9話 家出娘
「……てな訳で、家出娘を探してるんだけど、何か知らない?」
そんな1匹のポケモンの言葉を聞いて、少し黙ったあと、全員が一斉に声をあげた。
「「「「「「えぇぇぇぇぇええぇぇぇぇぇ!?」」」」」」
「シアオ、フォルテ、朝だよー……?」
スウィートが幸せそうに寝ている2匹に声をあけるが、起きる気配がない。スウィートの声が小さいのか、それとも2匹が深く眠っているのか。
アルはカクレオン商店に行っているためにいないが、「起こしておいてくれ」と言われた。
だからアルが帰ってくる前に起こそうとしているスウィートだが、如何せん2匹は起きるどころか起きる気配すら見えない。
「アルに怒られちゃうよ……?」
起こすにしては、小さすぎる音量でスウィートが声をかける。
しかし幸せそうな顔は変わらない。仕方なくスウィートは使いたくなかった最終手段を使うことにした。
「……ごめんね」
そう呟いて、スイッチを押した。
『起きろぉぉぉおおおおぉぉぉぉぉぉ!!』
「うわぁぁああぁぁぁぁぁ!?」
「煩ぁぁぁぁぁいッ!!」
2匹が言葉を発したと同時にスウィートはソレ、ラドンからの目覚ましを止め、そして隠した。
シアオは耳を押さえて、そしてフォルテは凄い目つきで先ほどの騒音の元を探す。そして何でかシアオに火の粉を放った。シアオは寸のところで避ける。
シアオが「何すんのさ!?」と抗議の声をあげ、フォルテが舌打ちしたところで、アルが帰ってきた。
「…………何やってんだ、お前ら」
ごもっともである。
朝はこんな感じで平和(?)に過ごし、ようやくこの生活にもなれてきた『シリウス』。卒業試験からはもう何日か経ち、依頼も前のようにこなしていた。
度々だが新住居の場所を知ってからギルドの弟子たちが遊びに来るが、決まって夕方である。
「お前ら自分で起きれるようになれって言ってんだろうが。フォルテはいい加減にその低血圧を何とかしろ」
「無理に決まってんでしょうが。朝は決まってイライラすんのよ」
「朝っていうかフォルテの場合はねんじゅ、うわ危な!!」
「それ以上いってみなさい。次は火炎放射よ」
「シアオは正直すぎると思うの……」
こんな会話も日常茶飯事で、その後にアルが「住居を壊す気か、お前は」と言ってフォルテを叩くのもお約束である。時たまシアオがフォルテの攻撃を避けれず、スウィートに治療されるが。
スウィートが「んん」と小さく伸びて、梯子を指さした。
「とりあえず依頼を選びに行こう? ここに居てもどうにもならないし、」
「せんぱーいッ! いらっしゃいますかー!?」
すると元気な声が、穴の上から聞こえた。この声はメフィだ。
4匹は顔を見合わせて首を傾げる。どうしたのだろう、と。朝に来るなど異例だった。
とりあえず返事をして、4匹は穴から出る。そこにはメフィと、そして凛音がいた。
「お、おはよう、メフィちゃん。凛音ちゃん」
「おはようございます!!」
「おはようございます。単刀直入で悪いのですが、ギルドに来ていただけないでしょうか。お客様です」
凛音が淡々と用件を告げる。そしてそのお客様というのに『シリウス』は首をかしげる。
そして次の凛音の一言で、もっと首を傾げることになった。
「もっと詳しく言えば、フォルテ先輩に、お客様です」
「は? あたし?」
指名されたフォルテが怪訝そうな表情をする。
「とにかく来てくださいっ!」というメフィの声で、『シリウス』は動き出した。
「会いたかったわ、マイシスター!!」
「うぎゃあぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
いきなり飛びついてきたポケモンに、フォルテは容赦なくシャドーボールを食らわせ、向こうの壁までとばした。
此処はギルドの地下2階。そのポケモンはフォルテが梯子から降りてくるや否や飛びついてきた。フォルテのせいで今は壁に激突して唸っているが。
するとあはは、と場にあわない笑い声がした。
「いやぁ、いつまでも仲がよさそうで安心したなー。で、フォルテ久しぶりだけど元気?」
「兄貴……!」
「「「兄貴?」」」
フォルテの言葉に、残りの『シリウス』の3匹が首を傾げる。
するとそれに気付いたようで、フォルテに兄貴と呼ばれたポケモン――ヘルガーが3匹にヒラリと前足をあげて振った。
「どうも、アリア・アウストラです。妹がお世話になってまーす。大変だろー、このじゃじゃ馬」
