65話 闇のディアルガ
ダンジョンへと入り、スウィート達は順調に進んでいた。
シルドとレヴィ、2匹はとんでもなく強かった。なのでいつもより進むのも速い。その為、スウィート達は雑談を挟みながら進んでいるが。
「ってことは……フォルテとアルは誰かに押されて入ったってこと?」
「えぇ。押された感覚はあったから」
そしてスウィートはフォルテとアルに、時空ホール≠ノ入った経緯を聞いていた。
スウィートとシアオはゼクトに掴まれて先に入ったし、シルドは1番に入れられたのでフォルテたちが入った経緯など知るよしもない。
だから本人たちに聞いているのだが――押されて入った、という事しか分からないらしい。
「にしても……それが故意の行動だと、そいつはゼクトと同じ刺客ってことになるな」
「刺客……かぁ」
「シルド、ゼクト以外に刺客はいるのか?」
考えながら呟いたシルドの言葉の「刺客」というのにシアオとアルは反応し、アルはシルドに質問した。
シルドは手を顎にあててから、暫くして首を横にふった。
「知らないな。ゼクト以外に刺客がいたなんて……レヴィは何か知っているか?」
「いいえ、私も知りません。聞いたこともありませんし……」
レヴィも同じように知らないようだ。6匹は首を傾げた。
だとしたら一体だれがフォルテとアルを押し、時空ホール≠フ中に入れて、未来まで連れてきたのか。
シルドやレヴィが知らなかっただけか、それともシルドが向こうにいってから新しくできた刺客か、向こうでゼクトが何か命令でもしてヤミラミ達が待機していたか。仮説ならたくさんある。
「とりあえず……注意しておく必要はあるよね。きっと敵だろうし……ゼクト側だと思う」
スウィートがそう言うと、全員が頷いた。シアオは心なしか、表情が少し暗かったが。
するとスウィートが「あ」と声をあげ、フォルテの方を向いた。
「えっと……その、シアオがフォルテがいない間に、」
「ちょ、スウィート! それをいま言うの!? そこは言わないべき――」
「へぇ? アンタはあたしを怒らせるような事を言ったって事かしら?」
シアオがギギギという効果音がつきそうな感じで、シアオがゆっくりと後ろを見ると、そこには満面の黒い笑みをしたフォルテがいた。話なさい、と無言で言っているようだった。
シアオがダラダラと冷や汗をかく。確かにフォルテに関して色々言ったのは確かであった。
「ちょ、フォ、フォルテ? 笑顔がとーっても黒いように見えるようなのは気のせい? 気のせいだよね?」
「何を言ったのか白状してみなさい? できないのなら……焼くわよ」
(どっちにしろ焼かれる様な気がするのは気のせい!?)
シアオは心の中で悲鳴をあげる。
ただフォルテにとってその沈黙は、白状できないようなことを言った、という意味に捉えたらしい。
「フフフッ……覚悟しなさい、火炎放射ッ!!」
「もう嫌だ! 何この展開!?」
シアオはでんこうせっかやら何やらを使ってフォルテの攻撃をかわす。ギリギリなので結構あたりそうだ。フォルテはシアオに構わず攻撃を続ける。顔が笑顔だが、目は笑っていない。
するとそんな2匹を見ていたシルドとレヴィがポツリと言葉を漏らした。
「……ダンジョン内でやるか? 普通」
「うわぁ……何というか、ハイレベルな喧嘩ね」
シルドの言葉は正しく正論だが、それに大してレヴィは呑気すぎる感想だ。
スウィートは苦笑し、アルは溜息をついた。
「何というか、これがいつもだよね」
「こんなものを当たり前にされても困るんだがな……」
その言葉にスウィートはまたしても苦笑した。
けれど、「いつも」に戻れてスウィートはホッとしていた。スウィートは「フフッ」と小さく笑った。「いつも」の光景が見られていることに安心して。
その笑みに気づく者は、誰1人としていなかった。
――――森の高台――――
