6話 おめでとう
「卒業試験、ごうか〜〜〜くっ!!」
そのロードの言葉とともに弟子達が紙ふぶきを撒き、拍手が送られた。
ロードと弟子達に囲まれている『シリウス』は嬉しいのかどうなのか微妙な顔をしているが。
「おめでとう! ギルド卒業! やったねーーー♪」
ニコニコしながらロードが明るい声で言う。
やはり『シリウス』の顔は浮かない顔をしていた。スウィートとアルはじとーっと弟子達を見ているが。
ようやくその様子に気付いたように、ロードが首を傾げた。
「あれっ? どうして喜ばないの? ……もしかして、あんまり嬉しくない?」
ロードがしゅん、と落ち込んだような顔をする。するとシアオが慌てて弁解した。
「い、いや嬉しいは嬉しいんだよ!? 嬉しいけど……けど……その、宝箱とってくるだけって……あんま大したことしていないっていうか……。これで卒業でいいの? ……みたいな」
「よねぇ。何か罠かなんかあったりしたらあれだけど……普通の宝箱だったし? ダンジョンだって強敵ばっかりとかじゃなかったし……」
シアオとフォルテが「ねー」とロードを見る。
確かに悪の大魔王の正体に気付いていない2匹はそう思うだろう。しかし罠はあった。悪の大魔王という罠が。
するとロードが驚きで目を見開いた。
「そんなことないよ! 君たちはとてつもないことをやってのけたんだよ!? だってセカイイチという凄いお宝を取ってきたわだし……」
「セカイイチが凄いお宝ってロードの価値観よね、絶対」
「何よりとても恐ろしい……悪の大魔王を倒したじゃないの!?」
「……どうして親方様が悪の大魔王を私たちが倒したことを知っているんですか?」
スウィートがそう言った瞬間、ピシッという効果音がなったように『シリウス』以外の全員が固まった。
その場にフォルテが「無視したわよね、無視」の呟きだけが響いた。
ますますスウィートとアルの目線がキツくなっているとロードがぎこちない笑みを浮かべた。
「………………何となく……かな?」
ロードがそう言った後に「てへっ」と言うと
「「「「「「ハハハハハハハッ!!」」」」」」
「はぁ……もういいです」
何故か弟子たちが笑い出し、アルが冷めた目をして溜息をついてそう言った。スウィートは苦笑し、シアオとフォルテは首を傾げる。
場の空気を何とかしようとしたのか、ディアらが羽をばたつかせた。
「とにかく! お前達はギルドを卒業できたのだ! これからはギルドの厳しい仕来りに縛られずに、探検隊の活動が出来るんだぞ♪」
「あ、そっか! じゃあ今度から休日とか勝手にとっていいんだ!」
「寝放題ね!! 寝坊してもあの長ったらしい説教を聞かなくて済む!」
「シ、シアオ……フォルテ……」
「誰が長ったらしい説教だ!」
どこかズレている思考にスウィートは苦笑いしかできない。アルは溜息をついた。弟子達もどこか「えぇー……」みたいな目線で見ている。ディラはフォルテの発言に怒っているが。
するとシアオとフォルテが首を傾げた。何が問題あるのだと。
「どしたの? みんな。何でそんな冷めた目?」
「いや……。……まぁ、お前らがいいのならいいや」
ラドンの言葉にまたシアオが首を傾げる。すると唐突に「あ、でも」と声をあげた。
「卒業ってことは……提示版の報酬や賞金もギルドに取られずに丸ごともらえるって事になるんだね! やったね!」
確かに。とスウィートとフォルテとアルが頷く。そしてシアオが「これでセフィンの依頼とかしても大量のポケとかゲットだねー」と言ってフォルテに殴られた。
その話題が出た瞬間にキラリと凛音の目が光ったのは見なかったことにしておく。
しかし、スウィート達の喜びはすぐに消えることになった。
「そのことだがな、残念ながらそこだけは同じだ♪」
「「「「「えっ!?」」」」」
『シリウス』だけならともかく、何故か凛音の声も混じった。
スウィートがそれに気付いて凛音を見ると、信じられないありえないといったような顔をしていた。そこまでポケが大事なのか。
「卒業といってものれん分けだ。『シリウス』の探検活動も親方様のギルドがあってこそなのだ。だからそれについては我慢しな♪」
「えぇー……」とシアオががっくりと肩を落とす。今日は上げて落とされるのが多いらしい。
スウィートがまた苦笑しかけると
「5割! せめて5割にするべきです!!」
「またお前か!!」
凛音が何の関係もないのに抗議の声をあげた。しかしもし5割ルールになったら凛音は卒業に向けて本気になるだろう。
卒業した4匹そっちのけで騒ぎ出した2匹を放って、周りの弟子達が『シリウス』にニコニコしながら話しかけてくる。それはとても温かいモノだった。
「ポケのことはおいておくとして、ギルドを卒業できるだけでも凄いですわよ!」
「そうだぜ! 何たってこのワシが卒業できなかったぐらいだからな! ガハハハハーーーーッ…………」
「自虐ネタで凹むな、ヘイヘイ!!」
ルチルが明るく声をかけ、自分の言ったことで落ち込むラドンにツッコむイトロ。
それを見てスウィートはふふ、と笑った。やっぱり楽しくて優しいなぁ、みんな。そう思って。シアオとフォルテとアルもどこか楽しげだった。
するとロードが前にでてきて、ニッコリ笑った。
「とにかく! 君たちは試験に合格したんだ。これからも探検活動がんばってね♪」
「お、親方様……」
「おめでとうございます!」
「おめでとう! 凄いことですわ!」
「ヘイヘイ、おめでとさん!」
「おめでとう……! ううっ……嬉しすぎて……あっしは……あっしは……!!」
「グヘへ。何でお前が泣くんだよ。ま、おめでとう」
「おめでとよ! たまには遊びにこいよな!」
次々にかけられる「おめでとう」の声。
スウィートは恥ずかしそうに、シアオは涙目になって、フォルテはそっぽを向いて、アルは苦笑しながらその声を受け取っていた。
「み、みんなぁ……みんな、ありがとう……!!」
シアオが涙ながらにそう言うと、全員が温かく大きな声で「おめでとう!」と声を揃えて言った。
そのせいでシアオの涙腺が崩壊する。それを見てスウィートも、フォルテも、アルも、弟子達も笑った。気にすることなくシアオはボロボロと涙を流し、弟子達に宥められる。
そんな中、明るい声が場に響いた。
「みなさーーーん! 準備ができましたよーー!!」
「準備万端でーーーすッ! ってあれ、凛音なにやってるの!? ちょ、また無理なこと言ってるんじゃないよね!?」
「黙っててください、メフィ。これは真剣な話です……!」
アメトリィとメフィの声。メフィはすぐに凛音の元に駆けていったが。
『シリウス』が首を傾げると、ロードがニッコリ笑って、片手を上に突き上げた。
「よーし! 『シリウス』の合格祝ってパーティーするぞー!!」
「「「「「「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」」」」」」」」
それを聞いて、スウィートが、嬉しそうに、恥ずかしそうに、笑った。
ディラと凛音の攻防戦の末、凛音が勝利し、卒業後は5割ルールになったのは「第1次ポケ割事件」としてギルドの名に残るのであった。