83話 交差する想い
「しんくうぎり!」
「スピードスター!」
両者の技が当たって粉砕される。
戦いが始まってからスウィートもフィーネもあまり相手には近づかず、遠距離の戦いをしていた。
「サイコショック!」
「っ、まもる!」
スウィートは技で粉砕できないと分かったらまもるで防ぐ。
戦いを始めて、スウィートはフィーネの得意技がサイコショックだということに気付いており、サイコショックはまもるで防いでいた。
サイコショックは自身の「とくこう」と相手の「ぼうぎょ」で威力が決まる技。エーフィという種族はとくこうが高い。そしてスウィートのぼうぎょというと、あまり高くはなかった。
だからこそ、当たると危険なのだ。
だいたいの技はしんくうぎりやシャドーボールで粉砕している。だがサイコショックだけはまもるで防いでいる。
そんな形でスウィートとフィーネは技の攻防戦を続けていた。
「シャドーボール!」
スウィートは1つは真正面、フィーネのほうに。もう1つは
真空瞬移でフィーネの背後へ移動させた。
しかし、フィーネはそれさえも読んでいたように攻撃を繰り出した。
「ハイパーボイス!!」
「え、うぅっ!!」
その音のせいでシャドーボールは粉砕され、音はスウィートの耳まで届く。
キィィィンと耳に響く、頭が痛くなるような音色にスウィートは顔を顰める。思わず耳を塞ごうと、耳が軽く折り曲げられる。
それさえも油断に繋がるのだ。
「スピードスター!」
「っ、しんくうぎ――うぐっ!!」
咄嗟にしんくうぎりで掃滅させようとしたが、反応が遅かったせいで直撃する。
スピードスターにあまり威力はないが、スウィートにとっては痛手だ。フィーネにはまだ一撃も攻撃を食らわせていないのだから。
だが先ほどのハイパーボイスがかなり効いたのか、まだ耳が悲鳴をあげているような感覚に見舞われていた。
(気持ち悪っ……)
思わず吐きそうになるが、それをグッとこらえる。
そんなスウィートに知ったことではないといったように、フィーネは休むことなく攻撃を仕掛けてきた。
「サイコキネシス!」
「真空瞬移! しんくうぎり!」
休んだほうが負けの技の攻防戦。避けた後もすぐに攻撃を仕掛ける。が、フィーネも予測していたかのように技を避けた。
休まずにスウィートはしんくうぎりでフィーネを狙う。するとフィーネが不意に目を細めた。
「エコーボイス!」
「っ、うぅっ……! また音……!?」
先ほどより酷くないが、耳鳴りのような音が響く。音は小さいが、その音はとても気持ち悪くなるものだった。それにだんだん音も大きくなっていく。
耳を思わず伏せそうになるが、スウィートは顔を歪めながらも攻撃を続ける。
「し、んくうぎり!」
技をやめフィーネは軽い仕草で技を避ける。
そして未だ気持ち悪さに顔を歪めているスウィートを見て、冷笑を浮かべた。
「やっぱり音の技は苦手みたいね。初めて喰らったかしら?」
まさにフィーネの言うとおりで、スウィートは何もいえなかった。
こういった音で攻撃する技は大嫌いだった。それに音の技を喰らうことは探検隊になってからはほとんどなかった。ハイパーボイスやエコーボイスは初めてだ。
それを知られてしまっては、フィーネはそれを使い続けてくるだろう。スウィートは顔を顰めるだけしかできない。
もう何を言っても仕方ないので黙る以外の方法はなかった。
「……図星、みたいね。そんな有益な情報を知られてしまったいいのかしら?」
「もう何を言っても無駄ですから。シャドーボール!」
撃ったシャドーボールは簡単にかわされる。そのまましんくうぎりで畳み掛けるが、それも全てかわされたり打ち消されたりしてしまう。
フィーネもそれで避けているだけではなく、勿論 反撃をしてきた。
「エコーボイス!」
「いっ……!」
思わず耳を塞ぐ。先ほどより威力を増し、耳鳴りのような音が酷くなってスウィートは目を瞑ってしまう。
それでも構わず、フィーネは続ける。するとだんだん音が大きくなっているのにスウィートはかろうじて気付いた。
(もしかして……少しずつ威力が増す技……!?)
