輝く星に ―時の誘い―












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第7章 それぞれの想い
79話 それでも
「他ではもう戦闘が始まっているようね」

 そんなことを呟くフィーネを、スウィートはしっかりと見据える。
 何を考えているのかよめない。それでも、今みる笑顔はどう見ても、いつものような、優しげなものじゃないことは確かだった。

「……フィーネさん」

「何かしら?」

 こちらに向ける笑顔を見て、スウィートは顔を歪ませる。やはり、笑顔は冷たい。どこまでも、冷たい。
 思わず開いた口を閉じそうになるが、スウィートは問いかけた。

「どうしてフィーネさんとシャオさんは、未来が変わることを阻止しようとするんですか」

「そっか……。記憶喪失だから貴女は何も知らないのね」

 するとフィーネは少し黙って、考えてからまた言葉を紡いだ。

「まず、1つ。私が刺客になったのは理由があるの」

「理由……?」

「そう。それが私にとってはとっても大切な理由なの」

 それが何なのか、やはり分からない。どれだけ考えても、そんな理由などあるのかと思えてしまう。刺客にならなければならない理由など、あるのだろうか、と。
 納得はできず、かといってフィーネのその理由が分からないから否定もできない。
 スウィートは黙って聞いていた。聞くしかなかった。
 そのままフィーネは続けた。

「刺客になったときに、ゼクトとある約束をしたの。だから止めるわけにはいかない。約束を破って困るのは、私だから。それが理由のひとつ」

「……?」

「分からなくても仕方ないわ。シャオとゼクトしか知らないもの」

 するとフィーネは、遠くでシアオと戦闘を開始しているシャオを見た。スウィートもそちらに少し視線をむけてから、フィーネを見た。
 そのとき見たフィーネの顔は、何だか悲しそうだった。スウィートにはそう見えた。

「シャオは、ただ私の我儘に付き合ってくれてるだけ。彼を巻き込んでいるのは、紛れもない私よ」

「どうして……」

「どうしようもなかったの。誰かに、ただ傍にいてほしかった。そうでもしないと、自分を安定できなかった」

 スウィートは少しずつ怒りが湧いてきた。それでもフィーネの顔を見ていると、怒りより疑問の方が大きくなっていく。

 シャオを巻き込んだのは自分だ。確かに自分のためにただ巻き込んでいる。それは、本当にフィーネの我儘だ。
 けれど、その事に関してフィーネは悲しそうな顔をする。「だったらどうして巻き込むんだ」という疑問がうまれてくる。
 そしてさっきの、自分を安定できなかった。それ刺客であることに関して、自分を安定できなかったということか、それか約束のことについてか。どうしてそこまで自分を追い詰める必要があるのか。
 全くフィーネの思考がよめない。それは約束とやらを知らないからかもしれない。

「……あぁ、それと。貴女は何も知らないみたいだから、教えるあげる」

「何も、知らない……?」

「もしかしてシルド君から聞いているかも、と思ったけれど、その様子では聞いていないようだし。現に、この話を聞いて、私たちが未来を変えるのを阻止しようとする理由が1つも思い浮かんでこないでしょう?」

「それは……」

 確かにそうだ。全く思い浮かんでこない。全く分からなかった。
 そしてスウィートはフィーネの言葉に引っかかった。
 シルドから聞いていない。ということはシルドは知っているような理由があって、阻止しようとしている? シルドはその理由も跳ね除けて、未来を変えようとしているのか?
 そしてそれは自分も。人間だった頃の自分も、その理由を跳ね除けて未来を変えようとしていたという事になる。
 するとフィーネはスウィートの方を見た。

「もしかしたら、これを聞いて心変わりしないかしら、なんて私は思っているの。私は、無駄な殺生は嫌いだから」

「…………。」

 やはり、殺す気はあるらしい。そんなことをスウィートは思った。
 でも、心変わりとはどういうことだ、とも考えた。その理由は、自分を心変わりさせてもおかしくない理由なのだろうか。そう思った。

「……何なんですか、その理由って」

「聞く気はあるのね。だったら教えるわ」

 聞きたくない。そんなことを思った。心変わりしてしまったら、シルドに会わす顔がない。シアオたちにも。
 だったら聞かないほうがいいんじゃないか。そしたら、このまま「未来を変える」という考えでいけるのではないか。その方が、目的に真っ直ぐ向かっていけるんじゃないか。そう思った。

 だが、フィーネはスウィートの心も知らず、あっさりといった。



「未来を変えてしまったら、私たち未来のポケモン、人間……全ての生物が消えるわ」



「え……?」


 目を見開いて、スウィートはフィーネを見た。

 頭の理解が追いつかなかった。意味が分からなかった。
 消える? 未来のポケモンも、人間も。全て、消える? つまり、自分も、シルドも、レヴィも、フィーネも、シャオも、ゼクトも。

 みんな、消える?

