32話 大騒ぎな休み
怪談話大会が終わって、夜が明け朝になった頃――。
「ひゃぁぁぁあぁ!!」
「うわぁぁぁぁあぁ!!」
「きゃぁぁぁあぁぁッ!!」
「どーなってんだ!?」
休みのギルドの一室、『シリウス』の部屋から4匹の大声が響いた。
「えっ、えぇぇぇえぇ!?」
「何コレ!? 何が起きてんの!?」
「あたし何かした!?」
「おい、ホントどうなってんだ!?」
そして戸惑う声。もう太陽がすっかり昇ったとはいえ、まだ早い。
何事か、と思ってギルドのメンバーが『シリウス』の部屋に駆け込んだ。
「おい、どうした!?」
ディラがそう言うと、4匹が一斉に出入り口の方を見た。
部屋を見ると……あまり変わっているように見えない。部屋に何かあったわけではないようだ。
4匹を見るも、変わった様子はない。いつもどおりの状態だ。青ざめた顔以外は。
全員が怪訝そうな顔をした。
なら何故、4匹は朝から大騒ぎしているのか。シアオやフォルテはしかないとしても、スウィートとアルまでも。
「……別に変わったことはなさそうだが。どうしたんだ?」
「どうしたもこうしたもないわよ!!」
その瞬間、全員が目を見開いた。そして、間抜け面になり、口をポカーンとあけた。
全員の気持ちが一致した。「何があった」と。
「どうしたって聞きたいのはコッチだよ!」
「な、何で……! も、もしかして夢かも……? って痛い……!!」
「いや、マジで何がおきてんだ? 何がおこった?」
「夢じゃないならなんなのよ、コレ!?」
4匹全員が喋るとともに、全員が固まった。何だ、コレは。
そして1匹だけ、間抜け面をしている弟子達の中で真顔な凛音が大騒ぎしている『シリウス』に話しかけた。
「……とりあえず、何があったか話してもらえます? スウィート先輩」
「え、えっと……」
更に口をあんぐりとあける弟子達。返事をしたのはスウィート……ではなくアルだったのだ。雰囲気が変な、アル。
そして凛音が目を細めて、冷静に聞いた。
「もしかして、体が入れ替わっちゃってます?」
「う、うん」
「そうなんだよ! やっぱ夢じゃないんだ!」
「そーなのよ!」
「あぁ」
……上からアル、フォルテ、スウィート、シアオと返事をする。喋り方がシュールすぎる。
そして暫くしてから弟子達は揃って
「「「「「「「「はぁぁぁぁぁぁあぁ!!??」」」」」」」
大声を張り上げたのだった。
「……コホン。話を纏めると」
たった今 話しているのがディラ。場所は朝礼の場所。
弟子達は並び、『シリウス』は完全なる注目の的になっていた。
「アルの体にいるのがスウィートで」
「は、はい……」
「スウィートの体にいるのがフォルテで」
「そーよ」
「フォルテの体にいるのがシアオで」
「うん」
「シアオの体にいるのがアル」
「そうです」
違和感のある返事の仕方。
まずアルはおどおどしながら返事をしている。明らかにおかしい。
そしてスウィートは威張ったような気の強い態度。敬語を使ってない時点でおかしすぎる。というか雰囲気が真逆である。
フォルテは頭が壊れたかと疑いたいくらい子供っぽい返事。というか雰囲気。怖すぎる。
そして何よりおかしいのは――シアオ。しっかりしすぎている。更に敬語。怖すぎる。
入ってきたばかりの後輩2匹、メフィは「え?」とパニックになっているようだが、凛音は真顔で『シリウス』を見ていた。真顔は真顔で怖いが。
すると状況を整理しているディラが『シリウス』の4匹に確認していく。
「で、朝おきたときは普通だったと」
「はい。……私の体でした」
アルが「私」と言ってる時点で怖い。
弟子の中で2名くらいは笑いを必死に堪えているが。
「そして昨日のムウマ……セフィンとやらから昨日貰ったジュースを飲んでいたと」
「そうそう。美味しかったよ」
フォルテにしては威張った感がない。
さらに笑いを堪えている者は体が震えているが、それでも睨んでこない。それはそれで恐怖である。
「そしたら強い眩暈が一瞬だがして」
「そ。というか笑ってる奴ら、焼くわよ」
