45話 想いと捜索
「そういえば四季ってあるよね」
「あぁ、そうだな」
男女の話し声。
話し出したのは女性の方で、女はそのまま話を続ける。
「ね、どの季節が好き?」
「夏。冬は寒いから苦手だ」
どうやら季節の話をしているみたいだった。
男は問いに返して率直に返した。それに女が苦笑した。
「予想はできていたけれど」と困り顔で、それでもおかしそうにクスクスと笑う。女は楽しそうだった。
「普通はそうだよね」
「お前は? ……全部はナシ」
そう男に言われ、女はまた苦笑した。答えを制限されるとは思っていなかったのだ。
それから女は「んー」と少し唸ってから、また喋りだす。
「冬、かなぁ。どの季節も好きは好きなんだけれど」
「俺と逆だな」
「まぁ私も寒いのは苦手なんだけどね」
「なら何で」
すると女は空を見上げた。男の方は不思議そうに女を見る。
女は少し間をおいてから話しだした。
「……雪」
「雪? ……お前、また俺の嫌いなモンをチョイスしたな」
「そ、そういう意味じゃなくて!」
慌てながら弁解をする女。
相変わらず男はしれっとしていて、それさえも気にしてないようだった。
「雪って周りを白く染めるよね。それで雪景色が見える。
それが私はとても素敵だと思うの。真っ白な空間だったら、皆をしっかりと見れるし。皆の色もしっかりと見えるから」
「…………。」
「だから私は冬が好きだな。まぁ、雪景色なんて本でしか見たことないんだけれど」
また女は苦笑した。さっきとは違って、悲しそうに。
男はそれを聞いて暫し黙ったあと、女がやっていたように空を見上げながら話しだした。
「……その考えだったら、俺も雪は好きになれそうだな」
「それは嬉しいなぁ」
「…………夢……?」
スウィートは目を覚ました。そしてポツリと呟いた。
“霧の湖”の時の歯車≠ェ盗まれたと言う報告から一夜あけた朝。
シアオやフォルテ、珍しくアルもまだ寝ている。よほど“エレキ平原”での戦いが疲れたのだろう。
スウィートは起き上がり、窓の外に駆け寄った。そして夢について考える。
(誰だったんだろう……。楽しそうだったけど……悲しそうだった)
けれど声だけしか聞こえず、姿は見えなかったのでそれ以外わからない。ただ、変わった会話だな、と思った。
しかしそれ以上は分からずスウィートは仕方ない、と思って思考をすぐに切り替えた。
昨日の自分自身の思考がよく分からなくなった、出来事について。
(私、なんて名前を考えたっけ……?)
ジュプトルの似顔絵を見たときに、自分が何故あのようなこと……ジュプトルは悪いポケモンではないとか、誰かの名前を考えたのか。
それをずっと考えていた。
これの答えも一向に見つからない。名前はもう覚えていないので、考えようも無い。
そしてまたもう1つのことを考えるのだが、ジュプトルとは会ったことがない。
またスウィートは悩む。
(……何にせよ、私は時の歯車≠盗まれるのを防がなくちゃならない)
ギルド全員がそう決めたから。
何故かモヤモヤするスウィートは目を閉じた。すると
《主……》
頭の中に声が響いた。
スウィートはこの声と呼び方は、と思いなが返事をする。
(どうかした? ムーン)
そう言うと声の主、ムーンは何故か黙る。
スウィートが首を傾げていると、また頭の中に声が響いた。
《……我は昨日のこと、力を使ったせいで聞いていない。それ故、主が何を悩んでいるかが分からない。……話せるだろうか?》
悩んでいることを分かっていたのか、とスウィートは苦笑してしまう。そして心の中で、ムーンなら何か分かるかもしれないと思い、話し出した。
(あのね、時の歯車≠ェまた盗まれたらしいの。さらに“霧の湖”の。
