47話 VS地底の番人
「喰らいなさい! スピードスター!!」
無数の黄色の星が『シリウス』に向かって飛んでくる。4匹ともすぐに反応し、素早い動きで攻撃をかわす。
フォルテとアルは戦うしかない、と理解しているのだろう。
だが2匹とは違い、シアオもオロオロとしていた。スウィートはそんなシアオに呼びかける。
「シアオ! ここは戦うしかない!」
「う、うん……!」
シアオの顔はまだ曇っている。迷う気持ちはスウィートは多少なりとも理解できた。
時の歯車≠守りに探しに来た自分達が、時の歯車≠守っている番人と戦うなど、可笑しいに決まっている。けれども説得が無理ならば戦うしかない。
「手助け!!」
いつものようにスウィートが手助けを発動させる。
するとフォルテとアルがエムリットにむかって技を繰り出す。
「火炎放射!」
「電気ショック!」
「甘い! まもる!」
エムリットが技名を言うと、前に緑のシールドが現れる。そのシールドは火炎放射や電気ショックを全て弾いた。
するとすぐにエムリットは動いた。
「暫く動かないで貰う! ふういん!!」
「なっ……!」
「う、動けない……!!」
「フォルテ!? アル!?」
全く動かない2匹に対して、シアオが声をかける。だが2匹は動く様子も無い。
「スピードスター!!」
「しんくうぎり!!」
フォルテとアルにむかっていく無数の星を、スウィートが全て払い落とす。
その瞬間、でんこうせっかでエムリットの後ろに動いていたシアオが技を繰り出す。
「はどうだん!!」
はどうだんは一直線にエムリットにむかう。
これは絶対に当たる、とスウィートとシアオが確信したのだが
「無駄よ、サイコキネシス!」
「うわぁっ!?」
サイコキネシスによって操られたはどうだんが、シアオに直撃した。
まさか技を利用されるなど思っていなかったスウィートは目を見開いた。
「(なら物理攻撃で……!)アイアンテール!」
「まもる!」
「!!」
フォルテやアルの二の舞になる、とスウィートは攻撃を中断し下がる。
スウィートの読みどおり、エムリットはふういんの準備をしていた。あのままいったら絶対に喰らっていただろう。
(一筋縄じゃいかない……か)
スウィートは苦々しい表情をした。
出来るだけ傷つけないよう穏便に……そんな悠長なことを考えていると自分がやられる。これは本気で戦うしかない、と『シリウス』は理解した。
「シャドーボール!」
「サイコキネシス!」
スウィートがシャドーボールを打つと、先ほどのはどうだん同様、サイコキネシスで操られたシャドーボールが自分にはね返ってくる。
そんなこと、分かっていないスウィートではない。
「アイアンテール!」
「なっ!? ――ッ!!」
シャドーボールをアイアンテールでエムリットの元にまた撃ちかえす。
その行動にエムリットは予想外だったようで、どぉんっ! という音をたてて当たった。
そのせいで土煙が舞う。
「くっ……!」
土煙がはれると、そこには少しだけ体に傷をつけているエムリット。どうやら直撃は避けたようだ。
するとエムリットに向かってシアオが突っ込んでいく。
「はっけい!!」
「学習能力がないのね!? まもる!」
エムリットはすかさず技を発動させる。そしてすぐにふういんをシアオにかけようとする。
スウィートはまずい、と思ったが、後ろにいる2匹の存在に気付いた。
「あたし達を忘れないでくれるかしら!? 火炎放射!」
「10万ボルト!」
フォルテとアルだ。
アルはいつの間に10万ボルトを覚えたか不思議なものだがそれはおいておこう。どうやら様子見状態か解放され、動けるようになったらしい。
エムリットは2匹の存在に気付くとすぐに技を繰り出した。
「忘れてなんかない。サイコキネシス!!」
「「!?」」
サイコキネシスに操られた技は2つは、火炎放射はアルに、10万ボルトはフォルテにむかってとんでいく。
シアオの攻撃を防ぐためにまもるをした。にも関わらず、すぐにサイコキネシスをしてくるとは思っていなかったのだ。
「ぐぁっ!?」
「きゃぁ!?」
2匹は直撃し、そのまま地面に体を叩きつけられる。
エムリットの攻撃の手は、これだけでは止まなかった。
「ねんりき!!」
「させない! はどうだん!!」
「シャドーボール!!」
エムリットの攻撃を阻止すべく、シアオとスウィートがエムリットにむかって攻撃をする。エムリットは苦々しい顔をすると、フォルテ達2匹への攻撃を中断し、2つの攻撃を避けた。
「鬱陶しい……!」
エムリットが技を発動させると、スウィートとシアオが目を見開いた。
まだ倒れているが、多分フォルテやアルもだ。
「う、嘘でしょ……!? あんな大規模な……!」
「な、何アレ……!?」
エムリットの後ろにあるのは……サイコキネシスで湖の水を少々利用して作った水の龍。
大きさはグラードンくらいある。『シリウス』は青ざめた。
「そのまま水龍に呑まれなさい!!」
「「「「!!」」」」
水の龍は真っ直ぐ4匹の元に襲い掛かってくる。咄嗟にスウィートは3匹の前に出た。3匹は目を見開く。
「む、無茶だよスウィート! 止めてってば!」
「危ないから1匹で技を受けようとしないで!」
「そこから離れろ!!」
3匹の意見は最もだ。
それでもスウィートは退こうとはしない。そして龍が迫ってくる直後、エムリットと同じ技を使った。
(まだ覚えたばっかで上手く使えるか分からない……けど!!)
