56話 少しの平穏と動く影
広場での集会がおわり、弟子達はギルドに戻っていた。それはスウィート達も論外ではない。
ギルドに戻ったスウィートは1番に凛音の元に向かった。
シアオやフォルテ、アルはメフィの元に。つまり『アズリー』の部屋。
そして今は凛音の2匹だけで『シリウス』の部屋にいた。そして広場であった話を凛音に話していた。
「そうですか……。…………それにしても引っかかりますね」
「何が?」
「いえ……。お気になさらないで下さい」
凛音の言葉にスウィートは首を傾げる。
どこが引っかかったのだろうか、と。確かに自分も少しは引っかかっている部分もあるが。
凛音は少し間を空けてから、本題に入った。
「それと……ガブリアスの件ですが」
「!」
スウィートはピクリ、と耳を反応させる。
元々、凛音の元に来た理由はこれを聞くためだった。
ガブリアスから聞いた話を凛音に聞くため。とてもスウィートにとって引っかかっていたのだ。
スウィートも凛音も真剣な顔つきになる。
「ガブリアス本人に、色々と聞いてみました。名前はフェヴス・エイレット。彼は探検家で、ランクはダイヤモンドランク。ダイヤモンドランクといったらかなり実力があるほうでしょうね」
そんな探検家が何故、ああなったのか。
スウィートはとりあえず口を挟まず黙って聞いていた。凛音も淡々と話していく。
「彼は狂っていたときの記憶が曖昧だそうです。よく覚えていないと。それで記憶がある部分から話してもらいました。
彼は依頼をうけるため、ダンジョンまで来ていたそうです。そしてダンジョンの入口のところ……。ダンジョンに入ろうとしたろ頃、背後から攻撃を喰らったそうです」
「……背後、から…………」
「そして姿を確かめようとすると、技をもう一発くらって、そこから記憶が途切れた。
ただ………………2匹いること、ガブリアスのような大柄なポケモンでない事は確かめられたそうです。……これだけですね。得られた情報は」
凛音は話し終わると、部屋に沈黙がおとずれる。
そして唐突にスウィートが口を開いた。
「そういえば、私たちが駆けつける前、凛音ちゃん達はどうやってフェヴスさんに会ったの?」
スウィート達が駆けつけたときにはもうボロボロだった。さらにメフィの傷は結構ひどい。
その経緯を何となくスウィートは知っておきたかった。
「そうですね……。私がダンジョンで探検するときに、メフィとは別に行動することは知っていますよね?」
「うん」
確かに“北の砂漠”に行くときにメフィがそう言っていた。いつも別行動をしていると。
凛音は話を続ける。
「今回も勿論そうでした。そして私が階段を見つけ、行こうとしたところ――メフィの悲鳴が聞こえてきたんです。声もそんなに遠くなかったのですぐに駆けつけました。
それで私がみた光景は、フェヴスさんがメフィに止めを刺そうとしているところ。私はすぐに睡眠の種を投げたのですが……」
「効かなかった……だよね」
スウィートの言葉に凛音はコクリ、と頷く。
「フェヴスさんは私に気付き、いきなり火炎放射を撃ってきました。種が効かないのに驚いていた私は……咄嗟のことで避けられず直撃しました。そしてそのままドラゴンクローを喰らい……何とか直撃は避けましたけれど。
……あとはスウィート先輩が知っている通りです」
「そっか……。ありがと、凛音ちゃん。……そろそろメフィちゃん達のところにいこっか」
「そうですね」
スウィートと凛音は立ち上がり、『シリウス』の部屋を出た。そしてメフィやシアオがいる『アズリー』の部屋にむかった。
――――パッチールのカフェ――――
「なーんか最近、色々とあったわね。こういうの久しぶり」
フォルテは言い終わるとジュースを飲む。今、『シリウス』は“パッチールのカフェ”でそれぞれのジュースを飲んでいるところだった。
あの後、スウィートと凛音が部屋にいくと、メフィは起きていた。
