7話 新住居
「んん……」
スウィートが寝ぼけながら起き上がると、見えたのは弟子達の姿。
規則正しく寝息をたてているもの、寝相が悪いもの、いびきをかいているもの、魘されているもの、それぞれだ。
昨日は『シリウス』の卒業パーティといってギルドは盛り上がり、皆 芸やらモノマネやら色々なことをやってくれた。
そしてそのまま寝てしまったのである。全員が疲れたのか、爆睡していた。ディラまでもが寝ている。ロードは部屋で寝ているのか、この場にはいない。
覚醒してきた頭をフル回転させて整理し、スウィートは軽く伸びをする。
当分は起きないかなぁ、などと思いながら「ふぁ……」と欠伸をした。起きてしまったとはいえやはり眠い。
しかし外を見ると太陽は昇りきっている。ギルド全員がこれでいいのか……などと思いながら、スウィートは寝ている弟子達を眺めるのだった。
「…………どうして皆してシアオを蹴飛ばすんだろう」
そんなことを呟きながら。
「起きろーーーッ!! お前達、もう昼だぞ!? いつまで寝ているつもりだい!?」
「煩ぁぁぁぁぁぁぁぁいッ!!」
「おわっ!!」
フォルテの火炎放射をディラが寸前のところで避ける。
今起きているのがスウィート、アル、凛音、ディラ、アメトリィ、ルチル、フィタン、シャウラだ。ロードは目を開けながら眠っているのか眠っていないのか分からないが、とりあえず立っていた。
ディラの声のおかげで、何匹かは目を擦りながら起きてきた。
「うーん……朝ぁ……?」
「シアオ、もうお昼だよ……」
「チッ……煩い鳥が……。朝飯として焼き鳥にぃ……」
「やめろ」
シアオとフォルテは完全に寝ぼけている。フォルテは低血圧のために不機嫌オーラ丸出しだ。
他の弟子達も伸びをしたり欠伸をしたりして起きる。メフィは顔の横ギリギリで蔓を地面にパシンッと叩きつけた音ですぐに起きた。あれが目覚ましらしい。
「朝礼はじめるよ!! 『シリウス』は住む場所はもう決まってるか?」
「あ、はい。一応サメハダ岩の穴のところにしようかなって……」
昨日のパーティの際にギルドの部屋はもう使えないからどうするか、といったときに4匹で話し合っておいたのだ。
しかし2匹は使いものになる気配がない。シアオはアルに頭を叩かれていた。フォルテにしないのはとばっちりを喰らわないためだろう。
二度寝をしようとする弟子達に、ディラがまたしても、怒鳴った。
「起きろと言っているだろうがぁぁぁああぁぁぁぁぁぁ!!」
「煩いって言ってんでしょうが、鳥ぃぃぃいいぃぃぃぃぃ!!」
「フォルテ、お願いだからやめて!?」
火炎放射を撃たんばかりの勢いのフォルテを、何とかスウィートが止めた。
弟子達にお礼を言って、お祝いの品をたくさん貰って、そして色々な優しい言葉をかけてもらってから、『シリウス』はサメハダ岩に来た。
そこは"星の停止"を止めようとしていた、シルドが居たときに来たとき以来だった。
「ふあー、大丈夫。荒らされてないね。あ、でも埃かぶってるかも」
「じゃあ今日はお掃除しよっか? 荷物の整理とかもしなくちゃいけないし……」
「めんどい」
「めんどい言うな」
持ってきた荷物を置き、サメハダ岩の中を見る。シアオの言うとおり荒らされてはいなかった。
「じゃあ掃除しよっか。食料の置く場所とかも決めなきゃいけないし」
「何か凄くダルそう……」
スウィートがシアオの言葉に苦笑しながら、元々あったタルの中身を見る。少し埃かぶっているものの、きちんと掃除したら使えそうだった。
そしてシアオとアルは「どっかから小さめのテーブルを買うか貰ってくる」と出て行ってしまった。
フォルテはベッドをだし、それから埃を払っている。
そんなこんなでスウィートがタルの中身を使えるまでに綺麗にしていると、フォルテが話しかけてきた。
「何ていうか凛音の5割も驚いたけど、ギルドが1万ポケもくれたのは驚きよね」
「私たちは住む場所は何とかなったけど、そうならない場合もあるからね……。あと今度から晩御飯は和自分たちで用意しなきゃならないし」
「生活費ってこと?」
「そんなとこかな。少なくとも全てが娯楽の為じゃないのは確かだよ」
するとフォルテがムッとした顔をした。スウィートは苦笑してしまう。
フォルテの言う通り、ギルドから1万ポケを『シリウス』は貰った。そのときにシアオが大喜びしてアルに頭を叩かれたのは記憶に新しい。
しかしそれが娯楽に全て当てられるのは間違いである。探検に必要な道具と、食費にほぼあてられるに違いない。
多分これまで通りアルがポケ管理するんだろうなぁ、などと考えながらスウィートはタルを見て満足げに頷く。
そして弟子達から貰った食べ物や、自分たちが持っていた食べ物を、2つのタルに木の実と果実で分けていく。探検に必要な際はここから取ればいいだろう。グミはアメトリィに貰った可愛らしい箱に入れて分けた。
「それにしても皆こんなに用意してくれてるなんて……驚きだよね」
