輝く星に ―時の誘い―












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第7章 それぞれの想い
89話 磯の洞窟へ
「ふぁ……」

 目を覚まし、スウィートはのそのそと起き上がる。
 見渡すとまだ3匹とも寝ていた。窓を見るとまだうす暗く、太陽が昇っていなかった。
 ゆっくりとした動作で窓に寄る。すると丁度いいタイミングで太陽が昇ってきた。

「……いつ見ても、やっぱり綺麗だ」

 海をキラキラと照らす太陽。綺麗に、凛々しく、美しく、太陽は昇っている。
 未来で見れなかった光景。この時間でしか見れない光景。そして、このままいったら見えなくなってしまう光景。

(絶対に、そんなの駄目だ。皆の未来は明るくなくちゃ駄目なんだ。あんな未来にしちゃ駄目なんだ。変えなくちゃ、いけないんだ)

 これでもかという位に輝く太陽を見ながら、スウィートは何度も胸の中で呟く。

 いつこの光景を見るのが最後になるか分からない。いつギルドの皆と、3匹と別れる時がくるか分からない。
 覚悟はしている。ぶれないように、もう何度も自分に言い聞かせた。
 だから、きっと、大丈夫だ。自分は立ち止まったりしない。ぶれたりしない。

(何より、私が選んだ道だ。自分が曲がるわけにいかない。それに、皆のこれからの幸せを願うと、強くそう思える)

 すぅ、とスウィートが息を吸う。
 いつもどおりの朝が、当たり前になっている朝が、始まった。








「エー……というわけで、親方様は帰ってきていない。だが予定通りに“磯の洞窟”へ出発しようと思う」

「ヘイ! 親方はどこいったんだよ!?」

「さ、さぁ……? それは私にもわからない……」

「親方がいなくて大丈夫なのかよ!?」

 朝礼で親方、ロードがいないという報告がディラからされた。
 それに不安がっている弟子達は口々に声をあげる。ディラは懸命に返していた。

「大丈夫! 大丈夫だよ! 親方様は自分がいなくても大丈夫だと判断されたからこそ、まだ帰ってきていないんだと思う」

 そうディラが一生懸命に言うが、弟子達の心配そうな顔は変わらない。

「それに……親方様のかわりに……この私がいるではないか!」

 ディラがそう言ってドヤ顔で自信満々に自分を指さしたとき、

「「「「「「「「…………。」」」」」」」」

 重い沈黙がはしった。

「えっ、何この空気。何で皆して黙ってるの? はっ、まさか皆、私では力不足と思ってるんじゃ……! そ、そんなに皆にとって私は頼りないか!?」

「い、いやそうじゃないんでゲス。そうじゃなくて……」

 何か思いきり勘違いしているディラの誤解を急いでとく。しかしディラの心配そうな顔はかわらない。
 因みに何か言ってきそうなフォルテはあらかじめアルに黙らされていた。

「親方様がいないとやはり不安っていうか……そんな気持ちがどこかあるんですよ……」

「ヘイ! 親方っていまいちつかみ所がないけどよ、いざってときは凄くて頼りになるじゃんか! ヘイヘイ!」

 確かに、とスウィートは心の中で頷く。

 朝礼は絶対に居眠り、話を聞いておらず寝ているときもあったり、いつもセカイイチのことを考えていたり、子供っぽい考えをしていたりと色々つかみ所のないロード。
 だがやはりギルドの長なだけあって、いざというときは皆をまとめてくれる、とても頼りになるリーダーだ。
 そんなリーダーがいなくて不安になるのは当たり前だろう。

「でも、その親方様がいない以上、わたくしたちでやるしかないですわ」

「そうだよ! 僕たちでだけでもやれる! 絶対に!」

 シアオが大きな声をあげ、弟子達によびかける。
 そんなシアオを見て、弟子達がニッと笑顔をみせる。

「そうだな! 親方に頼ってばかりではいけないな!」

「そうです! 頑張りましょう!」

 おぉっ、と一同がいつものような大きな声ではないが、一斉にあげる。
 そしてそのままディラに視線を寄越した。へっ、とディラは間抜けな声をあげたが、誰も気にしなかった。