ほとんどいつも通りのように元気な声だったので、あのままいけば順調に回復するだろう。凛音は質問攻めにあっていたが。
おそらく2匹だけで話したいこともあるだろう、とスウィートが強引に3匹(正確には2匹)を部屋から連れ出したのだ。シアオとフォルテは疑問符を頭につけていたが。
そしてスウィートが“パッチールのカフェ”に行こうと言い出し、今にいたる。
「そうだね。時の歯車¢{索とジュプトル捕獲作戦……。ゆっくりなんてできなかったもんね」
「そういえば掲示板の依頼がすごいことになってるの知ってる? 全く依頼を受けてなかったから依頼の紙がすっごい貼ってあったよ」
「確かに凄いことになってたな。まぁ、明日から皆でやってくから減るんじゃないか?」
順にスウィート、シアオ、アルが発言していく。
のんびりとした時間。この時間がスウィートにとってとても幸せに思えた。最近はこんなゆっくりできなかったのだから。
「やっぱ平和が1番。のんびりするのがいいわよね〜」
「フォルテ。それって年寄りがよく言う台詞だよ」
「あーそう。アンタはあたしに喧嘩うってんのね? 買ってやるわよ! 死になさい、このヘタレが!!」
「売ってないし! さらにヘタレって言わないでってば!」
これも久々なやりとりだ。
フォルテの発言に対してシアオが何かをいい、そしてまた喧嘩になる……。まぁ、店の中で火の粉をされるのは大いに迷惑なのだが。
「とにかく2匹とも、落ち着こうよ……。せっかく久しぶりにゆっくりできるんだから」
「店の中で暴れまわるな。迷惑だ」
スウィートのやんわりとした言葉と、アルの鋭い指摘。はっきりいって注意の仕方に温度差がありすぎる。
だが2匹はそんなこと気にしない。
「シアオが悪いのよ! あたしの言葉に口を挟んできたコイツが!」
「それは謝るとしてもヘタレって何さ!? 最近は改善されてきてるんだよ!?」
次は口喧嘩らしい。
スウィートは相変わらずオロオロとしている。アルもいつものような光景を見て、最近へってきた溜息がまたこぼれる。アルの溜息が尽きる日はないかもしれない。
シアオとフォルテの喧嘩はまだ続いていた。
「じゃあ今までヘタレだったって事は認めんのね!?」
「認めるわけないじゃん! 大体、ヘタレって誰が最初に言い出したの!? 言いだしっぺ誰!?」
「俺だけど」
「アルだったの? フォルテかと思ってた」
「スウィート、納得しないで!」
「そうよ、アルでも意外性は全然ないわよ!」
次はスウィートとアルまでも巻き込んでギャアギャアと揉めだす。その中でスウィートはクスリと笑った。
(こんな賑やかな日が、ずっと続いたらいいな)
そんな事を思いながら。
―――『アズリー』の部屋―――
「あのさ……凛音、何か表情が暗くない? どうかした?」
「……よく私の表情の変化に気付けますよね。流石です」
メフィの言葉に凛音が苦笑する。メフィは心配そうに凛音を見るばかり。凛音の表情はいつもどおりに見える。
だがメフィには変化がわかるらしい。
「確かに……少し、気が重いですよ」
凛音はいつもはしない苦笑いをする。メフィはますます心配そうに凛音を見る。
それに気付いた凛音はふぅ、と一息ついてから話した。
「……スウィート先輩にはフィヴスさんに聞いた話を話しました。けれど…話してない箇所が1つだけあるんです。……それを話すべきか、話さないべきか」
「話していない箇所?」
メフィが首を傾げる。凛音はほとんど嘘をついたり、ごまかしをしたりしない。もちろん今回のようなことも含めて。
だがそれをスウィートにしたと彼女は言う。
「どんな……内容なの?」
「……ガブリアスのように大柄なポケモンではないこと。これは本当です。ただ……フェヴスさんは、種族を見ていたんですよ」
「! ……って事は、犯人を捜すにはそのポケモンの種族をしらみ潰しに……」
「えぇ。そうすれば特定は出来るでしょう。ただ……あまり話したくないんですよ。スウィート先輩には、特に」
