33話 休みにならない休日
「フォルテ……じゃなくてシアオ。ゴロゴロ転がらないでくれると嬉しいんだけど……」
「シアオが読書してるとか……。いや、中身はアルだけど」
「スウィートじゃなくて、フォルテ。ジロジロ見るのやめろ」
「そういうけどさ、アル……じゃなくてスウィート。暇だもん」
「「「「…………。」」」」
4匹が黙る。気持ちが一致しているようだ。
シアオはゴロゴロと転がりまわり、スウィートがそれをやんわりと制する。アルは真面目に読書いてるのだが、フォルテに見られてそれどころではない。……というのが今の現状である。
つまり普通に見ると、フォルテはゴロゴロと転がりまわり、アルがそれをやんわりと制する。シアオは真面目に読書してるのだが、スウィートに見られてそれどころではない。……という感じである。
そして4匹が困っているのは呼び方である。
自分の体に入っている者は分かる。だが他を間違えてしまい、言いなおしてしまう。はっきりいって面倒である。
「セフィンまだかなー。早くきてくんないかなぁ……」
中身はシアオだが、フォルテの口からそんな言葉がでる。
ゴーストタイプ嫌いのフォルテではありえないことなので、かなり可笑しい。
頭では中身がシアオと分かっているのだが、スウィートとアルはちょっと目を見開かせてしまった。フォルテが思いきり睨んでいるが。
でもセフィンに早く来て欲しい気持ちは皆同じだろう。戻れないと困るのだ。
「とりあえず、呼び方を統一しないかしら? ちょっと捻って……」
「ちょっと捻って……って、どうやって?」
フォルテの提案にスウィートが首を傾げる。
その質問にフォルテはうーんと唸り、そして小さく言葉を発した。
「例えば……スウィートのことをブルーって呼ぶとか」
「は?」
フォルテの提案に、訝しげな顔をしたアルが反応した。つまりシアオが反応したといってもいい。
アルの体に入っているスウィートは未だ首を傾げているが。
「おい、フォルテ。どっからブルーがきた?」
「スカーフ。つまりあたしがピンクで、シアオがレッド。アルはグリーン、みたいな」
「何かレッドってカッコいいね!」
「つまり名前を呼ばず、スカーフの色で呼べばいいってこと?」
「そんな感じ。つけてる本人だってスカーフが見えるんだから分かるでしょうが。まぁ、反応は遅れるけど」
フォルテは簡単に説明した。途中で聞こえたシアオの声は無視である。
アルはまだ訝しげな顔をして、スウィートはなるほど、と納得したような顔をしている。シアオは「賛成、賛成!」と声を張り上げているが。
するとスウィートがアルの方をむいた。
「えっと……グリーン、それでいいかな?」
「…………いや、もう始まってんのか? それ」
「えっ、始まってないの?」
スウィートもといブルーの発言に、アルことグリーンの反応が遅れた。確かにいきなり始まってるなど思ってないので、さっきのは仕方ないだろう。
発案者のフォルテことピンクや、さっきからノリ気なシアオもといレッドもやる気満々である。
そんな3匹を見て、グリーンははぁ、と溜息をついた。
「わかったよ。今日だけな。変な癖ついたら困るから」
渋々だがグリーンも承諾した。
グリーンが言いたいのは、ずっとやっていたら、戻った後でもグリーン≠ニいう単語に反応してしまいそうだからだ。だから今日だけ。
ホッ、とブルーは胸を撫で下ろした。
そしてんー、と伸びをする。グリーンはまた読書に戻ってしまい、レッドもピンクもそれを観察するようだ。おそらく凄い迷惑だろう。
そしてついにイラついたのか、グリーンが本の門でレッドとピンクの頭を叩いた。かなり痛そうだ。
「…………あはは」
それを見て、苦笑いしかできないブルーであった。
そしてお昼頃。
相変わらずグリーンは読書をし、レッドとピンクは暇になったからか、寝ていた。
ブルーはというと、セフィンから貰ったジュースを見ていた。
(別に変な味はしなかったし……普通のジュースだと思ったんだけどなぁ。というかセフィンさん、何でこんなジュース渡したんだろう?)
