31話 Let’s怪談話大会!
『アズリー』の2匹にトレジャータウンを案内し終わった夜。
『シリウス』の4匹が寝ようとするとアメトリィが来て、無理やりいつも朝礼を行う場所まで連れてこられた。
何故か弟子たちがぐるりと一本の蝋燭(ろうそく)を囲むように円になっている。
スウィートは恐る恐る疑問になったことを口にした。
「あ、あの……これは?」
「あ、説明してませんでしたわね。」
ルチルは思い出したように言う。他の弟子達は知っているようだ。
『シリウス』の4匹が首をかしげていると、ルチルより先にアメトリィが言葉を発した。
「フフ……今から
第1回☆怪談話大会を始めます!!」
「え? 怪談話?」
「えッ!? ホント!? やった〜!!」
「もう寝させてくれ……」
スウィートはキョトンとし、シアオは歓喜の声をあげた。
アルは頭を抱え込んだように疲れきった声でそう言ったのだが
「い、嫌よッ! なななんで怪談話なんかしなきゃならないのよ! わ、私もう寝る!」
フォルテによってかき消された。そのままフォルテは部屋に戻ろうとしたが、体が宙に浮いた。
こんなことをできるポケモンというと
「フォルテさん……? 絶対参加ですよ……?」
「イヤァァァァァァァァァァアアァァッ!!!!!!!」
黒い笑みを浮かべたアメトリィだった。
全員がそんなアメトリィを見て身震いしたに違いない。
(Side.スウィート)
フォルテの抵抗も虚しく始まってしまった。
えと……「第1回☆怪談話大会」だったっけ? 第1回ってことは第2回もあったりしてしまうのかな?
因みにフォルテは逃げれないようにアメトリィ先輩とルチル先輩の間にいる。
……助けてあげたいけど、ちょっとこの場の雰囲気が怖いから……。ゴメンね、フォルテ。あと私だけの力で助けられる気がしない。
「じゃあまずわたくしから話しますわね!」
まず最初に手を上げたのはルチル先輩。
そのときにフォルテがビクッと大きく体を揺らしたのはみんな気付いただろう。……シアオだけは見てなかったから気付いてないかもしれないけど。
ルチル先輩はそんな彼女の様子も気にせずに話し始めた。
「ギルドの前に階段があるのは勿論皆さん知っていますわよね?」
皆が頷く。知らなかったらビックリだけど。
「それに関してですわ。……あの階段、何段あるかご存知で?」
「えっと……45段でしたよね?」
以前、散歩したときに数えた階段の段数。
私がそう言うとルチル先輩は「正解ですわ」と言った。良かった、あってて。
「スウィートの言うとおり、段数は45段ですわ。ですがそれは昼間だけ……。夜になると……階段の段数が………………44段になっているのですわ」
「ヒッ!?」
「……!」
フォルテは小さな悲鳴をあげ体を揺らす。イトロ先輩はビクッと体を揺らした。
どうしたんだろう、と思いながら他の人を見る。他の皆は私と同じように平然としていた。……フォルテ大丈夫かなぁ。
「あんま怖くないよね」
「まぁ序盤はこれぐらいがいいでしょう」
シアオがつまらなそうに呟くとすかさずアメトリィ先輩が答えた。
序盤って……いつまでするつもりなんだろう? 私、ちょっと眠いのに……。
あ、フォルテが少し震えてる。誰もやめようとしないなぁ。かとって私は口出しする勇気はないんだよね……。
すると次はラドン先輩が手を上げた。
つまり次はラドン先輩が怪談話をするんだろう。全員の視線が彼に向く。フォルテだけは見てないけど。
するとラドン先輩は話し出した。
「このギルド……深夜に部屋から出てここらへんに来ると……物音は聞こえるらしいんだ。だけど見ても何もいない……」
……自然現象じゃないかな? 風とか雨とか……。
あ、フォルテとイトロ先輩が震えだした。2匹とも怪談話駄目なんだなぁ……。私も好きではないけど。
ラドン先輩はそのまま続ける。
「そしてそのままいると……後ろから………………何かに叩かれるんだ。そのまま後ろを振り向くと――」
その瞬間、ラドン先輩の方を誰かが叩いた。
「「「「「「!!!!!」」」」」」
「ギャァァァァァァァア!!??」
ラドン先輩の悲鳴、煩い……。
ていうか、あれ? さっきの怪談話通り……? え、じゃあ幽霊?
