42話 VSライボルト
「ふん、1匹で我を倒そうというのか? 無駄な事を」
ライボルトの表情を見ると、余裕といったものだった。スウィートはキッとライボルトを睨みつける。
そして目を閉じ、息を吸い込んでから、言葉を発した。
「……やってみなくちゃ分からない。それに、1匹じゃないもの」
(シクル、ちょっと力を貸してもらえるかな……?)
《えぇ、あたしは別に構わないわ。むしろ久々だから歓迎》
スウィートが目を開くと、目の色は水色に変わっていた。
ライボルトはそれと言葉に疑問をもつが、あまり気にはしないようだ。すぐに攻撃態勢に入ったのが分かる。
「我らの縄張りに入ったこと、後悔するがいい!」
「それは謝りますけど、こちらだって訳があるんです!」
スウィートとライボルトが一気に駆け出し、技を放った。
「10万ボルト!!」
「しんくうぎり!」
ライボルトの攻撃を自分の攻撃とぶつかり合わせ、無効化する。小さな爆発がおきたがそんな事、2匹は全く気にしていない。
ライボルトはタイプ的にもっとも使い慣れている電気技を使ってくる。それに対してスウィートはシクルに力を借りているので、ノーマルタイプと氷タイプの技、両方をうまく使っていた。
「でんこうせっか、スパークッ!」
「冷凍ビーム!」
ライボルトがでんこうせっかでスウィートの背後に回り、スパークで突っ込んでくる。
だが、スウィートは自分の背後に氷の壁を作り、ライボルトは舌打ちをしてから後ろに素早く下がった。
スウィートは構わず攻撃を続ける。
「氷のつぶてッ!!」
「ちっ、でんこうせっか!」
素早く氷のつぶてを撃ったのだが、でんこうせっかで避けられてしまう。やはり、とても強い。
スウィートはライボルトの様子を見て、次に何をしようか考えていると――
《バトル中に考え込まないで。冷凍ビーム!》
「え、えッ!?」
いきなりシクルの声が頭に響き、スウィートの体は意思とは関係なく動いて、ライボルトに冷凍ビームを放った。
ライボルトはすぐさま10万ボルトで打ち消した。
技と技とがぶつかったせいで土煙がたち込める。
「ケホッ……! ラ、ライボルトは……」
スウィートは周りを見渡し敵を探す。だが土煙のせいでほとんど何も見えない。
それでもキョロキョロと探していると
「――スパーク!!」
「ッ!!」
ライボルトが真っ直ぐ自分の方に突っ込んできていた。到底、今からでんこうせっかで逃げ切れる距離ではない。
スウィートが次来るであろう痛みに目を瞑って耐えようとすると――
《技をまともにうけてどうする! 冷凍ビーム!!》
シクルが勝手に冷凍ビームで壁を作る。
流石に前のようにはいかず、薄い壁になってしまったのでライボルトの攻撃は当たってしまう。
「うぐっ!!」
何とか薄い壁でライボルトの攻撃が弱まった。
おかげで体の態勢を保ったが、正直あまり体力も残っていない。あちらもあまり体力は残っていないと思うが、明らかにスウィートよりは残っている。
なのでスウィートとしては長期戦は危険なものだった。
《長期戦は禁物、か……。しょうがないわね》
「うん……。早めに終わらせないと、ちょっとキツイかも……」
シクルの言葉に、スウィートは苦笑いで答える。
本当はちょっと、でもなく結構キツイのだ。それはシクルも察しているかもしれない。
スウィートは一回、目を瞑ってから息を吸い込み、目を開いてライボルトの方を見据えた。
「《次で、終わらせる》」
スウィートとシクルの声が混ざりあった。
2重に聞こえた事にライボルトは怪訝そうな顔をするものの、どちらかというと言葉の方に気にしたようだった。
「それは……こちらの台詞だ。次で終わらせてやる」
「《
旋風飛雪!!!》」
「10万ボルトッ!!!」
スウィートは竜巻のようにライボルトの方に向かうに吹雪の技、ライボルトはおそらく1番強い技であろう電気技で対抗してきた。
雪と雷がぶつかり合う。吹雪の竜巻も10万ボルトも一向に譲らない。
「く……! 負けるわけには……!」
「お願い、頑張って……!」
2匹が顔を歪めながらも、技に向かって呟く。
だが、全く動かずぶつかり合っていた技の攻防戦も、ようやく動いた。
