8話 旅立ち
スウィートが目を覚ます。
いつもと違う風景が見えて、数秒してからスウィートはサメハダ岩の存在を思い出した。
伸びをしてから外の風景を見る。もうすぐ太陽が昇る頃だろうか、などと思いながら寝ている3匹を見た。
昨日の食事当番は自分とフォルテだったのだが、普通にできた。
いつもは丸ごと出されるモノを、調理する。昨日のメニューはオレンの実とウブの実のスープ、リュガの実と色々混ぜたサラダだった。
作れるのかなぁ、なんて思いながらも案外うまく出来たのだ。フォルテの手際の良さはアルさえも驚いた。「料理できたのか……」というフォルテに対して失礼な言葉はあえて聞かなかったことにしていた。
しかし何度か火加減を間違えて焦がしそうになっていたフォルテだったが。
シアオからは賞賛の言葉をもらい、アルは驚いているようだった。フォルテはどーだと言わんばかりの顔だったが。
そして寝て、朝になり今に至る。
テーブルは隅によせ、ベッドで寝ている。スウィートは小さく欠伸をした。
(眠いなぁ……。でも今日からまた探検隊活動開始……頑張らないと)
後ろでフォルテが火の粉を繰り出し、シアオに当たりそうになっていたことを、スウィートは知らない。
シアオとフォルテを何とか起こし、ギルドまで向かう。依頼を選ぶためだ。
スウィートは軽い足取りで、アルは普通に、シアオは眠いのか後ろの方でのろのろと歩き、フォルテは不機嫌オーラ丸出しで歩いていた。
そして交差点までついてきたときだった。
「あ」
「あら?」
スウィートが声をあげると、ギルドの階段に座っていた者がスウィート達の方を見た。
「お、おはようございます。フィーネさん、シャオさん」
「おはよう。まさかそっちの方向から来るとは思ってなかったわ……」
「ギルドから出てくると思っていたからね」
フィーネとシャオが苦笑しながら言う。スウィートは首を傾げた。
2匹の言葉を聞いていると、自分たちを待っていたというような感じだった。何かあっただろうか、と記憶を探るも何も思いつかない。
「あの、もしかして私たちの御用でした……?」
「そうなの。用っていうか、挨拶をしておこうと思って」
「あいさつ……?」
スウィートも、アルもフォルテも首を傾げる。シアオだけは睡魔と闘っているが。
シャオがニコリと笑って話してくれた。
「僕らは、此処を離れようと思うんだ」
「え?」
此処を離れる?
どういう意味か分からず、スウィートは素っ頓狂な声をあげた。見るとフィーネとシャオはそれぞれ少し大きめの鞄を持っている。
苦笑してシャオが続ける。
「何分やることがなくてね。のびのびと過ごすのもなかなか楽しかったんだけど」
「だから、シャオと一緒に各地を回ってこようと思うの。今まで見れなかったものを見るために、ね」
「楽しそうでしょ?」と笑うフィーネは、どこか夢を語るときのシアオの瞳を連想させた。
フィーネとシャオは、あれからディアルガの力で戻ってきて、シャオの言葉どおり家でゆっくりと過ごしていたのだ。時折トレジャータウンに顔をだして。
しかしスウィート達みたいに探検隊活動をやったりと、そういうものがなかった。
だからこそ、旅に出ようと思ったのだ。
「それは……確かに、楽しそうです」
「でしょう? だから、スウィートちゃん達には言ってから行きたいと思って。手紙もちょこちょこ送るつもりではいるんだけど……いつ帰ってくるかは分からないし」
「……今まで狭い視野で生きてきたからね。助けられた命を大事に、したいことをしようと思ったんだ。そしたらフィーネが旅に出たいと言って」
あぁ、そうか。とスウィートは納得してしまった。
フィーネもシャオも、今まであの暗い世界と、このトレジャータウン近辺でしか生活していないのだ。
自由になった今、色々みてみたいと思うのは分かった。スウィートも、神秘的なところや綺麗な風景を見るのはとても好きだったから。おそらく、昔の自分では見れなかったから、それがとても幸福に感じられるのだ。
フィーネも、シャオも、似たような感覚だろう。
あの世界では見れなかったものを、見に行きたいのだ。
「手紙は、楽しみにしてます。フィーネさんとシャオさんが、どんな風景を見るのかとか、どんなポケモンと会うのかとか」
「ふふ。ありがとう。というわけで、レンスとシクルのことをよろしくね?」
悪戯気に笑うにフィーネ。レンスとシクルは今頃「子ども扱いをいつまでもするな」と怒っていることだろう。
するとシャオが「あ」と言って鞄の中から何か取り出した。
「はい、これはスウィートちゃんに」
「私……?」
「シアオ君やフォルテちゃんやアル君にも勿論あるわよ」
「え、何かすみません」
スウィートはシャオから渡されたものを見て、アルはお礼を言いながら受け取っていた。フォルテも不思議そうに見て、シアオは一気に覚醒したのか、はしゃぎはじめた。
渡されたものはキラリと光り、小さく丸い形をしていた。それには器用に模様が彫ってある。
「これは……?」
「スウィートちゃんは覚えてないかもしれないけど、未来……私たちがいた頃にその模様は、強い絆を表す模様だったのよ。あ、因みに私たちの腕輪の模様は深い愛、だったんだけど」
するとフィーネはスウィートの手からその小さい丸の形をした物をとり、それをスカーフの端の方につけた。
それがキラリと光り、なんだかオシャレであった。
「これは、私たちからのプレゼント。『シリウス』っていうチームの絆を示す。……まぁ、意味は通じないけどね」
悪戯気にフィーネが笑う。
もう一度 模様を見ると、不思議な形をしていたが、スウィートにとって見覚えのあるものだった。フィーネの言うとおり、あの世界での模様だったのだろう。
アルは器用につけ、シアオは悪戦苦闘しながら結局はシャオにつけてもらい、フォルテは見様見真似で何とかつけたようだ。
スウィートはそれを見てから、フィーネに頭を下げた。
「その、ありがとうございます。……何か皆から貰ってばかりで申し訳ないのですけど」
「貰ってばかり? ……あぁ、もしかしてギルドから出てこなかった理由と関係があるの?」
フィーネが首をかしげ、スウィートが説明しようとするとシアオが元気に「卒業試験に合格して、ギルドを卒業したんだ!」と説明しだした。
それで、と納得いったようにフィーネとシャオは頷き、4匹に「おめでとう」と言葉をかけた。
「さて……それじゃあ、そろそろ行くよ。暫くは会えなくなるけど、元気に探検隊活動をしなよ」
「レンスとシクルのことを宜しくね、スウィートちゃん。それじゃあ皆、またね」
荷物を持ち、2匹が手を振りながら、笑った。
スウィートも、手を振る。シアオも、フォルテも、アルも。
「お元気で。……お手紙、楽しみに待ってますから!」
「そっちも元気に頑張ってねー!!」
「絶対に帰ってきなさいよ!!」
「いい旅になることを願ってます」
それぞれ個性がでるような言葉を貰い、フィーネとシャオは笑いながら、トレジャータウンを去った。