46話 流砂の洞窟
『シリウス』と『アズリー』がギルドに帰ると弟子達は全員そろっていた。ディラは6匹が帰ってきたことを把握すると話を始めた。
「全員が揃ったところで……報告をしてもらう」
そう言うとディラはまず、と言ってラドンとイトロの方を向いた。どうやら彼等が最初に報告をするようだ。
「“東の森”はただ森が広がってるだけで、特に何も無かった」
「そうか……。では次、“水晶の洞窟”は?」
「“水晶の洞窟”は水晶がたくさんあって綺麗だったゲス。あっし、つい1つだけとってきちゃいました」
「い、いつの間に……」
レニウムが綺麗に輝く水晶を取り出したのを見て、フィタンが驚いたような顔をしていた。
レニウムは嬉しそうにしている。だが、それを見てイラッときたポケモンがいた。
「ちょっと! なんでそんな関係ない物を取ってきてるわけ!? 真面目に探してるポケモンに失礼だと思わないわけ!?」
フォルテだった。我慢できなかったようで声を荒らげる。
そういう行動は許せないようだ。ただシアオに隠れながら言っているので迫力は半減だが。理由はまぁ、簡単だ。ゼクトがいるからである。
するとその言葉に加勢したポケモンがいた。
「私もフォルテ先輩に意見に同感です。関係ない行為は控えるべきかと」
淡々と述べたのは凛音だった。そしてギルドの空気がとても気まずくなった。
そんな空気の中――
「ええっと……その、レニウム先輩は探してなかったわけじゃないし、1つだけ水晶を取ってきちゃっただけだし、ね? だから落ち着こう? それに今は喧嘩してる場合じゃないし……」
宥めるように言ったのは、どこか控えめなスウィートだった。
あんな空気の中で発言できるとは、とても肝が備わっている。言葉を聞いてフォルテと凛音はまだ不満そうだったが、すぐに黙った。
「スウィートの言うとおり、今は喧嘩をしてる場合じゃない。で、時の歯車≠ヘ結局あったのか?」
ディラがすぐに問う。ようやく場の空気が少しだけ和やかになり、全員がホッとした。
「……時の歯車≠ヘ残念ながらなかったですわ」
「えぇぇぇぇぇえぇ!? じゃあ全滅ってこと!?」
ルチルが静かに言った後に、シアオがとても大きな声で脅威の声をあげた。
『シリウス』、『アズリー』は分かっていたが、他の弟子達は「え」と言う顔をした。
「シアオの発言を聞くと……“北の砂漠”も無かったという事か……」
「無かったです……。ただ流砂があっただけでした」
メフィががっくり肩を落としながら言った。弟子達も肩を落としている。
凄い意気込みで捜索をしていたのに、全滅となると流石に落ち込むのもしょうがないだろう。
「すみません……。私の力不足です」
「い、いえいえ! ゼクトさんが悪いわけじゃありませんし! それにゼクトさんがいたからこの作戦はたてられたんですよ!?」
謝ったゼクトにディラがすかさずフォローしようとする。
確かにディラの言うとおり、ゼクトは全く悪くない。他の弟子達もそれに続いてわーわーと騒ぎ出した。
スウィートはその光景に苦笑した。
「とにかく! 時の歯車の場所はもう一回、親方様とゼクトさんと話し合う! 今日はもう休むことだ!」
ディラのその一言で、今日の活動は終了となった。
スウィートはまた心にモヤモヤを残して。
―――翌日―――
「……今日のことなんだが、まだ時の歯車≠ェある場所の目星がつかない。なので各自で行動してくれ」
ディラが淡々と述べる。
つまり今日は自分達で時の歯車≠フ場所を考え探しに行け、という事なのだろう。
「どーする? 僕達も探すところないけど」
「ま、時の歯車≠探せっていわれても場所がわかんないしー」
「いや、分かってたらいってるっつーの」
シアオが全員に首を傾げながら問い、アルがフォルテの言い分にツッコむ。
スウィートはボケーッとその光景を見ていた。
(“北の砂漠”……。何か引っかかる)
「ねぇ、皆……今日、また“北の砂漠”に行ってみない?」
「「「は(え)!?」」」
スウィートは無意識のうちに思っていたことを言っていた。
シアオ達は驚いたように声をあげる。だがここで引き下がるわけにもいかない。
「“北の砂漠”にはまだ何かある気がするの……。だからお願い!!」
スウィートが頭を下げたことにより、3匹が驚いてあたふたし始めた。
当たり前だ。そんな事で頭を下げられても……一体どうしろと、そんな思考が3匹の頭を占めた。しかしスウィートはそんなことに気付いていない。
