80話 また見る狂気
稀にだったけれど、トレジャータウンに行くと、仲良さげに話すスウィート先輩とフィーネさんとシャオさんを見た。
時にシアオ先輩、フォルテ先輩、アルナイル先輩も加わっていて、とても楽しそうだった。
大体フォルテ先輩とシアオ先輩が喧嘩して、それを制しているのがアルナイル先輩だったから、お三方が話しているように見えただけかもしれない。
とてもとても楽しげに話すその3匹は、私から見ても「本当に仲がいいな」と思った。
今 思えば、記憶喪失で家族がいないも同然のスウィート先輩にとって、姉や兄にも見えていたのかもしれない。もしかしたら、少し思っていたのかもしれない。
フィーネさんやシャオさんも、そう見ていたのかもしれない。『シリウス』を見る目は温かかった。
その光景を見るのは、とても微笑ましかった。
だから、認めたくなかった。
フェヴスさんの話を聞いたとき、ほとんどあの2匹に一致していたことを。
――――種族はエーフィとブラッキー。……見間違えかもしれんが、銀色と金色のペアリングをしていた。うっすら見えただけだ。本当かどうかわからん。
完全に一致していた。けど、見間違いだったら違うじゃないか、そう思った。
あのとき、下手に混乱を生みたくなかった。本当だったらともかく、嘘だったらただ混乱を生むだけになるから。
だから、私は言わなかった。でも、あれは正しくなかったのかもしれない。
ゼクト・スペクテースが帰るとき、あのとき、ほんの一瞬のことだった。見ていたのは私だけだった。
フォルテ先輩とアルナイル先輩の背を押し、時空ホール≠ノ入る2匹の姿を。
それでも、どうしてあの2匹がそんなことするのかかが分からなくて、ずっと黙っていた。
先輩が帰ってきても。言おうと思えばいえたのに、言わなかった。
何かが、言うのを拒んだ。きっとそれは、自分自身。
もしも、『シリウス』とあの2匹が戦っていたら。私にできることなんて、あるんだろうか?
「チッ……おい、フォルテ! そっち行った!」
「はぁ!? って、ちょっ……! あぁ、うざい!!」
カイリューの空からの攻撃をアルとフォルテは何とか避ける。鬱陶しそうにフォルテが声をあげるが、カイリューはお構いナシだ。
さっきから避けて、攻撃してまや避けられて、そしてまた避けての繰り返しだ。全くダメージを与えられてないし、ダメージも食らっていない。体力だけが削られている状態だ。
しかしカイリューは体力など気にしていない。狂っているのでおそらく何も感じていないのだろう。
「あぁ、空をちょこまかと腹立つ! アル、翼狙いましょうよ!」
「狙ってるけど当たらないんだよ!」
「くそぅっ! シャドーボール!!」
ふざけているのか、真面目なのかどっちか分からないような雰囲気だが、本人たちにとっては至って真面目だ。
飛ばれているので全く攻撃が当たらず、かといって翼を狙っても外れる。更に上から攻撃してくるので攻撃のタイミングも計らなければならない。本当に厄介な相手だった。
するとカイリューが下に凄い速さで下りてくる。尻尾に、アイアンテールの準備。
「おい、フォルテ! アイアンテールがくる……」
「こうなったら真っ向勝負よ! アイアンテール!!」
カイリューとフォルテのアイアンテールがぶつかり合い、非常に煩い爆発音が響く。そして土煙も。
フォルテはそのまま吹っ飛び、岩に体を強打して止まった。動かそうとすると体が悲鳴をあげるように痛い。フォルテは顔を顰めた。どうやらかなり強打したようだ。
すると土煙から声がした。
「フォルテ! 伏せとけよ!!」
「はぁ!? って何、何!?」
バチバチッという音が煩く耳に届く。フォルテの上スレスレでもバチバチいっている。
