78話 分からない理由
「げっ、来た!」
「んな事いってる場合か! 10万ボルト!」
空中からフォルテとアルの方に向かってきたカイリューに2匹が反応を示す。
フォルテは呑気に実況的な感じで声をあげた。それにつっこみながらもアルはカイリューに攻撃をする。が、上へ飛んで避けられてしまった。
「飛行タイプとなると厄介だな……」
「アルが何とか攻撃あてれば何とかなるわよ。気絶させりゃいんでしょ、気絶させれば」
「……簡単に言うな」
フォルテの言葉に盛大に溜息をつきたいアルだが、生憎いまそんな場合ではない。というかそんな余裕はない。
カイリューを見ると、口もとに火をためていた。おそらく、空中からの火炎放射。
「フォルテ、頼んだ」
「は? 何が――ってうわ!」
フォルテに火炎放射があたり、アルは避ける。
そしてアルはまた10万ボルトを撃つが、またも避けられる。チッと小さく舌打ちしていると、横から何か聞こえた。
「あぁぁあぁぁ! あたしは盾じゃないっつの!!」
そんな風に叫んでから、フォルテはカイリューに火炎放射を放った。かなり広範囲に。避けようとしたカイリューだが、咄嗟のことで少し当たったようだ。
するとそれを見たフォルテが「フン」と鼻を鳴らす。
「ざまぁみろってのよ!」
「お前はガキか。にしても空中に飛ばれたら厄介なことこの上ないな……」
「遠距離で飛ばしていくしかないんじゃない?」
「落とせればいいんだがな」
「無理でしょ」
そんな会話をしていると、カイリューが空中から落ちるように、凄いスピードでフォルテとアルの方に向かってきた。
「な、何!?」
「……! アクアテールだ! 横に避けろ!!」
アルの言うとおり、カイリューの尻尾にはアクアテールの準備がしてある。狙いはおそらくフォルテ。
フォルテもアルもでんこうせっかでその場を離れる。
と同時にカイリューが誰もいない地面にむかってアクアテールをかました瞬間、ゴォンッと凄まじい音をたてた。
地面には無残にも穴がぽっかりと開いていた。フォルテとアルは冷や汗を垂らす。
((当たったら完全ヤバイ……))
特にフォルテは、効果抜群でもあったから。
もしあれが当たっていたら倒れていたかも、とフォルテは考える。無残な姿になった地面を見ると、威力はかなり高い。
一発でも攻撃が直撃すれば、かなりのダメージになりそうだった。
「アル……。気絶させりゃいいのよね」
「……あぁ」
「頭を集中的に狙ったらどうかしら?」
「できればの話だがな」
会話しているのにも関わらず、カイリューは攻撃してくる。
今度はかみなりパンチ。アルもフォルテもでんこうせっかなどで避けながらも攻撃する。だが、カイリューは避ける。
目は完全に狂気に染まっていて、目の前の相手を殺ることしか考えていないようだ。
そんな目を見ながら、フォルテは「まぁ」と呟く。
「フェヴスのときよりは幾分マシよね!? シャドーボール!!」
「油断はすんなよ。放電!」
フォルテはいつものように。アルはいつ覚えたのか、放電を繰り出す。
するとシャドーボールは避けたものの、放電が少しカイリューに当たったようだ。カイリューが声をあげる。
そして、狂気に染まった目で2匹をにらみつけた。
「グォォォォォオォォッ!!」
「……マシ。うん、少しは」
「全然マシじゃない」
「僕の相手はシアオ君、君1匹かい?」
「そうだよ」
そう言ったシャオは笑顔こそ浮かべているものの、その笑顔は完全に作られたものだとシアオでもわかった。笑顔でも冷たい。そう感じた。
いつもと全く違う雰囲気にやはり戸惑うが、それでも戦わなければと自分に言い聞かせる。
けれど、シアオはやはり聞きたかった。
「ねぇ、シャオさん。少し聞いてもいい?」
「……まぁ、答えなきゃ納得はいかないか」
困ったようにシャオは肩をすくめる。聞いてもいいという答えなのだろう。
シアオはまず1番気になっていることを聞いた。
「シャオさんとフィーネさんが刺客ってことは……未来のポケモンだよね」
