63話 時渡りポケモン
スウィートとシアオがシルドを追うと決め、少し進むと、シルドにすぐ追いついた。
すぐに追いつけるよう、ずっとあのペースで進んでいたようだ。
スウィートがそれに気付き、クスクスと笑うと、すぐにシルドに睨まれた。それでも笑いはすぐに止まらなかったのが。シアオはそんな2匹を不思議そうに見ていたが。
そして少し進むと、森のような場所に来た。
森といっても木は黒いし、黒い霧がかかっている。過去の世界の森と比べると、あまり森らしくはなかった。
するとスウィートは何かを感じた。
(……! あれ……? 何だろう……今の感覚は……。前にも感じたような……)
どこかで感じたことのある感覚。それが思い出せず、スウィートはモヤモヤとした気分だった。
シアオはそんなスウィートに気付かず、シルドに問いかける。
「シルド、ここは何処なの?」
「ここは“黒の森”。絶えず黒い霧がかかっているので、そう呼ばれている」
「ふーん……」
シアオはキョロキョロと周りを見た。まず第一に感じたことは
(フォルテが苦手そうだよねー。不気味とか言って。というかフォルテはこの未来世界で生きていけないと思う)
というものだった。自由な考えだが、フォルテに聞かれたら間違いなく、お約束の火炎放射だろう。
するとシアオに気にせず、シルドは付け加える。
「そしてこの森の奥深くに……レヴィがいるはずだ」
「あのさ、レヴィって名前だよね? それでそのポケモンの種族がセレビィとかいう……。いったい誰なの?」
「お前が言った通り、種族はセレビィ。名前はレヴィリネ・シェレセ。愛称はレヴィ。レヴィは伝説の時渡りポケモンであり、時間を越える力が使える。
まぁ、ちょっと変わった奴でもあるんだが……。とにかく俺が過去にいけたのは、レヴィの力を借りたからだ」
シルドは一部、何か思い出すように話していた。おそらくそのレヴィというポケモンの姿を思い浮かべていたのだろう。
伝説、と聞いた瞬間シアオの体がビクリと震えたのは気のせいにしておこう。
「じゃあ……そのレヴィっていうポケモンに会えば、僕らは元の世界に帰れるって事?」
「あぁ、帰れる。ただレヴィは、俺を過去に送ったポケモンだ。つまりレヴィも、歴史を変えることに協力した者」
「あ……! って事は……」
シアオはそう言って、続きを言うのを渋った。そして表情を暗くする。
しかしシルドは特に気にした様子もなく、続けた。
「レヴィもまた、闇のディアルガ≠ノ追われているポケモンだ」
「やっぱり……」
やはりシアオも同じことを考えていたらしい。シアオは俯きかけていた顔を前に向けた。
「ぐずぐずはしていられない。準備したらすぐに、レヴィを探しに行くぞ」
するとシルドはガルーラ像の方まで行った。
そのとき、シアオが「使えるんだろうか?」と疑問に感じたのは、仕方ないことだろう。
「ね、スウィート。僕らも準備を――……」
そしてようやく、スウィートの様子が変なことに気付いた。
森をジーッと見ているが、森を見ているのかといわれると、そうは感じなかった。おそらく本人は今、森を見ていることにさえ、気付いていないだろう。
シアオは首をかしげているが、その本人、スウィートは考え事をしていた。
(この感覚……。懐かしいような……見たこと、来たことがあるような感じ……)
“黒の森”に来てからずっと感じていた、懐かしいような感覚について考えていた。
スウィートはこの感覚がどこかで感じたことがある、と思っていた。だがなかなか思い出せず、ずっと悩んでいた。
(確か……この感覚は…………。あ、そうだ、ベースキャンプだ!!)