ようやくダンジョンを抜け、少し歩いたところ。するとレヴィが言葉を発した。
「見えてきました、あそこです。あれが時の回廊=v
レヴィの指をさした方向を見ると、青い綺麗な光が門のようなものを作っていた。
(凄い……。何というか、神秘的)
スウィートの第一印象はそうだった。
ゼクトが使っていた時空ホール≠ヘブラックホールみたいで気味が悪かった。だが、時の回廊≠ヘそんな感じは全くしなかった。
「あれが……時の回廊≠ネんだ」
「そうだ。そこを通って俺は過去へ行ったんだ」
へぇ、と納得したように『シリウス』が声を漏らす。
そしてシルドはレヴィの方を向いた。
「レヴィ、さっそく扉を開けてくれ」
「はい。まかせてください」
レヴィはシルドの言葉に力強く頷き、そして時の回廊≠ヨと歩み寄る。
それにスウィート達もづつき、数歩すすむと
「待て、そこまでだ!!」
「「「「「「!?」」」」」」
いきなり聞こえてきた声に驚き、6匹は足を止めた。
その声には全員、聞き覚えがあった。そして時の回廊≠フ方を見ると
「よくここまで逃げたものだ。それは褒めてやろう」
「ゼ、ゼクト!!」
「ゼクトさん……!」
シルド目を見開きながら、シアオが呆然と、震えた声で呟いた。
そう、そこにたのはゼクトだった。敬語など完全に外れている。フォルテはサッと1番ちかくにいたアルの後ろに隠れた。
「だいぶ逃げ回ったようだが、もはやここまでだ。諦めるんだな」
「「「「ウィィィィィィーーー!!」」」」
「なっ……!」
「いつの間に……!?」
スウィート達が周りを見ると……ヤミラミたち数匹がスウィート達を囲んでいた。これでは、逃げ場がない。
それを見ながら、シルドは小さく、ゼクトに聞こえる音量で呟いた。
「……フン。そういう事か、ゼクト。俺たちをわざと泳がせて、レヴィまで一緒に捕らえようって訳か……」
「えぇ!? って事は僕らはずっと後をつけられてたって事!?」
シルドの言葉に、シアオは驚いたように声をあげた。ゼクトは勝ち誇ったような笑みを浮かべている。
それを見て、シルドは忌々しげに舌打ちした。
「チッ……。こんな事になるとはな。悪いな、レヴィ」
「あら? 謝るなんてシルドさんらしくないですよ? それに私が捕まると思います? ウフフッ」
「すっごい自信ね、アンタ……」
フォルテがほんの少し、尊敬の眼差しでレヴィを見た。まずゼクトをどっかにやってくれ、と願いながら。
シルドは軽く辺りを見渡し、声を張り上げた。
「お前ら! 戦う準備はできてるか!?」
「え? あ、もちろん!」
「私は大丈夫」
「……俺も大丈夫だ」
「私もオッケーですよ」
「…………。」
シルドの声に、シアオ、スウィート、アル、レヴィは返事をしたが、沈黙を通したのがフォルテ。
そんなフォルテに構わず、シルドは声をもう一度あげた。
「ここは強行突破するぞ! アイツらを蹴散らし……時の回廊≠ノ飛び込む!」
「わ、分かった!」
シアオは慌てて首を縦に振った。その目は少し揺らいでいたが、すぐに真剣な顔つきになる。
その様子を見たゼクトはフッと笑った。その行動をあざ笑うかのように。
「抵抗するつもりか? 無駄なことはやめろ。お前達に勝ち目はない」
「そんな事、やってみなければ分からないだろう! ゼクト、お前が相手だろうがな!」
シルドは鋭い目でゼクトを睨む。ゼクトはまだ笑みを浮かべていた。
そしてゼクトはもう一度、フッと笑った。そしてゆっくりと言葉を発した。
「シルド。お前は何か勘違いしていないか? ここに来たのが私だけだと、誰が言った?」
「なっ、何!?」
「え……!?」
ゼクトの言葉に、シルドは動揺したように、スウィートは呆然と言葉を発した。
次の瞬間、辺りが真っ暗になる。スウィートはゾクリ、と何かの存在を感じた。とてもつもない威圧感を発す、何かの存在に。
(何、この感じ……!? 嫌……!)
