2話 自由気まま
「あれ、『シリウス』の皆さん」
「あっ、シェントにグラディ!」
シアオがそう言って名をよんだのはヒメグマとリングマ。ヒメグマの方がシェントで、リングマがグラディである。
トレジャータウンの広場の邪魔にならないような場所により、シアオは首を傾げる。
「どこかお出かけ?」
「えぇ。“神秘の森”に」
「え、」
「えええぇぇぇぇぇぇえぇ!?」
シアオの大声を遮ったのはフォルテだった。シアオは驚きのあまりに叫ぼうとしたが耳を塞いでできなかった。
フォルテはがしりとシェントの肩を掴んで前後にふる。
「駄目よ! あそこは悪の大魔王とかいう奴がいる危険な場所なのよ!! 危険なのよ!!」
「フォ、フォルテ! シェントさんが死んじゃう!!」
スウィートに言われ、フォルテが手を放した。シェントはスウィートにお礼を言う。
さきほどのフォルテの言葉を聞いていたグラディは首を傾げる。
「あ、悪の大魔王? そんなの聞いたことがないが……何かの間違いじゃないのか?」
「私たちよく“神秘の森”に遊びに行くけど……大魔王なんて見たことがないわよ」
「ホントに!?」
「もう肩を揺らす攻撃はやめて!?」
シェントが急いでフォルテを制す。フォルテの勢いですぐに分かったのだろう。
アルは「だよなぁ……」と記憶を探っているのか上を向いている。スウィートは苦笑いしながらフォルテを止めた。
「と、とりあえずお邪魔しちゃってごめんなさい」
「いや、別にいいが。……シアオ、お前が変な冗談でも言ったのか?」
「僕!? 何で僕!?」
「確率が高そうだから」
「酷くない!?」
ギャーギャー言っているシアオの頭にポン、と手をおいてからグラディは「もう行くからじゃあな」と言って去っていった。シェントも「ばいばい」と言って後を追っていった。
シアオは不満そうな顔をしながらスウィートの方を向く。
「……完全にナメられてた気がする」
「き、気のせいじゃないかな……」
「そりゃ仕方ないわよ。アンタはナメられて貶されるだけの奴だから」
「どんなの!?」
「とりあえず行くぞ。くだらない言い争いで時間を喰ってられない」
アルの言葉にまた2匹がギャーギャーと言い出す。スウィートは苦笑しながらもアルの後を追い、シアオとフォルテの慌ててついてきた。まだグチグチと何か言っていたが。
―――パッチールのカフェ―――
「うーん……やっぱり知らない?」
「ボクは知らないよ。ごめんね」
シアオはパチリスのイティに“神秘の森”の大魔王について聞いている。しかしやはり何も知らないらしい。
ここまでくるとギルドの弟子達の話が嘘なのでは、と思えてくる。ギルドの弟子たち以外、見たことがあると言った者が1匹もいないからだ。
うーん、とスウィートが悩んでいると、1匹のポケモンがカフェに入ってきた。
「あ……あぁ!!」
「は?」
「おい、スウィート……って、やっと見つけたセフィン!」
「うぎゃああぁぁぁぁああぁぁぁぁぁ!!」
スウィートが指をさいた方向にはセフィン。アルもそれに反応し、フォルテは逃げようとしたところをアルに首根っこ捕まれて逃亡に失敗した。
セフィンは何がなんだか分からないといった顔をし、呑気に「ヤッホー」と挨拶した。しかし『シリウス』は挨拶どころではない。セフィンに言わなければならないことがあった。
「剣さんがだしてた小説! あれは一体どういうことですか!?」
「ん? あぁ。面白かったやろ? ウチが提案した」
「やっぱ犯人はお前か!!」
「何で僕の名前だしてくれなかったのさ!?」
「シアオ、問題はそこじゃないからね!?」
ギャーギャーと騒いでいるのが迷惑だとアルはすぐに理解したのか、とりあえず全員を座らせた。フォルテは強制的にだが。
そしてセフィンを問い詰める。
「何 許可なくやってんだ! ていうか何であんなに細かく書かれてる!?」
「剣の小説はあっという間にヒットしよったからな〜。『シリウスの冒険記 英雄ができるまで』」
「知らねぇよ! 質問に答えろ!」
