輝く星に ―時の誘い―












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第7章 それぞれの想い
69話 夜明けの思い
「スー……スー……」

「ひのこー……」

 まだ暗い時間、不意にシルドは目を開けた。
 そして体を起き上がらせ、周りをキョロキョロと見る。アルは規則正しい寝息をたてて寝ているが、フォルテは物騒な寝言を言いながら寝ている。
 しかし人数が足りなかった。

「スウィートとシアオがいない……?」

 そう、2匹がベットから消えていた。
 シルドは首を傾げてから、穴の出入り口へとむかった。
 そして梯子をのぼり、辺りを見るとシアオが1匹だけで座っていた。スウィートはいない。

「……眠れないのか?」

「わ! あ、シルド……。ちょっと考え事をね」

 いきなりシルドが後ろから声にかけ驚いたのか、シアオはビクリと体を揺らしてから反応した。
 シルドはシアオの隣に腰をおろす。シアオは崖の上から海を眺めていた。

「ゼクトのことか?」

「いや、確かに裏切られたのはショックだったけど……。
 でもさっきのシルドの話を聞いて、未来でゼクトが言ってたことはホントだったんだなぁ、とか、スウィートは未来からきたんだなぁ、とか……そんなことを何となく考えてたんだ」

 シアオはアハハ、と乾いた笑い声をあげる。「何かんがえてるんだろうねー」と言っているが、本心としては信じれなくて頭の整理でもしていたのだろう。
 シルドはそれについては何も言わなかった。
 そして思い出したように声をあげ、シアオに尋ねる。

「そういえば……スウィートと一緒じゃなかったのか? 俺はてっきり一緒にいるものとばかり……」

「いや、僕が起きたときにはいなかったよ。多分、スウィートも考え事しにいったんじゃないかな?」

「まぁ確かに。過去のことを聞いてパニックになってる可能性は高いしな」

 探そうとシルドは考えていたのだが、シルドはすぐにその考えを切り捨てた。
 スウィートは1番パニックに陥っているはず。そんなときに自分がいても、役にはたたないと考えた。その役目は、あのサファイアの中にいる者たちに任せて大丈夫だと。
 するとシアオがぽつりと呟いた。

「スウィートは……大丈夫かなぁ」

「……大丈夫だろ。アイツは強いからな」

「それは言えてる。さすが、よく分かってるよね」

「そりゃ案外つきあい長いからな」

 シアオとシルドは他愛の無い会話をする。あまり重々しい話をしたくないからだ。
 少し談笑していると、笑っていたシアオが笑いをとめた。そしてどこかにむかって指をさす。

「シルド! 見てよ!」

「?」

 何事だ、と思いながらシルドはシアオが指をさした方を見る。
 そこにはかつて未来にいた自分が最も憧れ、見てみたいと思ったものがあった。

「朝日だ! 日が昇ってきたよ!」

 シアオのいうとおり、太陽がゆっくり、ゆっくりと上にあがってきて、辺りを照らしていく。2匹とも、黙って日が昇るところを見る。
 そのとき、シアオが不意に口を開いた。

「……綺麗だね」

「あぁ……」

 シアオは嬉しそうに顔を綻ばせ、シルドは少しだが頬が緩んで、珍しく笑顔になっていた。

「今までずっと暗い未来にいたせいか、夜が明けることがこんなにも綺麗で新鮮に感じるとは、僕は思わなかったや……。
 日が昇り、そして沈んでいく。とても当たり前のことが、実はとても、物凄く大切なことだったんだね……」

 しみじみとシアオが呟く。
 それを聞いてシルドは目を伏せ、そしてもういちど目を開いて、朝日を見た。

「俺は暗い時代で生きてきて、太陽というものを知らなかったから……この時代にきて、初めて太陽を見たときに衝撃をうけた。
 そして、だからこそ……暗黒の未来を変えなくてはいけないと強く思った」

「そっか……。……そういえばスウィートは朝日みるのが好きだったなぁ。いっつも朝はやく起きて。
 ……もしかしたら、感覚だけは残ってたのかも」

 シアオとシルドは太陽を眺める。眩しいが、何故だか目が離せなかった。
 朝日をみながらシアオはいつも早起きをして朝日を見ていたスウィートの気持ちが何となく分かった。確かに早く起きて見るだけの神秘さがある。
 これならいつもスウィートが見ていた気持ちも理解できた。
 そうして考えながら、太陽を数秒間ぐらい見ていると不意にシルドが口を開いた。