「ディラさん。親方様がいないいじょう、この中でリーダーシップがとれるのはディラさんだけです」

「えっ?」

「自分で言ってたじゃないですか、「自分がいるから大丈夫だ」って。頑張ってくださいね!」

「ヘイ! 頑張れよ!」

「頼りにしてるぜ!」

 次々とポカンとしているディラに声がかけられる。
 暫くしてはっとしたディラは後ろをむく。そして体を震わせた。

「うぅっ……みんな、こんなときだけ頼りにして……うぅっ……」

「おい、ディラ! 早く号令頼むぜ!」

「わかってるよ!」

 声をかけられ急いでディラは振り向く。何故だが涙目になっているが、やはり誰も気にしない。
 ディラもそのまま声をあげた。

「それでは皆、私たち一同は“磯の洞窟”へと向かう。みんな、いくよーーっ!!」

「「「「「「「「おぉぉぉぉおおぉぉぉ!!」」」」」」」」

 ギルドで、とても大きな大きな声が響いた。

 そしてその後、『アズリー』が弟子達に声をかけた。

「……無理をなさらないよう」

「頑張ってください! 私たちはお留守番だけど……ここで応援してます!」

 それに、全員が頷いた。








――――磯の洞窟 前――――

「皆、聞いてくれ。ここが入口だ。このダンジョンの1番 奥にシアオが持っていた遺跡の欠片と同じ模様があるのだが……そこにはある強敵が潜んでいる」

「きょ、強敵でゲスか……」

「おっかないよね……」

「ビビってんじゃないわよ、ヘタレ。そんなのにビビってちゃ奥にいかずにやられるわよ?」

「わ、分かってるよ!」

 ディラの話にでてきた強敵、という単語に反応したシアオにきつい一言をフォルテがかける。
 するとイトロが挙手をした。

「なぁ、昨日も親方とそんな話をしていたがよ……ディラは随分とここに詳しそうだよな? 前に来たことでもあるのか?」

「……あぁ。親方様とともに一緒にここを探検したことがある。そしてこの奥であの模様を見た。しかし……そのときにアイツらが……あの手ごわい奴らがっ……!」

 そんなディラの様子に一気に全員が緊迫した表情をうかべる。ここまで言われるとかなり想像の強さが大きくなってくる。
 そしてアルが最もな質問をした。

「あの……ディラさんは覚えてないんですか? 特徴とか。それにアイツらってことは複数ですか?」

「それが……恥ずかしながら、覚えていないのだ。いきなり襲い掛かってきたもんだからあっという間に私は倒されてしまって……気付くと親方様に介抱されていたのだ。
 あぁ、でも……複数だったのは確かだ。いきなり一斉に攻撃されて……あっ! あとずぶぬれーって感じだった!」

「つまり相手は水タイプか……」

 アルが手を口元にあてて考え込む。他の弟子達も色々と口々に話し合う。
 スウィートがシアオを見ると、シアオは「うーん」と唸りながら強敵について想像を膨らませていた。フォルテを見ると顔を青ざめさせていた。タイプ的に嫌なのだろう。

 そしてスウィートも少し考えた後、意見をだした。

「あの……グループを組んだらどうでしょう? 私たちはディラさんといくとして……先輩方はそれぞれタイプがかぶらないようにグループを作って、そしたら複数の相手にも対策できると思うんですけど……」