「誰がじゃじゃ馬よ! ていうか何しにきた、クソ兄貴!」
「あはは、お兄ちゃんにむかってクソとか言う奴はこうだ」
「いだだだだだ!!」
アリアと名乗ったヘルガーはフォルテの頭に右足を乗せてグリグリと押し付けている。かなり痛そうだ。
スウィートとアルが静かに驚いている中、シアオが言葉を復唱した。
「アウストラ? 妹? ……あ、フォルテのお兄さん! って、えぇぇええぇぇぇぇ!?」
「いや、反応おそいだろ」
見事にラドンにツッコまれた。しかし本人は気にしていない様子。
すると最初に飛びついてきたポケモン、キュウコンが凄い速さでアリアとフォルテの元に駆け寄った。
「ちょっとアリア! 私なんて突き飛ばされたのに何でアリアは飛ばされてないわけ!?」
「俺はフェロより頭がいいからねー」
「ちょっとそれ私を馬鹿にしてるわよね!!」
「とりあえずあたしの頭に足おいたまんま会話するなぁぁぁああぁぁぁぁぁ!!」
「「あ」」
するとアリアは足をどけた。フォルテの目には若干 涙が溜まっている。本気で痛かったらしい。
頭をあげ、フォルテはキッと2匹を睨みつけた。
「何しに来たのよ、お姉ちゃん、兄貴!!」
「あ、私はフェローチェ・アウストラっていって、フォルテのお姉ちゃんで、アリアの双子の妹よ! フェロって読んでくれて構わないわ。よろしくね!!」
「話を聞けぇぇぇええぇぇぇぇぇ!!」
「あはは、いつ見ても愉快だねー」
フォルテを無視してフェローチェというキュウコンが挨拶してきたが、3匹はどう返していいか分からない。アリアは何事もないように笑っているし。
若干ついていけないノリにスウィートたちが苦笑して見ていると、フォルテが尻尾でフェロの頭を叩いた。
「いたっ!! ちょっとフォルテ何すんの!? ていうか何で私だけに暴力をふるうわけ!? おかしくない!?」
「おかしくないし、質問に答えなさい! あとお姉ちゃんだけに暴力を振るうのは兄貴は後が怖いからだ!! 倍返しよ、倍返し!!」
「アハハ、失礼だなー」
確かにアリアの笑顔は黒い。それは怒っているときに笑っているフォルテを連想させるものだった。
兄弟っていうのはどこも似るんだなー、とスウィートが思っているとフェロとアリアが此処に来た理由を話し始めた。
「まずフォルテの身の安全の確認をしに来たの。黙って出て行くから母さんも父さんも心配してんのよ?」
「フォルテに会いに来たのはついでで、ちょっと近くに用事があったから寄っただけだよ。まぁフォルテの身の安全なんて心配してないよ。きっと何処でも生きていけると思うから」
「それどういう意味」
「お馬鹿はどこでだって生きていけるって意味さ」
「ふざけんな女名前!!」
「ほー、お前はそんなに地面とくっ付きたいか」
「痛い痛い痛い!!」
またしてもグリグリと前足で頭を押さえられているフォルテは悲鳴をあげる。アリアの黒さはフォルテを勝るらしい。あと暴力も。
どうやら家出したフォルテを引き取りに来たわけではないようだ。
「それで、」
くるっと振り返り、フェロがスウィートたちを見た。スウィートは慌てて1番 近くにいたアルの後ろに隠れた。
「貴方達がフォルテと一緒に探検隊やってる子たちよね? 妹がお世話になってます」
「お世話になんてなってな、あだだだだだだだ!!」
「フォルテは黙ろうかー」
スウィートはフォルテの姿を見てひきつった笑みをうかべ、アルとシアオはフェロに自己紹介をはじめた。
「フォルテと探検隊をしているアルナイル・ムーリフです。アル、とよんでください」
「シアオ・フェデスだよ! よろしく!!」
すると当たり前のようにシアオとアルの目線がスウィートの方へいく。
勿論その視線の意味は「自分で自己紹介をしろ」というもので、スウィートはそれに涙目になりながら小さく声を発した。
「ス、スウィート・レクリダ、です……」
こういうときに頼りないリーダーである。
フェロもそれに苦笑しながら、「よろしく」といった。そして未だ頭を押さえられているフォルテを見る。
「それで、フォルテ。確かについでで来たんだけど、そりゃあお説教がありますとも。きちんと受けるわね?」
「受けないわ、痛い痛い! 力をこめるな!!」
「う・け・る・よ・ね?」
すると「受ける! 受けます!!」というフォルテの悲痛な声が聞こえた。
どうやら、フォルテは兄に弱いらしい。