5話 “光の泉”
「っと……。やっぱり誰もいない……」
スウィートが穴からあがって地面に足をつけてあたりを見渡すと、誰もいなかった。
シアオとフォルテとアルも順番にあがってくる。そして「酷い目にあったー」とシアオが言うと、「全くだわ」とフォルテが悪態を吐き始めた。
それを見て苦笑しながら、先に行こうとスウィートが促すと、『シリウス』は前に進みだした。
そしてちょっと進んだ先にはシェントとグラディが立ち止まっている姿が見えた。
「あ、シェント! グラディ!!」
シアオが名を呼ぶと、2匹が振り返る。2匹が見ていた場所には金色の箱がおいてあった。
「どうしたんだ? 俺たちの後をすぐについてきたと思ったんだが……見たらいなくなってるし」
「うん! 実は悪のだいま」
「ちょっと色々シアオがヘマして時間がかかっただけだ。で、どうかしたのか?」
何で邪魔するのさ! というシアオの抗議を全力でアルはスルーして聞く。
するとグラディもスルーしてさっきまで見ていた金色の箱をさした。どうやらその箱で立ち止まっていたらしい。
「いや、何かこの箱がおいてあって……」
「前はこんな物なかったの。開けてみたい気もするけど何か怪しいし……」
「ほら、罠とかだったら嫌だろ? だからどうしようかって迷ってたんだ」
確かに怪しむのも分かる。ホイホイ適当にあけて何が出てくるか分かったものではないから。
するとスウィートがスッと前にでて、宝箱に触れた。
「……スウィート? あけないの?」
「あっ、時空の叫び≠カゃない? ほら、そしたら何が入ってるのか分かるかもしれないし」
「……あぁ、フォルテにしてはよく思いついたな」
「それどういう意味」
そんな会話を耳にしながら、スウィートは強い眩暈に襲われる。それはとても久しぶり感覚で、スウィートにとってはまだ慣れない眩暈に顔をしかめる。
そして一気に視界が黒くなった。
まず見えたのは先ほど自分のいた場所。しかし時間が違い、夜だった。
そこに、見覚えのあるポケモンが森の奥へ進んでいく。
(親方様……?)
そのポケモン、ロードは宝箱がおいてあった場所までくると、その金色の宝箱を置いた。そして辺りをキョロキョロと見渡してから、その場を去っていった。
「……じゃあ、これはギルドの卒業試験の物かな」
「えっ、分かったの!?」
スウィートが目を開いてから呟くと、シアオがまず反応した。シアオに笑顔を見せてから、もう一度 宝箱に目をむける。
そして宝箱を開けると、ロードと繋がる物がコロコロと転がった。
「それ……セカイイチ?」
「……みたいね。これが卒業試験のお宝って訳ね!」
フォルテは嬉々とした様子でセカイイチをとってバッグに入れる。アルはシェントとグラディに卒業試験について説明していた。
シアオは「やったー! 卒業ー!!」と喜び、フォルテはそこまで喜びはしていないが嬉しそうだった。
すると急に辺りが一瞬だけだが眩い光に包まれる。6匹は反射的に声をあげて目を瞑った。
光が止むと、まずシアオが騒ぎ始める。
「な、何!? 何なの!?」
するとまた光が光った。今度はもっと長く。
また目を瞑って開け、ある方向に目を向けると、光の柱がたっているのが見えた。
「な、何アレ……?」
フォルテが呆然と呟く。シアオもスウィートも首を傾げるが、シェントとグラディとアルは何か分かっているようで、呆然とそれを見ていた。
そしてアルがぽつりと呟いた。
「光が、さしこみはじめた……?」
「じゃ、じゃあ“光の泉”が復活したってこと!?」
我に返ったようにシェントとグラディがそれに駆け寄っていく。
それにアルもついてき、スウィート達も何事かとついていく。そして光の柱の前で止まった。
《……目覚める者たちよ…………》
「こ、声……!?」
いきなり声が聞こえ、スウィートがあたりを見渡す。しかし誰もいない。
するとアルが光の柱を見ながら説明した。
「これは……“光の泉”の声だ」
「“光の泉”の……?」
スウィートが首を傾げながら“光の泉”を見る。するとまた声がした。
《時が動き出すことで……光もまた此処に流れ始めた。進化したいものは前に来るがよい》
「やっぱり! “光の泉”が復活したんだわ!!」
「よかった、シェント! お前ずっと進化したがってたじゃないか!」
するとスウィートとシアオとフォルテが首を傾げる。するとアルが心の中を読み取ったかのように説明しだした。
「元々ポケモンは進化して自分の姿をかえ、能力をあげたりするんだよ。シアオやフォルテの親御さんだって進化はしているんじゃないか?」
「え、えぇ!? そうなの!?」
「あぁ。だから俺はここにくる前に、小さい頃に来たことがあるって言っただろ。俺は一度 進化している。……まぁ、もう一段階あるんだが」
