり屋だったわ!」
「あぁ、そうえいばそうだね」
「何で恥ずかしがり屋?」
「父上や母上が有名人だったからよく取材とか赤の他人が家にあがってね。その度に逃げて部屋にこもってたなぁ。懐かしい」
意外だと思いながらスウィートがフォルテを見ると、赤面して俯いていた。そしてプルプルと震えている。
あれ、何かやばい。とスウィートは感じたが会話は止まらない。
「あとは父上が大好きだったなぁ。何かちっこい頃に「お嫁さんになる」発言をしてたような……」
「してたわよ! あの時にお父さんが固まってたのをよく覚えてるわ」
「あと――」
「もうやめろぉぉぉぉおおぉぉぉぉぉぉぉ!!」
フォルテの悲痛の叫びが、ギルド中に響き渡った瞬間だった。