 頭の中でぐるぐるとまわる。思考が、おいつかない。
 パニックになりつつあるスウィートの頭の中は、パンクしそうだった。必死に考えを巡らせるが、うまく廻らない。
 フィーネは黙ったままのスウィートを見据えてから、問いかけた。

「タイムパラドックス……って知っているかしら?」

「タイム、パラドックス……?」

「そう。この時間は今星の停止≠ノむかって動いている。このままいけば星の停止≠迎えるのは分かっているでしょう?」

「…………。」

「でも、貴女たちがもしもこの未来をかえる――つまり、星の停止≠むかえない未来にしてしまう。すると、私たちが生まれた星の停止≠ェおこった未来はなくなることになるわ。
 すると、もう分かるでしょう? その星の停止≠ェおこった未来が消えてしまうのだから、私たちも消えてしまう」

「そんな……!」

「それがタイムパラドックス。未来をかえるための、代償よ」

 スウィートの中では動揺しかなかった。そんなこと、一言も聞いていないのだから。
 だとしたら自分が思っていた、未来のポケモン達に明るい未来を届けることなどでいない。朝日も見せてあげられない。
 そして同時に、自分の相棒、そして友さえ消えてしまう。

(そんな……)

「その1つも未来を変えるのを阻止する理由だわ。ゼクトもそうでしょうね。分かるでしょう? 消えるってことは、死ぬってことなのよ」

「ッ……」

「死ぬのは嫌。そう思うのは仕方ないことだと思わない? ……とはいっても、私としては自分の命なんてどうでもいいんだけど」

 フィーネの言葉がうまく頭に入ってこない。

 消える? 消えたら……もう、シアオ達には会えない。ギルドの皆にも。トレジャータウンの皆にも。
 そして、何万、何千万、いやそれより多いだろう。そんな数の未来のポケモンが消えることになる。命を奪うことになる。それを仕向けるのは、自分。

「だから、もうやめにしましょう? 今ならゼクトに言えば何とかなるかもしれない。スウィートちゃん、貴女にその気があるのなら私だってゼクトを説得するわ」

「…………。」

「私は無駄な殺生も、戦いも、全部嫌いなの。だから、やめてくれないかしら?」

 さっきのは、もしかしたらフィーネの本音だったのかもしれない。やめてほしい、そう思っているのは本当かもしれない。
 フィーネはスウィートを見た。俯いていて何を考えているのか分からない。ただ返事を待った。

 そして、スウィートが口を開いた。



「嫌です」



「…………。」

 はっきり、スウィートは拒否の意を示した。フィーネは顔を顰める。
 しかしスウィートはそんなフィーネを気にせず、言葉を紡いだ。

「記憶はないけど、ずっと前から覚悟はできてるはずなんです。シルドだって、レヴィちゃんだって、命を張って頑張ってる。私だけ、逃げわけにいかないんです。
 だから、私は自分が消えようとも未来を変える。絶対に」

「…………。」

「他のポケモンや人間には悪いことをしていると思ってます。けど、あんな未来に希望も、平和も、幸せもない。だったら、もういっそ変えてしまったほうがいい。
 今の時間のポケモンや人間に明るい未来を生きてもらうためには、未来を変えるしかないんです」

 ほとんど無意識にでた言葉だった。全てスウィートの本音だった。それがスウィートの気持ちだった。
 フィーネは顰めた顔のまま、はぁ、と溜息をついた。そしてスウィートの方を再び見る。

「……何をいって無駄なようね。残念だわ」

「フィーネさんは、こんなことをやめる気は、」

「ないわ。言ったでしょう? 大切な理由があるって。私がやめるなんて選択肢は、ない」

 スウィートは一瞬だけ悲しそうな顔をすると、すぐに真剣な面向きでフィーネを見た。フィーネは完全に戦う気のようだ。

 こうするしかないのか、そう思うとやはり嫌だ。やりたくないのは確かだ。戦いたくない。けど、止めるにはこうするしかない。
 だったら全力で戦って、フィーネを止める以外、ない。

「じゃあ本当に始めましょう」

 あぁ、嫌だな。
 きっとこの気持ちが変わることなんて、ない。

■筆者メッセージ
色々とピーンときた人、何人ですか!?
因みに原作と違いますが、それでも原作沿いで進めます。

拍手ありがとうございます。これからも頑張りますので宜しくお願いいたします。
アクア ( 2012/12/29(土) 21:44 )