それでついに犯人がジュプトルっていうのが分かって、指名手配されている。そしてギルドの皆はジュプトルを捕まえるつまりなんだ)
《…………指名、手配……》
(うん。それでジュプトルの似顔絵を見たとき、私は「悪いポケモンじゃない」って思ったの。そして何かの名前を……)
《!!》
ムーンが驚いたのが分かった。何故、驚いているのかスウィートには検討もつかない。
彼女は話を続ける。ムーンはただ無言で聞いていた。
(なんでそんなこと考えたのか分からなくて……。時の歯車≠盗んで、さらにヒュユンさんを傷つけたポケモンを、なんでそう思うのかが全然わからなくて……)
《……》
(幾ら考えても答えは見つからないの……。それで気持ちがモヤモヤして……)
スウィートの心の声は、ムーンにとって悲痛の声に聞こえた。ムーンに聞こえる声はどんどん弱弱しくなって、そして何処か戸惑っていた。
すると黙っていたムーンが話しだした。
《……主。ヒュユンとやらは重症なのか?》
(……? ううん。軽症だったって言ってたよ)
スウィートは何故そのようなことを聞くのか分からないまま、とにかくムーンの問いに答えた。
ムーンは少し黙ってから、また喋りだした。
《普通、自分の姿を見られたならその者を殺すはずだろう……。ましてや時の歯車≠盗むのは、此処では許されない行為なのだろう?
だったら殺した方が効率がよいのではないか?》
(!!)
スウィートはその言葉を聞いて目を見開いた。
確かにその方が効率がよい。もしもジュプトルがヒュユンを殺していたとすると、いま指名手配犯になっている訳がない。
つまりムーンがいいたいこと、それは
《主。我が言いたいことが分かるか?》
(ジュプトルは……悪いポケモンじゃないってこと?)
《そう考えて良いと言っている。……否、我は主にそう考えてほしい》
ムーンの声はどこか悲しそうだった。
スウィートはムーンはやっぱり優しいなぁ、と思いながら微笑んだ。その微笑みは優しげなものだった。
(うん……。ありがとう、ムーン。ちょっとスッキリしたかも)
《そうか。ならば我はもう戻る。……それと主》
(?)
《できる限り、奴とは戦わないでくれ……》
それだけ言うと、ムーンがサファイアの中に完璧に戻ったのが分かった。
スウィートは首を傾げる。奴、とは一体だれのことだろう。
話の流れからしたらジュプトルと考えるのが1番だが、ムーンがそう言う理由がない。だとしたら誰なのか。
スウィートはアルが目を覚ますまでムーンの言っていた奴、が誰なのか考える羽目になった。
「よし、全員よく聞いてくれ」
朝礼が終わったあと、ディラがそう言う。
協力する、といったゼクトも朝礼の場にいる。フォルテは目を全力でそむけてるが。しかし逃げるわけにはいかないので、何とかそれで耐えている状態だ。
今日からはいよいよジュプトル捕獲作戦に入るのだ。
ギルドをほったらかしていいのか……とも思うが多分大丈夫なのだろう。多分。
「昨日、私と親方様とゼクトさんで、時の歯車≠ェありそうな場所を予測してみた。いくつかあるから皆には分かれていってほしい。今から分担を言う」
弟子達は静かに、一言も喋らずに聞いていた。このギルドでは相当珍しいことである。
「まず……“東の森”はイトロ、ラドン」
「分かったぜ、ヘイヘイ!」
「まかせとけ!」
ディラに呼ばれた2匹は張り切っているようで、大きな声で返事をする。……ラドンは少し煩かったが。
「次、“水晶の洞窟”にはルチル、レニウム、フィタン」
「分かりましたわ」
「分かったゲス!」
「承知した」
「あとは……“北の砂漠”。『シリウス』と『アズ――」
「やーったぁぁぁぁぁあぁぁ! 凛音、また先輩と探検できるんだって!!」
