94話 託した
「う、うわ゛ぁぁぁぁああぁん! せんばいぃぃぃぃいぃ!」
「落ち着きなさい、メフィ」
ここはギルドの門の前。空は真っ暗で星がキラキラと輝いている。つまりもう夜なのだ。
メフィは涙を流しながら飛びつこうとしたが凛音に止められた。それを苦笑しながら見るのは2匹。
「ハハ……。まさかこんな歓迎うけるなんて思ってなかったな……」
「ていうか何でいんの……?」
それはフォルテとアルだ。
2匹はさっき“磯の洞窟”から帰ってきたのだ。休憩が思ったより長くなってしまい、こんな時間になったのだ。
未だ涙をボロボロ流しながらメフィは言葉を紡ぐ。
「だってぇっ、なかなか、帰ってごないしぃ……じんぱいしたんですよ!?」
「落ち着いて喋りなさい。
それよりお二方、傷の手当てを早くしましょう。酷い怪我ですし……すみません、時間をとらせてしまって」
「あぁ、こっちこそ悪いな。悪いが早めに手当ては頼む。結構喰らってな」
凛音はいえ、と言うと未だないているメフィを引きずってギルドに入っていく。門は開けてもらっていたらしい。
フォルテとアルはまた苦笑してからギルドの門をくぐった。
凛音とメフィの後を追い下に下りていくと朝礼の場には弟子達が集まっていた。
そして2匹の存在を確認するや否や詰め寄る――ことは凛音がパチン、とムチを鳴らしたせいででできなかった。
「とりあえず包帯とか薬とか手当て道具を用意してもらえますか。話はそれからです。異論がある人はどうぞかかってきてください」
それに異論を唱える者などおらず、アメトリィは急いで手当て道具を取りに行き、他の弟子達は口を閉じて黙った。
メフィは未だグシグシと鼻をすすりながら
「凛音、わだし木の実とっでくるね」
「それはいいですけど鼻をどうにかしたらどうですか」
すぐにつっこまれた。
そしてアメトリィが道具を持ってくるとフォルテをアメトリィが、アルを凛音が治療する。
「……アルナイル先輩、背中が凄いことになってるんですけど。すみません、誰か拭くもの持ってきてもらえますか」
「りょ、了解でゲス!」
レニウムがすぐに動く。しかし凛音はアルの背中から目線をはずさない。
アルの背中はクヴィに切られたことで酷い有様になっていた。大怪我ともいえる怪我を。
それとは裏腹にアメトリィは薬をさっさと塗っていく。
「い、い゛だぁぁぁあ゛あ゛ぁぁ!! 死ぬ、死ぬ! ギブ、ギブよアメトリィ!!」
「何言ってるんですか。アルさんより酷くないとはいえきちんとお薬塗らないと治りませんよ。傷が残ったらどうするんですか」
「いい、もう傷 残ってもいい! だからもうやめ、あだぁぁぁぁあ゛ぁぁあ!!」
容赦なかった。
フォルテはずっと悲鳴をあげながら治療されていく。アルよりは早く済みそうである。
するとレニウムがタオルを持ってきた。凛音はそれを受け取りアルの背中を拭いていく。それにアルは思いきり顔を顰めた。
「っっ〜〜……!」
「すみません、拭くだけでも痛いですか? でもちょっと我慢してください」
ベットリとアルの背中についたものをなるべく負担をかけないように拭いていく。しかしこびり付いていて中々落ちそうにない。
凛音はあれこれ弟子たちに指示をだしながらアルの背中の治療をしていく。
フォルテはすぐに終わり、包帯だらけの体でメフィが持ってきたオレンの実を食べていた。
アルは悲鳴こそあげないものの小さく声をあげる。どうやっても痛いらしい。
そこにロードがやってくると、治療をしていない弟子たちは駆け寄っていった。
「あ、アル、フォルテ。おかえり〜」
「ってて……。ただいまです……」
「……ただいま」
すると待ちきれないといったようにラドンがロードに問いかけた。
「お、親方! ディラは!?」
「ん、大丈夫だよ。一晩寝れば元気になってるはずだから♪」
全員がホッ、と息をつく。しかしアルとフォルテだけは傷が響いたのか、「い゛っ!!」という声をあげた。
それをロードが見て苦笑する。
「アルは一晩ってわけにはいかなさそうだね……。フォルテは一晩で大丈夫かな?」
「あたしは平気よ。これくらいへでもないもの」
「……流石に俺は無理みたいです。あでっ……!」
凛音は淡々と薬を塗って包帯を巻いていく。
するとルチルがゆっくりと控えめに発言した。
「その、親方様……」
「ん? なぁに、ルチル」
「親方様は昔ディラに庇ってもらったといっていましたが……あれは……」
「あぁ、うん。あれはね、上にいたカブトプスたちにボクは気付かなくて、ディラだけ気付いてたんだ。それで不意をついてボクを襲ってきたんだ。でもディラを庇って……」
ロードは悲しそうな顔をする。思い出すと胸が痛いようだ。
「その後カブトプスたちは追い払ったんだけど……でもボクは倒れたディラをどうすることもできなかった。その時は道具も何も持っていなかったんだ」