一生懸命、悪寒を取り払おうとする。だが、ゼクトの言葉とともに、頭が真っ白になった。
「ディアルガ様」
ゼクトがそう言ったとともに、辺りが真っ暗になった。それに6匹が冷や汗をたらす。いい予感は、ない。
スウィート達が身を固めていると、耳に凄まじいものが入ってきた。
「グォォォォォォォォォォォッ!!」
「こ、この雄叫びは……?」
「まさ、か……」
シルドが上を、時の回廊≠フ後ろにある崖の頂点を見上げた。それに続き、5匹も上を見る。
そこには、予想外の者が。
「グォォォォォォォォォォォオッ!!」
赤い大きな宝石を胸につけ、絶対的な威圧感を放つ、邪悪な、恐ろしい存在――……。
崖の頂点には闇のディアルガ≠ェ、6匹を圧倒的な存在感を漂わせ、睨みつけていた。それだけで、体が竦みそうになる。
「あ、あれは……」
「な、何よ……アレ……!?」
「や、闇のディアルガ=c…!!」
シルドが呆然と呟いた直後、『シリウス』はシルドの方を見た。
それに反応することはなく、シルドもレヴィも、呆然と闇のディアルガ≠見ていた。目を大きく見開いて。2匹にとっても、予想外のことだったのだ。
(あれが……闇のディアルガ=I? 威圧感が、存在感が違いすぎる……!!)
スウィートは思わず、体を恐怖で震わせた。今まで味わったことのない、恐怖。怖い、恐ろしい。そんな思いがスウィートを支配した。
そんな6匹の様子を見て、ゼクトは薄ら笑いを浮かべた。
「シルドよ。さっきの威勢のよさはどうした?」
「くっ……」
シルドが苦々しい顔をするのとは反対に、ゼクトは不敵に笑っていた。その後ろの崖には、禍々しい存在感の闇のディアルガ
少しの間、シルドは顔を俯かせてから、そして顔をあげたと思うと
「……降参だ」
「え!?」
「シルドさん!?」
自ら敗北の言葉を口にした。5匹は反射的に声をあげ、シルドを見る。折角ここまで来たというのに。
しかし5匹はシルドの気持ちを頭の中で理解しているのだ。闇のディアルガ=Bあれの存在が、とてもつもなく大きすぎる。自分たちでは敵うはずがない。そう、直感で感じてしまっている。
だから、シルドに直接抗議することができない。
シルドは悔しそうな顔をしながら、言葉を並べていった。
「無理だ……。ゼクトだけならともかく、闇のディアルガ≠ワでいるとなると……とても敵わない。
お前らもよく頑張ってくれたが……すまない、ここまでだ」
「そ、そんな……!!」
シアオが泣きそうな顔をしながら、シルドに何か言おうとする。
しかしどう言葉をかければいいのか分からない。自分だって、あの闇のディアルガ≠ノ敵うなどと、思えない。そう思うと言葉が全く見つからなかった。
迷っているシアオを他所に、シルドは両手をあげた。いわゆる、降参のポーズ。
「降参だ、ゼクト。好きにしろ」
「フッ。どうした、シルド。お前にしてはやけに諦めが早いな」
ゼクトはあざ笑うように言う。不敵な笑みを浮かべたまま。
シルドは苦々しい顔から真剣な顔つきになり、フッと笑った。それは、諦めたといったものではない。
他が首を傾げているのを気にもせず、シルドは言葉を発した。
「まぁな。確かに俺は諦めたが……まだ希望はある。
レヴィは知っていると思うが、過去にいったのは俺だけじゃない。もう1人いる」
「え!? シルドだけじゃなかったの!?」
シアオが驚愕の表情をしながら言う。『シリウス』は全員シアオと同じような反応だった。レヴィは、黙ったまま。
そのままシルドは言葉を続けた。
「そうだ。俺には相棒がいた。俺はソイツとともに過去にいったんだ。ただ時の回廊≠通っている最中に事故があり、はぐれてしまったがな。
しかしアイツはまだ過去にいるはずだ。アイツなら俺の代わりに使命を、星の停止≠食い止めてくれるに違いない。だから、」
「フッ……フフフッ……フハハハハハハハッ!!」
いきなりゼクトが笑い出したことにより、シルドが言うのを止める。しかしゼクトは気にせず愉快そうに、ただ笑っていた。
そんな様子のゼクトを見て、シルドは顔をしかめる。
「…………何がおかしい?」
「フッ……。お前の他に過去にいった者がいるというが……そいつの名を言ってみろ」
「何?」
ようやく落ち着いたゼクトが言った言葉に、シルドは怪訝そうな顔をした。それはレヴィも同じだ。
シルドは胡乱げな目でゼクトを睨む。
「……何が目的だ。お前も会ったことがあるだろう。分かっているはずだ」
「あぁ。まぁ、言ってみろ。それともいえないのか?」
するとピリピリとした空気が場を包んだ。
シルドは目を細めたあと、口を開いた。
「……名前はスウィート。スウィート・レクリダ。俺の相棒であり、親友だ」