50話 水晶の洞窟
――――トレジャータウン――――
「さーて、ジュプトルと戦うって事を想定して買わなくちゃね!」
フォルテが意気込んで言う。
シアオやフォルテはあの後、すぐにでも“水晶の洞窟”に行こうと言い出したのだが、アルに
「お前ら……ダメージを負ってたのもあったかもしれないが、“流砂の洞窟”で手も足も出なかっただろうが。道具を揃えていくぞ」
と言われたからである。
その後のシアオとフォルテは図星で、結局アルの意見が通ったわけだ。
シアオも心なしか張り切っている。アルはそんな2匹の後姿を見ながら溜息をつき、スウィートは苦笑した。
そしてカクレオン商店に着き、買い物を始める。
「何が必要だろ? やっぱ種かなぁ?」
「そうだね。すいみんの種とか縛り種とか……。便利だろうし」
「オレンの実も必要かしら? やっぱダメージは受けるだろうから」
「余分に買っておく必要はありそうだな。ダンジョン内も簡単ではないはずだ」
順にシアオ、スウィート、フォルテ、アルだ。
カクレオン商店にあるものを見ながら、口々に意見を言っていく。
因みにイオラとシルラはその光景を微笑ましく見ている。4匹はそんな事に気付きもせずに口論をする。
「えーこれ必要かな? 不思議玉の方がよくない?」
「とりあえずジュプトルとの戦いに備えてだから、種のような単品でいいと思う。広範囲で使う訳でもないし。でもモンスターハウスには備えないとね……」
「おいおい、何個オレンの実を買うつもりだよ。バッグに入らないだろうが。量も考えろ」
「だって沢山あった方がいいでしょ。どんだけ攻撃うけるかわかんないのよ?」
「フォルテ、ダンジョンでも拾えると思うよ」
「ねー、わざマシンって必要かなぁ?」
「お前は何をするつもりだ」
「あ、スウィート。それ取って」
「う、ん……。……フォルテ、ピーピーマックスは沢山あるからいらないよ」
「そうだっけ?」
大体、買う物の指示をしているのはスウィートとアルだ。
シアオとフォルテは意見を言っている。フォルテの場合、すぐに買おうとしているが。
「じゃあ、これだけでいっか」
結局スウィート達が買った物は縛り種、オレンの実4個、もうげきの種、敵縛り玉。結構な出費だが、一応は大丈夫らしい。
「ありがとうございました〜♪」
イオラのその言葉を聞いて、カクレオン商店を後にする。
そして“水晶の洞窟”に向かおうとすると――スウィートはあ、と声をあげた。
久しぶりな姿を見たからだ。あちらもスウィート達に気付いたようで近づいてきた。
「久しぶり、『シリウス』さん。何だかギルドでは大変な事になってるみたいね」
「お久しぶりです、フィーネさん、シャオさん。遠出するって言ってましたけど……いつ帰っていらっしゃったんですか?」
そう、久しぶりな姿とはフィーネとシャオだ。遠出する、と遠征後に会った以来、全く会っていなかったのだ。
「結構前には帰ってきていたよ。調べた物を整理していたからトレジャータウンには赴けなかったけど」
「そうなんですか」
シャオの説明にスウィートが納得する。思い返せば調べものをするために遠出をすると言っていたのだ。
するとフィーネはあ、と声をあげた。
「そういえば……今からギルドの皆で“時の歯車”の場所に行くんでしょう?」
「え、なんで知ってるんですか?」
「ギルドの皆の会話が普通に歩いてても聞こえてくるから。皆、とてもはりきっているのがよく分かったよ」
シャオの言葉に頷きながら気合入ってるわね、とフィーネは笑顔を浮かべながら言う。スウィートもそれに頷く。アルは「先輩達、何やってんだよ……」と溜息をついている。
するとそういえば、とシアオが唐突に口を開いた。
「フィーネさんとシャオさんってこの辺に住んでるの?」
「あぁ。トレジャータウンのすぐ近くだよ」
シアオの質問に、シャオがやんわりと答えると、聞いた本人はへぇーと声をあげた。
少し会話をしていると、フォルテが口をはさんだ。
「スウィート、話はこれくらいにしてもう行きましょ? もう全員いってるかもしれないし」
「あ、そうだね。フィーネさん、シャオさん、引き止めちゃってごめんなさい」
「謝らなくていいわよ。会話、楽しかったわ。頑張ってね」
「はい!」
応援の言葉に元気よく返事をしてから、スウィート達は2匹に一礼して交差点へと向かった。
その後、フィーネが複雑そうな顔をして呟いた。
「……どうして、かしらね…………」
「……フィーネ、僕らも行こうか」
会話はすぐに終了し、2匹はその場を去った。
――――水晶の洞窟――――
「うわ〜、綺麗だね。レニウムがつい取って来ちゃうのも分かるかも」
シアオは水晶を眺めながら言う。
“水晶の洞窟”はその名のとおり、水晶はたくさんある洞窟。
キラキラと水晶が光ってとても綺麗だ。それに関してはいい場所なのだが――ダンジョンなのでゆっくり見ている暇はない。
ただ少しの間、敵が襲ってこないときは水晶を少なからず眺めていた。
「あ、敵ポケモン来たよ」
スウィートが言うと、全員の視線がそちらに向く。見るとそこにはミノマダムとハブネークがいた。
するとシアオがミノマダムを指さしながらフォルテに言った。
