87話 模様の在り処
「エート、『アズリー』は引き続き2匹の看病をしておいてくれ。……『シリウス』は動いて大丈夫そうだな。うん」
「どーゆう意味よ」
「そのまんまの意味だと思うが」
ディラの言葉にフォルテがツッコんだがアルが即座に打ち消した。
ちなみにディラがああ言った理由は『シリウス』が朝から煩かったからである。ただし二名の話だが。
スウィートが3匹を見るとシアオとフォルテは不満そうにして文句を言い、アルは呆れ顔。スウィートもその光景に苦笑した。
ディラは気にせずに朝礼を進める。
「エー“幻の大地”については依然として分からないことばかりだが……でもワタシたちは諦めないよ!」
「「「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」」」」」
「今日も頑張って調べよう! みんな、いくよ!」
「「「「「「「おぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」」」」
さすがに煩かったのでスウィートは思わず耳を塞いだ。そして弟子達は何事もなかったかのように解散する。煩くはなかったのか、と疑いたくなった。
とりあえず、といったように『シリウス』は円を描くような態勢になって4匹で話し合う。
「今日はどうしようか」
「ヘクトル長老は昨日の今日で思い出してないだろうし……」
「まぁねー。つか時間ないってのに随分と呑気よね、私たち」
「言うな。情報がもともと少ないんだ。頑張ってるほうだろ」
こんな会話こそ呑気といわれる原因と気付いていない4匹。
するとギルド内にハダルの元気な声が響く。
「ポケモン発見! ポケモン発見! 誰の足型? 誰の足型? 足型は――ヘクトル長老! ヘクトル長老!」
「え、ヘクトル長老!? もしかして昨日の今日で思い出した……?」
「あの見張り穴ってポケモンの種族いう穴じゃなかったっけ?」
「凄いわね、ハダル」
「頼むからヘクトル長老が来たことにもう少し反応してくれ」
アルの頼みは虚しく消えたのだった。
当然のようにヘクトル長老がくるとわかると弟子達が集まってくる。無論それは『シリウス』も同じで、1番前に立たされた。
ヘクトル長老は疲れたような表情で『シリウス』に話しかけた。
「はぁはぁ……やっと会えたわい。はぁはぁ……このギルドまでのぼってくるのは年寄りにはこたえるのう」
「どうしたの? ヘクトル長老。……あ! もしかして……何か思い出したの?」
息をきらしている長老のことを心配しないのはなんともシアオらしかった。勿論アルにしばかれた。
ヘクトルは息を整えてから、シアオの疑問に返事をした。
「そうじゃ。……といってもほんのちょこっとのことで申し訳ないんじゃが……。昨日ずっと温泉を見詰めていた1つ思い出したことがあったんじゃよ。でも……ホントにちょっとしたことじゃからのう……。いっていいものかどうか……」
「大丈夫♪どんなささいな情報でも役にたつよ♪だから言っていって♪」
渋るヘクトルにロードが明るく言葉をかけて言うようにいった。
確かにロードの言うとおり、その情報がほんのささいなことでも役に立つのだ。何せ今は全くといっていいほど情報がないのだから。
『シリウス』もしっかり聞く姿勢をする。ヘクトルも渋っていたが、ロードの言葉に頷いた。
「昨日“幻の大地”にいくには……証が必要だといったじゃろう?その証についてちょっと思い出したんじゃよ。証には……ある模様がかかれていたんじゃ」
「ある……模様?」
「ヘイ! それってどんな模様だよ?」
弟子達がそう聞くと、ヘクトルは「うーん」と唸る。その様子をどうするわけもなく全員はじっと見ていた。
すると暫くして思い描くように宙を見ながらヘクトルがポツリポツリと呟いた。
「なんといっていいのやら…とにかく……不思議な形をした、あまりみたことのないような模様なんじゃよ……」
一生懸命に伝えようとしているヘクトルだが、他全員は全く分かっていない様子。
ヘクトルの言葉を何回か復唱しながらその模様を頭の中で必死に描こうといているが、全く浮かばないようで全員がうめいている。
無論、『シリウス』もそれは同じである。
「不思議な形をした……」
「あまりみたことのない模様……」
うーん、と唸るがやはり誰も分からずずっと唸ったままだ。
中には頭を抱える者、分からずにキレだす者、大声をあげる者とさまざまだ。
スウィートは頭を抱え、一生懸命に考える。そして暫くしてあ、と小さく声をあげた。
(不思議な……不思議な模様って……)
〈これって……?〉
〈ぼくは遺跡の欠片ってよんでるんだ。ほら、不思議な模様があるでしょ?〉
〈確かに……。こんな模様は見たことない……〉
(…………! そうだ。あれも、不思議な模様をしてる……!)
