73話 仲間というもの
「……」
目を徐々に開けていくと見えるのは見慣れたメンバー。
スウィートは完全に目を開き、そして体を起こす。
頭がようやく覚醒してきて、1匹足りないことに気付く。辺りを見回してみるとシルドは既にいなかった。もう行ってしまったのだろう。
(早いなぁ……)
まだ少しぼんやりする頭でそんなことを考えながら、スウィートは外を見た。
もう既に太陽は昇っているようだ。また見れなかった、とスウィートは少し凹むが、すぐに気持ちを切り替えて『シリウス』のメンバーを見る。
スヤスヤと気持ちよさそうに寝息をたてて寝ている。アルもまだ寝ている。結構珍しいことだった。
「まぁ、色々と疲れは溜まってるよね……」
あの未来からこっちにきてまだ2日目。1日では完全に疲れがとれなかったのだろう。まだそれが響いているという事だ。
スウィートは「ふぁぁ……」と少々大きな欠伸をする。
「眠い……。とりあえず、今日は、どうしようかなぁ……」
ヤバイ。何かすごくヤバイ。
スウィートはそんなことを考えていた。ただ睡魔がまた襲ってきて戦っているだけなのだが。
「起きた、ばっか……」
けっきょく睡魔に勝つことはできず、スウィートはぱたりとベットに倒れるように横になった。
どうやら疲れが溜まっていたのは彼女も一緒らしかった。
「……ト。スウィート!」
自分を呼ぶ声がして、スウィートは目を覚ました。
目に映ったのはシアオ。周りを見るとフォルテもアルも起きていた。どうやら1番早く起きたのに、1番遅くなったらしい。
スウィートは慌てて体を起こした。
「お、おはよう……」
「あぁ。もう昼すぎだからおそようだけどな」
「安心して、スウィート。ついさっきまであたし達も爆睡してたから。いやー、よく寝たわ〜」
「僕はまだ眠いけどねー……」
それぞれ会話をする。
どうやら全員が昼すぎまで寝ていたようだ。時間がないというのに呑気な探検隊であった。
「でもそろそろきちんと活動しないとね!」
「といってもどうすんの? “幻の大地”を探せって言われても……」
「……だよね」
シアオはフォルテに撃沈された。仕方のないことだが。
スウィートは苦笑し、「うーん」と考え出した。アルは2匹を完全に無視して考えているようだ。
「……といっても、情報が1つもなかったら推測もできやしないしな」
「あの、とりあえず海岸いってみない? その、気晴らしに」
アルが難しい顔で考えているのを見て、スウィートはそう言った。
少しはリラックスも必要だ。気を抜きすぎたら駄目だが、気を張りすぎても仕方ない。そう思ったのだ。
「あ、僕それ賛成! 行きたい!」
「そ、そっか」
そんなに「行きたい」と強く言われるとは思っていなかったスウィートは、少したじたじになりながらも返事した。シアオは目をキラキラ光らせている。
チロッとフォルテとアルを見ると別に嫌そうな顔はしていない。「別にいってもいい」と気持ちなんだろう。
スウィートは少し苦笑混じりで言った。
「じゃあ、いこうか」
――――海岸――――
一昨日ぶりに来た海岸はやはり何も変わっていない。
海はキラキラと太陽の光で輝き、とても綺麗だ。風景も別に変わったところもない。
「……どうしようかねー」
シアオが海を見ながら呟く。他の3匹もだ。
とりあえず海岸に来てみたが、何も思いつかない。どうやって調べるかといってもそれが難しいのだ。
「“幻の大地”ねぇ……。アル、アンタなんか知らないの?」
「無茶振り言うな。シルドが知ってないのに何で俺が知ってんだよ」
アルの言い分は最もである。それでもフォルテは何やら言っているが。
「うぅ……。やっぱシルドの意見も聞いとけばよかったかなぁ」
「今はそんなこと言ってる場合じゃないだろ」
「とりあえずゴーストタイプがいなかったらいいんだけど……」