「何……!?」
スウィートの技のほうが、どんどんライボルトに迫っていったのだ。
ライボルトは目を見開いてから、何とか押し返そうとする。しかしそれは、無駄だった。吹雪の竜巻は弱まるどころか、どんどん強まり迫っていく。
もう、10万ボルトを打ち消すくらいだった。
それを見てスウィートとシクルは、技に向かって叫んだ。
「《これで、終わり!!》」
「ぐあぁぁぁぁあぁッ!!」
声とともに吹雪の竜巻が、ライボルトを一気に襲った。ライボルトの苦痛の声が聞こた後、竜巻は消えた。
スウィートの目の前に広がった光景は、ライボルトが倒れているものだった。
「やっ……た…………?」
スウィートが呆然と呟く。ライボルトは一向に起き上がらない。
「勝った」と思うと同時に、強い疲労感に襲われ、スウィートはその場にへたり込む。
するとシクルの声が頭の中で聞こえた。
《……ちょっと力使いすぎて、もうこっちには出られそうに無い。あたしは戻る》
「あ、うん……。ありがとね……」
疲れたせいか、声があまりしっかりと出なかった。声を聞く限り、彼女も疲れているようだ。
シクルが戻ると同時に、スウィートの目の色も戻った。
「そう、だ……。皆は………」
ハッ、となり回りを見渡す。探している3匹はすぐに見つかった。ラクライ達も全て倒れていて、あちらも片付いたようだ。
まぁ、それは良いのだが
「なんで…シアオとアルは固まってるのかな?」
そう、2匹が全く動いていない。スウィートは首をかしげた。
フォルテはというとバッグの中身を精一杯あさっている。どんな状況だ、と思うのは仕方ないだろう。
とにかく、スウィートは少々重い体を引きずらせ、3匹の元に向かうことにした。そこまで距離はなかったのであまりキツくは無かった。
「ええっと……大丈夫……?」
「あ、スウィート!大丈夫だった!?どこも怪我してない!?」
後ろからフォルテに声をかけると少し驚いたようだった。そしてすぐさま質問を質問で返された。さらに同じ内容の質問を。
スウィートは苦笑しながら首を縦に振る。
「私は大丈夫……。それよりシアオとアル、どうしたの?」
「特性のせいでマヒったの。でもクラボの実とか癒しの種とか探し中」
「あぁ…」
フォルテの説明で納得した。
目立った外傷は特に見当たらないので、相当のダメージを負ったわけでもなくマヒ状態なだけのようだ。スウィートは心の中でホッ、と息をつく。
しかし幾ら無事とはいえ、マヒ状態を放っておく訳にもいかない。
「癒しの種……クラボの実……。あ、癒しの種、発見! さぁ早く食いなさい!」
「フォ、フォルテ……」
フォルテが命令形で、さらにシアオとアルの口に無理やり癒しの種を押し込んだ。それを見て、スウィートは苦い顔をする。
アルなんか凄く不満そうな顔をしている。シアオも不満は不満なんだろうが。
そして2匹が種を飲み込んだ瞬間
「ぶ、っはぁッ! フォルテ、殺す気!? 窒息死するじゃんか!」
「知らないわよ! それくらい男なんだから流しなさい! いちいち細かいわね!!」
シアオが涙目になりながら、フォルテを睨みつける。フォルテもフォルテで鬼のような形相で睨んでいるが。
アルが溜息をつくなか、スウィートはやはり苦笑。
その次の瞬間、後ろでユラリ、と立つ相手の気配に気付いた。スウィートがバッと後ろを振り返る。それと同じように3匹も後ろを見た。
そこには、先ほど倒したはずの者。
「ラ、ライボルト!?」
「我らの縄張りを……貴様らなんぞに荒らされて、たまるものか……!」
傷だらけの状態のライボルトが何とか立っていた。ギラリとした目でしっかりスウィート達を睨んでいる。
その時に聞こえたシアオの「ひぃっ!」という声は聞こえなかったことにしよう。
「と、とりあえず私達はそこの物さえ取れば帰ります! だから、もう――」
スウィートが指したそこの物、とは勿論、水のフロートのことである。出来ればもう戦いたくなかった。
何故なら、これ以上やってもどちらも傷つくだけなのだから。それはもう明白だった。
だがライボルトは気を緩めたりもしなかった。
「黙れ! そんな事、信用なるか! 貴様らには、此処でくたばってもらう!!」
