93話 敗因は何だ
「火炎放射!」
「水鉄砲!」
フォルテの攻撃をオムスターの1匹はすぐに打ち消す。
そしてその後ろからもう1匹がフォルテに攻撃をしようと構えるが
「させるか!」
アルがすぐさまアイアンテールを食らわそうとする。
しかしアルは少し目を見開いた後、すぐにアイアンテールをやめて宙で体を捻る。アルの体すれすれにあるのはクヴィの刃。
フォルテはオムスターがアルに少し怯んだ瞬間にでんこうせっかですぐさまその場を離れていた。
「ふっ、少しはやるようだな」
「そりゃどうも。放電!」
フォルテが離れたことを確認したアルは辺りに強い電気を散らせる。
クヴィはそれに反応し、オムスター2匹の後ろに隠れた。
「なっ、盾に……」
「違う! まもる使ってんのよ! けど残念ね、後ろががら空きよ!! シャドーボール!」
「きりさく!」
クヴィは素早く反応しフォルテのシャドーボールを真っ二つにする。
チッ、と小さくしたうちした後にアルはでんこうせっかでフォルテの横に並んだ。
フォルテとアルはクヴィたちを向き合う形となる。
「こりゃ……連携が大切かもな」
「……そりゃあたしが1番 苦手な分野じゃないの」
「大丈夫だろ、何とかなる。問題はあっちが連携に手馴れてることだ。これは一筋縄ではいかなさそうだ」
アルは苦い顔をしながらも顔に笑みを浮かべる。
それをフォルテは横目でちらりと見て、再びクヴィたちの方を見た。そして小さく笑みを浮かべる。
「あら、前に連携ならしたじゃないの。別にチームプレーも何もないやりたい放題やった連携なら」
「おい、それはカイリューのときのことか」
「それ以外 何があるのよ。あれは滅茶苦茶でやったじゃないの。なら今回だって大丈夫よ」
「何が大丈夫なんだか全く分からないがな……」
アルが言い終わると同時に2匹は真っ直ぐ駆けていく。
「まずは雑魚から殺るのは常識よね!」
「どこが常識だ!」
アルはこうそくいどうで自分とフォルテの速さをあげ、さらにフォルテはでんこうせっかでオムスターの1匹に近づいた。
咄嗟にできなかったオムスターはアイアンテールを決められ、クヴィにぶつかってとんでいく。その向こうには岩。
「ちっ!」
「なっ、嘘……!?」
フォルテは目を見開かせる。予測外のことがおきたからだ。
クヴィは無遠慮にオムスターを岩に投げつけた。つまり仲間を岩に投げたのだ。自分が当たらないために。
オムスターはそのまま岩に激突し、クヴィはそのオムスターにぶつかった。
「おい、フォルテ! ボケッとすんな!!」
「っ、分かって――きゃっ!!」
フォルテがハッとした瞬間にもう1匹のオムスターがフォルテに水鉄砲を食らわす。
アルはそのオムスターに攻撃をしかけようとするが
「どこを見ている!」
「ぐっ!!」
アクアジェットで真っ直ぐアルを狙っていたクヴィの攻撃に吹き飛ぶ。
その方向には体勢を立て直しこちらを見ていないフォルテがいたが、アルは空中で体勢を立て直し、地面に着地した。
そしてフォルテは青筋を浮かべながら怒鳴るように言う。
「どこが連携に慣れてんのよ! 仲間を普通に盾にしやがったわよ!」
「違う。あれはオムスターが殻にこもるでダメージを半減させただけだ。あっちの方が効率がいい。そんですぐさまクヴィがアクアジェット……立派な連携だろ」
「腹立つ! そんな連携きいてない!!」
「知るか」
アルは忌々しげにクヴィたちを見る。
前のカイリューは狂っていたので滅茶苦茶な連携でもいけたが、今度は違う。理性も保っていて連携も長けている。
さっきも言ったとおり、本当に一筋縄ではいかなさそうだとアルは頭の片隅で考えた。
「あー、やっぱ燃やすほうがあたしの性に合うわ」
「アイツら水タイプだからあんま効かないぞ」
「大丈夫よ。結局は生きてるもんは燃えるから」
「どんな理屈だ」
こんなアホのやり取りをしているが、カイリュー戦のときのように至って2匹は真面目である。
すると今度はクヴィたちが先に動いた。
「「オーロラビーム!」」
オムスター2匹の攻撃をアルとフォルテはすぐに反応して避ける。
しかしフォルテの方にはクヴィが待ち構えていた。
「マッドショット!」
「きゃ!!」