え、といった顔を全員がする。
ならばその後ディラはどうなったのか。どうやって助かったのか。
しかし場違いにアルが「い゛っ!」と声をあげると全員に凄い目線を浴びさせられtが。とりあえず謝っておいた。
「それで途方にくれていたとき……ラウルが現れたんだ」
「ラ、ウル……?」
「うん。種族はラプラス。名前はラウル・ティルス。ラウルはディラを助けてくれたんだ」
場所はかわって夜の海。
そこには1匹の大きなポケモンが泳いでいた。そしてその背中には3匹のポケモンが乗っている。
「へぇ……。ラウルはそんな風にしてロードに出会ったんだ」
シアオたちはロードが話していることと全く同じことをラウルから聞いていた。
「はい。本当は姿を見せるつもりはなかったんです。でもディラさんの姿を見て助けずにはいられませんでした」
「……ラウルさんは優しいんだね」
急にスウィートが喋り、シアオは驚いたような顔をする。「え?」とスウィートは何故か慌て始める。
それにシルドは溜息をつき、その光景をみたラウルはクスクスと笑った。
「そんなことありませんよ。傷ついているポケモンを助けるのは当たり前です。
そしてその後……ボクはロードさんとある約束をしました。不思議な模様だけは探求しないように、と……」
それにシアオは首を傾げる。スウィートもだ。シルドは少し考えたような顔をしている。
「ロードさん達を見たとき、すぐに探検隊だと分かりました。でも初対面でしたしロードさんが野心に満ちた盗賊か、あるいは正義の心を持った探検隊かは分からなかったんです。
でも世界の平和のために、そのことだけは内緒にしてもらいたかったんです」
「それに、親方様は承諾したんですよね?」
「はい。ロードさんは快く約束してくれました。ディラさんを助けてくれたお礼もあるので、この件からは手を引く、と……」
ラウルは向けていた目線を前に戻す。
「世界の平和のためというのは……簡単にですが説明しましょう。
あの模様は確かに“幻の大地”へと繋がるものです。“幻の大地”にはディアルガがいる“時限の塔”があります。ディアルガは時間を司る塔に色々なものが訪れるのを恐れました。
そして……“時限の塔”を守るため、“幻の大地”を時の狭間に隠したのです」
「時の狭間?」
スウィートが言葉を復唱する。シルドは目を伏せて黙っていた。シアオは既に何が何だか分からなくなったようで頭から煙がでていた。
ラウルは少しうーん、と唸ってからもう一度 言葉を発した。
「説明が難しいのですが……時と時の……ほんのわずかな隙間の部分と申しましょうか……」
「……成る程な。道理で見つからなかったはずだ。時の狭間なんて……誰もいけないし、いったこともないからな」
「いえ。ディアルガは1つだけ“幻の大地”に入る資格を設けたんです。それが不思議な模様のかかれた特別な欠片です」
そして戻ってギルドとなる。アルの治療はいつの間にか終わったらしい。
ロードはいつもと違った真剣な表情で話す。
「ヘクトル長老の話……そしてシアオの遺跡の欠片を見て……僕はぴんときたんだ。あの不思議な模様こそが“幻の大地”に通ずるものだと。
だから僕はみんなが行く前に……ラウルに会いにいってたんだ」
だからロードは弟子達と一緒に来なかったのだ。ラウルと話をするために。
弟子達が納得したような顔をする。
ロードは構わず続ける。
「僕はラウルにあって話した。各地のときが止まり始めてこの世界が危機にあるこ……そして一刻も早く“時限の塔”に時の歯車≠納めなければならないこと。だから“幻の大地”へ行く方法を教えてほしいと頼んだ」
「それで……どうなったんですか?」
ルチルが恐る恐る聞く。弟子達も聞きたそうだ。
すると真剣な表情をやめ、ロードはいつものような笑顔になった。
「ラウルは教えてくれたよ。“幻の大地”にいくものは遺跡の欠片が選ぶんだって」
「い、遺跡の欠片が!?」
「選ぶんですか!?」
弟子達は思いきり目を見開かせる。意味が分からないのだろう。
欠片が、物がポケモンを選ぶなどと誰が思うのだろうか。
だがロードが嘘を言っている様子もない。おそらく本当のことなのだろう。
「うん。そうらしいよ♪そして遺跡の欠片はシアオを選んだ」
「あの間抜けをねぇ……」
「間抜け言ってやるな。ってて……」
「ヘイ! 何で遺跡の欠片はシアオを?」
うーん、と唸った後ロードはまだ難しそうな顔をして答える。
「僕も分からないけど……多分ディアルガは悪しき者を“時限の塔”に入れたくないんだと思う。だから大切なのは心。遺跡の欠片はシアオの心に共鳴したんじゃないかなぁ。
とにかく僕たちができるのもここまで。あとは……『シリウス』の2匹に託すしかないよ。“幻の大地”へいき、時の破壊を食い止めるのは……」
弟子達はうん、と頷く。
フォルテも、アルも、しっかりと頷いた。