「そういえばシアオ。お前に1つだけ聞いておきたかったんだが……」

「え、何?」

「未来でディアルガたちに囲まれ、絶体絶命の状況だったとき……」


〈これがお前達の最後だ。消えるがよい!!〉

〈〈〈〈ウィィーーーーー!!〉〉〉〉

〈シルド、スウィート、諦めないで! 何の為にここまで頑張ってきたのさ!?〉

〈っ……。諦めるなと言うが……この状況ではもう何も出来ないだろう!?〉

〈おい、スウィート! 諦めてどうする!?〉

〈だからこそ何か考えなきゃ! この場を打開する方法を……!!〉


「あの状況のなかで最後までお前やフォルテ、アルナイルは諦めなかった。
 お前は1番に諦めるなといい、全員に希望を持たせようと声をかけた。それのお陰でフォルテやアルナイルも諦めなかったんだろう。
 あれはどうしてだ? どうしてあそこまで……気持ちを強くもてた?」

「うーん……。どうしてだろ……」

 シルドの問いに、シアオは顔を上にあげて考える。
 空を見ながら、どんな表情をしているかは分からないが、シアオはポツリと答えを漏らした。

「多分、だけど……スウィートやフォルテやアルが傍にいてくれたからじゃないかなぁ……」

 空を見上げるのをやめ、シアオはシルドにむかって笑顔をむける。そして懐からある物をとりだした。
 それはシアオにとって、全ての始まりともいえる物。

「これ、僕の宝物なんだけど……」

「これは……? 不思議な模様がかかれているな。初めて見たな、こんな模様は……」

 シアオが取り出したのは、遺跡の欠片。
 自分に夢をくれ、友をくれ、始まりをくれた物。

「これは遺跡の欠片。この欠片を解く事が僕の夢でさ、それで探検隊になろうって思ったんだけど、僕はすっごい意気地なしで……。それでフォルテやアルによく罵倒されるけど。ギルドに弟子入りさえ出来なかったんだ。
 それでフォルテによく怒られてた。「なんでそれだけの事ができないんだ」って。
 アルは何も言わなかったなぁ。1回だけアドバイスもらおうとしたら「俺が言っても、それはお前のためにはならない。自分で考えて、行動で示せ」とか言って何も言ってもらえなかったり……」

 そんなに昔のことでもないはずだが、シアオは懐かしむように話す。
 フォルテはいじける自分を叩きなおそうとしていたのだろう。決して「もういい」とは見限らなかった。
 今思えばアルのあの言葉は彼なりの優しさなのだろう。シアオに自分で考えさせ、自分自身で決断させてやらせる。自分でやらせる、というのを学ばせるための。
 シルドは真剣にシアオの話を黙って聞いていた。

「でもそんな時……スウィートに出会った。であったばっかりなのに、弟子入りのとき、スウィートには説教を喰らっちゃったよ」

「スウィートに? ……あいつ、説教ながいだろ」

「うん。でもそのお陰でギルドに弟子入りできたんだ」

 言いながらシアオは苦笑いする。シルドもスウィートの説教と聞いて、多少だが顔をひきつらせていた。喰らったことがあるのだろう。
 確かに長かったが、それがシアオの勇気の一歩となった。あの説教がなければ、今の自分はないだろう。
 それくらい、スウィートには感謝していた。

「あの3匹はいつも僕に元気をくれて、励ましてくれる。フォルテの励ましは不器用ったらありゃしないけど、それはフォルテなりの優しさなんだろうし。
 他にも……いつも僕に勇気をくれる。4匹そろえば何でもできる、っていうのは言いすぎかもしれないけど、でも、そんな感じがするんだ。どんな事だって乗り越えていける……。いつしかそんな風に思えてきたんだ。
 だからあの時、僕は諦めずに頑張れたのかもなぁ……。3匹がいなかったら無理だったかも」

 エヘヘ、とシアオは笑顔で話す。未来では見られなかった笑みだ。
 シルドはフッと笑ってから、少し頬をゆるめて言葉を発した。

「……確かに、分かる気がするな。仲間っていうのは、傍にいるだけで勇気や元気をもらえる。
 シアオは仲間、スウィートたちが大切なんだな」

「うん!それは勿論!」

 シアオは満面の笑みで頷いた。はっきりと意思表示をするように。シルドはシアオの様子を見ながら笑顔になる。

「アイツは……幸せ者だな。お前たちのような友がいて」

 そうポツリと呟いて、シルドは辺りを見回した。すっかり夜はあけ、辺りは明るくなってきている。
 シルドはそれを確認した際で、シアオに声をかけた。

「もう朝だ。とりあえず戻るぞ」

「……スウィートは大丈夫かな」

「あいつならすぐ戻ってくるだろう。いくぞ」

「うん」

 2匹はそういって、穴の中へと入っていった。









 時は戻って、シルドもシアオもまだ起きていない頃。
 私は目をゆっくりと開け、体を起こした。そして穴の中から出る。誰も気付かず、ぐっすりと寝ていた。
 まぁ、起こすのは悪いし。……寧ろ、今は1人にしてほしいんだ。
 夜のトレジャータウンというのはとても静かだった。全員が寝静まり、誰もいない。
 それでも私は進む。何もかわっていないトレジャータウンに安心しながら、そのまま進んでいった。

