輝く星に ―時の誘い―












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第4章 怪しい賢者
36話 予想外はいつにでも〈中編〉
――――風乾の洞窟――――

「シアオ〜、フォルテ〜」

「此処にもいないな……。何処いったんだか」

 ダンジョンのフロアにスウィートとアルの声が響く。

 スウィートがシアオとフォルテの名を呼んでいる理由は、シアオとフォルテがまたくだらない理由で喧嘩をし、そこで追いかけあいになった後、いなくなって何処にいるかがわからなくなったからだ。
 つまり2匹を探しているという事だ。
 が、アルのいうとおり全く見つからない。
 スウィートは少し心配な顔をしているが、アルはあまりそういう感じではない。どちらかというと呆れの方がよっぽど大きいだろう。

「大丈夫かなぁ。私達と一緒でまだ探してるのかな……。それともまだ追いかけっこしてるって事はないよね……? とにかく無事だといいんだけど……」

「スウィート、心配しすぎだ。シアオの場合しぶといからまだ追いかけあいをしてる可能性はあるが……。まぁでも……あいつらの事だからまたどっかでトラブルなんか起こしてなきゃいいんだが……な」

 スウィートとアルの頭にニコニコしているトラブルメーカーのシアオと、「フン」といって女王様のような態度のフォルテが過ぎった。
 やはりあの2匹だけとなると心配にもなる。とくにシアオはトラブルメーカーだ。いつ何をしでかすか分からない。

「はぁ……。ちゃんと見とけばよかった……。しっかりしないとなぁ」

 そうすればこんな事にはならなかったのに、とスウィートが重々しく口にする。まるで自分が悪かったかのように。
 アル的にはシアオとフォルテが敵ポケモンの前で喧嘩していたことこそが第一の問題だと思っている。つまり2匹のせい。それこそが正論なのだが。

「ま、落ち込んでもしょうがないし探すか。にしても何処行ったんだ……?」

 2匹はダンジョンでシアオとフォルテ、そして依頼主の捜索を行う。
 まだその階にシアオとフォルテがいないことに気付かないまま。




 で、その頃のトラブルメーカーのシアオと女王様のような態度をとるフォルテは

「いったた……。なんで落とし穴なんか……」

「フォルテ、重いし邪魔! 早く退いてよ! 起き上がれないじゃん!」

 落とし穴に見事にはまって次の階に落ちていた。
 今はシアオが言ったとおり、フォルテがシアオの上に乗っかっている状態だ。

 そして「重い」という言葉をフォルテが見逃すわけもなく

「なっ、重いってしつれいね! そんなに体重ないわよ!!」

「だーかーらー、そんなこと言ってないで退いてよー!!」

「そんなことって何よ!? こっちにとっては大切なんだからね!」

「こっちにとっては退くかどうかの方が大切んなんだけど!」

 暫くの言い合いの後、フォルテがやっと退いた。
 シアオも起き上がってフォルテと共に辺りを見渡す。そして顔を見合わせた。

 そしてシアオが口を開いた。

「というか……いつの間にか僕ら、スウィートとアルとはぐれてるよね」

「……そうね。アンタが逃げ回るから」

「いや、フォルテが追いかけてきたから逃げたんでしょ!?」

「はぁ!? 元はといえばアンタがあたしを盾にしたから悪いんじゃない!」

「僕の判断の方が正しかったよ! だってあれで能力あがるんだから!」

「知らないし! 更に結局のところ役になんか立ってないじゃない!」

「それはフォルテが僕を追いかけるからでしょ!?」

「アンタが逃げるからでしょ!?」

 またギャアギャアと揉めだす。
 ここにアルがいたら止めているだろうが、生憎アルはいない。つまり止める者がいないのだ。

「だいったい、あたしは道具じゃないっつーの!」

「だからそんな事言ってないじゃんっか! 特性を使ったほうが有利だから!!」

「だからって無理やり前に押し出す!?」

「しょうがないじゃん! そうするしかなかったんだから!」

 また同じようなことを言っている。
 いい加減飽きないものだろうか。だからアルに頭が弱いと言われるのだ、この2匹は。

 言い合いは結構長く続き

「「ハァ……ハァ……」」

 2匹が息が苦しくなったところでストップした。懲りないやつらである。
 此処に敵ポケモンが寝ていたら、間違いなく起きていただろう。いなかったが。

 一旦顔を見合わせてから頷き

「「すぅぅぅぅぅぅ……はぁぁぁぁ」」

 何故か深呼吸をした。
 息を整えるためなのだろうが、さっきの行動の意味は不明だ。スウィートかアルなら理解できたのかもしれないが。

 そうしてフォルテとシアオは顔を見合わせ言葉を交わす。

「とにかく! スウィート達は同じ階にいるはずだわ」

「そうだね。多分僕らを探してるよね」

「ええ。でもあたし達はさっきの階にはいけないわ」

「だから僕らは――」

「「(来るのを)待つ!!」」

 と言いつつ何故か動き出した。言っていることとやっていることが違う。

 一体何がしたかったのだろうか?




