40話 エレキ平原へ
「ふぁぁあぁ……」
「シアオ、欠伸大きいよ…m…」
シアオがとてもつもなく大きな欠伸をしたので、スウィートは一応ツッコんでおく。
すると「ん?」と首を傾げられてしまい、スウィートは一体どんな反応をすればいいのだ、と思ってしまう。
するとディラがスウィート達のほうに近づいてきて
「おい、『シリウス』。お前らに客だ」
「「「「客?」」」」
といわれた。客が来ていると言われ、スウィート達は首を傾げる。
自分達に客、とは一体誰なのだろうか? もしかしたら誰かが何かをやらかしたのだろうか?
そう思うと全員の視線が1匹にむく。
「「「まさかね(な)……」」」
「ちょ、なんで僕を皆して見るわけ!?」
勿論、トラブルメーカーのシアオである。
まさか何かやらかしたという事はないとは思うが……可能性は十分にあるのだ。
そうしていると
「とにかくお前ら早く行け!」
とディラに怒られてしまった。
そこでフォルテが「はぁ?」と睨んでしまったのは見ないことにしておく。
「あれ? アイオ君、サフィアちゃん。どうしたの?」
ギルドの入口の前にいくと見慣れた顔、アイオとサフィアがいた。どうやら客、とはアイオとサフィアのようだ。
スウィートはなんだろう? と首を捻る。
するとおずおずといった風に、アイオとサフィアが話をきり出した。
「実は……頼みたいことがあって……」
「落し物をとってきてほしいんです」
「落し物って……確か水のフロートだよね?」
「それって海岸に落ちていたんじゃなかったの? そう言ってたじゃない?」
アイオとサフィアの言葉にシアオとフォルテが首を傾げて問う。
確かに昨日、アイオ達は水のフロートが海岸に落ちていると聞いて探しに行くと言っていた。
いくら子供でも、海岸に取りに行く事は可能なはずだ。
「昨日、海岸に行ってみたら水のフロートはなくて……」
「代わりにこの紙があったんです」
「……紙?」
サフィアが差し出した紙をアルが受け取る。
そしてその内容を見た瞬間に顔を顰めた。それには怒りも混じっているようだ。
手紙を見ていない3匹はわけが分からず怪訝そうな顔をしている。
「アル、なんて書いてあるの?」
そうスウィートが問うと、アルは重々しく口を開いて、紙に書いてある内容を読んだ。
「『水のフロートは預かった。これはエレキへ平原に置いておく。貴様ら水タイプに取りに来れるかな? クククッ。無理なんだったら優秀な探検隊にでも頼むんだな、クククッ』……だとさ」
「んなっ……!」
「何ソレ!?」
(これは…間違いなくあのポケモン達!!)
スウィートは紙の内容を聞いた瞬間、怒りが湧き上がった。
その紙を置いていったのが一体誰なのかが分かってしまったからだ。
フォルテはすぐに怒りを露わにし
「それって脅迫状じゃない! 貴方達、絶対行っちゃ駄目よ!!」
「でも……水のフロートは僕達にとって大切なものなんです!」
「だけど……エレキ平原は電気タイプが多くて……私達が行ってもすぐにやられちゃうんです……」
そう言ったが、アイオとサフィアはくらい顔をする。
しかし2匹にとっては余程大切なものらしい。どうしても水のフロートを取りに行きたいようだ。
「つまり……私達がそれを取りに行けばいいんだよね。エレキへ平原に」
「お願いできるでしょうか……?」
スウィートが簡潔に話をまとめると、アイオは控えめに頷いた。
スウィートの胸の内にはまだ怒りがある。これは行かなくては気がすまない。
それにもしかしすると、これはアイツらが自分達への仕返しのため、仕組んだことだともいえないこともない。
だとしたらアイオとサフィアはただ巻き込まれただけだ。
その落とし前をつけるべきなのは、自分たちだろう。
「分かった。……いいよね、皆?」
「僕は別にいいよ! こんなことする奴、許せないし!」
「あたしも賛成よ。ボコボコにしてやらなきゃ気がすまないわ。絶対に燃やす!」
「俺も賛成。それに……多分、俺らに関係してることだしな」
どうやら全員賛成のようだ。アルの言葉を聞くところ、どうやらアルは犯人が誰か分かっているようだ。
