67話 元の時代
ただ暗い世界が嫌で。我を忘れている者を見るのが嫌で。悪事に手を染めていく者を見るのが耐えられなくて。
それでも皆はわかってくれない。どんどん変わっていってしまうポケモン達ばかり。
それを見るのがただ辛くて。悲しくて。
ほとんどの皆がそうだったと思う。みんなみんな、嫌だって思ってる。
私の中ではどうして、っていう思いしかなかった。
どうして皆がこんなに変わって、どうして皆が仲良く出来なくなっちゃたんだろう……?
私は、私は皆で一緒に仲良く暮らしたいのに……。皆に幸せになってほしいのに……。
だから私たちは変えようと思ったんだ。
過去を変えて、未来を幸せにって。この真っ暗な世界を、希望のない世界を、希望ある世界にかえようって。
「もしこの時代で星の停止≠ェおこっていなかったら……俺たちは、この時代のポケモンは、幸せでいられたんだろうか……」
星の停止≠ウえおきなかったら、いま狂ってるポケモンだって幸せだったと思う。
きっと平和に暮らせていたと思う。
「私は光のある時代をほんの少しだけ見たことあるわよ。ほんのちょっと、一瞬ともいっていい程しか見ていないのに、とても綺麗だと思えたわ。こんな暗いトコとは大違い」
見てみたかった。そんな時代を。太陽≠チていうものが世界を照らしている時代を。
他にも色んな意見を聞いた。
「狂ってる者を見たくない」、「希望のない未来で生きて何の意味があるのか」、「ゆっくりと、平和に過ごせればいいのに」、「未来がこんなのでなければ変わったはずなのに」。
確かにその通りだって思った。
だから変えようって思ったんだ。私は、私たちは、この時代を、未来を。
変えたら皆が、この時代にいるポケモンたちが幸せになれるって信じて――……。
「う……」
波の音が聞こえて、スウィートは目をゆっくりと開いた。視界はまだぼやけている。
そしてようやく視界がはっきりしてくると、太陽が辺りを照らしていることに気がついた。そして急いで起き上がる。
「ここは……私たちがいた世界……?」
スウィートは驚いて目を見開いた。
今までいた暗い未来とは全く違い、明るい時代だ。
(戻って……ううん、過去にまた来れたんだ……)
自分が未来の人間というのはまだ実感がわかず、戻ってこれたという気持ちの方が大きかったが、すぐに直した。
そしてスウィートは辺りを見る。
海岸に倒れているのはシアオ、フォルテ、アル、シルド。まだ誰も起きておらず、現在おきているのはスウィートだけだ。
「お、起こしたほうがいいのかなぁ……」
といっても誰から起こせばいいのか分からない。というか起こしていいのかどうかも分からない。
それにフォルテを起こすのは正直にいって怖かった。火炎放射をうってきそうだからだ。あとシアオは起こそうとしても中々おきてくれない。それはもう分かりきっていることだ。
だとすると残ったのはアルとシルドのみだ。
「とりあえず……アルを起こそうか」
何故アルかというと、シルドは寝起きがいいか分からないからだ。だとすると知っているアルの方が起こしやすい、そう考えたのだ。
スウィートはよし、と決めてアルの方を向くと
「うぅっ……。どこだ、ココ……」
(せっかく決断したのに!)
タイミングよくアルが起きた。スウィートというと「せっかく決めたのに……」と軽く凹んでいた。
アルは周りを見てから、スウィートに声をかけた。
「あ、スウィート。ここは……俺たちの時代か?」
「た、多分。この海岸は私が倒れてた海岸じゃないかな……」
「……あぁ、確かに。あの海岸だな」
アルは頬を緩ませ、笑顔になる。やはり帰ってこれたのが嬉しいのだろう。スウィートもつられて笑顔になった。
そしてまだ起きていない3匹を指す。
「ねぇ……起こしたほうがいいのかな?」
「……難しい質問だな。とりあえず俺はシアオを起こすから、スウィートはシルドを起こしてくれ。……フォルテは自然に起きるのを待つ。とばっちりは喰らいたくないしな」
「う、うん……」
それはそれでいいのか、と思ったスウィートだが、とりあえずシルドの方に向かった。
そして声をかけてみる。
「え、えっと……シルド、起きて!」
とりあえずスウィート的には最大限の声をだしたつもりで呼んだ。……が返事はないし、起きる素振りも見せない。
スウィートは少し苦い顔をした。どうしよう、と。
「えぇっと……どうすればいいんだろ……。揺さぶる? それとももっと大きな声で呼んだらいいのかな?」
スウィートは考えた。が、揺さぶるのは気がひける。しかしもっと大きな声をだすのは無理だ。どうすることも出来ない。
うーん、と悩んでいると声が聞こえてきた。
「うっ……」
「!」
スウィートが声のした方を見ると、シルドが目を開け、起き上がったのが目に入った。
よかった、と思いながらスウィートは声をかける。
「シ、シルド……。その、大丈夫?」
「……スウィート?」
「う、うん」
シルドは目を瞑って片手を頭にあてる。どうやら寝ていたせいで頭が少々だが痛いらしい。
そして暫くしてからシルドは目を開けて手を下げ、スウィートを見た。
「ここは……過去の時代か?」
「うん」
スウィートは素直に頷いた。シルドは「そうか」と言って黙ってしまう。
どうしようかとスウィートは考えた。すると
