輝く星に ―時の誘い―












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第7章 それぞれの想い
95話 募る想い
「スー……スー……」

 夜中になり、あたりはすっかり暗くなってしまっている。
 ラウルは休まず海を泳いでおり、シアオはその背中でぐっすりと寝ていた。シルドもだ。
 しかしスウィートは先ほどから目を閉じたり開いたりを繰り返している。

(寝れない……。体が強張ってるのかな? でも今までそんなことなかったし……)

 思わず「うぅ……」と声をあげる。
 すると予期せぬ人物から言葉が発せられた。

「寝れないのか?」

「うわぁ!!」

 驚いてスウィートが声の方を見ると、そこには先ほどまで寝ていたはずのシルド。
 バクバクいっている心臓を何とか落ち着かせながらスウィートは話しかける。

「お、起きてたの?」

「いや、さっき丁度 目が覚めた」

 そんなことあるのか、とスウィートがシルドを訝しげに見ると「本当だ」といわれた。とりあえずスウィートは謝っておいた。
 そしてスウィートはふぅ、と息をついた。

「寝れないのは確かだよ……。やっぱり未知の場所に行くからかなぁ」

「それは探検隊としてどうなんだ」

「…………。」

 シルドの言い分が尤もすぎてスウィートは黙った。
 するとシルドがはぁ、と溜息をついた。それにスウィートは頬を膨らませる。

「拗ねるな」

「拗ねてない」

「……じゃあそういうことでいい。スウィート、今までドタバタして聞けなかったがアイツらは元気か」

 言葉のあと、スウィートはシルドを見る。そして目を瞑った。
 そして次に開くと瞳の色がかわる。

「《久しぶりじゃの、シルド。相変わらず無愛想な面をしおって》」

「何でよりによってお前がでてくんだよ、ミング……」

 シルドは手を額にあてる。
 スウィートの瞳の色は緑。つまりシルドが言ったとおり、ミングがでてきたのだ。
 するとミングはほっほっ、と笑った。

「《長女の務めじゃ。まぁ、嘘じゃが》」

「嘘かよ」

「《あやつらは出来るだけ外と同じ世界で暮らそうとするため、この時間は寝ているからのぅ。ワシは起きているが》」

「……年寄りだからか」

「《失敬な。もともとサファイアの中では睡眠もいらんのじゃ。貴様も知っているだろう》」

 少しだけ、ほんの少しだけだがミングは悲しそうな顔をした。
 それを横目で見た後、シルドは海に目線をうつす。

「あぁ。ただ、お前らが外部の時間を気にしてるとは思わなかったが」

「《ワシは気にしておらん。もう慣れてしまったからの。ムーンもだが。この生活に慣れてしまった。どうせ戻ることもないのじゃ。別に生活リズムが狂おうが関係なかろう》」

「…………スウィートとの約束は、」

「《因みにこの会話はスウィートには聞こえておらんからの。もう寝ておる。……スウィートは何も覚えていないんじゃ。もういいじゃろう》」

「………………。」

 シルドは顔を顰める。それとは対象にミングはしれっとしていた。
 静寂が訪れ、シルドはそっと目を瞑り過去のことを振り返る。まだあの真っ暗な世界にいたとき。まだ、スウィートが人間だったとき。

――――私、絶対に、絶対に皆を元に戻すから……! だからっ……

                    そんな悲しいことを言わないで。

 どうせもう元に戻らない。そう言ったミング達に対して泣きながらスウィートが言っていた。
 ボロボロと涙を流しながら、情けない顔をして。

 その約束をサファイアの中の一部は信じているのか。それとももう諦めているもののそんな幻想に囚われているのか。
 スウィートは、その約束さえ、もう覚えていないのに。

「《もういいじゃろう。どうせワシらも消えるんじゃ。戻るどうこうではない。
 それに、元から嫌だったんじゃ。スウィートにそんな約束を取り付けて重荷を背負わせ、縛り付けているのは》」

