43話 怒り
『ドクローズ』の登場にシアオとフォルテは驚いているようだ。
アルはイラつきながら『ドクローズ』を睨みつける。スウィートも睨みつけていた。
「そこの方達はわざとこの場所に選んだのでしょうね。『シリウス』の皆さんを彼等に始末させようとした……そうでしょう?」
「クククッ……流石は有名な探険家サマだな。その通りだ」
ゼクトの言葉に『ドクローズ』のリーダー、ウェズンは怪しく笑う。
それに相当頭にきた2匹がいた。
その1匹であるフォルテは口に炎をためて、完全に攻撃態勢に入っていた。もう1匹、アルは体に電気を溜める。その為にバチバチッという音が響き、アルの体は電気の線が見える。
「ちょっと……ホント、頭きたんだけど」
「同感だ。お前らのやってること、本当に腹がたつ」
フォルテとアルが殺気を含みながら『ドクローズ』に言う。
シアオは「え、ちょ、あの」などとオロオロしている。勿論、全員がスルーだ。
「しらねぇよ、んな事!」
「こっちは遠征の件で腹たててんだよ!」
ホルクスとギロウが2匹に向かって反論。
その言葉にスウィートがピクッと反応したのは誰も気付いていなかった。
そして怒った2匹とも技を放ってやろうとしたのだが
「…………ないでよ」
「「「「「「「?」」」」」」」
スウィートのいつもより低い声により、フォルテとアルは技を止める。
小さい声だったため全員、よく聞こえなかった。ただ、シアオとフォルテとアルにはスウィートがいつもと様子がおかしい、という事に気付いた。
ギロウは嘲笑うような声で言う。
「あァ? 全然、聞こえねぇな。もっとデカい声で、」
「ふざけないでって言ったの!!」
スウィートの大きな怒鳴り声が、場に響いた。
3匹はとても驚いたように目を見開き、ゼクトや『ドクローズ』も少なからず驚いているようだった。
そんな周りも気にせず、スウィートは続ける。
「何なの、貴方たち! いい加減にして!!」
いつものスウィートなら大声など出さない。
なのに構わず大声をだしている彼女に全員が目を丸くさせていた。特に、いつも一緒にいる3匹の驚きは半端ではなかった。
「アイオ君やサフィアちゃんみたいな小さい、関係ない子まで巻き込んで!!」
心の中でずっと、ずっと考えていた。どうしてこんな事をするんだろうって。
仕返しがしたいのなら、正々堂々とこればいいのに、なんで関係ないポケモン達さえも巻き込むのか。小さな子供までも。困っているポケモンも。全て自分たちの都合で利用して。
「過去の出来事で警戒しているシェアドさん達までも利用して!!」
彼も、いや、彼等もれっきとした被害者。攻撃したとはいえ、彼等も巻き込まれただけで、全く関係がないポケモンだ。
そう、全くの部外者が、仕返しという目的だけに、巻き込まれただけ。
「それでシアオ達に怪我させて!」
自分達は安全な場所で、戦っているところを見るだけ。『ドクローズ』のせいでシアオやアルは怪我をして。フォルテだって怪我はしてないとはいえ、疲労はある。
どうしてそんなことを平気でできるのか。どうして、それを笑えるのか。
「どれだけのポケモンを傷つければ気が済むの!?」
スウィートの体は震えていた。これは恐れではなく、怒り。
通常の大人しいスウィートのはありえない、とてもつもない怒りだ。
「遠征の件で腹がたったからやった!? そんなの貴方たちの勝手な事情でしょ!?」
ただの自分達の腹いせ。『シリウス』は少なくとも関係があるとはいえ、アイオ、サフィア、シェアド達は全く関係ない。
『ドクローズ』の事情に、いいように利用されただけ。
「私達に恨みがあるのなら正々堂々とやったら!?」
そう、卑怯な手を使わずに正々堂々とすればいい。
スウィートが腹にたてたのは、関係ないポケモンをまきこんだからだ。それさえしなければ、スウィートだってこんなに怒りはしなかった。
大分、自分の気持ちを言ったことでスッキリし、冷静さを欠けていた頭を落ち着かせる。
そして『ドクローズ』を今まで1番、冷ややかに鋭く睨んだ。その睨みに、『ドクローズ』はビクリ、と体をゆらした。
恐らく、ここまで冷ややかな目をしたスウィートは、初めてだ。
「……私達に正々堂々とやってこないって事は、勝てないと思ってるんですよね」
スウィートのその言葉は『ドクローズ』を挑発させるもの。
ホルクスやギロウは勿論、今回のはリーダーのウェズンも腹をたてたようだ。
「お前……! ふざけるな!!」
ウェズンはスウィートに向かって攻撃をしようとする。だがスウィートは動かなかった。
何故なら、もう堪忍袋の緒がきれてしまった彼女が動いているのだから。
「あたしだってスウィートと同じで怒ってんのよ! 火炎放射!」
「ぐぁあ!?」
そう、彼女とは勿論のことフォルテだ。
火炎放射を見事にウェズンに命中させる。やはりレベルは高いのか、倒れはしてくれなかったが。