するとフォルテはアルの方に吹っ飛んでいく。そこにはアイアンテールを構えているアル。
フォルテの存在に気付くとアルはチッ、と舌打ちした。しかしアイアンテールを引っ込める気はない。フォルテは顔を青くする。
「ちょちょちょ、ちょっとォォォォオ!?」
「燃やすんだろ、行って来い!!」
「きゃぁぁぁぁあぁ!! アルの馬鹿ァァァア!!」
尻尾の上に上手い具合にフォルテの足をのせ、そして勢いをつけて尻尾を振り上げフォルテをクヴィの元まで吹っ飛ばした。
「火炎放射ァァァァア!!」
「な、ぐあぁぁあぁ!!」
「そして倍返しよ、シャドーボールゥゥウ!!」
すぐさま返ってくるなんて考えていなかったクヴィは諸に火炎放射を食らわせ、そしてついでにシャドーボールも喰らわせた。
その間にアルはオムスター2匹に水鉄砲をされていたが、上手くでんこうせっか使って全てかわす。
「放電!」
アルが放電を繰り出すとすぐに水鉄砲をやめ、まもるをする。
するとフォルテはいつの間に来たのかオムスター1匹に至近距離で火炎放射を喰らわせた。
「あ、兄者!!」
もう1匹のオムスターが戸惑ったように声をあげる。
その怯んだ瞬間を見計らってアルはすぐさま近づいて手に思いきり電気をためて、その手からオムスターに10万ボルトを放った。
オムスター2匹は目を回し、体からプスプスと煙がでている。
そしてフォルテとアルは不敵に笑ってクヴィを見た。
「残念だったな、お前の仲間はこの通りだ」
「後はアンタ1匹よ。コイツら連れてどっか行くってんなら見逃してやってもいいけど?」
するとクヴィはオムスターたちに視線を向けた。そして今度はアルたちの方を向く。
「はっ、何故ワシがそいつらのせいで此処を退かねばならないんだ。貴様らなどワシ1匹で十分だ」
馬鹿にしたような笑みを浮かべているクヴィをフォルテは睨む。アルはただクヴィを見ているだけだった。
するとクヴィはアクアジェットで水を纏い、真っ直ぐ突っ込んでくる。狙いは勿論 効果抜群であるフォルテ。
しかしそれを見逃すアルではない。
「10万ボルト!」
「真っ直ぐいくだけと思うなよ!」
するとクヴィは水を纏ったまま迂回した。アルは目を見開く。
クヴィはそのまま動きながらフォルテを狙う。
「くらえ!」
「迎え撃ってやるわよ! アイアンテール!!」
クヴィのアクアジェットとフォルテのアイアンテールがぶつかる。すると小さく爆発がおき、土煙が巻き起こる。
フォルテはキョロキョロ辺りを見渡した後、カイリュー戦のときのことを思い出して体を伏せた。
「放電!」
瞬間、アルの声が響いて洞窟内に稲妻がはしる。勿論 フォルテには当たらないようできるだけ下にはしないように。
そして土煙がだんだんはれてきたとき――アルは目を見開いた。
「いない……!?」
辺りを見渡すがフォルテしかいない。
フォルテもすぐ起き上がり、アルのように辺りを見渡す。しかしどこにもクヴィがいないのだ。いるのは倒れているオムスター2匹。
そしてアルは不意にさっきの情景を思い出した。ディラが、やられたときの――
「っ、しまった!」
アルがようやく気付き上を見ると、フォルテの真上にはギラついた刃を用意しているクヴィ。だがフォルテはまだ気付いていない。
それを見てアルはフォルテの方へ走りながらも次々と作戦を思い浮かべる。しかし全くいい案は、ない。
「フォルテ! 逃げろ!!」
「はっ? 何いって――」
「グハハハ! 馬鹿め、これで1匹は仕舞いだ!」
ようやく気付いたようにフォルテがクヴィの方を向く。すぐ目の前には、刃。
くる、そう思って反射的にフォルテは目を瞑った。しかし全く痛みはこない。代わりに聞こえてきたのはうめき声。
フォルテはすぐ目を開いた。そこには見慣れた姿。
「ッ……! ッのヤロ……!」
「チッ、なかなかしぶといな」
アイアンテールで強化した尻尾で刃を受け止めているアル。しかしそれは少しずれ、刃はアルの背中に食い込んでいる。
思わずフォルテは小さく悲鳴をあげた。
「ア、アル……!!」
「ボケッとすんなって言っただろうが……! たたきつける!」
何とか体勢を立て直しアルは尻尾をそのままクヴィに向けようとしたが
「マッドショット!」
「きゃあ!?」
「ぐっ!?」
