76話 久々の再会
バシャンッという痛い音をたてて、温かい液体の中に4匹は落ちた。
スウィートとシアオとアルはすぐさま体を起き上がらせる。ただ顔も体もびしょびしょである。濡れていない場所などないのではないだろうか。
スウィートは頭を少し振ってから頭の水気をとってから、辺りを見る。
するとフォルテが浮いていた。どうやらまた気絶してしまったらしい。
「フォ、フォルテ〜」
「…………。」
返事がない。ただの屍のようだ。
なんて冗談を言ってる場合じゃないので、とりあえずフォルテに近づく。そしてフォルテの体を揺すってみるが、返事はない。
するとアルとシアオの声が耳に入った。
「本当にスミマセン。またこんな形できて」
「いや、別に構わんが……連れは大丈夫かの?」
「大丈夫! フォルテは丈夫だから!」
思いきりシアオにつっこみたいが、それを耐えてスウィートは何とかフォルテを温泉から上がらせる。完全に気絶してしまったようだ。
スウィートはアルとフォルテ、そしてヘクトルの方へと向かう。
「あ、あのお久しぶりです。」
「おぉ、お主も久しぶりじゃの。それにしても何でまたとんできたのじゃ?」
「えっと……」
「実は――」
スウィートの代わりにアルが事情を話す。シアオもところどころで話に加わったりしているようだが。
そして全て話し終わると、ヘクトルが納得したように頷いた。
「……なるほど。“幻の大地”のう……」
3匹は黙ってヘクトルの返事を待つ。そして少ししてからヘクトルがまた口を開いた。
「それなら聞いた事はあるぞ」
「えぇ!? ホントに!? どんなの!?」
ヘクトルの言葉にシアオが最初に反応した。そしてすぐに問い詰めた。
敬語でもないうえ、質問をした身としては随分と失礼な態度である。しかしヘクトルは全く気にしていない様子だった。
「“幻の大地”はまさに伝説の場所。もはや言い伝えでしかないのだが……」
「それでもいいんです。教えてください」
スウィートは真剣な顔でヘクトルに「教えてくれ」と頼む。
仕方ないだろう。“幻の大地”については何も情報がないのだ。少しの情報でも貴重な情報となる。だからこそ絶対に聞いておかねばならない。
真剣な雰囲気を見取ったヘクトルは、ふぅと息をついた。
「わかった。ではいうぞ」
ヘクトルの言葉に、3匹は全神経を研ぎ澄まして聞く。絶対に覚えて帰らねばならない。
そのままゆっくりとヘクトルは言葉を紡いだ。
「“幻の大地”は海のむこうの……隠された場所にあるらしいんじゃ “幻の大地”には選ばれた者しかいけん。そこにいくにはある資格がいるんじゃ」
「資格をもった者しかいけないのか……」
「ねぇ、ヘクトル長老。その資格って?」
アルが引っかかったのか何か考え込むように呟く。
シアオはスウィートも気になっていることをヘクトルに聞いた。アルも考えるのをやめ、そちらに耳を澄ます。
「それはの……」
ゴクリ、と誰かが息を飲んだ。
その資格次第で自分たちはいけるかどうか決まる。本当に貴重な情報なのだ。絶対によく聞いて、皆に伝えなくてはならない。
そんな感じで緊張感をもった場で、ヘクトルが続きを――
「……あれ? あれあれ? 何だったかの? …………すまん忘れてしもうた」
「「えぇ!?」」
ばしゃんっとシアオが温泉の中に沈んでいった。スウィートとアルは驚きで同じように声を発した。
さっきのは完全に言う流れだった。こんなボケのような展開になるはずではない流れだった。しかしヘクトルは冗談を言っている訳でもなく、真剣に悩んでいる様子だ。
するとシアオが温泉からすぐさま顔をだした。
「えぇぇぇぇぇえぇ!? ちょ、それ1番大切だけど!」
「最近、物忘れが激しくてのう……」
「それでも思い出して!?」
何という無茶振り。だがアルもスウィートもつっこまなかった。どうやら気持ちは一緒らしい。
するとヘクトルは困ったような顔をした。
「そうせかされてものう……。うーーん……」
頼むから思い出してくれ。3匹はそう願った。そして言葉を待った。
暫く経ってから、ヘクトルはばっと勢いよく顔をあげた。
「そ、そうじゃ! 証じゃ! 確か証が必要だったような……」
「その証って……どんなものなの?」