ようやく思い出し、スウィートのモヤモヤが晴れた。
そしてベースキャンプで感じたときのことを思い出す。テントに入れと言われたときに――
〈ここ……懐かしいような……。見たこと、来たことがあるような気がする……。いつ……? いつ来たことが――〉
全く同じ感覚だ。懐かしいようで、来たことがあるような場所。
スウィートが1匹だけで納得していると、ずっと黙っていたシアオが
「スウィートってば!!」
「え? あ、何?」
大声でスウィートを呼んだ。スウィートはようやく我に返り、慌ててシアオの方をむく。
本当に何も聞いてなかったんだなぁ、とシアオは思いつつ、ガルーラ像を指さした。
「準備したらすぐ行くって。だから準備しよう」
「あ、うん」
スウィートは急いでガルーラ像に向かって、道具の準備をし始めた。
そのとき、「何でガルーラ像が使えるんだろう?」と思ったのは仕方ないことである。
――――黒の森――――
「タネマシンガン!!」
「こっちも! まねっこ!!」
ワタッコは繰り出した技を避けてから、それをシアオが真似して同じ攻撃をする。その攻撃はワタッコは予想外だったらしく、そのまま喰らった。だがまだ倒れていない。
しかしその後ろには容赦ない攻撃――
「叩きつける!」
とはいかず、倒すぐらいの力しか出していないシルドが止めをさした。
シアオは別に協力していることについては、何も思っていないようだ。どちらかというとさっきからこんなパターンの攻撃が多い。
「よしっ……。シャドーボール!!」
スウィートはシャドーボールを、ムウマージに向かって2発ほど撃ち込む。
そのシャドーボールを、ムウマージはマジカルリーフで打ち消す。スウィートが移動していることに気付かず。
「シャドーボール!!」
「!」
ムウマージが慌てて声をした方を見ても、時既に遅し。シャドーボールがムウマージに直撃した。
効果抜群の技を喰らったからか、ムウマージは倒れた。
「でんこうせっかとか
真空瞬移はやっぱ便利……」
スウィートがボソリと呟いた一言は、誰にも聞かれずに消えていった。
「ダンジョンは抜けた、のかな……」
シアオが周りをキョロキョロをしながら言う。
今3匹がいる場所は岩が連なって、高台を造っていた。高台の上には木があり、そして草が生えていた。そして上り坂なので、進むのはエラそうだ。
シルドはその高台の下で歩みをとめる。シアオが首を傾げた。
「ここ、なの?」
「あぁ。俺がレヴィと出会ったのもここら辺だった。
闇のディアルガ≠ノこの場所を知られていなかったら、レヴィはここにいるに違いない」
「へぇ……」
でも見る限り何もいない。もしかしたら隠れているのかも、とスウィートは思いながらシルドを見る。
「で、レヴィさんをどうやって呼ぶの?」
「簡単だ」
「「?」」
簡単、と聞いてスウィートとシアオは首を傾げる。
まさか大声で呼んだりしないだろう、とスウィートは考えた。自分たちはヤミラミ達に追われている身。大声など――
「おい! レヴィ!! 俺だ、シルドだ!! いるなら出てきてくれ!!」
((大声だしたっ!?))
スウィートとシアオの心が一致した瞬間だった。
シルドが大声をだした後、周りは静けさを取り戻す。返事する者も、出てくる者もいない。
「出て、こないね……」
シアオがまた辺りを見渡しながら言う。
呼んでもレヴィは出てこなかった。シルドと名乗っても、だ。だとすると考えられることは
「もう逃げちゃったのかな……」
シアオの言ったとおり、もう逃げたという可能性。
スウィートも薄々とは考えたが、あまり考えたくは無かった。シルドもそれは一緒だろう。
暫くしてシアオが「あ!」といって、顔を青くさせた。スウィートとシルドはシアオを見る。シアオはおずおずとだが発言した。
「もしかして……もう、闇のディアルガ≠ノ捕まっちゃったり……」
「捕まるですって?」
「「「!」」」
どこからか聞こえたソプラノの声に、3匹が反応した。
3匹ともキョロキョロと辺りを見渡すが、ポケモンらしき者はいない。スウィートとシアオは首を傾げた。
「さっきの声は……」
「でももう何も聞こえないよね……。空耳、だったのかな?」
確かにその可能性がある。なぜならどこを見てもいないからだ。高台を見上げてみたりもしたが、やはりいない。
そして暫くすると
「ウフフッ、気のせいじゃないわ。
私が捕まるですって? 失礼ね。私が捕まるなんて、ぜぇったいにありえないわ! フフッ」
言葉が終わると、3匹の前にとつぜん光が現れた。
その光はどんどん消えてゆき、そして光が完全に消滅したと思ったら、ピンク色の体をしたポケモンの姿。
「お久しぶりです、シルドさん」
「……あぁ、久しぶりだな。レヴィ」
「え……え、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇえぇぇッ!?」
レヴィ、と呼ばれたポケモンをみて、シアオは驚いた顔をしながら絶叫をあげた。
スウィートは咄嗟に耳を塞いで音を防いだ。そして3匹の注目がシアオにいく。シアオはレヴィを指さした。
「コ、コレがセレビィ!? で、伝説のポケモンの!?」
かなり動揺したように言った。かなり驚いているようだ。
するとレヴィはむっとした表情になってから、シアオの方を向いて発言した。