「…………。」

「《もう、いいじゃろう》」

 その後、シルドが何か言うことはなかった。ミングは静かに目を伏せた。






 太陽がのぼり、辺りを照らし始める。
 それと同時にスウィートとシルドは目を覚ます。シアオも流石に眩しかったのか目を覚ました。

「おはよう、シアオ、シルド、ラウルさん」

「あぁ、おはよう」

「おはようございます」

「はよー……ふわぁぁ……」

 大あくびするシアオに思わずスウィートは苦笑をする。
 シルドはそんなシアオに「寝るなよ」と注意している。確かに今 寝られては困るので正しい判断だろう。シアオは頷きながらパチパチと自分の顔を軽く叩く。
 そしてようやく覚醒してきたのか、ラウルに質問をした。

「ねぇ、ラウル。だいぶ長い時間 泳いでるけど大丈夫? 僕らはねたから大丈夫だけどさ……」

「ボクなら大丈夫ですよ。心配してくださってありがとうございます。それより……もう少しでつきます」

「え」

 思ったより早い到着予告にシアオは目を瞬かせる。
 スウィートとシルドは一気に緊張した面持ちになった。やっとと思うとそうなってしまうのだろう。

 するとラウルがあ、と声をあげた。

「見えてきました。ホラ、あそこです!」

「えっ、どこ!?」

 シアオは大きく身を乗り出し、シルドは危なっかしいと思ったのか支えながら見ようとしている。スウィートは普通に。

「海の先方にちょっと違うところが見えますか?」

 3匹は海をじーっと目をこらして見る。
 よく見てみると海の向こうにキラキラ輝いている場所があった。そこは少し、ほんの少しだが色が違い、何か別空間に見える。

「波が……ねじれている?」

「ラ、ラウル。あれは!?」

「あそこは時の狭間の境目です。あそこを通って“幻の大地”へいきます。さぁ、いきますよ!!」

 そのラウルの言葉とともに、ぐんぐんスピードが上がっていく。3匹は落ちないようラウルにしがみつく。
 そして下を見ると、どんどんラウルが海から離れていっていることに気付いた。

「ラ、ラウルさんが飛んでる……」

「ど、どいうことコレ!?」

「いや、違う。これは飛んでるんじゃない。時の海を渡っているんだ」

「時の海!?」

 そんな会話している間にもラウルはどんどん浮く。
 すると紫色の電光が見えた。その瞬間――一気に景色がかわった。

 海はもう見えず、代わりに浮いている大地が見えた。
 その大地には木があり、岩があり、山がある。さっきまで海にいたとは思えない光景だ。
 
「ラウル! あれが……あれが幻の大地なのか!?」

「そうです! あれが幻の大地です! 突入します!」

 そう言うとどんどんラウルは大地に向かって降下していく。
 ラウルは3匹が降りられるように大地へ降り立ち、3匹はその大地を踏みしめた。そこには花も咲いているし、草もある。

「こ、ここが……“幻の大地”……」

「ついに、ついに来たんだな……。俺たちは」

「そうだね。ここに、“時限の塔”が……」

「皆さん、正面を見てください」

 ラウルの指示通りに3匹は正面を見る。そして目を見開いた。

「あ、あれは……」

 未来で見た“時限の塔”よりは酷くないが、崩壊はしていた。
 “時限の塔”は浮いており、その上では赤い何かが渦巻いている。“時限の塔”が立っている場所は崩れていっていた。
 それを見ているとラウルが言葉を発した。

「あれが、“時限の塔”です」

「あれ、が……。あそこに、あそこにいって時の歯車≠ウえ納めれば……!」

 ようやく目的が達成される。未来をかえられる。
 スウィートはそれを聞くと改めて「やっとここまできた」という実感が湧いてきた。
 さらにラウルは説明する。

「“時限の塔”にいくには虹の石舟≠ノ乗ればいけますよ」

「虹の……石、舟=c…?」

「はい。この先をずっといくと古代の遺跡があります。そこに古代の船……虹の石舟が眠っているのです。そこに乗れば“時限の塔”までいけるでしょう。
 ボクができるのはここまでです。お願いします、未来を、どうか変えてください」

 ラウルが頭を下げる。
 3匹はしっかりと頷いた。必ず変えてみせる、と。

 シアオはシルドとスウィートの方を向いて、明るい音色で言った。

「スウィート! シルド! もう少しだよ、頑張ろうね!」

 それに頷き、2匹とも釣られるように笑った。
 そして「絶対にあの暗い未来をかえる」と改めて決意をした。

アクア ( 2013/06/06(木) 22:52 )