「それはの……」
そしてアルは「げっ」という顔をした。嫌な予感がしたらしい。凄い嫌な予感がしてしまったらしい。
まぁ、デジャヴというものはよくあることである。
「……あれ? あれあれ? ……すまん。また忘れた」
「うぇぇぇぇぇぇええぇぇぇぇぇ!!??」
「うるっさいわよ!」
「ぎゃぁぁぁぁああぁぁぁ!」
「あれ、フォルテ起きたの!?」
「情報が……貴重な情報……」
シアオが絶叫をあげた瞬間、火炎放射がシアオに炸裂した。やったのはいつの間にか起きたフォルテである。
スウィートはフォルテが起きたことに驚いていた。いつの間に、と。アルは「そんなことはどうでもいい」というように何かブツブツ呟いている。
するといつもより復活が早いシアオがまたヘクトルに聞く。
「ホンッットに思い出せないの!?」
「す、すまんのう……」
結局ほとんど何も分からずじまいといってもいいだろう。証について分からなければどうしようもない。
スウィートはがっくりとうなだれた。勿論、フォルテ以外のメンバーもである。
「そうですか……」
「すまん。せめて証が何だったか思い出せたら知らせるからの」
「いえ。こちらこそすみません……。色々と」
アルは丁寧にお辞儀した。スウィートも一緒にする。シアオは暗いオーラをだし、フォルテは首を傾げている。
そしてとりあえず、とでも言うように4匹はギルドに戻ることにした。
「情報はナシかぁ……」
帰り道。
スウィートはヘクトルに聞いた話をフォルテにした。シアオは未だ暗いオーラをだし、アルにうざがられている。
そんなこんなでグダグダとゆっくり帰っていた。
「とりあえず……まぁ、証が必要ってわかっただけマシか……」
「そうだね。次からはそれを調べなくちゃいけないし」
「それに海のむこうってのも分かったんでしょ? 結構集められたじゃない」
できるだけポジティブに。そんな感じな『シリウス』だ。
今は次できることを探さねば。4匹はそう前向きに考えることにした。若干、シアオはまだ暗いが。
「まー、温泉に入れたしいっか」
「よくないわよ。流されるのどんだけキツかったと思ってんのよ」
「さんざん駄々こねてた奴が我慢した感じに言うな」
仲良さげな3匹の会話にスウィートは頬が緩む。「楽しい」という感情がつい顔にでてしまうのだ。
今こんなに楽しいのだ。それをなくしたくなかった。ただ、この幸せな時間を噛み締めていたいとスウィートは思った。
直後、それも終わった。
《スウィート! 右に避けろ!!》
「えっ――?」
いきなりミングの声が頭に響き、勝手に体が動いた。体のバランスを崩し、地面に叩きつけられるかのように倒れる。
そしてその次の瞬間、ゴォンッという凄まじい音が響いた。
「体が浮いた!?」
「な、何!?」
「何なんだよ、いったい……」
シアオとフォルテ、アルの声が横からする。どうやら3匹も同じように地面に倒れたようだ。
だがスウィートは呆然と、自分たちがいた場所を見ていた。
「な、何これ……」
地面がえぐりとられ、無残な姿が広がっていた。その範囲は4匹を簡単に巻き込める範囲。「自分たちがあのままいたら」と思うとゾッとした。
するとまた頭に声が響いた。
《どうやらご主人のご友人も無事のようですわね。よかった……》
リアロだ。どうやらリアロがスウィートの体を使って、サイコキネシスか何かでシアオ達を避難させてくれたみたいだ。
いつもならお礼を言うスウィートだが、混乱していていえなかった。
どうして地面がこんなことになっているのか。何故ピンポイントで自分たちが狙われているのか。
考えられるとしたら、ゼクトしかいなかった。スウィートが冷や汗を流す。
シアオ達もようやく地面の方を見て、絶句したり、パニックになったりと色々な反応をしていた。
「――――残念」
そんな声が、少し離れたところからした。
攻撃した者に、間違いは、ない。でも、ゼクトの声では、ない。けれど、知っている声で。
そして『シリウス』は声の方を見た。そして、絶句した。
「フィーネ、さん……? シャオさん……?」
「久しぶりね、スウィートちゃん」
綺麗に微笑むその姿はいつもと同じ。けれど体に寒気がはしった。
(どうして貴女たちが、こんなところに)