「また痛い目に遭わなきゃわかんないんだよな? 電気ショック!!」
「ええっと、はどうだん!!」
「「ぎゃぁあ!?」」
フォルテに続き、シアオとアルもホルクスとギロウに攻撃をする。
あの2匹が避けれるわけも無く、技は命中した。
「次こんな事したら、もう容赦しない。こんな程度では済まさない。私は貴方達を許さない。
それだけは忠告しておきます。肝に銘じておいてくださいね」
スウィートの言葉を聞くと、ホルクスとギロウはビクリと体を震わせ、ウェズンはチッ、と舌打ちしてから仲間2匹を引き連れて逃げていった。
相変わらず逃げ足はとても早く、もう姿は見えなかった。
「……じゃあ早く水のフロートを回収しよう。ゼクトさん、アレであっていますか?」
「えぇ、あれが水のフロートです」
スウィートは水のフロートと確認した物を取る。
シェアド達とも約束したので、そろそろ離れねば本当に荒らしに来たという事で、またシェアド達と戦うことになる。それだけは避けたくて、スウィートは移動を促した。
「皆、もう行こう。シェアドさん達に悪いから」
「そうだね……。にしても、散々だったなぁ……」
「まさか『ドクローズ』だったとはね……。次会ったら火炎放射10発、いや100発くらいお見舞いしてやるんだから」
「物騒な事を言うな。本当になりかねない」
『シリウス』はさまざまな事を物々と呟きながら“エレキ平原”を出た。
――――トレジャータウン――――
「『シリウス』さん、どうもありがとうございました!」
「ありがとう!!」
“エレキ平原”から帰った後、スウィート達はカクレオン商店に来ていた。
理由は勿論、アイオ達に水のフロート渡すため。先ほどのお礼の言葉はアイオとサフィアのものだ。
今、カクレオン商店にいるのはスウィート、シアオ、アイオ、サフィア、ゼクト、イオラ、シルラだ。
何故フォルテとアルがいないのか。
それは交差点のところで
「じゃ、あたし疲れたから先に戻ってるわね! あとは宜しく!」
と言って目にも止まらぬ速さで、ギルドに続く階段を駆け上がっていった。原因、勿論のことゼクトだ。
するとアルが溜息をついてから
「……悪い。スウィート、ゼクトさん。ちょっと説教してくる。後を頼んだ」
「え、あ、うん。あんまり怒らないであげてね……?」
「分かりました」
スウィート達の返事を聞いてからフォルテを追いかけていった。まぁ確かにゼクトに対して失礼なのお説教も仕方ないことだ。
一瞬、スウィートの言葉を聞いて、アルが困ったような顔をしたのをしっかりと見てしまったので、スウィートも苦笑してしまった。
「ちょ、アル! 僕が何で入ってないの!?」
シアオが言った言葉はもちろんアルに聞こえていたが、見事にスルーされたのだった。
まぁ、こんな経緯でフォルテとアルはいない。
シアオは未だに「全くアルは……」とか言いながらブツブツと文句を言っている。そんなシアオにもスウィートは苦笑してしまった。
すると関心したようにイオラが口を開いて
「にしても『シリウス』は凄いですね。サフィアちゃんが攫われた時も場所を突き止めて、」
「イオラさん。この子達の前で、その話をしないであげてください。嫌な思い出なんですから」
と褒めようとしたのだが、スウィートが強引に遮った。
アイオとサフィアを見と、多少だが顔が暗くなっている。彼等にとっては二度と思い出したくも無い出来事だろう。
「ご、ごめんよ! すまない!」
スウィートに言われて、やっと気付いたイオラがアイオ達に謝る。アイオとサフィアはニッコリと笑って「いえ」と答えた。優しい子達である。
スウィートはさらに言葉を続ける。
「それに場所を突き止めれたのは、不思議な夢を見たからですし……」
「不思議な夢、ですか?」
するとゼクトが反応した。
スウィートは何故、そこに反応したか分からずに「はい」と言っておいた。するとブツブツ呟いていじけていたシアオが話しに入ってくる。
「スウィートが物に触れると、それに関した未来や過去が見えるんだ」
「!!」
シアオの言葉を聞いて、ゼクトが驚いたような顔をする。スウィートとシアオは顔を見合わせた。一体、どうしたというのだ、と。
するとゼクトがスウィート達の方を向いた。
「それはもしや……時空の叫び≠ネのでは……?」
「「時空の叫び=H」」
2匹が首を傾げる。勿論、イオラ達も何のことか分からずに首を傾げている。
そしてスウィートはゼクトが何か知っている、という事を悟った。そして自ら、こう言った。
「あの……ゼクトさん。ちょっと話したいことがあるんです。お時間、いただけますか?」
その言葉に、ゼクトはしっかりと頷いた。
何故、自分はこのようにしてしまったのだろうか。
もしも、もしも此処で自分がこのような行動を取らなければ、少しは未来が変わったのだろうか?
そんなこと、誰にも分からない。