おそらくアルが放電でもかましているのだろう。下にやらないよう、上の方を狙って。さっきのアルの指示は当たらないように、というアルの考慮だろう。
ただ当たらないといっても、やはり上でバチバチいわれると怖い。フォルテは目を瞑った。
「あぁぁぁぁあぁぁ!! 当たるって! 当たるわよ、あたしに!」
そんな感じでフォルテが叫んでいると、土煙がいつの間にかはれた。
電気の音がやみ、フォルテが恐る恐る目をあけると、少し離れた場所にカイリューが立っていた。顔を苦痛で歪めている。
フォルテはまだ痛む体を叱咤して立ち上がる。
すこし辺りを見渡すと、案外近くにアルがいた。アルの目線はカイリューにある。フォルテもカイリューを見た。
「……今がチャンス、よね。シャドーボール!!」
「10万ボルト!!」
そして2匹は未だ地上にいるカイリューに攻撃をする。それは一直線にカイリューの方へと向かっていき、直撃した。また小さく土煙が舞う。
フォルテはまじまじといった風にカイリューがいるであろう方向を見た。
「やった……? 気絶してもおかしくないわよね?」
「だといいが……」
それとほぼ同時だった。
「グォォォォォォォオォォォッ!!」
「きゃっ!?」
「ぐっ……!」
カイリューがいた方向から凄まじい声がし、それによりフォルテとアルの体が吹っ飛ぶ。吠えるにより、2匹とも飛ばされてしまったのだ。
そのまま飛ばされ、岩に当たって2匹とも止まった。そして次の瞬間
「ガァァァアァァッ!!」
「う、嘘!? うっ……!」
「マジ、かよ……!!」
地面が大きく揺れた。フォルテもアルも効果抜群の地震。避けられるはずもなく、フォルテとアルはモロに喰らう。
カイリューはそのまま2匹の、近かったアルの方につっこんできた。
「ッ、アル!!」
「分かっ、てる! 影分身……!」
アルの姿が何十にも見え、何匹かいるように見える。だがカイリューはそのまま構わず適当に攻撃する。
そして起き上がったフォルテはそのまま仕掛けた。
「火炎放射!!」
ずっと攻撃していたカイリューがギリギリのところで自身の前に緑色のシールドを出す。
その間に影分身が全て消える。その中に本物のアルの姿はない。代わりに
「10万ボルト!」
少しの間ででんこうせっかで移動していたアルは、フォルテとは反対のところからカイリューに10万ボルトを食らわした。
諸に喰らったカイリューは倒れそうになるも、すぐに態勢を立て直した。
「グォォッ!!」
「えっ――きゃあっ!!」
そして何故か一瞬で移動し、尻尾でフォルテに巻きつき、そしてギリギリと締め上げる。
「ぐっ…あ……! ぅ……うぁ……」
「フォルテ! くそっ……!」
おそらく一瞬で移動したのはこうそくいどうのため。そしてフォルテに今している技はまきつけるだ。
フォルテがいるから下手に10万ボルトも放電もできない。つまり接近戦でいくしかない。更にフォルテのダメージを考えると早めに放すようにしなければならない。
アルはチッ、と舌打ちしてからカイリューの方にでんこうせっかで一瞬で間を詰めた。
そしてアイアンテールをカイリューに打ち込む。だが、カイリューはすぐさま反応し、尻尾の方を向けてきた。
「なっ……!」
すぐにアイアンテールを引っ込める。するとアルの目の前にカイリューの赤い炎を纏った右手が迫る。アルはギリギリでんこうせっかでかわした。
そしてアルは少し離れたところで苦い顔をする。
「いっ……ぐぅっ……!」
間にも聞こえるフォルテの苦しそうな声。やはり早くどうにかしなければならない。
最初にフォルテが「フェヴスよりマシだ」と言っていたが、やはりマシではない。
狂気で染まっているので攻撃の威力は凄まじい。その上に頭を使っているのでタチが悪い。アルはもう一度 忌々しげに舌打ちをした。
「……できるか…………」
ポツリ、とアルが呟く。そしてアルは策を練った。