シアオとフォルテはどうだか分からないが。
「じゃあ行こう。エレキ平原に」
アイオとサフィアをギルドで待たせ、『シリウス』はエレキへ平原に向かうのだった。
――――エレキ平原――――
「確かに電気タイプが多い……。でんこうせっか!!」
スウィートが呟きながらでんこうせっかでメリープとの間合いを詰め、攻撃を仕掛ける。
でんこうせっかはノーマルタイプの技なので、スウィートの特性、適応力で技の威力があがる。
メリープのレベルが低かったおかげで一発で倒れた。
「チッ……電気タイプの技はあんま使えないな。たたきつける!!」
アルは顔を少し歪めながらエレキッドを尻尾で地面に叩きつける。
だがまだ倒れていない。
勿論、このダンジョンでは水タイプも不利だが、電気タイプの技もほとんど効かないのでアルは有利ようで不利だ。
アルがもう一度、と動こうとすると
「まかせて! はっけい!!」
いつの間にかエレキッドの背後に回っていたシアオが倒す。
その光景にアルは思わず
(シアオも前より成長したもんだな……)
などと思ってしまった。
本人が聞いたらきっと怒るだろう。こちらとしては褒めているつもりなのだが。
しかし本当にシアオは探検隊になってから成長していっていると思う。
それを思っているのはおそらくスウィートもフォルテも同じだろう。
「サンキュー。助かった」
「えへへ。アルはこの場所、案外不利だからね。ちょっとはまかせて!」
(ヘタレなのは変わらないがな)
ちょっと、さえ付けなければ上手く締めくくれたものを。
何故、何故ちょっとを付けたのかが疑問だ。おそらく無自覚につけている。いや、無自覚だろう。
そこだけは変わってないんだな、とアルは思ってしまった。
「にしても……あの紙、誰の仕業かしら? 腹たつ……」
「へ……?」
フォルテの言葉にスウィートが目をぱちくりさせる。
フォルテの言葉にシアオもうんうん、と頷いている。まさか気付いてないのだろうか。
アルはそれを見てはぁ、と溜息をついた。
(まさか2匹とも……気付いてない?)
だとしたらフォルテは正体が分かった瞬間にキレそうだ。
キレて攻撃……だろう。問答無用でフォルテの場合、しそうだ。あれだけ嫌っていたのだから。
まぁ、攻撃されるのはこの輩どもじゃなくてもされそうだが。
(でも…あの紙の内容聞けば…分かると思ったんだけどなぁ)
まぁアルが分かるのは納得だ。
アルは『シリウス』の中で1番鋭いといってもいいだろう。そのアルが気付かないはずもない。
スウィート的にはシアオはともかく、フォルテは気付いているものだとばかり思っていたのだが。
でも様子を見る限り、絶対に気付いていない。
「でも……あんな子供に脅迫状出すんだから、いい輩ではないよ。それにわざとエレキ平原を選んだみたいだし……ね」
スウィートが少しばかり怒りを含んでそう言った。
それにしても腹のたつ輩達だ。犯人が未だ分かっていないシアオとフォルテはうんうん、と頷いている。
アルもそれは一緒みたいだ。
「ぜぇったい火炎放射撃ってやるんだから!!」
「僕だって波動弾を!!」
「今そんなこと考えなくていい」
2匹が意気込んでいると、アルの的確なツッコミが入った。
だが2匹は気にしていないようだ。「やるぞー!」などと言って気合を入れている。
本当に、仲がいいんだか悪いんだか分からない。
「とにかく急ごう。アイオ君とサフィアちゃんも待ってるし」
『シリウス』はどんどんエレキ平原の先へと進んでいく。
その先に何がいるのかをまだ知らずにどんどんと……。
―――トレジャータウン―――
「そういえばアイオ君とサフィアちゃん、『シリウス』に落し物捜索を頼んだらしいですよ」
「水のフロートの、ですか? あれは海岸にあったというはずでは?」
『シリウス』がエレキ平原にいる頃、ゼクトはイオラとシルラと話していた。
ゼクトはイオラの言葉に首を傾げる。
するとシルラがあぁ、と言って説明をした。
「昨日、海岸に行って見た所、水のフロートの代わりに脅迫状が落ちていたらしいんですよ。それでアイオ君達はその場所に行けないので『シリウス』の頼んだとか……」
