1話 卒業試験とは
「そつぎょうしけん?」
「えー……何か試験って聞くとやりたくなくなってきたー……」
「確かに面倒そうよね」
「シアオ、フォルテ、黙れ」
「お前らホント何なの」
朝からこのやりとりである。
『シリウス』のリーダー、イーブイのスウィート・レクリダは首を傾げ、『シリウス』のメンバーであるリオルのシアオ・フェデスと、ロコンのフォルテ・アウストラはあからさまに嫌そうな顔をした。そんな2匹を容赦なく叩いたのが同じメンバーであるピカチュウのアルナイル・ムーリフだ。
相変わらずマイペースで突き進む探検隊で、時折ついていけないところがある。
因みに最後の声はディラで、呆れたように4匹を見ている。
他の弟子達は驚いた顔をして『シリウス』を見ていた。スウィートはそれに気付くと急いでシアオの後ろに隠れた。朝礼中でもお構いなしである。
小さくディラは溜息を吐くと、スウィートが最初に言ったそつぎょうしけん≠ノついて説明し始めた。
「卒業試験……まぁそのままの意味で、ギルドを卒業するための試験をお前ら『シリウス』に受けてもらう。卒業すればギルドから出られるし、毎日の辛い修行からもおさらばだ。まぁ合格しなきゃ卒業なんてできないけどな♪」
(辛い修行なんてしたっけ……)
そう思ったことはスウィートは胸のうちにしまっておいた。
すると「ヘイ!」といってイトロが挙手をする。全員の視線がイトロに集まった。
「ディラ! オイラたち先輩をさしおいて、なんで『シリウス』が先に卒業試験なんだよ、ヘイヘイ!」
「実績が違うからだ。何といっても『シリウス』は世界を救ったからな♪ 試験を受ける資格があるのも当たり前だ。
因みに言っておくが、注意しとかないと『アズリー』にも先を越されることになるぞ。依頼をこなした数は既にお前たち先輩に追いつきつつあるからな。あっという間だぞ」
「え、ホントですか!? やったね、凛音!」
「……別にポケさえもらえればどうでもいいんですが」
キャーキャーはしゃいでいるメフィに対し、凛音の反応は薄い。心底どうでもいいといった顔だ。
先輩の弟子達は『アズリー』の恐ろしさを知った。ただ本当のことを言うと『アズリー』はポケのために凛音が無理な数の依頼をこなしているだけだが。
「……ま、という訳だ。面倒でも卒業試験は頑張ってくれ。気を抜くと地獄をみることになるからな♪」
「地獄!?」
「安心しなさい。あたしが逆に地獄に叩き送ってやるわ」
「黙れ、フォルテ」
またしてもアルがフォルテの頭を叩いた。シアオは地獄と聞いて顔を真っ青にしているが。スウィートは視線が散りつつあるので元の位置に戻りつつある。
するとルチルが思い出したように声をあげ、ラドンを見た。
「そういえば去年はラドンが卒業試験を受けましたわね」
「でも呆気なく落ちたけどな、ヘイヘイ!」
「う、煩い!」
ちょっと笑っているイトロにラドンが静止をかける。しかし笑いは止まらないらしい。
するとおずおずとスウィートが挙手をした。
「あの、卒業試験って……何をするんですか?」
その質問に答えたのはディラではなく、珍しく起きているロードがニコニコしながら答えた。
「“神秘の森”という森の奥に“光の泉”という場所があるんだ。そこは元々 進化できる場所だったんだけど……時が壊れた影響なのか今は泉に光がささなくて、それで進化もできなくなってるんだ」
「あ……俺、行ったことあるかも」
「「「「「「え!?」」」」」」
アルの発言に全員がそちらを向く。それに気付いていないのか、アルは「あー……」と言って天井を見上げ、思い出そうとしているようだ。
とりあえず話題を戻そうとディラがコホンと咳をして喋る。
「とにかくその“光の泉”に行き、そこにあるお宝をとってきてほしい。お宝を無事に持ち帰ることが出来れば合格だ。合格すればお前たちは一人前の探検隊として認められ、はれてギルドを卒業できる」
「そっか。お宝をとるって……試験っていっても案外 難しい内容ではないんだね! 僕、頭がこんがらがるような内容を話されるのかと思ってヒヤヒヤしたー」