ジュースを見るも、どうやら異常はないように思える。それに入れ替わり≠ネんて言葉は一言も書いていない。不思議なジュースだ。
そしてこのジュースを渡したセフィンも不思議の1つである。
やはりセフィンのだから、用心しておく必要があったか、と思うブルーであった。おそらくそれは全員だろうが。
「何か書いてあったか?」
「! う、ううん。特に何も書いてなかったよ」
グリーンにいきなり話しかけられ、驚いたブルーがちょっと噛みながらも返す。
するとピンクが声を発した。
「燃やす……ぜったい、燃やし、て……」
「「…………。」」
「スー……スー……」
何やら不吉な寝言を残し、また寝息を立て始めたピンク。
寝言のときも笑顔だったのが、本当に恐ろしいところである。
「……私の体で、やめてほしいんだけど…………」
本当に勘弁して、とブルーは心の中でピンクに訴えた。その心の声がピンクに聞こえるはずもない。
すると今度はレッドが声をあげた。
「う、うぅん……。し、ぬ…………」
「「…………。」」
「くかー……」
いったい何の夢を見てるんだ、コイツ。ブルーとグリーンの思いが一致したときだった。
さらにピンクがあの寝言を言った後、タイミングよく「死ぬ」。同じ夢でも見てるんじゃないだろうか、と思うほどのタイミングのよさであった。
そしてグリーンはレッドを見て、そしてピンクを見てから言った。
「きっと……いつも夢を共有してんだろうな、コイツら」
「いや……。もしかしたら現実味な夢を見ているだけかも……」
それもそうか、とグリーンは何気なく納得してしまった。
「ぎゃぁぁぁぁあぁぁッ!!」
「ホントに私の体で叫ぶのやめて!?」
……さっきの会話で誰が喋ったのかお分かりになっただろうか。
「いやー……スウィートにこうも叫ばられるとはシュールやなぁ。そしてアルが涙目でスウィートにお願いしてるのはウケるんやけど」
「ウケるな。それに体は俺のだが中はスウィートだ」
「そしてシアオが真顔でつっこんでくるし……怖いな」
「ちょっと待って、それどういう意味!?」
「仕舞いにはフォルテが叫ばずにウチに話しかけてくるんやで? 恐ろしいにもおほどがあるわ」
そしてこの会話で大体なことが予想できただろうか。
まず、セフィンがようやくきた。関西弁で予想ができただろうか。
そのことで悲鳴をあげたのがピンク。そして涙目になってツッコんだのがブルーである。
それで呑気に感想を述べているセフィンにつっこんだのがグリーンとレッド。相変わらずセフィンは呑気なのだが。
因みにいうとピンクは首根っこをグリーンに掴まれている。これもかなりシュールであった。
「いやー、あのジュースやけど知り合いから貰ったんや。入れ替わりはできると聞いとったけど、まさかホンマに入れ替わるとはなぁ……」
「知ってたのか!?」
「そりゃ勿論。嘘やと思ってアンタらに渡したんやん」
「そんなもの渡さないでよ!」
どうやらジュースを飲んだら入れ替わることはセフィンは把握済みだったらしい。嘘だと思っていたようだが、知っていたのに渡すというのはかなりタチが悪い。
グリーンは溜息をついて頭を抱え、ブルーはがっくりと肩を落とした。
「何で渡すんですか、そんなもの……」
「ホンマに入れ替わるなんて思っとらんかったんや。いやー、飲まんくってよかったわ」
「僕たち身代わり!?」
「そういうことやな」
「肯定しないで!?」
「というかとっとと戻りかた教えて帰んなさいよぉぉぉおぉ!!」
セフィンののんびりとした言葉にレッドがツッコむ。最後のはピンクである。
今だからあえて言おう。セフィンにツッコんでいるのは、普通に見たらフォルテである。そして叫んだのがスウィートというカオスな図である。
「美味しかったよ!? 確かに甘くて美味しかったよ!? けどこんな得体のしれないものを普通渡す!?」
「渡す渡す。ウチならな」
「普通は渡さないんだけど!」
一生懸命にツッコンでいるレッドは当分、無視して大丈夫だろう。
とりあえず文句より先に、戻る方法だ。
「で、セフィンさん。戻る方法は……」
「戻れへんで」
「「「「…………は?」」」」
セフィンの言葉に、さっきまでギャーギャー喚いていたピンクまでもが黙った。
そしてセフィンはニッコリ、という音がつきそうな満面の笑みで、もう一度いった。
「残念ながら、戻れへんで♪」
……………………室内に、沈黙がはしり、そして
「「「「えぇぇぇぇぇえぇぇ!?」」」」
大声が響いた。
こうなったら全員がパニックである。
「え、戻れない? このまま? 一生? え?」
「え、冗談だよね!? 嘘だよね!? え、戻れないぃぃぃいぃ!?」
「何でこんな目にッ……。やっぱゴーストタイプから貰ったモンなんて口に入れるべきじゃなかったのよ……!」
「ふざけんな、セフィン! 何が何でもどうにかしろ!」
パニックになるもの、叫ぶもの、自分の行動を愚かだと思うもの、抗議するもの。それぞれだった。
まぁ、戻れないと言われてしまえば仕方ないだろう。
「しゃーないやん。諦め」
「ま、待って待って! 諦められるわけないじゃないですか!? 一生このままなんて仕事をいったいどうやってやったらいいんですか!?」
「そのまま」
「無理ですから!!」
ブルーが抗議するが。セフィンは笑顔だ。
そんなセフィンを見て、グリーンが思いきり顔を顰めた。
「お前、
人の不幸を喜んでないか、なぁ?」
「他人の不幸は蜜の味っていうやんか。同じや」
「ふざけんな! そっちがよくともこっちは全くよくねぇよ!」
ついにはグリーンまでもが声を荒らげだした。
それを見たセフィンは「はーっ」としょうがなさげ、みたいな感じで溜息をついた。正直いうと、かなりウザい。
「まぁまぁ、それは軽いジョークやとして」
「ジョーク!?」
「「「くだらん嘘をつくな!」」」
セフィンの言葉をブルーが復唱し、レッドとピンクとグリーンが息ピッタリでつっこんだ。
かなりタチの悪いジョークであった。
「ジュース。もう1回飲んでみ。そしたら戻るから」
「……え、それだけ?」
「そんだけ。あーあ。大騒ぎも無駄やったな〜」
呆然としている『シリウス』をほったらかし、「んじゃ今日はウチは帰るな〜」とセフィンは壁をすり抜けて帰っていった。セフィンはマイペースだった。
そしてセフィンが帰って言った後
「「「「貴重な休みを返せ/してください!!」」」」
という綺麗にハモった声が、『シリウス』の室内で響いた。
その後。ジュースを飲んで『シリウス』は元に戻ったが、ドッと疲れが押し寄せてきて全員が寝てしまったのはいうまでもない。