「見なさい、この凛音とメフィお手製の貯金箱。全く、いつ作ったんだか」
フォルテの持っている物をスウィートも見る。
それはとても可愛らしい星の形をしたモノ。色使いも丁寧で、それには「シリウス」と書いてある。これは『アズリー』から貰った卒業祝いだった。
おそらく形を作ったのは凛音で、装飾したのはメフィだろう。とても綺麗に出来ている。
「凄いよね、2匹とも。お店 開けるんじゃないかな……」
「にしてもメフィは結構センスいいのね」
「そうだね。こんなに可愛いモノが作れるんだもの。……凛音ちゃんは形の正確さが恐ろしいことになってるけど。星のかたち難しくなかったのかな」
「凛音のことだから楽勝だったんじゃない?」
「凛音ちゃんは何でもそつなくこなすイメージがあるからなぁ……」
逆にできないことがあるのかどうかを聞きたいぐらいである。
メフィはドジと天然ぶりで色々と失敗している姿を見るが、凛音が失敗する姿はあまり見たことがない。淡々とこなし、メフィの失敗している姿を呆れたような目で見ている姿が多い。
さらにいつも無表情。鉄壁のポーカーフェイスが崩れた卒業試験の際は本当にレアだった。ほんの少しだけだが、恥ずかしそうだったのだ。しかしポケにより卒業試験時には暴走していたが。
「それにしてもギルドの女性陣はセンスがいいんだね……」
「あぁ、これルチルからね。何かアメトリィのくれた箱とあうようなデザインしてるし……」
ルチルからの贈り物は皿やコップだった。それもデザインが可愛らしいもので、シアオとアルは少し顔をしかめるかもしれない。
女性陣のくれた贈り物はほとんどセンスがいいと、スウィートとフォルテは思った。♂であるシアオとアルがどう思うかは分からないが。
「これは……ラドン先輩、かな……? 何だろう……」
カチッと音がしてスウィートは首を傾げる。すると
『起きろぉぉぉおおおおぉぉぉぉぉぉ!! 朝だ――』
「煩ぁぁぁぁぁぁいッ!!」
バシッという強く叩く音とともに、煩いラドンの声がやんだ。スウィートは心配そうにその贈り物を見る。
するとフォルテがそれに怒鳴り散らし始めた。
「何なの、これ!? 目覚まし!? いらないわよ、そんなもん!! 逆にイライラするわ!!」
「お、落ち着こうよフォルテ……」
ラドンからの贈り物を使う際には注意しないと、とスウィートは密かに思った。
それからもスウィートとフォルテは弟子達の贈り物を漁りながら、それをどこにしまうかなどを相談して片付けていく。
始めたのが昼くらいで、ほとんど済んだ頃には夕方になっていた。
まぁこれでいいかな、とスウィートが息をつくと、フォルテが若干苛立ったように呟く。
「シアオとアルが遅い」
「そうだね……どうしたんだろ。……もしかしていいテーブルがなくて帰って来れないのかな」
でもアルだったらなかったらすぐに帰ってきそうだ。そこまで遠出しそうではない。
噂をすれば何とやら。丁度シアオとアルが手頃なテーブルを持って帰ってきた。
「お、おかえり。随分と立派なテーブルだね……。買ったの?」
「違うよー。セフィンに途中で会って、小説のお詫びだって言ってくれたんだ!」
セフィン、と聞いてフォルテが体を大きく揺らしたのは見ないことにして、スウィートはテーブルを見る。
ピカピカなテーブルで、傷も汚れも1つもない、立派なテーブルだった。貰っていいのか悩むほどの。しかしセフィンとしてはこんな物は安物なのだろう。
するとシアオがあとね、と言って鞄から物を出す。
「セフィンが卒業祝い渡すからまたカフェに来いって。あと刃からこれ貰った」
「刃さんにも会ったんだ……。これ、何?」
「ポケがたくさん見つかるダンジョン記した紙。……まぁ、凛音あたりに1ヶ所でも教えてやったらいいと思うぞ」
「恐るべし情報屋……」
「何、ポケ稼げっていいたいのかしら」
「生活について心配してくれてんだろ」
刃の贈り物は刃の職業がらみだった。10ヶ所くらい書かれてある。
とりあえずテーブルを真ん中におき、刃から貰った紙をなくさなような場所においてから、スウィートが喋りだす。
「えっと、食事当番なんだけど。今まではアメトリィ先輩がやっててくれたけど、今度からは私たちがしなくちゃいけない。といっても誰かに任せっきりは駄目だから、当番制にしようと思うの。
これから料理できないっていうのも困るし、慣れていかないと。3匹は料理できる?」
「私は一応 知識は残ってるけど」とスウィートが言うと、3匹はそれぞれな反応を見せた。
「食べるのならぜんぜん問題ないよ!」
「まぁ料理は得意な方かしら」
「普通」
……シアオは答えになっていないので出来ないと判断していいだろう。
フォルテの答えにアルは疑念の眼差しを送っている。それに対しフォルテは「できるわよ、失礼ね」と言い張っていった。何が正しいのか分からない。
スウィートは苦笑して、当番の振り分けを考えるのだった。