あちらの方が早く、2匹ともにマッドショットが当たる。
それも効果抜群の技。2匹とも勿論 顔を思いきり顰める。ダメージが大きいのだ。
少し距離をとって2匹はクヴィと向き合う。フォルテはちらりとアルを見た。
(っ……)
背中には痛々しく、さっき自分を庇ってできた傷ができている。他にも体には無数の傷があるが、背中の傷が1番 酷かった。
それに結構 息があがっている。体力も残り僅かなのだろう。
「…………。」
フォルテは目を閉じ息を吸い込む。そして目を開いてクヴィを睨む。
ふぅ、と息を小さく吐いてからフォルテはアルの前にでた。予想外の行動にアルも、そしてクヴィも目を少しだけ見開く。
「おい、何やってんだ……フォルテ……」
「怪我人は黙ってなさい! いいからそこで見てなさい、あたしの勇姿をね!!」
高々に言ってのけたがアルは微妙な顔をしている。それにフォルテは小さい青筋を浮かべる。
するとクヴィが大声で笑い出した。
「グハハハハハ! お前1匹でワシに勝てると!? 無理に決まっているだろうが!」
「あら、どうかしら。あたしはこれでもやる方よ」
フォルテは不敵に笑ってみせる。
そしてアルを一睨みして「黙ってそこにいろ」と合図すると、クヴィの方へ走っていった。
慌てて呼び止めようとしたアルだが、すぐに背中の傷が悲鳴をあげ体勢を崩した。
(案外、こりゃ深くいっちまってるな……)
アルは自嘲じみた笑みを浮かべる。そしてクヴィとフォルテの方へ目をむけた。
「火炎放射!!」
「きりさく!」
技のだしあい。かわしたりかわさなかったり、当たったり当たらなかったりの、だ。
勿論それはフォルテの方が不利だ。フォルテの弱点のタイプの技をクヴィは使ってくるのだから。
しかしフォルテはお構いなしだった。
「炎の渦!!」
フォルテが放った瞬間、クヴィを炎が包む。
しかしその炎はすぐにクヴィの手によって消えることとなった。
「みずのはどう!」
一部の炎が消され、そこからクヴィがでてくる。そして既にアクアジェットでフォルテを狙っている。
すぐに出てくると思わなかったフォルテだが、すぐに技の準備をした。
「アクアジェット!」
「アイアンテール!」
二度目の衝突、またしても2匹が吹き飛ばされ土煙が巻き起こる。
先ほどはアルがいたからこそ放電ができたが、今はできない。だからフォルテは自分で行動をおこした。
「アル! アンタ絶対に動くんじゃないわよ! 火炎放射!」
フォルテは所構わず火炎放射を撃った。何度も。
しかしクヴィらしき声は聞こえてこない。おそらく全くあたっていないのだろう。
だがフォルテは続ける。するとクヴィは後ろからフォルテを狙おうとした。
「メガドレイ――」
「炎の渦!!」
「ぬっ!? ぐあ!!」
ゴォッと音をたててフォルテの周りを炎が囲む。咄嗟のことでクヴィは避けきれず、少しだけ当たる。
フォルテは炎の中から平然と出てくる。当然だろう、炎タイプのうえ、特性が貰い火なのだから。
「シャドーボール!」
「チッ、マッドショット!」
休ませる暇をあたえない。フォルテはできるだけ早め早めに技を撃つ。
しかしそれにすぐにクヴィは反応する。だから先ほどと同じように技の出し合いがまた始まった。
何度目か同じ技の衝突や、フォルテがダメージをうけたり、クヴィがダメージを受けたりする。しかし両者一歩も譲らない。
「シャドーボール! 火炎放射バージョン!!」
ついにフォルテが違うことをしだした。
シャドーボールの周りに炎を纏わせた技を撃ったのだ。クヴィもさすがにこれには目を丸くする。
だはやはり反応した。
「きりさく!!」
シャドーボールを綺麗真っ二つに割る。するとクヴィも予期せぬ事態がおこった。
「なっ……!?」
シャドーボールが纏っていた炎がいきなりクヴィを囲んだのだ。
あまり身動きできない程度の円。そしてクヴィはフォルテの狙いを悟った。
「あやつ……!」
もともとフォルテは予想していたのだ。クヴィがシャドーボールをきりさくで割るということは。
だから炎の渦をシャドーボールに纏わせ、そして割れたところでクヴィの周りを囲むような仕組みに見事作り上げていたのだ。
「伊達に、探検隊やってるわけじゃないわよ」