「まもる!!」
スウィートの前に緑色のシールドが出現する。水龍はそのまま勢いよく『シリウス』の方へと突っ込んでくる。
「くっ……!!」
スウィートは押されそうなのを耐えて、何とか踏ん張る。
だが覚えたばかりで上手く制御できない。それに加え、水の龍はお構いなしに勢いよく未だ突っ込んできている。
攻防戦を続けていると、緑色のシールドに変化が現れた。
「あっ……!?」
シールドに小さな
罅(ひび)が入った。
スウィートはその様子にすぐに気がついたが、まだ踏ん張る。
もう少し頑張ればダメージだって軽減されるかもしれない。だからもう少しだけ……。少しだけでいいんだ、頑張って。
そういう思いをこめて。
シアオ達は罅に気付いていなかったが、次の瞬間、気付くことになる。
「……!(お願い、耐えて……!)」
「ス、スウィート、罅が……! もう無茶だよ!!」
小さな皹から、もっと大きな罅に拡大する。
シアオから静止の声がかかっているが、ここでやめる訳にもいかず、スウィートは踏ん張る。ビキビキッと罅はどんどんと拡大していく。きっともうすぐ壊れる。
そしてその寸前、
「えっ…………」
バリンッ、と大きな音をたてて、シールドが壊れた。
「うぐっ……!!」
スウィートは誰かによって後ろに動かされた。その瞬間、シールドはあっけなく砕け、水龍が襲ってきた。
そしてそれをうけたのはスウィートではなく
「シアオッ!?」
「ハァ……ハッ……。みん、な……だいじょうぶっ……?」
紛れも無くシアオだった。息遣いは荒く、額には汗が滲んでいる。体はボロボロの状態。
スウィートは一瞬、頭が真っ白になった。そしてすぐに我に返る。
「アル! シアオを安全な場所まで運ぶこと出来る!?」
「あ、あぁ!」
スウィートが多少でかい声で指示したからか、アルからは珍しく動揺しているような返事が返ってきた。
だがすぐにアルはシアオを担ぐ。
「フォルテ……いけそう?」
「あたしは大丈夫よ。あと……多分、さっき覚えた技」
「……?」
スウィートが首を傾げる。
今の状況を少しは打開できる技を覚えたのだろうか?