「本当は話すべきなんでしょうけど」と凛音はまた苦笑いをした。メフィは「そっか……」と納得している。それにも凛音は胸を痛めた。
これも嘘だ。種族以外に、他にも分かっている事があった。ただフェヴスは「はっきりは見えなかった」と言っていたのだ。なのでそれが本当かは分からない。
それがなおさら、凛音を話せなくしていた。
(間違いかどうか分からない情報を……教えるべきではない。今は、まだ……)
凛音は目を閉じた。頭では分かっているのだ。話したほうがいい事を。
ただ自分自身が、スウィートに話すことを、拒んでいる。
スウィート達を傷つけないためにも。
「ドアが壊されたわね……。お客さんかしら?」
「違うと思うけど。普通のお客さんがドアを派手に壊すと思う?」
「思うわ。乱暴なポケモンだったらドアも壊すでしょう」
「それは普通ではありえないよ」
最初の声は♀、そして次の声は♂。この2匹は呑気な会話をしていた。
すると2匹のいた部屋のドアが派手にぶっとんだ。1匹にそれは当たりそうになるが、簡単に避ける。
ドアを壊し、入ってきたのは……ガブリアス。バッグにダイヤモンドランクの探検隊バッチをつけている。
このガブリアスは薬によって狂わされていたフェヴス・エイレットだ。
「貴様たちだろう……。俺に薬を投与し、狂わせたというのは!」
「…………そうよ。確かに私たちだわ」
「…………。」
静かに♀のポケモンはフェヴスの言葉を認めた。♂のポケモンは沈黙を通している。
フェヴスは鋭い目つきで2匹を睨む。
「なぜ俺を狂わせ、あの者達を襲わせた!」
「……そうね、貴方には知る権利があるもの。
やったのは上からの命令、だわ。その上があの子たちを狙ったのは……邪魔だったからじゃないかしら」
「邪魔、というより……あのポケモン達の中の1匹が、元々その上が狙っている者だったから排除させようとしていたんだ」
♀と♂のポケモンがフェヴスの疑問に律儀に答える。嘘か本当かは分からないが。
フェヴスはそれを怪しく思ったが、すぐにまた疑問を投げかけ、そして要望をだした。
「貴様らの上の者は誰だ!? そいつを出せ!」
その上が黒幕……だとしたらその者を倒すことが優先だとフェヴスは考えたのだ。
少し間をおいて、♂のポケモンが発言した。
「無理だよ。ここにはいない。それに、君はきいても信じない。
もう帰ったほうがいい。余計なことに首をつっこむと、君自身がまた狙われるよ。今度は確実に命を、ね」
♂のポケモンは忠告するように言った。♀の方は黙ってそれを聞いていた。
フェヴスは目を怒りの色に染めて、吠えるように言う。
「とりあえずソイツを出せ! さもないと力づくでも答えさせるぞ!?」
「……何を言っても無駄なようね」
♀の方はふぅ、と息をはいた。それでも言うつもりはないのか、そのまま口を閉じた。
フェヴスは答えないと理解したのか、攻撃をしようとした。しかし
「悪の波動」
「なっ……! ぐぁぁあぁ!!」
いつの間にか♂のポケモンがフェヴスの真正面に移動しており、悪の波動を撃った。
もろに喰らったフェヴスはその場に倒れる。そして動かなくなった
♀のポケモンはそれを見て、♂のポケモンに疑問を投げかける。
「……ちょっと、気絶させただけよね?」
「大丈夫。もちろん手加減はしたよ。気絶しているだけだ」
すると♀の方はホッと息をついた。♂の方はハァ、と溜息をつく。
「…………手段は選ばず、か。どれだけ焦っているんだろうな」
「関係ない者を巻き込む。やはり考え方が好かないわ。それに悪びれもなくよくこんなことを命令する。やっぱり私は嫌いだわ」
「僕も好かないよ」
するとフェヴスの体が浮き、部屋から出された。そしてフェヴスは家より遠いところに置かれる。
♀と♂のポケモンはそれぞれバッグを取る。
「そろそろ私たちも移動しましょう。きっと彼はまた来るわ」
「相当お怒りだったようだしね……」
彼、とはフェヴスの事だろう。
2匹は家の中から出て、フェヴスとは間反対の方向へ歩いていった。