スウィートは思わず勢いよくシアオの方を向いた。勿論いきなりのことだったので、周りにいたものは目を丸くして驚いている。
スウィートは構わずにシアオに指示した。
「シアオ! あれだよ、遺跡の欠片!」
「え……? あ……確かに!」
シアオはパァッと顔を明るくさせると急いで遺跡の欠片を取り出す。慌てたので時間がかかったが。
遺跡の欠片をだすと、シアオはヘクトルの前へそれをおいた。
「ねぇ、これのことじゃないかな?」
「おぉ、まさにこのような模様! って何でお主 持っておるんじゃ!?」
「「「「「「「え、えぇぇぇぇぇえぇぇ!?」」」」」」」
(((ノリツッコミ……)))
心の中で全く同じことを考えているシアオ以外の『シリウス』3匹を無視して、シアオとヘクトルたちは話を進めていく。
「何でって……拾っただけなんだけど」
「凄いですわ! これをシアオが持っているって事は……もしかしたらシアオが“幻の大地”にいくための資格を手に入れたってことなのかもしれませんわ!」
「そうでしょうか」
テンション高めで言うルチルの意見に、静かに意を唱えるのは凛音。
凛音は少し考えたような素振りを見せてから遺跡の欠片とシアオを見て、ヘクトルの方を向いた。
「“幻の大地”にいくには証が必要ですけど……それを持つ者が選ばれた資格をもつとは限らないのでしょう?」
「あぁ、そうじゃ。その資格は“幻の大地”の扉を開く鍵なのかもしれん。そもそも同じ模様だからといって、この欠片が“幻の大地”に通じるとも限らんからの」
「「マジかぁ……」」
シアオとフォルテが声を揃えて項垂れる。スウィートもアルも難しい顔をする。これではまだ時間がかかるだろう、と。
すると遺跡の欠片をジッと見ていたロードが声をあげた。
「それでも! この模様が“幻の大地”に関係しているのは間違いないよね? それだけで十分だよ♪」
「そうじゃのう……」
ロードの言葉に確かに、と『シリウス』が頷く。だがまだシアオの顔は晴れていないが。
すると何かに気付いたようにヘクトルが怪訝そうな顔をした。
「…………ってお前さん達。“幻の大地”は単なる言い伝えじゃぞ? まさか“幻の大地”へ本気でいこうと思っとるのか?」
「やだなぁ、ヘクトル長老! 僕らがそんなこと考えると思ってるの?」
「「「「「「「「!?」」」」」」」
ヘクトルの問いかけに明るく答えたシアオに、訝しげな目線が集まる。そして笑顔のままシアオは言い放った。
「本気でいこうと思ってるに決まってるじゃんか!」
「アンタはまともに会話もできないわけェェェェエェェ!?」
「ぎゃあぁぁぁあぁ!!」
明るく言い放ったシアオに熱い火炎放射が放たれた。そんなシアオを見て全員が「あー……」みたいな顔をする。アルは完全に呆れ顔だ。
シアオとしては「本気でいこうと思っている」ではなく「言い伝え」と考えていないと伝えたかったらしい。
勿論、シアオが悪く、フォルテが正しい。火炎放射は必要ないが。
「な、なんと! そりゃビックリじゃ!」
シアオのことは無視なのか、驚きを露わにするヘクトル。焦げているシアオは放置らしい。
ロードは勢いよくディラの方を向いた。
「ディラ! この模様は……見たことがあるよね?」
「「「「「「え!?」」」」」」
「…………はい。……ここから北西にいった入江の、“磯の洞窟”というところに……」
暗い表情をして言葉をつむいでいくディラに全員が疑問を覚える。
こういうときディラははきはきと伝えるはずだが、どこか言いたくなさそうで、あまり大きな声ではない。
そして少し黙ったあと、ディラはロードの方に向いた。
「しかし親方様! あの場所は……!」
「うん。分かってる。あそこはとても手ごわい奴がいるよね」
「「「「「「「!」」」」」」」
「とても……」
「手ごわい奴でゲスか……?」
親方であるロードがそう言うのだからとても強い輩だろう。弟子達が顔を強張らせる。
ロードは全員に言い聞かせるように、真剣な声の音で言う。
「みんな、ちょっと聞いて。以前“磯の洞窟”という場所の奥深くでこれと同じ模様を見たんだ。だからそこに遺跡の欠片を持っていけば何かしら分かるかもしれない。
けど……そこにはとても手ごわいポケモンがいるんだ」
「ヘイヘイ! そんなんでビビってらんねぇよ!」
イトロが強気な発言をする。するとそれに続くように、次々と弟子達が声をあげはじめた。
「ワシたちは探検隊なんだぜ!?」
「勇気をもっていきましょう!」
「そうでゲス! あっしたちなら大丈夫でゲス!」
「まぁこのままいても世界が滅ぶんですし……」
「凛音、そういうこと今いっちゃ駄目だよ」