「名案ですわ!」

「だったら今から作ったほうがいいな!」

 スウィートの意見を聞き、『シリウス』以外のポケモンがグループを作り始める。
 そんな中、ディラが『シリウス』に話しかけた。

「いいか、くれぐれも私の足を引っ張るんじゃないぞ!」

「あーら、それはこっちの台詞よ。せいぜい私の足をひっぱらないよう気をつけることね」

「ほーう。あまり私に頼りすぎんようにな。自分のことは自分でどうにかするんだぞ?」

「アンタこそギルドに篭りっぱなしでなまってんじゃないの? 後々 私に縋ることのないようにしなさいよ?」

 何故かディラとフォルテの間でバチバチと火花が散っている。
 シアオはそんな2匹から遠のいた場所にいき、アルは溜息をつく。やはりスウィートは苦笑いだった。

 そして大体グループを作り終えた頃を見計らい、ディラが号令をかけた。

「ではみんな! “磯の洞窟”を攻略するよ! がんばっていこーーーっ!!」

「「「「「「「「おぉぉぉぉぉおおぉぉぉ!!」」」」」」」」

 そしてギルドの弟子達はそれぞれ“磯の洞窟”に入っていった。
 その後に、誰かがついてきていることもしらず……。







――――磯の洞窟――――

「何で水タイプばっかなのよぉぉぉおぉ!!」

「いや、知らないし! ていうか何で僕ごと火炎放射ぁぁぁあぁ!? はどうだん!」

 敵を目の前にして火炎放射を放ったのだが、そこにはシアオもおり、シアオによって火炎放射はかき消された。
 そんな2匹を見て唖然とするディラを放って、気にせずに戦うのがスウィートとアル。

「ほうでん!」

「シャドーボール!」

 気にすることなく相手を倒していく。

 フォルテが言ったとおり、ここは水タイプばかりなのでアルが有利だ。しかしトリトドンがいるので完全に有利とはいえない。そこはスウィートが補っている。
 他2匹は好き勝手やっているので何ともいえないが。

 そして全部 倒し終わるとアルは勢いよくディラに肩を掴まれた。

「お前らはいつもこんな感じでダンジョン攻略しているのか!? よくここまでこれたな!? よく生きてこれたな!?」

「まぁ……いつも通りですし。なぁ、スウィート」

「え、うん」

(コイツら本当に大丈夫か……)

 思いきり心配そうな目で見られた『シリウス』だったのだった。









「だいぶ奥まできたみたいだね……」

 『シリウス』とディラは“磯の洞窟”を進み、やっとの思いで奥まで来ていた。
 しかし見ると遺跡の欠片と一致しそうな模様はない。おそらくまだ先なのだろう。

「ディラ、模様の場所につくにはまだなの?」

「おそらくもう少しだ。もうちょっといけばある。だが……そこに強敵がいる」

「……じゃあ、ここからは気を引き締めていかないといけませんね」

 強敵、と聞くと全員の顔から笑顔が消える。とても真剣な顔つきになるのだ。
 だが気を緩めてはやられてしまう。ここは絶対に油断はいけないだろう。おそらく油断すればすぐにやられる。

 すぅ、と息を吸ってシアオは顔に笑顔を作った。

「とりあえず! あともう少しなんだ! 頑張っていこう!」

 そんなシアオを見て、全員に笑顔が戻る。そしてそれに頷こうとした瞬間――

「いっ!?」

「シアオ!?」

 シアオの体がいきなり吹き飛ばされた。
 スウィートは急いでシアオの元へ駆け寄る。ディラとフォルテとアルは原因と思われる方向を見る。
 そして、目を見開いた。

「おっと、ごめんよ」

「なっ……! またお前ららか……!!」

 いつの間にか顔なじみになってしまっている、『ドクローズ』。相も変わらずあくどい笑みはかわらない。
 フォルテは今にも火を噴きそうな勢いで睨みつけている。
 スウィートもシアオも『ドクローズ』にはいい思い出がないので睨み付けている。

「ケッ。久しぶりだな!」

「あ、貴方様たちは……」

 ディラはご丁寧な言葉で『ドクローズ』を呼ぶ。今思うとディラは『ドクローズ』がどんな探検隊か知らないのだ。
 リーダーのウェズンは気にせず、あくどい笑みをさらに濃くさせた。