だとしたらまずい、スウィートはそう思った。
ただでさえ苦手な技、今でも十分きつい技なのに、これ以上 音の威力があがるとキツいものがあるのだ。
「ぐっ……! シャドーボール!!」
するとフィーネはまたしても止め、技を避ける。スウィートは顔を自然にゆがめた。
先ほどからフィーネに一度もダメージを与えられていないのに、自分は結構くらってしまっている。それは非常によくない状況だった。
「…………。」
《ご主人!》
不意に、頭に声が響いた。この呼び方は一匹しかいない。声の主のリアロは少々どころかとても怒っているように聞こえた。
リアロが続ける言葉はだいたいスウィートにも理解できた。
《こうなったら私ども誰かの力を――》
(駄目だよ)
え、と驚いたような声が響いた。それは1つではなく、複数の。全員ではなかったが。
スウィートはしっかりとフィーネを見ながら返事をする。
(いいから、皆は見てて)
《で、でも……私たちはご主人の役に……》
するとスウィートが薄く笑みを浮かべた。そして
(じゃあ、できる限り煩く私に聞こえるように騒いで!!)
そう答えて、フィーネの方へと駆け出した。そのときに、驚いたり戸惑ったりした声がスウィートの頭に響いたが、気になどしなかった。
そして数秒後、その瞬間、酷く煩くなった。
《死ね、クソがぁぁぁぁあぁ!!》
《何ですって!? 貴方が死になさい!》
《うるっせぇぇぇえぇ!!》
《レンスちゃん、私の隣で騒がないでくれるかしら?》
《ほれ、もっと騒げお主ら。気合が足りんぞ》
《《お前/貴方が1番騒いでねぇ/ないですわ!》》
思いきり頭に響く喧嘩を聞きながら、スウィートは目の前のフィーネに向かってシャドーボールを打ち込む。だがやはり避けられた。
そして案の定、フィーネは予想通りの技をやった。
「エコーボイス!!」
あたりにキィィィン、という不快な音が響く。
スウィートはそのまま態勢を崩さず、少し顔を歪めたものの、少しだけ笑顔を浮かべた。
「しんくうぎり!!」
「え、きゃあ!!」
予想外だったのか、フィーネにしんくうぎりが直撃した。
それを見てスウィートは一息つく。だが未だスウィートにとって頭の中がガンガンしていた。
《おいコラ、シクル! てめぇも参加しやがれ!》
《何であたしが馬鹿みたいな喧嘩に参加しなきゃいけない。却下》
《てめぇぇぇえぇぇ!》
《隙あり! 喰らいなさい、サイコキネシス!》
《危ねぇ!》
《なっ、チッ……あくのはどう》
《あら、喧嘩をうっているのかしらムーンちゃん?》
スウィートの言うとおり、ずっと7匹が騒いでいるからであった。
(流石……。煩すぎて、周りの音、聞こえない……)
いつもはシャットダウンしているのだが、今は全開で自分の頭で響くようにしている。それは効果抜群であった。
エコーボイスはこれが煩すぎて聞こえない。だがそれ以上に煩いので結構くるのだ。しかしそのお陰で攻撃ができたのだ。感謝すべきだろう。
するとフィーネが少々 不機嫌そうに顔を歪ませ、体の土煙をはらいながら起き上がった。
「エコーボイスが効かないなんて思わなかったわ。いや、耐えたといったほうがいいのかしら」
「…………。」
「抵抗せずに倒れてくれればいいものの、面倒だわ」
そういったフィーネの目は冷め切っている。完全にスイッチが入ったように。
スウィートは読唇術で何をいっているのか理解したが、少し顔を強張らせた。だがすぐに切り替える。
それを見てフィーネがポツリと呟いた。
「どうして皆、私の邪魔ばかりするの」
「…………?」
「ゼクトだって、邪魔の1つよ。私……私たちの命を追ってきているときから、両親を殺されてから、ずっとずっと邪魔。ずっと憎くて仕方ない。
ゼクトも、ディアルガも、貴女も、未来を変えようとしている者全て……私の敵。皆、私が守ろうとしているものを奪おうとする。そんなに……そんなに邪魔するのが楽しいかしら!?」
「っ……!」
怒りにまかせたスピードスターがスウィートを襲う。動揺して技がすぐに出せず数発当たったスウィートだったが、すぐにしんくうぎりで弾いた。
先ほどの言葉の意味はなんなのだろう?