「お前の頭なら少し難しくしただけでこんがらがるだろうな、シアオ。あと試験を舐めたら地獄を見るとと何回 言えば理解するんだ」
ディラの鋭いツッコミが入ったにも関わらず、シアオはニコニコしている。
するとロードもシアオと同じようにニコニコしながら、聞き捨てならないことを言った。
「ただ……あそこには……とぉっても恐ろしい……」
ロードの雰囲気に、スウィートとアルが首を首を傾げ、シアオとフォルテがビクリと体を震わせる。恐ろしい、と聞いて連想したものが自分の恐ろしいモノだからだが。
すると少し黙って俯いてから、ロードは急に顔をあげ
「悪の大魔王が住んでいるんだよ!!」
「「ぎゃあぁぁぁぁ!!」」
「何で絶叫をあげた?」
「あくのだいまおう?」
ロードがいきなり大声をだしてそう言うと、それぞれな反応を見せた。やはりマイペースな探検隊である。
シアオとフォルテは涙目になって絶叫をあげ、アルはそんな2匹にツッコんだ。スウィートはロードの言葉を復唱し、首を傾げている。ロードは相変わらずニコニコしているが。
「あああああ悪の大魔王ってゴゴゴゴーストタイプでしょ!? あたしはいい! やらない!!」
「ムリムリムリムリムリ、絶対ムリだって、死んじゃうよ!! アリアドスの大群とか……」
「お前ら真面目に話を聞け」
またしてもアルが2匹の頭を叩いた。さっきの言葉を聞く限りきちんと話は聞いていない。自分の想像に怯えているだけである。
「どんなのですか?」とスウィートが聞くと、ロードが真剣な顔つきになった。
「悪の大魔王はとっても凶悪で、誰も関わりたくないぐらい恐ろしい存在だけど……」
ごくっと4匹が息をのむと
「頑張ってね♪」
「「「「え、えええぇぇぇぇええぇぇぇぇぇ!?」」」」
ロードはいつもの笑顔と調子でそう言った。4匹は大声をあげる。
シアオとフォルテがロードに何か言うとすると、ディラが羽をばたつかせた。
「以上で今日の朝礼は終わり! それでは皆、仕事にかかるよ♪」
「「「「「「おおおぉぉぉぉぉぉおおぉぉ!!」」」」」
それから何事もなかったようにで弟子達はそれぞれの場所へと散っていく。
一目散にシアオとフォルテはスウィートとアルに詰め寄った。スウィートは苦笑で、アルは溜息をついた。
「だだだだ大魔王だって!! どうしよう!?」
「シ、シアオ。とりあえず落ち着こう? ね?」
「ゴーストタイプだったらあたしは逃げる……!」
「叩くぞ」
いらない決意を露わにしているフォルテにアルが盛大に大きな溜息をついた。
するとシアオが「あ」と声をあげて、1匹の弟子の名を大声でよんだ。幸いまだどこかに行っていなかった。
「ラドンー! 去年うけたんでしょ!? 大魔王ってどんなの!?」
「うぐっ……。悪いがそれは教えられん……ギルドのしきたりだからな」
「そっか……」
教えてもらえなかったことにシュンとするシアオ。するとラドンが少し顔を青ざめさせて言った。
「しかし……これだけは教えておこう。とても……とても恐ろしい出来事が、待っていると……。あれは……今 思い出してみても……うわああああぁぁぁぁぁっ!!」
スウィートが心配になるくらい顔を青ざめさせたラドンは早足で去ってしまった。
それを見てフォルテはもっと顔を青ざめさせる。
「し、心霊体験……!?」
「だから違うっつってんだろ」
今度こそアルはフォルテの頭を叩いた。しかしフォルテは想像することをやめないらしい。
するとシアオは今度はアルに目をむけた。
「アルは行ったことあるんでしょ? 会ったことないの?」
「……そんなモンに出会った覚えは1つもない。それに“神秘の森”も“光の泉”も名の通り神秘的で綺麗な所だ。確かに少し暗いが……ゴーストタイプに出会った覚えはない」
「マジ!? それはマジよねアル!!」
鬱陶しいといわんばかりの顔をしたアルは適当に受け流した。
スウィートは苦笑しながらその様子を見て、「とりあえず」と言った。
「準備しにいこう? ね?」
アルは静かに返事をし、シアオは元気よく返事した。フォルテは「とりあえずゴーストタイプがでたら……」と未だブツブツといっていた。