37話 予想外はいつにでも〈後編〉
(Side.スウィート)
探していたシアオとフォルテは、どうやら先に行っていたみたいだった。
私は見つかったことに関しては良かったと思うし、無事で(ある意味危険な目にあってたけど)よかった。
それはアルも一緒だと思うんだけど……。
現在、シアオとフォルテはアルに説教を受けさせられている。
「で? フォルテがシアオを追いかけててはぐれたんだよな?」
「は、はい……」
「その後は?」
「ええっと」
震えた声で、恐る恐ると事情を述べるシアオとフォルテ。
なんだかちょっと可哀想な気もするけれど、残念ながら、今のアルを止める勇気は私にはない。
だって絶対に口はさんだら「黙ってろ」って言われそうなんだもん……!
雰囲気で分かる。アル、本気ではないかもしれないけれど怒ってる。
私は別に怒らなくても良いとは思うけど、でもアルにはアルなりの考えがあるからしょうがないと思う。
どちらにせよ、迷惑をかけたのはシアオとフォルテだから。
だから私は庇ってあげることは出来ない。……反省はちょこっとはしてほしいけれど。
(でも……ディラさんのときと態度が全然違う……)
シアオとフォルテというと一度、朝礼に遅刻して怒られたことがある。
しかしあの時は
〈お前達は何度言ったら分かるんだ! これで二度目とはこのギルドで初めてのことだぞ!?〉
〈うぅ……。足、痺れてきたぁ……〉
〈早く終わらせなさいよね……。長いのよ……〉
と口をはさんでいたぐらいなのに。
今は全く口を挟まず、ただアルに聞かれていることを答えているだけ。………なんでこんなに違うんだろう?
あれ、ディラさんが全く怖くなかったとか? それはディラさんに失礼かな……。
「それでウロウロしてたらモンスターハウスにあって逃げてきた……それでオッケーか?」
「うん……」
「はい……」
あ、そろそろ終わるかな?
そう思って、私はシアオとフォルテに目をやってから、アルを見る。相変わらず何を考えているか分からない。真顔だから。
状況をまとめてから、1番にアルが口から出したものは
「はぁ……」
いつものような溜息だった。シアオとフォルテは相変わらず俯いている。
「……お前らな、前も言ったことを覚えてるか? 人に迷惑をかけるまで喧嘩はするなと言ったはずだ。覚えてるよな?
何でそれを守らない? お前らの頭は空っぽなのか? それくらいも覚えられないくらい頭が弱いのか?」
「「う…………」」
ア、アルが本当に怒っていらっしゃる……! な、何か怖いよ! 言い方も酷いけど言ってることも酷い!
「まずダンジョン内で喧嘩するとかバカ以前の問題だろ? その程度も分からなくなったか?
というかホントいい加減にしろよ。毎度毎度ケンカして何がしたいんだ? 一旦お前らにとって地獄の場所に放り出してやろうか? なぁ」
「「すみませんでした……」」
「……今回は俺じゃなくて、スウィートに1番に謝れ」
あ、やっとアルの饒舌なお説教が終わった……! …………………………て、アレ? 私?
何故かアルが指名したのは私。
私は全く何も怒ってないのだけれど。アルに1番に謝るべきだと私は思うんだけど。
というか前に言ったってことは、一度はシアオとフォルテは喧嘩して人様に迷惑をかけて、こうして怒られたてことじゃ……?
「俺はこんな事だろうと心配はしてなかったけど」
え、分かってたの!? 少ししか心配してなかったの!?
というか分かってたなら教えてよ……! すっごい心配してたのに! それじゃ私だけ大騒ぎしてたって事……!?
何というか…それはそれで凄く恥ずかしい…! うわぁぁぁあぁ……。
「スウィートはな、お前らのこと本気で心配して探してたんだ。ただのくだらない喧嘩で、お前らのせいで、バカな行動のせいで、お前らが騒いでる間、ずっと心配してたんだ」
……いや、まぁ本気で探してたけど。というかそんな事言ったらアルが全然心配してなかったみたいじゃない……!