ライボルトは大きな怒鳴り声で、スウィートの声を遮った。どうあってもひいてくれそうにない。
さらにだんだん雲が集まって暗くなっていき、ゴロゴロ……という音が鳴り出した。
「まさか……かみなり……!」
アルが空を見ながら呟いた瞬間、スウィート達の顔は一気に青ざめた。
冗談じゃない。ただでさえダメージを喰らってる体で、そんなものが当たったら無事ですむものか。
「止めて下さい! それだけ取ったら帰りますから!」
「そ、そうだよ!」
スウィートとシアオが必死に説得を試みるが、説得が通じるのなら戦闘など元からやっていない。つまり無意味だ。
ライボルトはスウィート達を睨みつけてから
「喰らえ、かみなりッ!!」
「「「「!!」」」」
技を、放った。シアオ達3匹は目を瞑り、スウィートは技の“守る”をしようと彼らの前に出る。だがそれはもう遅かった。
ライボルトの放った技、雷は空から眩い光とともに、スウィート達の方に一直線に進んでいく。
これはもう、避けられない。
スウィートもそう悟って、くるであろう痛みに耐えるため目を瞑った。そして雷の轟音が場に鳴り響く。
だが、目をつぶった数秒後でも痛みはこない。
スウィートが不思議に思っていると、自分の前から声が聞こえた。
「待て! この者達はこの場を荒らしに来たわけではない!!」
「ゼ、ゼクトさん……!?」
目を開けると見覚えのあるポケモン。そう、ゼクトだった。スウィートは驚きに目を見開き、シアオ達も驚いているようだ。
……シアオとアルが、こんな状況で「きゃぁあッ!?」と声をあげたフォルテをKYだと思ってしまったのは仕方ないことだろう。フォルテは気にしていない。
「貴様……! 何者だ、そやつらの仲間か!?」
「私は探検家のゼクト・スペクテース。探検家だ。
貴方達の怒りはもっともだ。 それに、以前ここで貴方達が受けた仕打ちを考えれば……無断で侵入する者に対して攻撃的になるのは当然だ。だからこの者達がここに無断で侵入した事は詫びる。
しかし! それはけっして貴方達に危害を加える為では無い。用が終わりしだい我々はすぐにここから立ち去る! 信じてくれ、シェアド・フラクス!!」
ゼクトの言葉の最後にあった「シェアド・フラクス」とは、おそらくライボルトの名前だろう。
ライボルト、シェアドは数秒、ゼクト達を見てから言葉を発した。
「我の名前まで知っているとは……。……貴様の言う事を信じてやろう。だが、用が済み次第、此処をすぐに去れ」
シェアドはそれだけ言うと、クルリと背中を向けて、仲間のラクライ達に「行くぞ」とだけ言って行ってしまった。
スウィートはホッ、と安堵の息をつく。
「ど、どうなるかと思ったぁ……」
「そうだな……」
「シアオ、動かないで。動いたらぶっ殺すわよ」
スウィートが3匹を見ると、シアオとアルは同じように安堵していた。
フォルテだけはシアオを盾にするように隠れている。原因は言わずもがなゼクトだ。
「え、えっと……ありがとうございます、ゼクトさん。でもどうして此処に……?」
「彼らの事について知っていたからです。
皆さんが“エレキ平原”に行ったと聞いて。雷を好み、一年中それを追い流離っています。この時期のエレキ平原は、雷が多いので彼等は此処を住処とするんです。
ただ、以前ここで酷い目に遭い、それ以来ここに来る者は誰であれ叩き潰すようになってしまったのです」
「そうだったんですか……」
ゼクトから聞いた事を考えると、シェアド達に悪いなぁと思った。話を聞かずに攻撃してきた理由も、これではっきりとする。
でもシェアド達が去ったとしても、まだ問題が残っている。
水のフロートは簡単に回収できるだろう。だけど彼らが何かしてくるかもしれないため、先に片付けることにする。
「そこにいるのは分かってる……。しんくうぎり!!」
スウィートは大きな岩に向かって技を放つ。
岩は無残に砕かれ、そこにいたのは
「なッ、『ドクローズ』!?」
「またアンタ達!? ってシアオ、動かないで! ぶっ殺すって言ったでしょ!?」
「やっぱりお前らか……。懲りないやつらだな」
シアオの言った通り、『ドクローズ』がいた。