「あぁ、そうだ」
「あの真っ暗な世界も見ているよね。あの寂しい世界も、見てるよね」
「……あぁ」
「だったら! だったら何で!? 何であんな世界を守ろうとするの!? フィーネさんも、シャオさんも、ゼクトも! 闇のディアルガ≠セって!!」
これはゼクトにも聞きたかったことだった。
あんな真っ暗で、光がない。色もない。自分が思う寂しい世界。
優しかったポケモンも、狂ったり、悪さをするようになってしまうポケモンが続出する世界。
どうしてそんな世界をこうも守ろうとするのか。何故あんな世界にそれだけ執着し、壊すことを拒むのは。
シアオはずっと気になっていた。
するとシャオは目線を少し下に下げて、薄い笑みを浮かべた。
「まぁ、それが一般論だろう。そう疑問に感じてしまっても仕方ない」
そう言ったシャオの声は、少し怒りを含んでいるようにも聞こえた。そして、目はどこまでも冷たかった。
シアオはその目に少し体を揺らすが、首を横に振り、またシャオを真っ向から見る。怯えている場合じゃない。聞かねばならないのだ。その理由を。
「だったら何で……シャオさんはあの世界が幸せだっていうの!?」
「まさか。あの世界のおかげで家族なんてバラバラになったし、友人もほとんどできなかった。最悪だった。ずっと1匹だった。
けどね、シアオ君。君は何1つ分かっちゃいないんだ。だから、そんなことがいえる。まぁ君たちは何も知らない。仕方ないともいえる。それでも、僕は君たちにとやかく言われたくないんだよ」
シャオから威圧感を感じて、シアオは黙った。やはり、少しの怒りがあるように見える。
でもシアオはさっきの言葉に引っかかっていた。
最悪、とまでいった世界。そんな世界を守る理由が、シアオにはわからないこと。それがなんなのか、検討もつかない。
シャオはそんなシアオを気にせず続ける。
「スウィートちゃんやシルド君にならまだ言われてもいいけどね。けど、この時間のポケモンの君やフォルテちゃん、アル君たちにいわれたくない」
「なっ……なんで……」
「……まぁ、それは言わないでおこう。それと僕が刺客でいる理由はもうひとつ。ただ、フィーネを支えるためだよ」
「支える……?」
意味がわからない、といったようにシアオは首をかしげた。それは一体どういう意味なのか、と。
シャオはもう笑みを消し、無表情で言う。
「僕がフィーネに初めて会ったとき、フィーネは既にディアルガの刺客だったんだ。そのときの顔、もう生気が抜けててね。……それで放っておけなかったんだ。だから、フィーネを支えるために僕も刺客になった。それだけさ」
「シャ、シャオさんはフィーネさんを止められたんじゃないの!? 生気が抜けてたって……そのときにどうして止めなかったんだよ!?」
「僕だって止めたさ。けど、フィーネには、理由があったから。とめられなかった。それだけだ」
「とめられない、理由……?」
あんな世界を守ろうとする理由。絶対にとめられないほど、フィーネにとって大切な理由。
それが何なのか、シアオは想像もつかない。
2つの理由。
1つは未来のポケモンしか分からない。この時間、今の時間にポケモンにとやかく言われたくないのもソレに関連している。そんな理由。
もう1つ、シャオはフィーネを支えるため。フィーネは何か、もっと大切な別の理由。
それを知りたいが、シャオはそれを許さなかった。
「……少し喋りすぎた。さて、始めようか」
「ねぇ、シャオさん。……今からでも、止める気は、ないの? 今からでも、間に合うよ。だから」
頼むから、止めてくれ。そう願わずにはいられなかった。
でも分かっている。シャオがどんな返事をするか、そんなことは分かりきっていた。けど、聞いておきたかった。
するとシャオは困ったような笑顔を浮かべた。作った笑顔ではない。そんな顔。
「ごめんだけど、無理かな」
やはり、とシアオは心の隅でそんなことを考えた。それでもやっぱり、その言葉を聞くのは辛かった。