フォルテはふーっと深呼吸する。そうしているとエムリットが先手必勝、とばかりに技を繰り出した。
「ふういん!!」
「――しんぴのまもり!!」
エムリットの技より早く、フォルテの技が発動した。フォルテ、そしてスウィートやシアオ、アルの体が白い綺麗な光に包まれた。
スウィートは初めは何かわからなかったが、ふういんをかけられたのに動けることで理解した。
「ふういんが……効かない?」
「そ、しんぴのまもりは悪い状態にはならない技。つまり……これであの技には注意しなくても良い、って事よ!」
「厄介な……! スピードスター!!」
「しんくうぎり!!」
エムリットのスピードスターを同じようにしんくうぎりで撥ね返す。
すると土煙が巻き起こる。土煙の中でエムリットはキッとスウィートを睨み付けた。
スウィートはそれに気付いていない。
「あのイーブイが1番厄介ね……。サイコキネシス!!」
「え!? ――きゃ!!」
スウィートはサイコキネシスによって体を浮かされ、大きな岩の元まで飛ばされる。咄嗟に抵抗できなかったスウィートは、体を強打した。
そしてズルズル……と体が降りる。
「スウィート!」
「余所見とはずいぶんと余裕だな! ねんりき!!」
「しまっ――きゃあ!!」
スウィートの声が聞こえて余所見をしてしまったフォルテは、エムリットの技を避けれず当たる。
状況を見かねたアルがやっとシアオを安全な場所に運んだ後、戦いに出ようとした、が
「待っ、て……アル……」
「シアオ?」
シアオが途切れ途切れで言葉を発した。アルはまさか声をかけられる、そして戦いに行くのを静止させられるとは思っていなくて目を見開く。
シアオは言葉を続ける。
「スウィート、が……様子、変だと……思わない……?」
「スウィート?」
シアオに言われてスウィートの方を見る。
スウィートはゆっくりと起き上がっているところだった。そしてギリギリ聞こえる小さな声で、言葉を言った。
「《悪の波動…………》」
その瞬間、フォルテに止めを刺しに行こうとしていたエムリットの動きが止まる。
黒い波動はエムリットのすぐ近くまで迫っていた。
「なッ!? ま、まもる!!」
エムリットはかなり動揺した声で緑色のシールドを出現させた。黒い波動ははじかれる。エムリットはバッとスウィートの方を向いた。
スウィートは俯いてた顔をゆっくりと上げる。
「《……ふん。話も聞かずに攻撃してくるとはな。所詮はそんな程度か。伝説のポケモンが聞いて呆れる》」
「なっ……! アンタ、一体何なのよ……!?」
スウィートの目の色は黒。そして口調は先ほどと全く違う。
これはムーンが出てきた証拠だ。だがその事について知らない3匹とエムリットは驚いていた。
一体、何がおこったのだ、と。
「アル……。あれ、スウィートだけど、スウィートじゃないよね……?」
「あぁ……。雰囲気が全然違う。あれはスウィートじゃない……」
シアオとアルはまじまじとスウィートを見る。
会話で分かるが、スウィートの体だがスウィートの精神では無い事に気付いているようだ。
そんなことは気にもせず、スウィートの体を借りているムーンは目を細めてエムリットを見据える。
「《貴様とは話す気もない。――ミュエム・ローシェル》」
「な!? 何で私の名前を……!?」
ムーンの言った名前はどうやらエムリットの名前らしい。
エムリット、ミュエムは驚きでさらに目を見開いた。一体こいつは何者なのか、と。
「《言っただろう、話す気はないと。とっとと片付けさせてもらう》」
「っ!? いつの間に……」
気付くとミュエムの周りには無数のナイフ。
右も左も、そして上も後ろも、ミュエムの周りには紫色のナイフがある。完全に囲まれた状態だ。
これをサイコキネシスで全て操り避けれるかというと……おそらく不可能だ。
「《周りを把握するべきだったな》」
「く……!」
ムーンが低く、落ち着いた声でそう言うと、ミュエムは悔しそうな顔をする。
するとムーンは顔色1つ変えず、言った。
「《…………
幻月剣》」
ムーンがそう言った瞬間、切り裂く音とミュエムの声が場を響かせた。
「ぐぁぁぁあぁッ!!」
容赦なく無数のナイフはミュエムに向かっていく。
シアオ達はそれを驚きの目で見ているが、ムーンは相変わらず何を考えているか分からないような無表情だった。
ようやくナイフが全て地面に落ちると、ミュエムの体もゆっくりと倒れた。
それを合図といったようにナイフも全て消える。ミュエムはそれでも意識を保っていた。
「と、時の歯車≠ヘ、盗ませ、ない……!!」
「《…………愚かな。その行動が――ぐっ……!?》」
「「「?」」」
ムーンの言葉にミュエムを除く3匹が首を傾げる。何か言いかけて、そして何やら苦しそうな声をあげ、止まった。
そして次の瞬間
「!?」
「スウィート!?」
「どうした!?」
スウィートがいきなり倒れた。
1番ダメージが少ないアルがすぐにスウィートの元に駆けつける。少々遅れてからだが、シアオとフォルテも来た。
「ちょっとスウィート!?」
「デカい声出すな、シアオ。気絶してるだけだ」
アルが冷静にそう言うと、シアオは黙った。
フォルテはスウィートの様子を見てからミュエムの方に少しだけ歩み寄った。
「あのさ……あたし達、本当に時の歯車≠盗みに来たわけじゃないのよ」
「嘘を、つくな……! 私は、私はヒュユンから聞いているんだ! “霧の湖”の時の歯車≠盗んだ盗賊が、ここに来るって事を……!!」
「だからそれはあたし達じゃなくて、」
「それは俺の事じゃないのか?」
「「「「!?」」」」
全員が驚いて声をした方を見る。
そこにはギルドで見た、指名手配犯の紙の似顔絵のポケモン、ジュプトルが立っていた。