38話 世間話でもどうですか?
「そういえば、私ずっと聞きたかったんだけど」
剣の依頼を終え、夕食を待つだけの時間。
スウィートは唐突にそんな言葉を零した。その先にはシアオ、フォルテ、アル。不思議そうにスウィートを見ている
スウィートは気にせずに、自分の聞きたい事を3匹に尋ねた。
「皆って、いつから知り合いなの?」
「え……」
これがスウィートが聞きたいことであった。3匹はそんな質問をされるなんて思っていなかったのか、目を丸くしているが。
スウィートはけっこう前から気になっていたりしたのだ。
自分に初めて会ったときには3匹とももう仲良さげであった。それはもう親密で。喧嘩はしているけれど。
それでふと疑問に思ったのだ。「いつからこんな風に仲がいいんだろう」と。
シアオとフォルテは「うーん」と唸った。そしてアルは
「俺はもともとトレジャータウンの近くに住んでたからな。だからイオラさんとかシルラさんともよく話してたし、手伝ったりもしてたんだが」
「あ、新しい発見……!」
そんなこと知らなかった、とスウィートが自分の無知さに気付く。
そしてあれ、と思う。どうして身近にいる者たちのことをこんなにも知らないんだろう、と。そして凹む。
するとシアオが気付き
「うわぁ!? ちょ、スィート、何でそんな暗くなってんの!? というか何でそんなに凹んでんの!?」
「リーダーなのにこんなにも皆のこと知らないなんて……私、無能だよね……」
「いや、そこまでいかないと思うけど!?」
どうしてそうなる、と言いたげなフォルテとアルの目線。シアオは思いきりつっこんでいるが。
それでも無能には繋がらないはずなのでフォルテとアルは正しい。
暫くしてからスウィートが多少は涙目だが復帰し
「それで……シアオとフォルテとはどうやって知り合ったの……?」
「客として来てた。シアオが先で……フォルテがその数日後くらいか。とりあえず迷惑だった。コイツら、店の前で喧嘩ばっかすんだよ」
「いやいやいやいや、それはフォルテが突っかかってくるから!」
「違うわよ、あんたがうざかっただけでしょうが!」
「いや、まずお前らが喧嘩してたことに反省しろよ」
やはり色々しらないことがあるらしい。
スウィートが突然に聞いたのはもちろん、きちんとした訳があった。
自分は過去を知らないけれど、この3匹にはある。それがとても羨ましくも思えたのだ。
そしてその過去があるからこそ、自分の知らない3匹だって存在する。
それを完全に共有はできないが、ある程度は知っておいて、共有しておきたいのだ。
メンバーのことを、もっときちんと知って、仲良くなりたいというのがスウィートの本音だ。
「それで最初はイオラさんとシルラさんが止めてたんだが……。俺がちょっと機嫌が悪いときがあって、それでムカついたから「いい加減にしろ」って頭殴った」
「え、知り合いじゃないのに?」
「あぁ。煩かったから。どうせ同い年くらいだろうと思ったし」
「知り合いでもないのに殴るとか酷いと思わない!? 更にすっごい痛かったのよ、アレ!」
「営業妨害」
「それでも殴るって酷くない!?」
「そーよ、そーよ!」
2匹がアルに文句を言っているが、アルはしれっとしている、アルらしいといったらアルらしいが。
スウィートは「そんな知り合い方をしたんだ……」と驚きつつ、記憶に刻んでいた。
しかしこんな出会い方をしているのは驚きだろう。
知り合いでもないのにシアオとフォルテが喧嘩をし、アルが殴ってとめる……。カオスである。
スウィートとしてもこんな出会いしているなどと思っていなかっただろう。
「それでどうやって仲良くなったの?」
「アルに殴られてからもさー、フォルテと顔をあわせる度に喧嘩は続いてたんだけど。それでアルもちょこちょこ止めるようになってね」
「まぁ、そんなこんなで話すようになったわけよ」
「そんでシアオとギルドに入りたいって夢を聞いて、俺もまぁ少し興味あったからついでに。フォルテは……」
「おまけ?」
「ふざけんじゃないわよ、誰がおまけよ」
フォルテがシアオを睨む。先ほどの発言にイラついたようだ。
「あたしは故郷から離れて……まぁ、無理やりでてきたんだけど。それでちゃんとやってるってことを証明したかっただけよ。
それが家族に通じてるかどうかなんて知らないけど」
「へ、へぇ……」
またしても新しい発見をしたスウィートだった。
無理やりでてきた……いわゆる家出? とスウィートは考えた。スウィートとしてはちょっと家族が心配になった。
フォルテを探していないのか。とも思ったが、そんなんだったらもっと早く見つかっているだろう。だとしたら家族は「大丈夫」と信じているのだろう。
「やっぱ知らないことなんて沢山あるなぁ……」と考えながらスウィートはまたしても質問する。
「シアオとアルは? 家族には……」
「え? 僕? 僕はきちんと家族にいって来たから。お母さんにはすっごい心配されちゃった。お父さんは盛大に笑って見送ってくれたんだけど」
「俺は家近くにあるし。家族にもきちんと伝えた。妹が煩かったがな……。「ずるい」って。何がずるいんだか」
「あれ、アルって妹いるんだ?」
「かなーり元気なワガママな妹がな……」
アルの妹だというのでかなり賢く真面目なイメージかと思ったスウィートだったが、予想ハズレだったようだ。
シアオもフォルテも「へぇー」といってるところを見ると知らなかったようだ。
「いいなー、その子と知り合ってみたい」
「やめろ。お前と組んだら恐ろしいことこの上ない。というかシアオとフォルテにはいないのか?」
「僕は一人っ子ー。兄弟ほしかったけどね」
「あたしは兄貴とお姉ちゃんがいるわよ。あたしは末っ子」
「いいなー、フォルテもいるんだ」
「末っ子ってのは全部似んのか……」
「あたしはそんなワガママじゃないわよ」
「いや、お前もそうだろ」
そんなやりとりを聞いて、スウィートは少し笑う。
シアオは兄弟ほしいなーと駄々こねて。フォルテは末っ子だからじゃない、とアルに反論して。アルはそんなフォルテにいや正しいって、と言う。
それでスウィートはふと気付いた。
自分にも兄弟っていたのかなぁ、と。それ以前に両親さえもわからないのだが。
「どうなんだろう……?」
いたんだろうか、自分に。兄弟は。
両親はどんな人だったのだろう。兄弟がいたら、どんな人なんだろう?
その時、チリリーン、という明るい音が鳴り響いた。
「みなさーん! 夕食ができましたよー!!」
その音の後に、アメトリィの声。
シアオはその声を聞くととんでいった。
それを見てスウィートは考えるのを止め、フォルテとアルとともにゆっくりと食堂に行った。
(どう、だったんだろうなぁ)
そんなことを考えながら。