「わ、分かった! 分かったから! 行くから!」
「ま、まず頭を上げましょう!?」
「頭は下げなくていい!」
順番にシアオ、フォルテ、アルで頭を未だ下げていた彼女に声をかける。
するとようやくスウィートも頭をあげた。ホッと息をつく。
「じゃあ……行ってみようか。“北の砂漠”に」
――――北の砂漠 奥地――――
「やっぱり流砂しかなくない?」
シアオがポツリと呟く。目の前に広がっているのは昨日と同様、流砂が広がっているだけだ。
フォルテもアルも頷く。
(まず……“霧の湖”の時の歯車≠ノついて考えると……普通は湖があるとは考えにくい場所に隠されていた。つまり……時の歯車≠ヘそういう普通ではない所に隠されてるはず……)
「で……あたし達、どうすんの?」
「……スウィート、何かあるのか?」
「ごめん、ちょっと考えさせて。頭の中で整理しているから」
フォルテやアルには悪いと思いつつも、スウィートは頭の中で考える。
時の歯車≠ノついての自分が知っているだけの情報を。
〈時の歯車≠ヘ見つからないように森や洞窟に隠されているらしいからな〉
(つまり簡単には見つからない……。そして流砂しかない場所……)
スウィートはまさか、と仮説をたてる。
そして流砂を見た。特に何もないただの流砂だ。それをスウィートはジッと見てから、シアオ達の方に振り返った。
「私……あの流砂の中に入ってみようと思う」
「え!? あ、危ないよ!」
「む、無茶よ!!」
「そんなの危険だ! やめろ!」
スウィートの言葉に3匹がやめろ、と声をかける。
確かに今回は無事という確証も、時空の叫び≠セっておきてない。無謀に決まっている。下手したら、死ぬ。
スウィートは頑としてやめるとは言わなかった。
「私が1匹で行くから。皆はここで待ってて」
スウィートは行く気満々だ。流砂を見据え、深呼吸をしている。
幾ら言っても無駄だ。スウィートは結構な頑固者なのだから。
「ぼ、僕も行くよ! スウィート1匹だけで危険な事させるのもどうかと思うし……」
「あたしも行くわ! ね、アル?」
「はぁ……分かったよ。参った。俺も行く」
「え…………」
まさか全員が行くと言うとは思っていなかったスウィートは目を見開いている。
そうとなればスウィートの事を気にせず、シアオとフォルテも深呼吸をしている。何故。一体、何故こうなった。
「スウィート、行くんだろ?」
あそこの中に、とアルが流砂を指さす。
スウィートはポカンとなってから急いで位置についた。3匹とも行く気満々。そんな3匹の様子を見ながらスウィートは恐る恐る言葉を発する。
「あの……ホントに待っててく」
「却下」
フォルテがニッコリとしながらスウィートに言った。
スウィートは表情を引きつらせ、ようやく3匹もなかなか意思を曲げないことに気付く。結局みんな眼光なのだ。
自分は危ない事には関わらせたくはないのだが……無駄なようだ。
「じゃ、ここはリーダーのスウィートが「せーの」で行こう」
「え、ちょ」
「オッケー」
「了解」
なんかシアオの一言で決まってしまった。フォルテとアルも頷いているし。
「あぁ、もう」とスウィートは半ばヤケクソで言った。
「行くよ……。せーのっ!!」
『シリウス』が一気に流砂の中に駆け込んだ。
「ひゃっ!!」
「うわぁっ!!」
「きゃっ!!」
「っ……!!」
スウィート達は流砂の中に入ってからすぐに何処かに落ちた。どすんっという大きな、痛そうな音をたてながら。
スウィートは思いきり体を打ちつけたようで、「いたた……」と打ち付けた部分を撫でる。
そのすぐ隣では――
「フォルテ、アル、早く退いてよ! 重い、つぶれる!」
「フォルテが退かないと俺も退かないんだよ。早く降りろ、動けない」
「ちょっとシアオ! また重いって言ったわね!?」
シアオが1番下に、そしてアル、フォルテというように乗っかって段になっていた。今回はシアオとフォルテだけではなく、アルも巻き込まれたらしい。
スウィートはようやく体を起こし、3匹に気付いた。
「フォルテ、とりあえず降りてあげて?」
「……分かったわよ」
スウィートがやんわりと言うと、すぐにフォルテは降りた。
それに続きアルもすぐに降り、ようやくシアオが起き上がる。いつも災難な事だ。それで怪我がないのだから、強運なのか不運なのか。