いつものような感じでおどおどせずに女王様気質のスウィート。
笑いを堪えていた2匹はいつも睨んでこないスウィートにビビリ、冷や汗をかいた。恐ろしい。
「すると自分が目の前にいて……入れ替わっていたと」
「あってます。笑うのやめてもらえますか、こっちは真剣なんで」
最後にはヘラヘラした笑顔のないシアオ。
そして真顔で先輩たちを見た。普段ない様子で怖い。真面目なシアオは何だか怖い。
まぁ、ディラが言っていた通り、『シリウス』は体と精神が入れ替わってしまったのである。
原因がセフィンから貰ったジュースという、ちょっと危険なもので。
「エート……とりあえず戻る方法、わからないのか?」
「セフィンさんから頂いたジュースは何も書いていなくて……。それで、その……戻り方も、さっぱりわからないんですよ、ね」
顔が若干だがひきつりながら、スウィートが言った。見るほうからしたらアルなのだが。
戻り方がわからない。つまり一生このまま。なんていう事は困る。というか不気味すぎて気持ちが悪い、と思う弟子たちであった。何としてでも戻る方法を探さなければならない。
するとコホン、とディラが咳払いをした。
「とにかく『シリウス』は今日は外にでるな! トレジャータウンで問題をおこしたら厄介だからな」
「えぇぇぇーー!?」
「休みなのに引きこもんなきゃいけない訳ェ!?」
フォルテが「えぇ−」というのは別になんでもないが、スウィートが反論することは本当にシュールである。中身はシアオとフォルテなのだが。
するとアルがシアオとフォルテにチョップをかました。……言い換えるとシアオがフォルテとスウィートにチョップをかました。可笑しすぎる。
必死に笑いを堪えている弟子達に、ディラは溜息をついて指示をだした。
「それで悪いがアメトリィ。セフィンに戻し方を聞いてきてやってくれないか?」
「分かりました。……と言いたいのは山々なのですが、何処に居るのか分からないので聞くにも聞けないというか……」
アメトリィの言い分は最もである。
昨日はセフィンと刃がこっそり入って、いわゆる不法侵入をして入ってきたのだ。だが今回はそうもいかない。探さなければならない。
かといってギルドとセフィンの接点はないに等しい。だから家の位置なども知るはずがないのだ。
するとアルもとい、シアオが挙手をした。
「15時くらいになったら多分ですけどカフェにいると思います。いつもいるんで」
「分かった。じゃあアメトリィ、15時にパッチールのカフェに行ってきてくれ」
「分かりました」
「お手数をおかけしますがお願いします……」
「すみません、お願いします」
アルとスウィートが丁寧に頭を下げて言う。
すると耐え切れなくなったイトロとラドンは笑い出した。何気にルチルやレニウムも小さく笑っていたりする。
「うっさいわね! 笑ってんじゃないわよ!」
「「うぉ!?」」
フォルテが怒りのあまり怒鳴ると、しんくうぎりを放った。
その標的、イトロとラドンは何とか避けたが、間一髪だった。というか当たってもおかしくなかった。
するとフォルテは(体はスウィート)鋭い目つきで2匹を睨み
「次笑ってたらタダじゃおかないわよ……」
「「すみませんでした!」」
「フォルテ、それ私の体だからやめて……」
普段怒らない者が怒ると本当に怖い。中身はフォルテだが、スウィートに睨まれたというような2匹は恐怖を覚え、すぐさま謝った。
そのとき、スウィートが「勘弁して……」といったような顔をしていた。それにアルが「俺の体に入ったのがスウィートでよかった……」と安心していたのはまた別の話。
「とーにーかーく! 『シリウス』は大人しくしていろ!」
「はい……」
「えぇー、折角の休みなのにー……」
「何であたしがこんな目に」
「了解しました」
ディラに言われ、スウィートはすぐさま部屋にむかった。
アルというと、渋っているシアオとフォルテを引きずっていった。
アルがすぐ部屋に戻るのはいつもだが、シアオがスウィートとフォルテを引きずっていくというのに、違和感を覚えまくった弟子達は仕方ないことなのだった。