「君ねー。私、貴方にコレ呼ばわりされる筋合いはな・い・ん・だ・け・ど!」
最後の部分をとても強調しながら、レヴィはシアオに言った。
シアオは少し間をあけ、ようやく我に返ったのか、慌てて言葉を発した。
「ご、ごめん……。時間を超えることのできる伝説のポケモンって聞いてたから……何かこう、もの凄いポケモンを想像していたんだけど……」
「失礼ね。見た目で判断するのはよくないわよ。
……けど、許してあげる。それって私が思いのほか可愛くて、特別ってことでしょ? ウフフッ!」
(うわぁ……ポジティブ……)
「ま、まぁ……」
スウィートが少し顔をひきつらせながらレヴィを見て、シアオはたじたじになりながら、レヴィの言葉を肯定した。
本当はそうではないが。自分達と同じぐらい小さいポケモンが、伝説のポケモンで驚いただけだ。シアオの伝説のポケモンといったら、グラードンが強く印象に残っているため、そんなことになっている。
すると先ほどから2匹のやりとりを見ていたシルドが、レヴィに向かって言った。
「レヴィ、また力を貸してほしい」
「分かってます。こうやってシルドさんがここに居るってことは、過去で失敗したから戻ってきたんでしょう?」
「うっ……まぁ、そうだが……」
レヴィの言葉にシルドが顔をひきつらせながら答える。
まぁ、失敗したのは事実なので頷くことしか出来ない。プライド的に言いたくなかったのだろうが。
「しっかりしてくださいよね。私、もう嫌ですから。こんな暗い世界で生きていくなんて……」
「悪いが無駄口を叩いている時間はないんだ。ヤミラミに追われている」
「分かってますよ。まぁ、私はヤミラミが来たって、どうってことないですから。フフッ。
それに……もし星の停止≠食い止めることが出来て、この暗黒の世界≠ェ、過去のように光あふれる世界に変わるのなら……私も命をかけて、シルドさんに協力します」
レヴィの言葉を聞いた瞬間、スウィートとシアオはシルドの言っていたことが本当だということを自覚した。
命をかけて、という言葉を聞き、それほど強く覚悟しているというのを実感した。それにレヴィが嘘を言っているようにも思えない。
だから2匹は本当なんだな、と改めて思ったのだ。
「……それで、時の回廊≠ヘ?」
「はい、この森をこえた高台のところに時の回廊≠ヘあります」
「よし、なら案内してくれ」
「はい」
何やらどんどん話が進んでいっている。
2匹は何のことか分からないが、もう少しで帰れる道があるというのは分かった。
レヴィは3匹を順番に見る。そしてスウィートとシアオに目をうつした。
「あ。私はレヴィリネ。レヴィと呼んでくれて結構よ。種族はセレビィ」
「あっ、僕はシアオ! 見ての通り、リオルだよ。因みに僕ら過去から来たんだ」
シアオの言葉にレヴィは少しだけ目を見開いたが、すぐに戻った。
そしてレヴィはスウィートに目がいった。スウィートはハッとなり、急いでシアオの後ろに隠れた。そんなスウィートの行動にシルドとレヴィが首を傾げる。
するとシアオが苦笑しながら答えた。
「スウィートは極度の人見知りなんだ、ごめんね。……スウィート、自己紹介ぐらいしようよ」
「ス、スウィートです……。種族は、イーブイ……」
最後の方に至っては、ほとんど何も聞こえないと言ってもいいほど小さかった。
そしてレヴィは名前を聞いて、何故か驚いたような表情をしたが、「まさか、ね……」といって表情を戻した。
「えっと……とりあえず今回時の回廊≠渡るのはこの3匹――……じゃなかった、5匹でいいんですね?」
「……5匹?」
レヴィの言葉に、シルドが顔を顰めた。
いまこの場にいるのはレヴィをあわせて4匹。そしてレヴィは時の回廊≠渡らないつもりだろう。
だとしたら残り2匹は一体なんなのか。
「あ、すみません。えっと……この上の道で待たせてあるんです。何でも過去から来たって……」
「過去から? ……妙な話だな。まぁ、とりあえず行くか」
そしてレヴィを先頭に、シルド、シアオ、スウィートと進んでいく。
すると4匹の耳に、何やら怒鳴り声やら何やらが聞こえてきた。
「――! ――のよ!」
「――るか。――に――い……」
「「!」」
どうやら2匹で話しているようだ。その声を聞いて、スウィートとシアオは咄嗟に顔を見合わせた。
なぜなら、その声に聞き覚えがあったから。
「ねぇ、スウィート。さっきの声って……」
「うん……。でも、ここ未来のはずだけど……」
「どうかしたの?」
2匹が首をかしげていると、レヴィが声をかけてきた。シルドも怪訝そうな顔をしている。
スウィートとシアオは耳を澄まして聞くが、やはり聞き覚えのある声だった。更にとても聞き覚えのある声。ずっと聞きたいと思っていた声。
「いや、聞いたことのある声がするなーって」
「過去から来たって言ったわよね……。あの2匹もそうだし……。もしかしたら知り合いなのかも」
「ちょっと先に行かせてもらうね!」
シアオは声の主を早く確かめたいらしく、スウィートとともに駆け出した。
上に、上に。上り坂を出来るだけ早く駆け上がる。
すると、そこには
「おっそーーい!! レヴィは一体なにやってるわけ!?」
「煩いから静かにしろ。というか大人しく待てよ。……はぁ」
赤いスカーフを巻いたロコンと、青いスカーフを巻いたピカチュウがいた。