「これか。遺跡の欠片というのは」

「あっ!?」
「それは!!」

 驚く『シリウス』やディラに構わず、ウェズンはそれを取る。
 みるみると『シリウス』の表情が怒りにかわっていく。

「あ、アンタ達ねぇ……! よくも懲りずに……」

「クククッ。これは俺は貰っとくぜ。大事なモンはしっかり持っとかなくちゃ駄目だろうが。クククッ」

「しっかし前と全く同じ手に引っかかるとはなァ……お前ほんと、」

「間抜けよね」

「だな。って俺の言葉をとるな!!」
「なんで僕は味方に貶されてんの!?」

 フォルテはフォルテだった。

 アルも完全にバチバチと電気を体内から少し放出し、すぐにでも攻撃しそうな態勢だ。勿論スウィートも。
 フォルテとシアオは暫く言いあっていたが、すべて『ドクローズ』のせいとして納め、怒りをそちらに向けた。理不尽なのは仕方ないことである。

 しかし、状況がわかっていないディラは声を荒げた。

「ま、待ってくださいよ! よく分からないんですけど! 貴方様たちは何故ここに? だいたい遠征のときに『ドクローズ』の皆さんが急にいなくなったんで、私ずっと心配してたんだよ?」

「心配、ねぇ……クククッ」

「んでそんな悠長なこと言ってられる訳!? よく状況を見なさいよ! コイツらはただの盗人よ!」

「いや、でも……」

「クククッ、クハハハッ!」

 するとウェズンは声を大きくして笑い始めた。ディラはやはり戸惑うばかり。

「つくづくめでたい奴らだ。ここまでくると神経を疑うな」

「あれれ? なんか言葉遣いまで悪くなっているような……?」

「悪くなってんじゃなくて元から悪いのよ! アンタほんっとどういう神経してるわけ!?」

 フォルテまで敵の言い分に加算する始末。だがディラはまだ混乱中のようで。
 シアオも声を張り上げながら『ドクローズ』を睨む。

「ディラ! コイツらはギルドをずっと騙してたんだ! 悪い探検隊なんだよ!」

「え、えぇぇぇぇえぇぇぇ!? ほ、本当に!?」

「ケッ、今頃かよ」

「今まで騙されてたお前が間抜けなだけだ。へへっ」

 馬鹿にするような笑みを浮かべながらディラを見る子分2匹。ディラはポカン、としている。
 ウェズンはそんなディラを放っておいて『シリウス』を見た。

「とりあえず遺跡の欠片は手に入れた。あとは“幻の大地”にいくだけ……あばよ! 間抜けども!!」

「うわっ!」
「きゃあ!」
「何、何!?」
「なんだ、これ!?」

 ウェズンが去り際に投げていった物から何かあふれ出る。白い煙が辺りを包んだ。おそらくは煙球だろう。
 煙が流れて薄まっていくにつれ、相手が見えるようになっていった。しかしもう『ドクローズ』の姿はない。あの間に逃げたのだろう。

「チッ、とりあえず遺跡の欠片を取り戻さないと……」

「焼き殺さないと……」

「いや、そこまでしなくていい」

 怒っていてつっこまなかったアルだったが今度ばかりはつっこんだ。
 するとスウィートがディラの異変に気付く。何故だが体を震わせているのだ。

「あれ? ディラさん……?」

「あいつら……」

「え?」

「アイツら、私を騙していたとはっ……」

「え、え?」

「絶対に許さーん! とっちめてやるーーーっ!!」

「え、ちょ、ディラさん!?」

「え、ディラ!? ま、待って……って行っちゃった……」

 何か叫ぶだけ叫んでディラは飛んでいった。とても凄い速さで。止めることもままならなかった。
 『シリウス』だけがその場に残される。
 アルは顔をひきつらせてディラが行った方向を見つめた。

「大丈夫なのか、あんなに怒ってた状態で……。この先には強敵が潜んでいるとかいってたのに……」

「ま、でもとりあえず『ドクローズ』に追いつかないと。ディラも追ってるはずだし。合流できるでしょ」

「まぁ、そうね。遺跡の欠片も取り戻さなきゃならないしね」

「そうだね。私たちも先をいそごっか」

 そうして『シリウス』も『ドクローズ』やディラが行った道を行くのだった。

■筆者メッセージ
今すごい執筆意欲が湧いてきてやばいです。何でだろう。
アクア ( 2013/05/03(金) 21:44 )