 戻ってスウィートとアルというと

「ここ……さっきも来た、よね? もう全フロア回ったと思うんだけど……。階段もあったし……」

「動き回ってるにも程がないか?」

 まだ同じ階を探していた。さっきから同じ場所を行ったり来たりだ。

 会うのは敵ポケモンばかりでシアオとフォルテはいない。
 スウィートの心配そうな顔は変わらないが、アルは正直本当に呆れ顔になっている。顔だけで「いい加減にしてくれ……」と思っているのがよく分かる。

「大丈夫なのかな……。罠とか踏んでシアオがフォルテ怒らせて攻撃されたりされてないよね……?」

(あぁ、それは正直ありそうだ……。シアオとフォルテだし)

 スウィートの呟きにアルが本気でそう思った。
 頭に想像できたのはシアオがイガグリスイッチ踏んでフォルテが巻き込まれて、火炎放射を放っている場面。
 易々と想像できるのも凄い。それが日常茶飯事のことなので仕方がないが。

「でも……こんだけ見つからないって事は先に次の階に行ってるんじゃないか?」

「うーん……。だといいんだけど……もしも……」

 もしもこれでまだシアオとフォルテがこの階にいたら、それはそれで文句を言われそうだが。「何故先に行ったのか」と。

 アルはそんなスウィートの思考を読み取ったのか

「大丈夫だって。シアオとフォルテの事だから、どうせ喧嘩しながらでも俺達を探してるんじゃないか? くだらない言い合いしながら」

 そう言われるとそんな気もしてくる。
 スウィートはその姿を想像してしまってクスッ、と笑ってしまった。

「そうだね、じゃあいこっか」

 そういってスウィートとアルは階段のある部屋へと向かった。





「もーーッ!! なんでアンタはそんなに運が悪いのよぉぉぉぉおぉぉ!!」

「これは僕のせいじゃなくて不可抗力でしょぉぉぉぉおぉ!?」

 これを見て、シアオとフォルテがどのような状況か想像できただろうか?
 フォルテがシアオを追いかけてる訳でもない、言い合いをしているわけでもない。

 だとしたらどんな状況か?

「なんでよりによってモンスターハウスがあんのよぉぉぉおぉ!!!」

「というか追いかけてきてるしぃぃぃぃぃいぃ!!」

 フォルテとシアオが陥った状況は、モンスターハウスに入ってしまい、そのポケモン達に追いかけられているのだ。
 今思えばあそこから動かず、ジッとスウィートとアルを待てばよかった。

 何故この2匹は動こう等と思ってしまったのだろう?

 まぁ、今2匹はそんな事を考えられる状況でもないのだが。
 今考えることは、ただ走って逃げることだけだ。因みに追いかけてきているのはヒコザル、ビブラーバ2体、ヤジロン2体、ピジョン、ムクバード2体、リザードの合計9匹。

 おそらくシアオとフォルテは不幸の塊である。主にシアオ。 

「もう嫌ぁぁぁぁあぁ! 今日は最悪最低不幸デーと名づけてやるわ!!」

「嫌なのは同意するけど、今そんな名づけてる場合じゃないでしょ!?」

 シアオの意見はごもっともである。
 フォルテもそんな悠長な事を言ってる場合ではないと頭では分かっているが、もう嫌すぎて言葉しか出てこないらしい。
 敵ポケモンはそんなこと気にせずに追いかけてきている。

「スウィートとアル、とっとと来なさいよぉぉぉぉおぉ!!!」

「ヘルプミーだよ、この状況ぉぉぉぉぉぉおぉ!!」

 シアオもフォルテも、よくそんなこと走りながらが言える。
 逆に疲れるという事は考えられないのだろうか?

 すると茶色の毛と、黄色の物体が見えた。






「じゃあ探そっか。もしもいなかったら、大人しく待てばいいよね」

「あぁ。それが1番だろう」

 スウィートとアルは階段を上り、次の階に来ていた。
 とりあえずシアオとフォルテを探し、そして依頼人も探すという事で。そして2匹がいない場合は待っておくという事で。

 ポツリとスウィートが呟く。

「依頼人さんと一緒にいてくれたら、1番いいのだけれど……」

「いや、ちょっとそれは無理だろ」

 シアオとフォルテが一緒にいるとしたら敵ポケモンだろう、とアルは思ってしまった。できればそんな事になどなってほしくなってないと思いながら。

「じゃあ行こ、」

「スウィートーーー!! アルーーー!!」

「……って」

 早速行こうとすると聞き慣れた声に遮られた。
 スウィートとアルの名前を呼ぶといえばダンジョン内にはあの2匹しかない。

 そしてアルとスウィートは一緒に振り返ったのだが……その光景を見た瞬間、絶句した。
 そして――

「なんでお前らは、1番なってほしくないと思ったことになってんだぁぁぁぁあぁ!?」

 アルが大きな声で盛大に、ツッコんだ。
 スウィートはシアオとフォルテを見た時、パァッと顔を輝かせたが……追いかけられているのに気付いた瞬間、顔を引きつらした。
 流石にスウィートもこの光景は何があっても喜べない。

