77話 認めたくない気持ち
どうして此処にいるのか。あの攻撃は、なんだったのか。
そして何より、さっきの言葉の意味。「残念」という事場の意味はいったい何をさしているのか。
『シリウス』には目の前にいる2匹に聞きたいことが山ほどあった。
フィーネはいつものように微笑んでいるが、どこか雰囲気が違う。シャオも笑顔だが、作ってる笑顔にしか見えなかった。
そんな中、シアオが叫ぶように声をあげた。
「ちょ、これ何なのさ!? フィーネさんたちがやったわけじゃ、ないよね……!? それに2匹ともどうしてこんなトコに」
「今の状況でそう思うかい? シアオ君」
シアオの言葉を、シャオが真剣な顔でそう遮った。シアオは黙る。
さっきの言葉はどう聞いても、どう考えても「攻撃をした」という肯定の言葉。確実に狙っていたような、そんな言葉。
スウィートは信じたくなくて、声をしぼりだした。否定の言葉を。
「う、嘘ですよね……? 何か、何かを間違えたんじゃないですか? だって……」
「はっきり言うわ。さっき貴方達を攻撃したのは、紛れもない私たちよ。――もちろん貴女たちを狙って」
聞きたくない言葉が、本人の口からするりと出てきた。そう言ったフィーネの顔からはもう微笑みは消えていた。
そしてまた。聞きたくない言葉はいくらでも本人達から出てきた。
「どうして、っていう顔をしてるね。無理もないか。とりあえず僕たちの立場を説明しようか。……まぁ、検討はついているかもしれないけど」
「え……?」
「僕たちはゼクトと同じ、闇のディアルガ≠フ刺客だ」
頭が真っ白になった。思考がうまくまとまらなかった。
スウィートは呆然と目の前にいる2匹を見た。2匹が嘘をついていないのは明白だった。誰から見てもすぐに分かることだった。
するとアルが重々しく口を開いた。
「だとすると……俺とフォルテを時空ホール≠ノ入れたのもアンタらの仕業か……」
「そう。じゃあもう、僕たちがここにいる意味はわかってるね」
シャオがそう言った瞬間、2匹の隣に影ができた。上を見ると、大柄のポケモン。そのポケモンは、カイリュー。
少し普通のカイリューと様子が違うことに『シリウス』は気づいた。何か、何か違うと。そしてそんな様子を見たことがあると。
それに答えるように、フィーネが言葉を発した。
「前のガブリアスのようではないけれど、このカイリューも少し狂ってるわよ。まぁ、気絶さえさせれれば止まるわ。気絶させれれば、の話だけど」
「もしかして、フェヴスさんは……!」
「まぁ、私たちの仕業かしら。半分はゼクトだけれど」
考えたくなかった。信じたくなかった。嘘だと言ってほしかった。何かの間違いだといってほしかった。
それでも本人たちは認めた。だとしたらそれは、真実だ。それは嘘などではない。そんなことは4匹とも分かっていた。完全に分かっていた。
けれど、ゼクトのときのことを聞いたシアオのように、認めたくない気持ちが大きかった。
「もう分かっているだろう。僕たちがここにいる理由、それは君たちを抹殺することだ」
「そ、んな……」
「未来をかえようとする者は、誰であろうと消さなければならない。スウィートちゃんとシルド君、君たちはとくに」
そんな言葉がでてきてほしくなかった。だが、シャオははっきりといった。
「まさか貴女が人間のスウィート・レクリダだなんて思わなかったわ。最初、名前を聞いてまさか、とは思ったけれどポケモンだからという理由で否定したのに。まさか本人だったなんてね」
〈私はフィネスト・イレクレス。フィーネと呼んで。貴女は?〉
〈えっと……スウィート・レクリダです……〉
〈え……? スウィート……レクリダ……〉
だから会ってスウィートが名前を言ったとき、フィーネは驚いたのだろう。スウィートは納得できてしまった。
名前を言ったとき、本当に考えていた。だとしたら、これが嘘な訳がない。最初から、フィーネとシャオは自分を探していたのだ。