「メフィ、黙りなさい」
ディラがまだ発表している最中にも関わらず、メフィが大きな声で遮った。更にガッツポーズ付き。
すぐ凛音にバッサリと言われてしまったが。
「で、ディラさん。俺たちと『アズリー』であってますよね?」
「あ、あぁ……」
アルは念のために確認。
メフィが話を遮ったため、少し聞こえなかったからである。元凶であるメフィはまだはしゃいでいる。嬉しいオーラがにじみ出ていた。
「でも“北の砂漠”って……」
「砂漠、ねぇ……。タイプ的にあたしが不利そうね? あ、アルもメフィもか」
「また暑い所かな……。あぁぁぁぁ……」
順番にスウィート、フォルテ、シアオである。
するとディラが思い出したように地図を広げ、1つの場所に指をさしスウィートに見せた。
「此処が“北の砂漠”だ。多少、難しいダンジョンかもしれんが……頑張ってくれ」
「「は〜い!」」
「「「はい」」」
「はいはい」
シアオとメフィは元気よく返事をし、スウィートとアル、凛音はしっかりと返事をする。フォルテはというとめんどくさそうに返事をした。
―――北の砂漠―――
「あっつーーー!!」
「やっぱ……予想してた通りだね……」
「水持ってきて正解だったな……」
暑いところが平気ではない『シリウス』の3匹はもう汗だくだ。
因みにフォルテとメフィはという平然に前を歩いている。炎タイプなので当たり前だろう。
さて、1匹足りないことに気付いただろうか。
「にしても凛音ちゃん……。ダンジョン内に入った瞬間からはぐれちゃったね……」
そう、凛音だ。
スウィートの言うとおり、ダンジョンに入った途端、行方をくらました。一体、何処に行ったのやら。
するとメフィは明るい笑顔で
「あ、それなら大丈夫ですよ! あたし、いっつも依頼でも凛音とは別行動してますから!」
と言った。『シリウス』は何が大丈夫なんだ、と思った。
とりあえず、あえてツッコまないでおこう。
「それに凛音は奥らへんまで行ったら会えますよ。待っててくれてますから」
「あ、そうなんだ……」
もうツッコミどころ満載でスウィートも、そしてアルもツッコミのしようがない。
もはや探検隊の意味がない気がするのは気のせいだろうか?
すると辺りを少し見渡したアルが
「というか……行く先々、金(ポケ)が落ちてないって事は、凛音は既にここを通ったって事だよな?」
「「「「…………」」」」
その言葉に全員が黙る。
まだダンジョンに入って数分。凛音はタイプが有利だとしても此処の敵は手強い。
なのに凛音は1匹で易々と攻略していっているといことだろうか?
そんな事で黙っていると敵ポケモンがやってきた。
サボネアとヨーギラス、そしてサンドだ。やはりアルはこのダンジョンではかなり不利。
「アル……休んどく?」
「電気技以外で攻撃する」
キッパリと答えられスウィートは苦笑した。
そしてサボネアをフォルテとメフィ、ヨーギラスをシアオ、サンドをスウィートとアルという分担になった。
「じゃあ…手助け!!」
いつものように技を発動させる。
それが終わると同時に、すぐに全員が動いた。
「一発で終わらせてあげるわ、火炎放射ッ!!」
「強火でいきます、炎の渦!!」
フォルテとメフィはやはり相手が草タイプということで炎タイプの技で攻撃した。
そのままサボネアの方に向かっていき、直撃。効果抜群の技をうけて倒れていないわけがなく、サボネアは倒れていた。
「なんか凄い音が聞こえたような……はっけい!」
シアオがでんこうせっかでヨーギラスに近づいて、すかさずはっけいをする。
だがヨーギラスは軽く攻撃を避けた。
「いわなだれ!」
「やっば……! あぁ、もうアイアンテール!」