「ホント、あんな子供に何をするんでしょう! 私、許せませんよ!」
イオラが怒りを露わにする。誰もこの事は許せないようだ。
確かにまだ子供の2匹にあんな脅迫状をだすとはよっぽど最低な奴だ。
ふと疑問に思ったことをゼクトは尋ねてみた。
「『シリウス』は一体、何処に行ったんですか?」
「確か……エレキ平原だったと思いますよ」
「エ、エレキ平原!? この時期は確か、」
エレキ平原、と聞いて一気にゼクトが顔色を変えた。
イオラとシルラは一体何だ、と言わんばかりにゼクトを見ている。
「……! 『シリウス』が危ない! ちょっと私、エレキ平原に行って来ます!!」
「えッ、ちょっとゼクトさん!?」
イオラの呼びには答えず、ゼクトは慌ててトレジャータウンの出口に向かった。
一刻も早く、エレキ平原に向かうために。
――――エレキ平原 奥地――――
「結構、奥まで来たよね……。シャドーボール!」
「そうだね、でも何処にあるんだろう? 波動弾!」
「さぁ? 最奥部じゃない、やっぱり。火炎放射!」
「水のフロートが紙に書いてあった通り、あればいいんだがな。アイアンテール!」
一方、『シリウス』では奥地まで来ていた。
スウィート達が攻撃したのはデンリュウとエレブーだ。余裕なのか、話しながら倒した。
相変わらずの呑気な者達である。
「でもそろそろ最奥部についてもいいと思うんだけれど……」
「まぁ、そろそろ着くんじゃないかしら?」
敵ポケモンを倒した後もそんな会話をする。
さっきからこんな感じでとても呑気だ。
レジャータウンでゼクトが慌てていたのは彼女らは知らないので、仕方がないといえば仕方がない。
「ただ……何か仕掛けてる気はするからな……注意しろよ」
「脅迫状だしたポケモンが? なんだろう……?」
アルは誰か分かっているので大体、次のパターンも読めているみたいだ。シアオは分かっていないので分かるはずもないが。
まぁ、あのポケモン達のことなので何か卑怯なことを考えているのだろう。
他愛ない会話をしながら階段を上る。
すると、ダンジョンとは違う場所と出た。それはつまり……
「此処が……最奥部って事……かな?」
ダンジョンの最奥部についたという事だ。
スウィートがキョロキョロと周りを見回しているとシアオがあ、と声をあげた。
「あれ……もしかして水のフロートじゃないかな!?」
「確かに……水色だしそうに違いないわ!」
1番奥の方に水のフロートらしき物は落ちていた。
キラキラと光り、壁の近くに置いてある。アルはそれだけではないはず、と周りを見る。スウィートもだ。
だがその前にシアオとフォルテが動いた。
「とっとと持って帰りましょう! アイオとサフィアが喜ぶわ!」
「お前ら! ちょっと待てッ!!」
アルが大きな声で呼び止めた。
何とかシアオ達は止まったが……とき既に遅し。
「貴様らッ!此処は我らの領域だ!」
声のする方を見ると、崖の上にライボルトがいた。
(わざわざエレキ平原を選んだのはこういう事……。ライボルトに私達を倒させるため……!)
「わ、私達はそこの、水のフロートを取りにきたんです!」
スウィートはあの者達の策略にはのりたくないので、必死の思いで伝える。
スウィートはそこの水のフロートだけ渡して退いてほしかった。別に荒らしに来たわけでもないのだから。
しかし、スウィートの言葉をライボルトは信じなかった。
「嘘を言うな! そう油断させておいて我らの住処を荒らそうというのだろう! そうはさせん!」
「「「「!!」」」」
ライボルトがそう言った瞬間、いつの間にか『シリウス』はラクライ8匹に囲まれていた。そこに崖からライボルトが降りてくる。
完全に包囲されてしまった。
どうやら穏便に話を聞いてくれそうにないようだ。
「皆……体力は大丈夫?」
「大丈夫だよ……。スウィートは1匹で無理しようとしないでね」
「それはアンタもよ……。調子にのりすぎて怪我しないでよ」
「お前らな……くるぞッ!!」
スウィート達はじりじりと後ろに後退しながら確認しあう。
そうしてアルの言葉と同時にライボルト達は『シリウス』に向かって一気に攻撃してきた。
「覚悟しろ!!」