わいわいと弟子達が騒ぎ始める。全て「いこう」という意見のものだ。
そんな弟子達を見てスウィートは胸が温かくなるのを感じた。しかし胸が痛くなるのを感じた。
シアオたちだけではない。このとても温かい、優しい先輩や後輩とも別れを告げなければならないのだ。やはり、分かっていても辛い、そう感じてしまう。
ロードは暫くしてからいつもの笑顔で、否、いつもより優しげな笑顔で弟子達に語りかけた。
「みんな、ありがとう。
でもあそこは本当に手ごわいから……今日のところは準備を整えて、明日“磯の洞窟”へいくよ!」
「「「「「「「おぉぉぉぉぉおぉぉ!!」」」」」」」
弟子達の顔には大きな決意が見えた。ロードはそれを見てニッコリと笑う。
するとそれを見ていたヘクトルも優しげな笑顔で弟子達を見た。
「ほっほっほっ。“幻の大地”など昔話だとばかり思っていたが……歳をとると頭がかたくなんていかんのう。
夢をおったその先にはロマンがある。ワシにも夢を見させてくれ。頑張るんじゃぞ! ほっほっほっ」
そう言ってヘクトルは梯子へと向かっていく。いつ復活したのか、シアオはヘクトルにむかって大きな声で返事をした。
「うん! 頑張るよ!」
「あ、ありがとうございました! ヘクトル長老!」
スウィートが頭を深く下げる。するとアルは頭を下げながら手を使って他2匹の頭を強引に下げさせた。
ロードもヘクトルに礼を言う。ヘクトルは少しだけ『シリウス』の方を向いた。
「何の何の。こんな年寄りが役に立てて光栄じゃ。お主らの活躍がワシの耳まで届くのを楽しみにしておるぞ」
そう言うとヘクトルはゆっくりと梯子を上っていった。
ロードはそれを見るとクルリと振り返り、手を大きくあげて弟子達に呼びかける。
「じゃあ皆! それでは解散っ!」
「「「「「「「「おぉぉぉぉぉおぉぉぉ!」」」」」」」
「じゃあ準備するゲス!」
「きゃー! もえてきましたわー!」
「急げ急げー!」
弟子達は口々にいいながら梯子をあがっていったり地面を潜っていったり。とりあえず賑やかに出て行った。
『シリウス』は付いていけずその場に残される。そしてロードとディラと『アズリー』も残った。
「ディラ。ディラは明日ギルドで『アズリー』と一緒に待機ね♪」
「お、親方様!?」
「え、私たちも?」
「メフィ、黙りなさい」
ディラは羽をばたつかせ、驚きで目をこれでもかというくらいに開いている。メフィは凛音に黙らされた。そして連れて行かれた。
『シリウス』は黙ってディラとロードのやり取りを聞く。
「お、親方様! お言葉ですが、私もいかせてください! 私ならもう大丈夫です!」
「ダメ。もうあんな危険な目にはあわせられない。ディラは待機」
「でも、だからこそ! だからこそいきたのです!」
ディラは必死にロードを説得する。
何が何だか分からず『シリウス』は首を傾げる。ただロードがディラのことを気遣っていることは分かった。
するとロードがふぅ、と息をついた。
「…………分かった。じゃあディラは『シリウス』と一緒に行動してね。スウィートたちに模様の場所を案内したほうがいいと思うんだ。
でも……十分気をつけてね」
「ありがとうございます! 頑張ります!」
ロードに緩しを貰うとディラは嬉しそうに顔を綻ばせた。
そしてロードはゆっくりと部屋の方に向かっていく。しかし途中で止まった。
「あと……僕はちょっと思うところがあって今から出かけてくる。留守は頼んだよ」
「かしこまりました」
そしてまたロードは歩いていき、自室に戻った。
それを見送るとディラは『シリウス』の前へと立った。フォルテは心底 嫌そうな顔をしているが無視だ。
「という訳でお前らは明日ワタシと一緒に行動してもらう! ほんっとにあそこは手ごわいからな! くれぐれも私の足を引っ張るんじゃないよ!」
「あぁ!? アンタこそあたしの足引っ張んじゃないわよ! 引っ張った際には焼き鳥にしてや――あだっ!」
「すみません、幻聴です。足引っ張らないように頑張るって重々コイツも承知してると思うんで」
「お、おう」
ディラは冷や汗を垂らしながら去っていった。
アルは未だフォルテを押さえつけている。スウィートが声をかえようとすると、先にアルが言葉を発した。
「あっちは先輩なんだから言い方に気をつけろ」
「はぁ!? んなの関係ないわよ! あんなエラッソーな言い方されたら誰だって――」
「返事」
「うっ……。わ、分かったわよ……」
アルの睨みに負けたのか、フォルテは渋々といった感じで納得した。流石である。
するといつもどおりにシアオは『シリウス』に声をかけた。
「じゃあ僕らも準備しに行こう! トレジャータウンに!」