自分に当たりそうな大きな岩だけシアオは砕いた。
ちょっとはいわなだれのダメージを受けたが、動けないわけでもなく軽症だ。
「いくよ、はどうだん!!」
シアオは態勢を整えてからヨーギラスに攻撃する。
態勢の立て直しの早さを予想していなかったのか、はどうだんは直撃した。
「はーっ、危なかったぁ……」
シアオがホッと溜息をつく。
シアオの行動からヨーギラスはどうなったか予想してもらおう。
「でんこうせっか!」
スウィートがサンドの背後に回ってたいあたりをしようとする。
だがサンドは避ける。だがこの行動はスウィートは予想済みだ。
「こっちにもいるんでな、叩きつける!」
サンドがちょうど回避した場所にアルがいて、サンドは叩きつけるを食らって仰向けになる。
そしてそのまま攻撃を続けようとしたのだが、サンドは仰向けのまま
「毒針!」
「!!」
アルに向かって攻撃してきた。アルはギリギリで避けて、何とか顔に掠り傷が出来るくらいで済む。
アルが離れたのでサンドは起き上がるが
「アイアンテール!」
「ぐっ!」
スウィートのことを忘れていたのか、アイアンテールに直撃して倒れた。
そしてスウィートは「はーっ」と息をついてからアルの方を向く。
「アル、毒入ってない?」
「大丈夫だ。毒にはかからなかった」
大丈夫、というようにアルは両手をあげてヒラヒラと手を揺らす。一応、大丈夫みたいだ。
するとシアオが近づいてきた。
「アル、ホント大丈夫なの? 毒に気付いてないだけじゃない?」
「シアオ、お前しつこいぞ」
シアオの問いにアルは鬱陶しそうに返す。
どうやら本当に大丈夫なのでこれ以上おなじ事を言うな、という事なのだろう。だがシアオはアルの傷を見ている。
そうしているとフォルテやメフィもこちらに来た。
「あら、アル怪我したんだ」
「先輩、大丈夫ですかー?」
「だからもいいっての……」
アルは心底うんざりしたように返した。
仲間思いなのはいいが、心配しすぎるのもいけないんだぁ、とスウィートは学んだ。
――――北の砂漠 奥地――――
ダンジョンをようやく抜け、奥地についた『シリウス』とメフィ。
すると見覚えのあるポケモンが立っていた。
「あ、凛音!!」
「……メフィですか。先輩方も」
そう、単独行動した凛音だった。
どうやら先に着いたらしい。有利といえど、どれだけのスピードで、さらにポケを集めながら来たのか気になるところだ。
だが今回の目的はそれではない。
「……此処はどうやらはずれのようですよ」
凛音が静かに言う。
そして奥地を見ると、流砂が広がっていた。大きな流砂、小さな流砂と色々な流砂がある。
周りを探っても流砂ばかりで、時の歯車≠ェありそうな場所などない。
「此処には……ないようだな」
「だね……。はずれかー……」
シアオが残念そうに肩を落とす。
そこでいつもスウィートが励ますのだが、今回はそれは無かった。
何故かというと、スウィートは流砂を眺めながら黙りこくっていたから。
(前に感じた感覚と同じ……。この感覚はいつ……?)
スウィートが感じた感覚とは「懐かしい」、「来た事がある」という感覚だった。
ずっと考えているとやっと繋がった。
(そうだ、ベースキャンプで……! 私は……この場所を…………知ってる!!)
「――ト先輩ッ! スウィート先輩ってば!!」
「!?」
自分の考えに浸っていたスウィートは、いきなりの大声によって頭をバッとあげた。
声の主はメフィ。
いつの間にか俯いていた態勢になっていたらしい。
「スウィート、大丈夫? とにかく此処には何もないみたいだし帰ろ」
「え、ちょ……」
スウィートは反論する暇もなく、シアオに背中をグイグイと押されてきた道を戻らされる羽目になった。