「ちょーーーッ、これどうにかしてよ!! 体力的にヤバイッ!」

「というかもう疲れた!!」

 絶対に悪いなどと自覚していないような発言。スウィートもアルも後ろのポケモン達を見ると悲しくなった。
 が、スウィートはすぐに気を取り直してバッグから道具を取り出す。

「あ、あった! バクスイだまッ!!」

 スウィートが使ったバクスイだまから光が漏れ出し、あっという間に追ってきていたポケモン達を眠らせた。
 フォルテとシアオはそれから数歩離れてから、ヘナヘナと座り込む。

「はぁぁぁ……疲れたぁぁぁ……。今日はよく走ったわ……」

「ホントに……。フォルテに追いかけられるわ、敵ポケモンにも追いかけられるわで……」

「お前ら、あとで訳を聞かせてもらうからな。…とりあえず一旦、こいつら全員倒すぞ。起きられると厄介だ」

「「え〜…………」」

「に、2匹とも……」

 もう走って疲れた、というように嫌だと2匹は意思表示。

 スウィートは困り顔だが、アルは真顔だ。
 その表情を見た瞬間、シアオとフォルテはタラリ、と冷や汗を流した。


「はぐれたのはどこのどいつだ? 分かってるよな、そのくらい? 誰が悪いのか分かってないとか言わないよな? なぁ、シアオ、フォルテ」


「「はい……」」

 アルが異様に怖いオーラを放っていたので、2匹は従うことにした。
 今のアルを怒らせたら、怒鳴るだけではすまなさそうだ。

 スウィートは知らないが、アルを怒らせると怖いのは、シアオとフォルテは身をもってよく知っている。
 そんなやり取りをしている間に、ヤジロン2体とピジョン、リザードは起きたみたいだ。
 スウィートはすぐさま技を発動させる。

「てだすけ!!!」

「でんきショック!!」

 アルのでんきショックはもちろんピジョンに当たる。だがピジョンはレベルが高いのか、一撃では倒れなかった。
 しかしアルは攻撃しない。それは勿論あと2匹が攻撃するから。

「さっきはよくも追いかけてくれたわねぇ、火炎放射! そしてシャドーボール!」

「フォルテと同意見かな、波動弾!!」

 フォルテはヤジロン2体をシャドーボール二発でしとめ、火炎放射をふらふらのピジョンに放つ。
 さっきのダメージもあってか倒れた。
 火炎放射はリザードにも当たったみたいだ。シアオの波動弾でしとめた。

「ふーっ、さて後は」

「寝てるのにごめんなさい、“爆裂大河(ブイソード)”!!」

ドォォォォォンッ!!

「「「…………」」」

 4匹片付けたのであと5匹もやらなければ、と思った3匹。
 しかし後ろを振り向いた瞬間スウィートが炎と水が合わさって出来た大剣を思いっきり5匹に振りかざした。
 勿論5匹ともすぐにダウンである。

(((寝てる相手にも容赦ない……)))

 3匹はその光景を見た瞬間、そう思った。
 そして5匹を見てご愁傷様、と手を合わせてしまった事は仕方がないことだと思う。
 
 スウィート本人はそんな事気付いておらず、サファイアに向けて話しかけた。
 右目が赤、左目が青になっていることには気付いていない。

「ありがとう、アトラ、フレア」

《へへーん、俺様の偉大な力に感》

《スウィートちゃんの役にたてたなら良かったわ〜♪》

《オイッ! 遮ってんじゃねぇ!》

《ちょっとフレアちゃん、煩いわよ〜。まぁ、とりあえずスウィートちゃん一旦さようなら♪》

《あッ!! ちょ、オ、》

 ブツッという音をたてて、スウィートの頭に響いていた声が止む。

「…………さっきの音は一体……」

 フレアとアトラに力を借りていたスウィートは、あとで聞いてみようと思うのだった。
 そして声が聞こえなくなった後、目も元の色に戻っていた。
 そしてスウィートは倒れているポケモン達に手を合わせている3匹を不思議そうに見た。

「あれ? 皆、どうしたの……?」

「いや、なんでもない。とりあえず一旦片付いたし、訳でも聞こうか?」

 そのアルの言葉に、ビクッと体を揺らしてしまったのは、シアオとフォルテはしょうがないことだと思った。

アクア ( 2012/11/25(日) 20:12 )