「あたた……。ここ、流砂の下かな?」
シアオが体を起こし、上を見上げる。上からは砂がパラパラと落ちてきている。スウィート達の足元には砂が広がっていた。
「みたいね……。洞窟に繋がっていたなんて、考えもしなかったわ」
「スウィート、お手柄だな」
フォルテとアルが関心の声をあげる。スウィートは苦笑いで返しておいた。
まだ此処に時の歯車≠ェあるとは限らない。それを調べるまでお手柄とはいえない、と思っているのがスウィートだ。
「じゃあ奥に行こう。時の歯車≠ェあるかどうか調べなくちゃ」
スウィートの言葉を合図に、『シリウス』は奥へと進んでいく。
――――流砂の洞窟――――
「いったーーー! 砂が目に入った!」
「いちいち煩いわね! ――っ痛い! あーもう腹立つー!!」
さっきから騒いでいるのはシアオとフォルテだ。
流砂の洞窟の中は砂嵐状態で、目に砂が入ったり体にでかい石が当たったりで2匹が騒いでいる。
「確かに……砂嵐は厄介だよね」
「おい、敵ポケモン来たぞ」
アルの知らせでスウィートは顔をそちらに向ける。
そこにはサンドパンとクチート。砂嵐のせいで凄い見えずらい。サンドパンは特性、砂がくれなので仕方ないが。
「私が砂嵐をちょっと払うから、すぐに攻撃してね」
「うー……了解。まだ目が痛い……」
「分かったわ。じゃあクチート狙う」
「了解」
シアオは危ういが、フォルテとアルは攻撃してくれるだろう。
未だ目を擦っているシアオを見てスウィートが苦笑してしまったのは仕方ない。
「じゃあいくよ…………。しんくうぎりッ!!」
スウィートが技名を言って発動させた。しんくうぎりのおかげで少しの砂が払われ、視やすくなる。
3匹は素早く動いて敵ポケモンに近づいた。
サンドパンにはアルとシアオ、クチートはフォルテだけ。
「アイアンテール!」
「はっけい!」
「火炎放射!」
すぐに技を放ち、相手をダウンさせる。
サンドパンは2匹同時攻撃のため、クチートは効果抜群の技のためすぐに倒れた。そして砂嵐はまた酷くなる。
「うわ……。また……って痛いーーーー!」
「バシバシ当たってくるんだけど!?」
「しょうがないだろ……」
「ハハハ……」
やはり苦笑いだけしか出来ないスウィートであった。
――――流砂の洞窟 奥地――――
更に『シリウス』が奥に足を運ぶと、ようやく奥地と思われる場所に出た。
スウィート達はそこで辺りを見渡し、絶句した。
「流砂の下の洞窟の中に…………湖があるなんて……」
スウィートが呟いたとおり、大きな湖が広がっていた。
『シリウス』は場所が遠くて時の歯車≠ェあるかどうかが分からないのでゆっくりと湖に近づく。
だんだん近づいていくにつれ、見えてきたのは“霧の湖”と同じ光。スウィートはしっかりと見た。
「あ、あった……! 時の歯車=I!」
緑色の淡い光に包まれている小さな歯車。“霧の湖”で見た物と全く一緒だ。あれが時の歯車≠セろう。
それは湖の中心に浮かんでいた。
「何というか……“霧の湖”みたいに時の歯車≠ヘ湖にあるもんだね……」
シアオがしみじみと関心したように呟く。すると
『――アンタ達! 時の歯車≠盗みに来たのね!?』
「「「「!?」」」」
どこからか声がした。4匹は驚いて辺りを見渡す。だが4匹以外にポケモンはいない。スウィートは首を傾げた。
何処にもいないのに困惑しながらシアオは大声で言う。
「ちょ、ちょっと待ってよ! 僕らは時の歯車≠盗むつもりで来た訳じゃ――」
『嘘をつくな! 私は知ってるんだよ! “霧の湖”の時の歯車≠ェ盗まれたことを!』
「いや、それは僕達じゃなくて……!」
シアオが声に対して一生懸命に説得を試みるが……効果は全くといって良いほどない。まずシアオの言葉をほぼ聞いていないようなものだ。
するとスウィート達の前に光が集まり、ポケモンが現れた。姿形はヒュユンに似ている。
「私は感情の神、エムリット! 此処の、“地底の湖”の番人! 覚悟しなさい!」
どうやら本気で勘違いしているようだ。
攻撃態勢に入っているエムリットを見ながら、スウィートは態勢を整える。
「ちょ、ちょっと待ってって! ホントに僕たちじゃ――」
「お尋ね者と話す気はこれっぽっちもない! 此処の時の歯車≠ヘ盗ませない! 盗んだ時の歯車≠熨S部返してもらうわ!」
シアオの説得も虚しく、その言葉で『シリウス』とエムリットの戦闘が開始された。