「フォルテ、レッツゴー!」
「何あたしに命令してんの? さきにアンタを焼いてやりましょうか?」
「え、遠慮しときマース……」
言ったのはいいのだが、すぐにフォルテからの攻撃宣言。
仲間から言われたら冗談かと思うはずだが、攻撃するのがフォルテで攻撃されるのがシアオだと、本当にやりかねない。
スウィートは苦笑した。
「とりあえず……てだすけ」
「とにかくミノマダムはフォルテ、頼んだぞ」
スウィートが技を発動させると、すぐにアルが動いた。向かう先はハブネーク。
フォルテは「アルまで命令してんじゃないわよ!」と言いながらミノマダムの方に向かっていった。シアオはアルと同じくハブネークのほうだ。
「10万ボルト!!」
「まだまだ! はどうだん!」
2匹がハブネークにむかって同時攻撃をする。
シアオのはどうだんはポイズンテールではじき返されたが、10万ボルトは見事にあたった。シアオは負けじと攻撃する。
「はっけい!!」
10万ボルトで体が少し痺れているハブネークにでんこうせっかで近づき、はっけいを喰らわせた。
するとあっけなくハブネークの体は倒れる。
「ね、アル! 僕ちょっとはやるようになったでしょ!?」
「じゃあその意気で、フォルテに火炎放射されそうになっても向かい撃って来い」
「無理無理無理!」
一方、そんな会話をシアオとアルがしているなど知らないフォルテとスウィートは
「火炎放射!!」
ミノマダムに向かってフォルテが効果抜群な火炎放射をするが……見るとミノマダムは無傷。
フォルテは「あーもうっ」と言いながら文句を言い出した。
「何よ、守るばっかりして! 正々堂々と戦いなさいよ!」
「あのーフォルテ……。正々堂々だと思うよ」
守るは正式な技だし、とスウィートが付け足すと、フォルテがう、と言葉に詰まった。
スウィートはそんなフォルテに苦笑してから、ミノマダムの方に駆け出した。
「アイアンテール!!」
技はやはり緑色のシールドによってふさがれる。
だがそれを予想していないスウィートではない。勿論、1匹だけで戦おうなどと思っていない。
「連続で攻撃すれば守るでも防げないでしょ!? 火炎放射!!」
スウィートがその言葉とともに横へ飛びのく。
するとフォルテの火炎放射がミノマダムの方へ一直線に当たった。次見ると――ミノマダムが焦げて倒れている。
「フォルテ、ありがとう」
「ならあたしもお礼言わなくちゃね。2匹でやらなくちゃ出来なかったし」
フォルテが「ありがと」と言うと、スウィートが嬉しそうに笑った。
するとシアオとアルが駆け寄ってくる。あちらも終わったようだ。
するとフォルテが倒れた敵を見ながら呟いた。
「にしても……ここのダンジョン、岩タイプや地面タイプ多いわよね」
スウィート達が遭遇したのはゴローン、ダンバル、ズガイドス、ドンファン、そして先ほどの2匹だ。
フォルテの言うとおり、岩タイプや地面タイプが多い。それはフォルテにとって、アルにとっても不利なのだ。
「ルチル先輩から出てくる敵を聞いたが……確かあとタテトプスやゴローニャも出てくるらしいぞ」
「ゴローニャには会いたくないわね……」
アルの情報にフォルテが小さく呟く。スウィートもフォルテの言葉に同感していた。
そして出てくるポケモンを聞いて思ったことを口にした。
「てことは……大きい敵はあんまり出てこないんだね」
「あぁ。ゴローニャ以外は全部、大したことはないだろ」
そんな風に呑気にしながらどんどん敵ポケモンを倒しながら進む。
ときどきシアオとフォルテの喧嘩が始まりそうになるのを止めながら。
「なーんーでーアンタはいちいちあたしの技の邪魔をすんのよ!」
「それはこっちの台詞だよ! どうして僕が攻撃しようとした瞬間に攻撃するかな!?」
今回の喧嘩は敵ポケモンにシアオが攻撃しようと近づいたら、フォルテが火炎放射を撃って、シアオが当たりそうになった件。
前にもあった事がおきたのだ。本当に懲りない。
「あたしが攻撃するって普通に分かるでしょうが! 分かりなさいよ!」
「そんなの僕が先に攻撃しようと近づいたんだからフォルテの方が分かるでしょ!?」
正直に言うと、結構どうでもいい内容である。
そのためアルは溜息をついているし、スウィートは止めようかどうか迷ってオロオロしている。
そのときだった。
「キャァァァァァ!!」
「「「「!!」」」」
どこからか悲鳴が聞こえた。流石にシアオとフォルテは喧嘩を止める。
アルは呆れた顔からすぐに真剣な顔つきに変わった。スウィートは目をとじ、耳をすまし
(…………悲鳴は……あっち!!)
そして目を開き、駆け出した。それに3匹も続く。
先ほどの叫び声は聞き覚えのある声だった。スウィートは全速力で駆け出す。
そして道からフロアに出て、光景を目の当たりにした。そこには先ほどの叫び声の主と
「凛音ちゃん! メフィちゃん!」
その主のパートナー。
メフィの方はとてもボロボロで、凛音もメフィほどではないがボロボロだった。メフィは壁に寄りかかってぐったりとしている。
そして凛音は……このダンジョンにはいないはずのガブリアスと対峙していた。