自分達、未来を変えようとしている者どもが敵? なのに、未来をかえようとしていないゼクトまでも敵?
なら一体、フィーネは何を守ろうとしているのだろう?
そう考えたスウィートだったが、すぐに思考を投げ出して攻撃態勢に入った。
「シャドーボール!」
「芸がないわね。消えるシャドーボールはもうお見通しよ」
フィーネは真空瞬移で背後へとうつしたシャドーボールも、真ん前から来たシャドーボールも綺麗に避ける。それは計算済みで、スウィートはさらに技を畳み掛けた。
「アイアンテール!」
「サイコキネシス」
尻尾がフィーネにあたる前に、サイコキネシスで遠くまでスウィートの体は吹っ飛んだ。
とんでいく際に、遠くの方でフィーネが技をもう一発やろうとしているのが見える。だがその技は不発となった。
「スピードス――うぐ!!」
真横からきたシャドーボールに反応できず、フィーネの体に当たる。
スウィートは先ほどのシャドーボールのときにもう1つシャドーボールを作っていたのだ。そしてそれをもっと遠くにうつし、時間差であたる様にしただけ。
それに全く気付かなかったフィーネは避けられなかったという訳だ。
「しんくうぎり!!」
「っ――いっ……!」
間髪いれずにスウィートは攻撃を繰り出す。咄嗟に反応できなかったフィーネの体には難なく命中した。
だがそこで黙っているフィーネではなく、反撃してくる。
「サイコキネシス」
「っ……しんくうぎり!」
近くにあった数個かの岩が操られてスウィートに向かってくる。すぐさま避ける態勢をとり、しんくうぎりでスウィートは掃滅させた。
しかしそれに気をとられ、フィーネが岩の後ろに隠れていることに気付いていなかった。
「アイアンテール!」
「しまっ……、ぐっ!」
もろに攻撃をうけてスウィートの体が吹っ飛ぶ。だがそれで黙っているスウィートではない。
「シャドー、ボール!」
体がまた宙にういて飛ばされている状態でシャドーボールを放つと、やると思っていなかったフィーネの体に直撃した。スウィートもフィーネも岩にぶつかる。
すぐに2匹とも立ち上がった。どちらとも体はボロボロだが、戦意が喪失していることはなかった。
「わ、たしは……負け、ない……」
「…………。」
フィーネが呟いた言葉にスウィートが少しだけ反応した。だがそんなスウィートに構いもせずフィーネは言葉を紡ぐ。
「私が、守ってみせる……。絶対に、まもる、の……!
唯一、無二の……
弟と妹を……!!」
「え……?」
するとフィーネは何かを溜め始めた。スウィートは先ほどの言動の意味を考えようとしたが、フィーネがやろうとしていることを見てすぐに放棄した。
フィーネは間違いなく、決着をつける気なのだ。
(サイコショック……!)
それを見ながら冷や汗を垂らし、スウィートはすぅ、と息を吸う。そしてフィーネの方を見据えた。
(お願い……。やって……!!)
フィーネが技を放ったと同時に、スウィートも技を繰り出した。
「サイコショック!!」
「
治癒の真空剣!!」
技同士がぶつかった瞬間、辺りを凄まじい轟音と光が包んだ。
本気の技のぶつけ合い。否、本気の自身の想いのぶつけ合い。
相打ちかとも思えた勝負は、片方が少し押したことですぐに勝負がつくことになった。
「嘘……! いや、いやよ……私は、守らなくちゃ――!!」
――いけないの。
そう続けようとした言葉は、轟音に包まれ消えた。