輝く星に ―時の誘い―












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第7章 それぞれの想い
76話 久々の再会
 バシャンッという痛い音をたてて、温かい液体の中に4匹は落ちた。
 スウィートとシアオとアルはすぐさま体を起き上がらせる。ただ顔も体もびしょびしょである。濡れていない場所などないのではないだろうか。
 スウィートは頭を少し振ってから頭の水気をとってから、辺りを見る。
 するとフォルテが浮いていた。どうやらまた気絶してしまったらしい。

「フォ、フォルテ〜」

「…………。」

 返事がない。ただの屍のようだ。
 なんて冗談を言ってる場合じゃないので、とりあえずフォルテに近づく。そしてフォルテの体を揺すってみるが、返事はない。
 するとアルとシアオの声が耳に入った。

「本当にスミマセン。またこんな形できて」

「いや、別に構わんが……連れは大丈夫かの?」

「大丈夫! フォルテは丈夫だから!」

 思いきりシアオにつっこみたいが、それを耐えてスウィートは何とかフォルテを温泉から上がらせる。完全に気絶してしまったようだ。
 スウィートはアルとフォルテ、そしてヘクトルの方へと向かう。

「あ、あのお久しぶりです。」

「おぉ、お主も久しぶりじゃの。それにしても何でまたとんできたのじゃ?」

「えっと……」

「実は――」

 スウィートの代わりにアルが事情を話す。シアオもところどころで話に加わったりしているようだが。
 そして全て話し終わると、ヘクトルが納得したように頷いた。

「……なるほど。“幻の大地”のう……」

 3匹は黙ってヘクトルの返事を待つ。そして少ししてからヘクトルがまた口を開いた。

「それなら聞いた事はあるぞ」

「えぇ!? ホントに!? どんなの!?」

 ヘクトルの言葉にシアオが最初に反応した。そしてすぐに問い詰めた。
 敬語でもないうえ、質問をした身としては随分と失礼な態度である。しかしヘクトルは全く気にしていない様子だった。

「“幻の大地”はまさに伝説の場所。もはや言い伝えでしかないのだが……」

「それでもいいんです。教えてください」

 スウィートは真剣な顔でヘクトルに「教えてくれ」と頼む。
 仕方ないだろう。“幻の大地”については何も情報がないのだ。少しの情報でも貴重な情報となる。だからこそ絶対に聞いておかねばならない。
 真剣な雰囲気を見取ったヘクトルは、ふぅと息をついた。

「わかった。ではいうぞ」

 ヘクトルの言葉に、3匹は全神経を研ぎ澄まして聞く。絶対に覚えて帰らねばならない。
 そのままゆっくりとヘクトルは言葉を紡いだ。

「“幻の大地”は海のむこうの……隠された場所にあるらしいんじゃ “幻の大地”には選ばれた者しかいけん。そこにいくにはある資格がいるんじゃ」

「資格をもった者しかいけないのか……」

「ねぇ、ヘクトル長老。その資格って?」

 アルが引っかかったのか何か考え込むように呟く。
 シアオはスウィートも気になっていることをヘクトルに聞いた。アルも考えるのをやめ、そちらに耳を澄ます。

「それはの……」

 ゴクリ、と誰かが息を飲んだ。
 その資格次第で自分たちはいけるかどうか決まる。本当に貴重な情報なのだ。絶対によく聞いて、皆に伝えなくてはならない。
 そんな感じで緊張感をもった場で、ヘクトルが続きを――

「……あれ? あれあれ? 何だったかの? …………すまん忘れてしもうた」

「「えぇ!?」」

 ばしゃんっとシアオが温泉の中に沈んでいった。スウィートとアルは驚きで同じように声を発した。
 さっきのは完全に言う流れだった。こんなボケのような展開になるはずではない流れだった。しかしヘクトルは冗談を言っている訳でもなく、真剣に悩んでいる様子だ。
 するとシアオが温泉からすぐさま顔をだした。

