92話 誘いし者
「また悪いクセが出たな」
「え?」
進みながらシルドが呟いた言葉にシアオが首を傾げる。
シルドが見ているのはスウィートで、さっきからチラチラと後ろを気にしてる。そしてようやくシルドに目線に気付くと首を傾げた。
そんな彼女にシルドは溜息をつく。
「ああやって誰かをおいていくことができないんだよ、スウィートは。だいたいは自分が残りたがる。
レヴィの時もそうだ。前のときにせよ、人間のときにこっちに来るときにせよ、最後の最後まで渋りやがった。挙句はレヴィも一緒に来いと言いやがる」
「…………。」
スウィートは顔を顰める。シルドは知らん顔で淡々と続けているが。
確かに前に未来にいったときも残すことを躊躇った。それに現時点で人間のときだった時にこちらへ来る時の状況を考えても、やはり同じことしか考えていない。
記憶を失っていても思考は全く変わっていないらしい。
「心配なのは分かる。けど、信じることも大切だろ。フォルテも言っていただろう。信じろ、と。分かったら後ろを振り返るな。今はとりあえず前だけ見ろ」
「…………うん」
「はぁ……無理そうだな」
「そ、そんなことないもん!」
否定するがシルドは信じそうにない。呆れた顔でスウィートを見ている。
スウィートはそんなシルドに頬を膨らませるが、シルドには効いていないらしい。
するとシアオがぷっと吹き出した。スウィートもシルドも自然とシアオを見る。
シアオはまだ可笑しそうに笑っている。
「シアオ?」
「あ、ごめんね。いや、何かスウィートのそういう姿とか見ないから……」
「そうか? 子供っぽいだろ?」
「今の姿みてたらそう思う。でもホラ、スウィートって僕らといる時にあんま弄られないからさ。弄られるって何故か標的が僕だし……」
「それはお前がそういうオーラを醸しだしてるからだ」
「どんなオーラ!?」
やはり弄られている。当分2匹はシルドに勝てそうになかった。
そしてシアオもスウィートともども頬を膨らませていたのだが、唐突に声をあげた。
「ねぇ、シルド。そういえば何でロードと一緒にいたの?」
「あぁ、ロードがつれてきてくれたんだ」
「ロードが?」
「ロードは俺を探していた。そして会うなり“幻の大地”にいけそうだからきてくれと言ったんだ。俺も必要な時の歯車≠ヘ全て集め終わっていて合流したいと思っていたから丁度よかった」
「え、時の歯車¥Wめ終わってたの!?」
「あぁ」
「早すぎる……」
するとシアオはブツブツと「何か負けた感じがする……」などと呟きだした。意味不明である。
スウィートは苦笑しながら、シルドは変なものを見るような目でシアオを見ていた。
そんなこんなで進んでいると、ザザァ、と今まで聞こえてこなかった水の音が3匹の耳に届いた。
その音に1番に反応したのはシアオだった。
「海? これ、海の音だ」
「……確かにな」
もう少し進むと少し広い場所に出た。そこには陽が差し込んでいる。
するとシアオが一番に駆けていって、そして2匹を呼んだ。2匹も少し早足で近づく。
「凄いよ、スウィート、シルド! 洞窟が大きく裂けて海が見える!」
「本当だ。もう夕方なんだね……」
オレンジ色に染まっている海を見てスウィートが呟く。
シアオとシルドが見ている中、スウィートは不意に後ろを向いた。そして目を見開き、小さく声をあげる。
それは静かな空間の中ではよく聞こえ、2匹の耳に届いたようだった。
「どうした、スウィート」
「あ、あれ!」
スウィートが指した方向を見る。そしてスウィートのようにシアオもシルドも目を見開いた。
そこの壁には遺跡の欠片と全く同じ模様があった。
「遺跡の欠片と、同じ模様……。ディラ達が言ってたのはきっとこれのこと、だよね」
「シアオ、遺跡の欠片を出してみろ。何か起こるかもしれない」
「う、うん」
シアオは言われた通りに遺跡の欠片を取り出す。そして遺跡の欠片をおき、3匹はそれを覗き見るような形になる。
するといきなり遺跡の欠片の模様が光り始めた。と共に壁の模様も光り始めた。
「え、何これ!?」
「遺跡の欠片の模様に壁の模様が反応しているのか……?」
どんどん眩しくなっていき、3匹は目を隠して光を遮ろうとする。しかし光はどんどん強まるばかりだ。
そして次の瞬間、光がいきなり大きくなり、場を包んだ。
「うわっ!?」
「ぐっ!」
「きゃっ!?」
一瞬、ほんの一瞬だけ大きな光が場を包んだ後、3匹は恐る恐るといった風に目を開く。
すると壁の模様がまた光、海の方向へと光の閃光をだした。しかしそれもすぐに消える。
「い、今のは……」
「光が海のほうへとんでいったが……」
意味が分からず3匹が首を傾げていると、裂けている部分から見える海の向こうから少し大きめの影が見えた。それはどんどんスウィートたちに近づいていっている。
そしてそれがポケモンだと気付くとスウィートは近くにいたシルドの後ろに隠れた。
「え……っと……誰?」
そのポケモンが止まったところを見てシアオが話しかける。するとそのポケモンは柔らかく微笑んだ。
「僕はラプラス、ラウル・ティルス。スウィートさん、シアオさん、そしてシルドさんですね?」
名前を言われ3匹は目を丸くする。
シアオは別に純粋に驚いているだけだが、シルドは少し警戒している。スウィートはずっとシルドの後ろから様子を伺っていた。
そして3匹は次のラウルの言葉でもう一度 目を見開くことになる。
「貴方達のことはロードさんから聞いています。貴方達の目的が“幻の大地”ということも。僕はその“幻の大地”へと誘う者です」
「誘う、者……?」
「……つまり、お前は案内役というわけか?」
「そういうことになりますね」
するとシルドは少しだけ警戒をといた。そしてスウィートを引っぺがした。すぐにまた隠れようとして失敗したが。
そんな様子を見てラウルは少し苦笑してから海をチラリと見た。
「では行きましょう。僕の背中に乗ってください。大丈夫です、僕は特別なので皆さん乗れますよ」
3匹はアイコンタクトをし、そして頷いてからラウルの背中に乗った。