「えぇぇぇぇぇ!?」
驚いているシアオ達を見ず、シェントは光の柱の真ん中に立つ。するとまた声がした。
《……目覚める者たちよ。此処は“光の泉”。汝 新たな進化を求めるか?》
「うん! お願いします!」
《汝 道具は必要か?》
「いらないです!」
《承知した……。……目覚める者たちよ。では始めるぞ》
すると一瞬 光り、その次の瞬間、シェントの姿がかわっていた。ヒメグマの姿から、リングマの姿に。
シアオは口をパクパクさせ、スウィートとフォルテは目を見開いていた。アルは見た事がある、というか経験したことがるので普通だが。
「か、かわっ……すがっ……」
「落ち着け、シアオ」
未だ呆然としているシアオの頭をポンッとアルが叩く。しかし一向におさまらない。
シェントがグラディの隣に並ぶと、どっちがどっちか分からない。
「どう? グラディ。私、進化したわよ」
「おめでとう。今までレベルをあげてきたかいがあったな! ……見分けはつきにくくなっちまったが……よかったな!」
「これが、進化……」
スウィートは2匹を見比べながら呟く。
しかしこれで目を瞑っている間に並び替えられ、どっちがどっちだ、と言われると正直 答えられる気がしないな、などと考えていた。
するとようやく興奮が少しおさまったのか、目をキラキラさせながらシアオが光の柱を指さした。
「ね、ね。僕らも進化してみようよ、ね!?」
「……そりゃお前の勝手だ」
「やりたきゃやればいいんじゃないの」
(フォ、フォルテも心なしかやりたそうだ……)
すると興醒めぬといったようにルンルンでシアオが光の柱の元まで行く。
アルはやはり普通だが、フォルテはなんだかうずうずしてやりやそうであった。スウィートは苦笑するほかない。
そしてシアオが光の柱の真ん中に立った。
《……目覚める者たちよ。此処は“光の泉”。汝 新たな進化を求めるか?》
「うん! 進化したい! よろしくね!」
かなり楽しみにしているのか、シアオの声は明るい。ドキドキして仕方ないようだ。
《汝 道具は必要か?》
「道具……多分いらない!!」
《承知した……。……目覚める者たちよ。では始めるぞ》
(え、それでいいの?)
色々とツッコミたくなったが、「承知した」と言ったのだから恐らくいいのだろう。それにシアオのあの顔を見ると口を挟むのも躊躇われた。
しかしさっきの流れではすぐに光ったのに、なかなか光らない。
スウィートは首を傾げた。そして「やっぱり道具が必要だったかな?」などと思っていると、また声がした。
《……いや、駄目だ。汝は進化できない》
「えぇ!? 何で!?」
その場の全員が目を見開く。
そしてスウィートはやはり道具が必要だったのではないか、と思っていた。
しかしそれは次の言葉で違うと分かる。
《条件などの問題ではない……。汝が進化できないのは……おそらく空間の歪みによる影響だと思われる……》
「空間の、歪み……?」
シアオが首を傾げる。スウィート達も首を傾げていた。
声は続ける。
《何故そうなのかは分からない。とにかく汝の存在が空間の歪みを引き起こしている……。そしてその影響で汝のみ進化できない……》
最高潮だったテンションをとにかく下げられたシアオはもう動かない。よほどショックだったらしい。
スウィートが宥めようと近づこうとすれば、声によって止められた。
《……いや。汝だけではない。汝の後ろにいる……スカーフをつけている者たちもまた、進化できない……》
「わ、私たちも……?」
「えぇぇええぇぇぇ!?」
「俺も、って……俺はここで1回 進化したことあるのにか?」
スカーフをつけてる、ということは当然『シリウス』の4匹。シェントとグラディはつけていないのだから。
フォルテはシアオ並にがっくりとし、スウィートとアルは普通に驚いている。
そんな3匹を気にしていないように、声は静かに告げた。
《ここは“光の泉”。新たな進化を求めるものはまた来るがよい……》
するとまた光り、次に目を開けると光りの柱が消えてしまっていた。
スウィートはそれを見ながら呆然と呟く。
「空間の歪み……そのせいで進化できない……?」
よく分からないといった顔をするが、答えはでない。“光りの泉”でさえ分からないといったのだから。
シアオとフォルテは進化できないと言われたことがショックだったのか、動いていない。アルはブツブツと何か言っている。
「と、とりあえず」とスウィートは声をあげ、フォルテのバックを指さした。
「卒業試験のお宝はとったわけだし、帰ろう? ここに居てもしょうがないし、ね」
すると渋々といった感じだが2匹は動き、アルも「……あぁ」と何か考えながらも頷いた。