 そして私が辿り着いたのは――シアオ達に出会った海岸。今の私にとっての全ての始まり。
 私は手頃な場所に座った。そして海を見る。

「……夜の海って、ちょっと不気味だなぁ」

 そんな呑気な感想を述べながら、海をぼんやりと見る。
 不意に空を見上げた。星がキラキラと輝き、月がぼんやりと周りを照らしている。綺麗な夜景だ。
 未来の暗さとは違い、こちらは少し明るいのでなんとも思わなかった。
 未来では、この夜景さえ見られないんだろな、と思うとやはり暗くなる。未来のポケモンに見せてあげたいくらいだ。

 そして決心したように勢いよく顔を戻し、そして――サファイアに意識を集中させた。

 目を開いて、辿り着いたのは真っ白な空間。私の目の前には、1匹のポケモンが立っていた。

「来るとは思ってたけど……こんばんは、スウィート」

「こんばんは。夜おそくにゴメンね、レンス。どうしても聞きたいことがあって」

 1匹のポケモンとは、色違いのサンダースのレンス。表情は笑顔だが、少し苦い顔をしているような気もする感じだった。

 ……おそらく私が来た理由を分かってる。

 レンスはふぅ、と息をつくとその笑顔を消し、目をスッと細めた。

「それで……聞きたいことって?」

「……貴方たちにとっては思い出したくないかもしれない。けれど、私は全てを知りたい。過去の自分のこと全て知っておきたい。
 だから私は聞きたい。





      ――貴方たちがサファイアの中に入ってしまった理由、その真実を」

 これ以上、逃げたくないから。過去から逃げたくない。

「……どうして聞こうと思った?」

 レンスは静かに、私に問いかけた。レンスの目はとても真剣だ。
 私も同じようにレンスをしっかりと見据え、落ち着いた調子で話す。

「自分の正体を聞いたよ。すごい驚いたし、戸惑った。
 それで少し考えて思ったの。私は自分のことを全く知らないんじゃないかって。シルドから聞いたけれど……やっぱり欠けてる部分があるの。
 その欠けてる部分でとくに重要なのが貴方たちのこと。私の傍にいるのに、私は貴方たちのことを知らなさ過ぎる。シルドも、貴方たちのことを話すのは何気に避けていた」

「だからこそ……俺らに直接きこうって訳、か」

 レンスの言葉に、私はコクリと頷いた。

 シルドから語られた部分といっても、ごく僅か。未来のこと、自分の正体、使命。
 だが殆んどといっていいほど、レンス達のことは触れなかった。
 重要で、そして私にはあまり触れさせたくない内容なんだと思う。

 だからこそ、聞かなければならないと思った。
 シルドの気遣いは嬉しかったが、私としてはきちんと知っておきたい。

「レンス達が……どうしても話したくないのなら別にいい。けど、」

「大丈夫だよ、スウィート。俺らもいつか話さなきゃって話し合ってたし」

 レンスは困ったような顔をしながら笑った。
 やはりこの話をするのは辛いのかな……。けれど聞かないわけにはいかない。だって私が今から逃げるわけにはいかないもの。

「スウィートには知る権利がある。だから話すよ」

「……ごめん」

「なんで謝るんだ?」

 つい私が小さな声で謝罪すると、レンスは苦笑した。
 そして私はいつの間にか少し俯きがちになっていた顔をあげ、キョロキョロと辺りを見まわした。

「皆は……?」

「あぁ、全員で話すと色々やっかいだから俺が代表。
 ミングは面倒、ムーンは無口だから話さない、フレアは寝てる、アトラは任せたって逃げた、リアロは私情を挟みそうだから拒否、シクルは俺に押し付けた」

「……そう」

 確かにあの義兄弟なら。
 結局断りきれなかったレンスが代表となったんだと思う。普通は上の者が話さなければいけない気もするが、失礼だがミングがやるとは思えない。
 するとレンスの表情が、真剣なものに変わった。

「じゃあとりあえず……順をおって話そうか」

「……うん」

 ようやく聞ける。
 私の中では「聞いていいのか」といっている自分もいるが、「聞かなければ前に進めない」といっている自分の方が勝った。

 傷つくのを恐れたって、私は何もできない。私は、知らなきゃいけない。自分の身の回りでおこったこと全てを。

 もう、過去から逃げてなんていられない。後戻りなんて、しない。

■筆者メッセージ
次の2話はあまり激しくはないですが、流血描写があります。
ですので読む際はご注意ください。
アクア ( 2012/12/05(水) 22:30 )