「えぇぇぇぇぇえぇ!? ちょ、それ1番大切だけど!」

「最近、物忘れが激しくてのう……」

「それでも思い出して!?」

 何という無茶振り。だがアルもスウィートもつっこまなかった。どうやら気持ちは一緒らしい。
 するとヘクトルは困ったような顔をした。

「そうせかされてものう……。うーーん……」

 頼むから思い出してくれ。3匹はそう願った。そして言葉を待った。
 暫く経ってから、ヘクトルはばっと勢いよく顔をあげた。

「そ、そうじゃ! 証じゃ! 確か証が必要だったような……」

「その証って……どんなものなの?」

「それはの……」

 そしてアルは「げっ」という顔をした。嫌な予感がしたらしい。凄い嫌な予感がしてしまったらしい。
 まぁ、デジャヴというものはよくあることである。

「……あれ? あれあれ? ……すまん。また忘れた」

「うぇぇぇぇぇぇええぇぇぇぇぇ!!??」

「うるっさいわよ!」

「ぎゃぁぁぁぁああぁぁぁ!」

「あれ、フォルテ起きたの!?」

「情報が……貴重な情報……」

 シアオが絶叫をあげた瞬間、火炎放射がシアオに炸裂した。やったのはいつの間にか起きたフォルテである。
 スウィートはフォルテが起きたことに驚いていた。いつの間に、と。アルは「そんなことはどうでもいい」というように何かブツブツ呟いている。

 するといつもより復活が早いシアオがまたヘクトルに聞く。

「ホンッットに思い出せないの!?」

「す、すまんのう……」

 結局ほとんど何も分からずじまいといってもいいだろう。証について分からなければどうしようもない。
 スウィートはがっくりとうなだれた。勿論、フォルテ以外のメンバーもである。

「そうですか……」

「すまん。せめて証が何だったか思い出せたら知らせるからの」

「いえ。こちらこそすみません……。色々と」

 アルは丁寧にお辞儀した。スウィートも一緒にする。シアオは暗いオーラをだし、フォルテは首を傾げている。
 そしてとりあえず、とでも言うように4匹はギルドに戻ることにした。







「情報はナシかぁ……」

 帰り道。
 スウィートはヘクトルに聞いた話をフォルテにした。シアオは未だ暗いオーラをだし、アルにうざがられている。
 そんなこんなでグダグダとゆっくり帰っていた。

「とりあえず……まぁ、証が必要ってわかっただけマシか……」

「そうだね。次からはそれを調べなくちゃいけないし」

「それに海のむこうってのも分かったんでしょ? 結構集められたじゃない」

 できるだけポジティブに。そんな感じな『シリウス』だ。
 今は次できることを探さねば。4匹はそう前向きに考えることにした。若干、シアオはまだ暗いが。

「まー、温泉に入れたしいっか」

「よくないわよ。流されるのどんだけキツかったと思ってんのよ」

「さんざん駄々こねてた奴が我慢した感じに言うな」

 仲良さげな3匹の会話にスウィートは頬が緩む。「楽しい」という感情がつい顔にでてしまうのだ。
 今こんなに楽しいのだ。それをなくしたくなかった。ただ、この幸せな時間を噛み締めていたいとスウィートは思った。

 直後、それも終わった。

《スウィート! 右に避けろ!!》

「えっ――?」

 いきなりミングの声が頭に響き、勝手に体が動いた。体のバランスを崩し、地面に叩きつけられるかのように倒れる。
 そしてその次の瞬間、ゴォンッという凄まじい音が響いた。

「体が浮いた!?」

「な、何!?」

「何なんだよ、いったい……」

 シアオとフォルテ、アルの声が横からする。どうやら3匹も同じように地面に倒れたようだ。
 だがスウィートは呆然と、自分たちがいた場所を見ていた。

「な、何これ……」

 地面がえぐりとられ、無残な姿が広がっていた。その範囲は4匹を簡単に巻き込める範囲。「自分たちがあのままいたら」と思うとゾッとした。
 するとまた頭に声が響いた。

《どうやらご主人のご友人も無事のようですわね。よかった……》

 リアロだ。どうやらリアロがスウィートの体を使って、サイコキネシスか何かでシアオ達を避難させてくれたみたいだ。
 いつもならお礼を言うスウィートだが、混乱していていえなかった。

 どうして地面がこんなことになっているのか。何故ピンポイントで自分たちが狙われているのか。
 考えられるとしたら、ゼクトしかいなかった。スウィートが冷や汗を流す。
 シアオ達もようやく地面の方を見て、絶句したり、パニックになったりと色々な反応をしていた。


「――――残念」


 そんな声が、少し離れたところからした。
 攻撃した者に、間違いは、ない。でも、ゼクトの声では、ない。けれど、知っている声で。

 そして『シリウス』は声の方を見た。そして、絶句した。



「フィーネ、さん……? シャオさん……?」



「久しぶりね、スウィートちゃん」

 綺麗に微笑むその姿はいつもと同じ。けれど体に寒気がはしった。

(どうして貴女たちが、こんなところに)

アクア ( 2012/12/23(日) 00:17 )