アルだってちゃんと……ちゃんと探してたし……探してたよね? うん。
「お前らはそんなくだらないことで、スウィートに1番に迷惑にかけた。だからきちんと謝れ」
「ご、ごめんね……?」
「ごめんなさい、スウィート」
シアオとフォルテに頭を下げて謝られた。でも私は怒ってもないし、別に謝られても…。
そんなことを考えていると、名案を思いついた。
「だ、だったら謝る代わりに、私からのお願いでアルにお礼言って……?」
「「「は/え?」」」
アルも一緒に首を傾げられた。
うぅ……それでも言わなければ。それにしてもそんな怪訝そうな顔をして見なくても。
「アルも少ししか心配してなかったとはいえ……探してくれたのは事実だから。だからアルに……」
お礼を言ってほしい。
アルだって少しだけしか心配していないとはいえ、探していたのは本当だ。呆れながらでも探していた。
だからきちんとお礼を言ってほしかった。
「あの……スウィート。謝る代わりに自分からのお願いって……訳が分からないよ?」
……シアオ、そんなこと指摘しなくても。うん、ちょこっと可笑しいかなって思ったけど。
私の周りの空気が暗くなったのを感じたのか、すぐに謝ってきた。
うん、こんな事でめげないよ…。めげない、めげない…………めげて、ない……よ。
「と、とにかく私はお礼を言ってほしくて……!!」
「「……」」
な、何でここで沈黙がはしっちゃうんだろ!? そ、そんなに駄目だったかな!?
私がそう言うと、シアオとフォルテは何故か顔を互いに見合わせてから、私とアルの方を向いて
「「ありがとう、スウィート、アル」」
「……今度から気をつけろよ。はぁ、今回は大目に見てやる。た・だ・し・次やったらただじゃおかない。ホントに地獄に放り出す。分かったな?」
「え、なんで私も入ってるの? あれ?」
アルの発言でシアオとフォルテが大げさに揺れた。そして冷や汗をかきながらコクコクと頷いた。
だが私はそちらは大事ではない。
私はアルにお礼を言ってほしくて……確かにアルに言ったけど。私に、とは言ってないのだけれど。
「よし、じゃあ依頼人探すわよーー!!」
「おーーーー!!」
「……立ち直り早すぎだろ(反省してんのか?)」
「あれ? ……確かに私も探したけど…………あれれ?」
多少、気になるところもあるけれど、とにかく依頼人を探すことにしました。
(Side out)
「でも……依頼人は一体誰なんだろう?」
シアオが誰もが思っている疑問を口にする。
小瓶の紙は字が滲んでいて全く分からなかった。
いつもなら書いてあるが、今回は分からないのだ。
「どこの階にいるかも分からないしね……。1つ、1つきちんと探していかないと」
スウィートが少しだけ疲れたように言った。
まぁ、あんなことがあったので疲れていても仕方がないだろう。アルは疲れているのかは表情から見て取れない。
相変わらずフォルテは辺りをキョロキョロと見回して探している。
やはりまた同じようなことがおきないか心配だが、さっきのような事があったのでもう普通の依頼なはず、とスウィートとアルは願っていた。
するとシアオが大きく息を吸い込んだ。
「だーれーかーいーまーせーんーかー!!??」
「ちょ、シアオ、何やってんだ!!」
急いでアルがシアオの口をふさぐ。
だが、遅かった。
その声に反応してピジョンとヤジロンが来てしまった。
これは言うまでもなくシアオのせいだろう。シアオが叫んだせいだろう。間違いなくシアオのせいだ。
「お前な、ここはダンジョンだ! 敵も集まるに決まってんだろうが!」
「あれれ……? 依頼人、ってつけたほうが良かったかな?」
「そういう問題じゃない、アホ! くっそ、面倒くさい……でんきショック!」
「ホント馬鹿ねー、シャドーボール!」
アルがシアオにツッコミつつもピジョンに、フォルテは貶しながらヤジロンに攻撃した。
やはりヤジロンの方はシャドーボール一発で倒れるのだが、ピジョンは倒れない。なかなか厄介だ。
「アイアンテールッ!!」
「かぜおこし!!」
スウィートがピジョンに向かってアイアンテールを打ち込もうとするが、かぜおこしで尻尾が届かない。
スウィートは一旦ピジョンから距離をとる。
「流石ひこうタイプ……。接近戦はちょっとキツイかな?」
「まかせて!はどうだん!!」
スウィートがそう呟いていると、元凶のシアオがはどうだんを放った。さすがに避け切れなかったみたいでピジョンは倒れた。
するとアルはピジョンとヤジロンを指さしながら
「ということでシアオ。こういうことになるから、もう叫ぶなよ」
「了解!」
とシアオに言った。本人は敬礼のポーズをとって意思表示をする。……自信満々に言われるところが逆に不安なのだが。