フォルテは口の中で炎をためる。大きく、とても大きく、威力が大きくなるように。
そして口の中で十分溜まった後、クヴィのいる方へと放った。
「火炎放射!!」
炎の渦の炎でさらに威力を増した火炎放射がクヴィを襲った。
そしてフォルテはニッ、と笑う。
あれでは逃げ場はない。直撃した。そしてあっちは効果はいまひとつでもダメージはかなり受けていたのだからやれた、と。
しかし、その認識は甘かった。
「――ナメるなよ!!」
「あぐっ!!」
フォルテの下、つまり地面からクヴィはでてきた。
咄嗟のことで、そして全く予想していなかったことにフォルテは直撃する。
効果抜群の技をくらい、フォルテは地面にばたりと倒れる。しかし体を何とか持ち上げようとする。だが持ち上がらない。
するとフォルテの前に見下ろすような形でクヴィが来た。
「甘かったな。逃げられないようにするのはいい作戦だったが姿が見えなければ相手が何をしているのかも分かるまい」
「…………」
「それが貴様の敗因だ」
そういってクヴィは右手を上にあげ、刃をフォルテに振り下ろす準備をする。
フォルテはそれを見てハッ、と笑った。クヴィは一旦 手をとめる。
「敗因? それは、どういうことかしら……?」
フフッ、とフォルテは笑う。クヴィはますます怪訝な顔をする。
「……負け惜しみも大概にしろ」
「あたしは負けない。負けてない」
あまりにもしっかりとした目で言うフォルテにクヴィは怯む。フォルテは笑みをそのまま浮かべながら、言った。
「だってあたしの傍には――仲間がいるもの!!」
バチ、と洞窟内で電気の音がなる。
クヴィはすぐさま後ろを振り向くと、そこには異常なまで電気を溜めているアルの姿。
咄嗟にやばい、と思ったクヴィだが動かない。いや、正確には動こうとしたが、動けない。
クヴィは目線だけフォルテにやる。
「き、貴様……!!」
「ふういんよ。話している間にやったの。気付かなかったかしら……?」
アルはゆっくりと右手を地面と平行になるよう持ち上げる。そしてそれをしっかりとクヴィに向けた。
フォルテに当たることはない。何故ならフォルテは地面に伏せているから。
「そうだ、あたしの敗因教えてくれたし……アンタの敗因 教えてあげるわ。それはね……」
そして、放った。
「100万ボルト!!」
「あたしを1匹と見たことかしら!」
「ぐ、ぐああぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!!」
プスプス、と音をたてながらクヴィは地面に倒れる。
するとそれを見てからアルはふ、と笑い同じように地面に倒れた。慌ててフォルテは駆け寄る。
「ちょ、ちょっとアル……ったぁ……。えーと、大丈夫……?」
「ぜんっぜん大丈夫じゃねぇ……。どんだけ無茶させてくれてんだ……」
未だアルの体からはバチバチと電気が纏わりついている。
フォルテが戦っている間、ずっとアルは電気を溜めていたのだ。しかしこれだけの電気を溜めたことはアルにとって初めてであり、うまく放出できなかったらしい。
フォルテは「ててっ……」と声をあげたあと、アルの横に座った。
「ちょっと休憩してから帰りましょ……。あたしも疲れたわ……」
「あぁ……。俺は当分、動けそうにない……」
フォルテは笑みを浮かべ、そしてスウィート達がいった方向を見た。
「……ホントは、一緒に行きたかったのよ」
「……あぁ」
「そりゃ今まで一緒に頑張ってきたし……だから行きたいっていうのもあった。けど何か……スウィートの様子が変だった」
「…………あぁ」
「心配だった。どこか、元気がなかった。何か、変な胸騒ぎがした。だから、一緒に行きたかった」
「……でも、もう俺らには信じて待つことしかできないだろ」
「えぇ……」
アルも起き上がって座る。そしてフォルテと同じ方向を見た。
スウィートとシアオとシルドが今どこまで行っているのかは知らない。しかし戻ってきていないという事はもう“幻の大地”に行っているところなのだろう。
「……アイツらならできる。アイツらが俺らを信じて行ったように、俺らもアイツらを信じるしかない」
「……そうね」
じっと2匹はそこを見続けた。
ただただ変えてくれることを信じて。――無事を祈って。