悲痛な顔をしていたスウィートだが、すぐに真剣な顔にかえた。そしてしっかりと2匹を見る。
そしてまだ戸惑っている3匹に話しかける。
「みんな。私はフィーネさんをやる」
「スウィート!?」
「だから、シャオさんとあのカイリューをどうにかして。お願い」
静かにスウィートはいった。目は完全にフィーネのほうに向いている。
スウィートはさっき決めた。
止める。2匹を。絶対に、止める。
そう、決めたのだ。
「……絶対に、止める。止めてみせる」
そう言うスウィートの声はまだ微かに震えている。
怒り、悲しみ、戸惑い。色んな感情が混じって、精神が安定ではない。けれど、やらなければいけないと、スウィートはそう思ったのだ。
本心では、認めたくない気持ちでいっぱいだ。だけど、今はとめるしかないのだ。この2匹を。そして巻き込まれたであろうカイリューを。それ以外、もうないのだ。
すると呆然とスウィートを見ていたシアオだが、目を閉じてから、2匹のほうを見た。
「……じゃあ、僕はシャオさんとやる。フォルテとアルで、カイリューをとめて」
「ちょ、ちょっと!? アンタまで何いってんのよ!?」
「フォルテ、やめろ。……わかった。2匹とも、無理はすんなよ」
「アル!? 何で……」
まだ困惑しているフォルテをアルがとめる。アルは承諾したようだ。
けれどフォルテとしては納得がいってない。というより、「本当に戦うのか」という気持ちのほうが強かった。
ついさっきまで、会うまではよく話していた普通の知り合い。そして今では敵。そんなすぐに切り替えして戦えるのか。
そんな心配がフォルテの心中を占めていた。
「フォルテ。今は、戸惑っても仕方ないの。だから、お願い」
顔は見えないが、スウィートはそうしっかりと言う。声はやっぱり、微かに震えている。
フォルテは苦々しい顔をしてから、カイリューの方を見た。
「……分かったわよ」
フォルテがそう言った後、フィーネは少しの笑みを浮かべた。それは、あまりにも残酷だった気もする。
「準備はできたようね。じゃあ、始めましょう?」
――――お互い、本気での
戦闘を。
その言葉はどこまでも残酷で、辛くて、悲しかった。
――――ギルド――――
「は? スウィート先輩たちがまだ帰ってきていない?」
「おいコラ凛音。さっきの「は」って何だ」
「お気になさらず」
ディラの言葉につい変な返事をしてしまったことを凛音は後悔した。ディラはこういうのに煩い。
それを無視して、メフィもさっきの凛音のように首を傾げる。
「確か……温泉にいったんですっけ? 先輩たち」
「そうだ。だがもう帰ってきてもいい頃だと思うんだが……。どれだけゆっくり帰ってるんだか。それとも久しぶりだからどっかぶらついてんのかねぇ……」
呆れたようにディラが溜息をついた。きっとこの様子を見たらフォルテが怒るだろうな、と思ってまったメフィが仕方ないだろう。
だが凛音は違い、難しい顔をし、考え事をしていた。
(まさか……いや、でも……)
何だか嫌な予感がする。
不意に、時空ホールでフォルテとアルを押した2匹の姿が頭に過ぎった。そして、フェヴスの話が頭に響いた。
瞬間、凛音はディラに詰め寄っていた。
「ディラさん! 先輩たちはどういうルートで帰ってくるんですか!?」
「は、はぁ? 何でそんなこと……」
「いいから答えてください!」
「り、凛音?」
いつもと違う凛音の様子に、メフィも戸惑いを隠せないようだ。メフィも戸惑っているのだから、勿論ディラもだ。
だがそんなことを構わず、凛音はディラを急かした。
「もしくはどう行けば温泉にいけるかでもいいです。早く!」
「あ、あぁ……」
ディラはしどろもどろになりながらも、凛音にルートを教えた。凛音はそれを頭に叩き込んでから、梯子の方へと走っていった。
「凛音!? ま、待って!」
メフィも凛音の追いかけるように走っていった。
ディラも、そしてそんな2匹を見た弟子達も、ただ凛音の変わりように呆然としていた。
(お願いですから、何もおこっていませんように――)