「フォルテそれ関係ない」
「余計すぎる」
「うっさい! あたしにとって大切なの!」
「アハハ……」
フォルテの言い分にシアオとアルがツッコむ。そしてフォルテが怒鳴ったが、2匹はしれっとしている。スウィートはやはり苦笑い。
こういうのはいつも通りな感じでスウィートは好きだった。そんなにのんびりしている訳にもいかないのだが。
(やっぱり情報が少なすぎるよね。……でものんびりもしていられない。絶対にあんな未来にしちゃいけない。……そのためには)
スウィートは息を少しはいた。
そして決心したようにシアオ達の方を向く。3匹はまだ考えているようだ。話が脱線しながらだが。
「あの……」
「ん? どうかした?」
視線と声に気付き、シアオがスウィートの方を向く。フォルテもアルも。
スウィートは少しだけ躊躇ったが、きちんと言葉にした。
「私、やっぱり皆の協力が必要だと思うの」
「え、うん」
いきなり話されて何のことか分かっていないようだが、シアオは頷く。フォルテも首を傾げている。アルはもう察しているようで、少し険しい顔をしているが。
言って何かになるだろうか、そう思いながらスウィートは言葉を紡いだ。
「だから…………ギルドに行こう」
「うん…………はっ?」
「え?」
「…………。」
シアオとフォルテは目を丸くし、アルは表情をかえない。やはり予想していたのだろう。
すると数秒してから
「え、えぇぇぇえぇぇ!? ギルドに行く!?」
「そ、そんなに驚かなくても……」
あまりのシアオの驚きっぷりに、スウィートはビビる。まさかそんなに驚かれるなんて思っていなかったのだ。
アルも少し予想外だったが、フォルテが1番予想に近い。
「な、何で!?」
「え、だから皆の協力が必要だから……」
「いや、だって皆はゼクトのこと信用して、るんだ、よ……」
「自分で言っといて暗くなんないでよ、面倒くさい!」
何故か凹みだしたシアオにフォルテが罵倒の言葉を吐く。それでもシアオの背後には暗いオーラがでていた。
確かにフォルテの言うとおり面倒くさかった。スウィートはやはり苦笑いだが。
すると黙っていたアルが発言した。
「シアオの言うとおり、この時間のポケモンはゼクトの言ったことを信じてる。逆にシルドは信用されてない。
それに未来で見たことを言ったとしても、信用してくれる可能性は低い」
「それは、そうだけど……」
スウィートはアルの正論に言葉を詰まらせる。
確かにアルの言っていることは正しかった。
こちらの時間ではゼクトが善人、シルドは逆で悪者だ。それにゼクトは絶対的といってもいいほどの信頼を得ている。
逆にシルドは一度はお尋ね者として世間を知らしめた存在だ。ギルドでも捕まえようとした。ギルドでは悪者というレッテルをまだ貼られているだろう。
それで信じろ、というのはあまりにも無謀すぎる。
けれど、とスウィートはアルの方を、3匹を見た。
「けど…………けど、私は信じたい。ギルドの皆が信じてくれるって」
今度は反論も何も帰ってこなかった。ただ場が静まり返った。
シアオはパチパチと瞬きをして、フォルテは何やら考えているようだ。アルは少しばかり驚いているようだが。
するとシアオが沈黙を破った。
「確かに……そうだよね。こっちが信じないと、絶対に皆は信用してくれないよね!」
明るく、いつもどおりにシアオは笑って見せた。
スウィートも同じように顔を笑顔にした。よかった、と心底 安心したような顔を見せた。
「確かにこのまま4匹でいくより大人数の方が効率いいしねー……」
「……じゃあとりあえず行ってみるか?」
フォルテからもアルからも反論はこなかった。逆に賛成する声だ。
スウィートは顔に思いきり「やった」というのを表現した。分かりやすい。
「うん!」
そしてアルの言葉に、元気よく頷いた。