「あ、シルド! スウィート!」
アルに起こされたであろうシアオが駆け寄ってきた。アルも少し遅れてきた。
「この海岸は僕らがスウィートと初めて会った場所なんだよ! えっと……」
シアオはキョロキョロと辺りを見回してから、少しだけ離れた場所に走っていく。
そして止まって、その場所から目立つように両手を掲げ、手を左右に振って大声をだした。
「ここらへん! ここらへんでスウィートがいたんだよー!!」
どうやらスウィートが倒れていた場所を示しているらしい。
シルドは立ってシアオがいる場所まで歩き出し、スウィートとアルもついていった。因みにフォルテは完全に放置だ。可哀想な気もするが。
シアオはシルドがきたら指をさして具体的な場所を示した。
シルドはその場所を見ながら黙ってしまう。どうやら何か考えているようだ。それに3匹は首を傾げる。
するとシルドがと呟いた。
「ここに……。俺は東の森≠ノとばされていたが……」
「この場所からは遠いな」
アルはその東の森≠ニいう場所を知っているらしい。
すると4匹とは別のところからうめき声が聞こえた。あ、とスウィートは声の方を見る。
「んっ……。ここ、どこ……」
案の定、そこには寝ぼけているフォルテがいた。
声の調子からして不機嫌だ。やはり低血圧なのは変わらないらしい。
それに気付いていないのか、それとも低血圧なのを忘れているのか、シアオは嬉しそうにフォルテの方にむかって言葉を発した。さらに大声で。
「フォルテ!! 僕ら、元の時代に戻ってこれ――」
「うっさいわね! 少しぐらい音量さげなさいよ!!」
「うわぁ!?」
フォルテは大声をだしたシアオにむかって、容赦なく火の粉を繰り出した。シアオはスレスレで何とか避けた。そのまま砂に体をつけてしまう。
やはり、というような感じでスウィートとアルは同時に溜息をついた。シルドは顔がひきつっている。
「……ん? 元の時代? ってことは此処は……」
「フォ、フォルテ。ここは私たちが初めて会った海岸だよ」
「やっぱり!」
シアオに攻撃したのに謝罪はしないらしい。
スウィートの言葉を聞いて、フォルテは嬉しそうな笑みを零した。それはいいが、シアオは納得いかなそう顔だ。
体についた砂を叩きながら、シアオは不満をこぼした。
「うー……。なんで僕ばっかり攻撃を喰らうのさ……」
「フォルテが低血圧だってのを忘れたお前が悪い」
しかしバッサリとアルが切り捨てた。シルドは困ったような顔をする他なく、フォローも賛同もしなかった。
少しフォルテと会話していたスウィートは、全員を見た。
「とりあえず場所を移動しよう。ここじゃ少し話しにくいし」
「賛成。……といっても何処にいく?」
スウィートの提案に、アルがすぐに賛成した。他の3匹も何も言わないということは、異論はないのだろう。
すると元気よくシアオが手をあげた。
「ギルドは?」
「却下。シルドはこの時代ではお尋ね者だ。行ったら捕まるのがオチだろ」
「ばーか」
シアオの意見にすぐに異論を唱えたのはアルで、その次に余計な一言を言ったのはフォルテである。
それで喧嘩がおきない訳もなく
「馬鹿って何さ!?じゃあフォルテは気付いてたっていうの!?」
「き、気付いてたわよ! あたしはアンタみたいな馬鹿じゃないもの!」
はぁ、とアルはまた溜息をついた。
とりあえず喧嘩している2匹は無視して、3匹で論議することにした。
「ポケモンが少なくて、話しやすい場所かぁ……。カフェも無理だし……」
「俺はこの辺は知らないしな……」
「……あ」
すると思い出したようにアルが声をあげ、顔をあげた。
スウィートとシルドはアルの方に目をむける。そしてスウィートは首を傾げながら尋ねた。
「どこかあるの?」
「あぁ。人通りが少く、話すのにも最適な場所がな。……ただ、トレジャータウンを通ることになる」
「トレジャータウン?」
スウィートは「そんな最適な場所あったっけ」と首を傾げて、シルドは聞きなれない単語をオウム返しにように呟いた。
アルはシルドの疑問を返す。
「時空ホール≠ェあった場所だ。店が並んでただろう」
「……あそこか。確かにたくさんのポケモンがいそうだな。まぁ、穴を掘るで進めば問題はないだろう」
嫌な記憶でも巻き起こされたようで、シルドは顔を盛大に顰めた。
とりあえず問題が解消されたのでもういいらしく、アルは未だ喧嘩している2匹の方を見る。
「……まずアイツらを止めないことには行けないんだがな」
「ア、アハハ……」
スウィートはアルの言葉に苦笑しかできない。自分ではどうしようもないからだ。シルドもさすがにあきれ返っていた。
するとアルははぁ、と溜息をついてから2匹の元に向かい
「いだ!?」
「いっ!?」
右手でシアオ、左手でフォルテの頭を強く叩いた。叩かれた2匹は頭を抑えて呻く。
スウィートは「痛そうだなぁ」などと、シルドは「コイツ(アル)は大変だな……」と頭の中で考えていた。
「いい加減やめろ。とりあえず移動するぞ」
「だからって叩くことないじゃん!?」
「そうよ! 声かけるぐらいでいいじゃない!?」
「声をかけてお前らが反応するならな」
アルはそう言うと、スウィートとシルドの方へと歩く。不満げな顔をしながらも、シアオとフォルテはアルの後ろをついてきていた。
その光景にスウィートがまた苦笑した。