とりあえず階段があったので上ることにした。
(何というか……シアオって天然だよね……)
などと思いつつスウィートは階段を上る。
確かに天然かもしれないが、シアオはどちらかといと天然馬鹿の分類に入るのではないだろうか。因みに本人は気付いていないがスウィートも大概である。
とにかく次の階についた。
「さて、依頼人をさが――」
「小瓶を出した依頼人さーん、いませんかー!? 探検隊で――イタッ!!」
フォルテが切り出そうとした瞬間、シアオがまた大声で叫んだ。
すぐにアルとフォルテに頭を殴られた。やはり理解はしていなかったらしい。
シアオらしいといえばシアオらしいが…迷惑である。
「シアオ! 叫ぶなっつっただろうが!!」
「えー……分かりやすくしたつもりなんだけど……」
「分かりやすいとかそういう問題じゃないつってんのよ! 叫ぶなって言ってんのよ!!」
そしてアルがまた「はぁ」と溜息をついた。やはりアルに溜息がつきものらしい。
当の本人、シアオは何のことだか分からずに首を傾げているが。スウィートはやはり苦笑して見る他ない。
だが予想していなかったことに――
「探検隊? 救助しにきた探検隊か?」
「「「「!?」」」」
どこからか声がしてきた。
今スウィート達は少し広いフロアにいるのだが、辺りを見回しても誰もいない。
スウィートは首を傾げたが、アルに悪いと思いつつ声を少し大きめに出した。
「えっと……小瓶を見て依頼を受けにきた探検隊です! もしかして依頼人さんですか!?」
「――あぁ、ここにいる」
と声がした方を振り返ってみると……壁からヌッと出てきたのは、ヌケニン。壁から出てきたのには驚きである。
だがそんな事を考えている暇がない奴が居て――
「ゴーストタイプゥゥゥゥゥゥゥゥウゥゥ!!!!!!」
フォルテは絶叫をあげて逃げようとしたが、アルによって首根っこをつかまれ阻まれた。
スウィートは急いでシアオの後ろに隠れてヌケニンの様子を伺っている。
「えっと……君が依頼人? 僕は探検隊『シリウス』のシアオ・フェデス」
「某は月影 剣だ。宜しく頼む」
(((月影……?)))
誰も一人称は気にならないのか、ヌケニンの名前の“月影”が妙にひっかかった。
アルが恐る恐る尋ねてみる。フォルテの首根っこを掴みながら。
「もしかして……月影刃さんの知り合い、とか?」
「そなたら、刃を知っているのか?」
少し驚いたように剣が言った。どうやら知り合いのようだ。
だとしたら親類か何かかもしれない。シアオはえっと、といいながら答えた。
「刃とは友達、だけど…。は?」
「刃は某の双子の弟だ」
………………。場に沈黙が走った。そして
「「「刃(さん)のお兄さんーーーーーーッ!!??」」」
沈黙から一転、3匹の驚愕の声がダンジョン内に響き渡った。
フォルテは相変わらず逃げようともがいていた。
――――ギルド――――
「兄者、こちらに来ていたのなら言ってくれれば良かったものを……。『シリウス』にはご迷惑をおかけしたでござるな」
「い、いえ……。依頼ですから」
刃に謝られたがスウィートは苦笑いして返した。
ギルドに帰るときにたまたま刃と会い、剣がいるといことで刃にもギルドに同行してもらった。
因みに報酬は5500ポケ(つまり550ポケ)とふっかつの種。
「でもさ、まさか依頼人が刃のお兄さんだとは思わなかったよ……」
シアオがを見ながら呟く。
確かに誰かの身内などとは思っていなかったので、驚き意外の何でもない。
そのがダンジョンから出られなかった理由が
「兄者は拙者と同じで情報屋でござるが、本職は小説家なのでござる。だからよく小説のネタを考えてフラーっとしていくので、度々このような事がおこるのでござるよ」
「さらに今回は炎タイプが多かったからヤバかった。だから依頼を出して、壁に隠れていたのだ」
「へ、へぇ……」
何というか、結構人騒がせなポケモンだな、と3匹揃って思った。
度々ということは何度もこのような事があったのだろう。さらに壁に隠れられては見つけるにも見つけれない。
「まぁ、とにかく助かった。礼を言う」
「い、いえ。でも……あの、気をつけてくださいね……?」
「善処する」
善処する、ということは完璧直す気はないのだろう。
スウィートは「これからは小瓶の依頼は受けられないかなぁ」と密かに思ってしまった。原因はフォルテだが。
「はーなーしーなーさーいッ!! あたしは部屋に戻るのよ!」
「放したら逃げるだろうが」
……まだアルに首根っこを掴まれていた。やはりあちらも懲りない。
こうして、ようやく依頼を終えた。
結果、普通の依頼の方がまだ楽だったかもしれない、とスウィートとアルが心の片隅で思ったのだった。