「そうです! 何で私があんなにカッコよく書かれてるんですか……!?」
「スウィートも今は黙っててくれ!」
カオスである。スウィートまでもがアルに叱られる始末。フォルテは未だ逃げようとしているが首根っこを掴まれたままである。シアオは不満そうな顔をしている。
先ほどの会話にあったように、問題は剣の小説であった。
その小説の題名につけられているシリウス≠ニいうのは勿論スウィート達のチームの名前である。何故それがつけられているのか。
簡単なことだ。その小説がスウィート達が星の停止≠食い止めるまでの出来事を書いた小説だからだ。
その小説に個人の名前はだされていなかったが、種族や性格はでているのである。更にプクリンのギルドにいる『シリウス』という探検隊と書かれていては、正体をさらけ出している様なものであった。
「だってオモロそうやったし。まぁウチもあそこまで人気が出るとは思わへんかったわ」
「だから何で勝手に出版した!? プライバシーの侵害だろうが!」
「だから理由なら言うてるやろ。面白そうやったって」
「納得するか!」
その小説が出て人気がなければまだよかったのだが……人気がでてしまったのである。
シアオが各地で話していたために、口コミで伝わったのもあるだろう。しかし恐らく裏で手を引いていたのはセフィンか刃なのは明白である。犯人が2匹以外に見当たらない。
小説がヒットしたせいで先輩たちからはからかわれるわ、トレジャータウンから英雄英雄 言われるわ、挑戦状は届くわで最悪なのである。
そんな訳で文句を言い、今でている小説を全て下げろとセフィンか刃か剣に言おうとしたのだが、なかなか現れなかったから言えなかったのだ。いつもならいるはずのカフェにも姿を現さなかった。
だからこそ今しかないのだ。文句を言って問いただし、小説を下げさせるには。
「それと何で細かかったかて……聞いてへんのか? インタビューに答えたんは全部シアオや」
「やっぱお前か、このアホ!」
「あだっ!!」
容赦なくシアオは頭にアルの拳骨を食らわされる。スウィートは因果応報であるため庇ってはあげられい。
「というか凄く皆にからかわれたんですけど……! 言葉とか!」
「文句ならシアオに言いや。答えたのはシアオや」
「何で嘘ついてあんな言葉にしたのかな、シアオ……!」
「いやー……その、実際の言葉はやめたほうがいいかなーって」
シアオの考えは完全に間違っていた。
ただでさえ頭が弱いシアオが言葉を考えても変になるだけである。つまり、小説は完全に恥ずかしい台詞になっている。それをイーブイが言った、と自分のことをさされているものだから、とてもからかわれたのだ。とくにからかいがいのあるスウィートが。
シアオはからかわれるということを知らない。フォルテの場合はからかったら怖いことになるし、アルはからかい甲斐がない。なのでよくからかわれるのはスウィートだったのだ。
最近はギルドやトレジャータウンでその話は冷めていっているが、出たばかりの頃は本当に酷かったのである。
スウィートはトレジャータウンに行くのを渋りまくったぐらいである。一度は部屋から出たくないといった始末だった。ディラがそれを聞いてからその話をギルドで禁止にしたが。
それを思い出しているとじわじわとスウィートの目に涙が溜まる。本当に耐えられなかったのだ。
涙目になりながらセフィンに話しかける。
「しょ、小説を今からでもいいから取り下げていただけませんか? 流石にこれ以上 広がるのはマズ――」
「あぁ、悪いな。それなら3日前に遠くの地方に1万冊くらい送ってもうた☆」
あは、と笑うセフィンに、1匹を覗いて固まる『シリウス』。
送った? 1万冊? 遠い地方に? つまり、小説を読むポケモンが増えてしまう? ……また、冷やかされる?
スウィートがそう考えた瞬間に動かなくなり、シアオは相変わらず空気を読めないのか何故か喜んでいる。アルはフォルテの首根っこを掴んだまま、頭を抱えた。