そんなことを考えながらラドン先輩の後ろを見ると
「――いやっほ! 何か楽しいことしてるやんか!」
「お邪魔するでござる」
「セ、セフィンさん!? 刃さん!?」
「ゴーストタイプゥゥゥゥゥゥウゥッ!!」
幽霊ではなく(ゴーストタイプだけど)セフィンさんと刃さんがいた。
暗いから少し不気味に見えるのはきっと気のせいだろう。そしてフォルテが結構大きな悲鳴を上げたのも気のせいだろう。うん、気のせい気のせい。
でもなんでセフィンさん達が?
「な、なんで此処に? 鍵は閉まってましたよ、ね?」
「うちには通用せえへんで!すり抜けられるけんな!」
さ、流石はゴーストタイプ……。でもそれって不法侵入なのでは?
私がそう思っているとセフィンさんは何故か私に向かって「大丈夫!」と言ってきた。……あれ? 心読まれた?
けど刃さんはゴーストタイプじゃないし、すり抜けなんて出来ないはず……。だったらどうやって?
「拙者はギルドの隠し通路からきたでござる」
「そんな物うちのギルドにはないはずだよ!!」
「実はあるのでござる」
ディラさんの疑問を一刀両断みたいにした刃さん。
情報屋って凄いんだな、って改めて思った。だってギルドのメンバーでもないのに知ってるんだもん。
ホント不思議だなぁ。……でもそれって今いっちゃっていいのかな。
「怪談話やっとるんやろ? うちも参加したい!」
「拙者も参加したいでござるな」
あ、フォルテが思い切り顔を顰めた。
絶対嫌だ、っていうのがよく分かるほどに顔を顰めてる。……そんなに苦手なのかなぁ。
するとディラさんが大声をだし始めた。
「はぁ!? そんなもの「大歓迎ですわ!」おい、ルチ「それではこちらにどうぞ!」アメトリィ!!」
「「何か問題でも(ありますの)」?」
「…………。」
ディラさんの言葉をことごとくルチル先輩とアメトリィ先輩が遮り、最後の黒い笑顔で言った言葉でディラさんは押し黙った。強い、強すぎます、♀の先輩方。
……そんな訳でセフィンさんと刃さんが新たに加わった。
フォルテの顔色がとても悪い。大丈夫かな? 倒れたりしないかな……?
すると次は「はいっ!」とシアオが手を上げた。ということは次はシアオが話すのかな。
あ、フォルテがシアオを睨んだ。
「実は僕、寝れなくて夜中に海岸に行った事があるんだ」
そんな事してるから朝に起きられないんじゃない……。
シアオ、目を瞑ってたら自然と寝れるものなんだよ? 絶対そのときすぐに諦めたでしょう。
皆は無言で静かに聞いている。
「そして海岸歩いてるとね――急に浮遊感に襲われたんだ」
「ふ、浮遊感!?」
「ゆ、幽霊の仕業か!?」
フォルテとイトロ先輩が凄い形相で反応した。やはり顔色は暗いこともあってか悪く見える。
そんなことに気にせずにシアオはそのまま話し続ける。
「そのまま下に落ちてって、辿り着いたのは真っ暗な場所で。まぁ、上にどうにかよじ登ったけど」
…………シアオ、それは
「……それ、ただの落とし穴だと思うよ」
「え!? そうだったの!?」
いや、明らかにそうだと思う。誰かが用意してたもの。怪談話でもなんでもないよ、シアオ。
フォルテがシアオを殴った。痛そう。イトロ先輩は安堵の息を吐いてるし。
……このメンバー、大丈夫なんでしょうか?
「ま、まぁ気を取り直して……次は――」
「じゃあ次は私がしますね」
次はアメトリィ先輩みたいだ。
なんかいつもと空気が違って少し黒く見えるのは私だけなんだろうか? 私の気のせいだと思いたい。
そんなことを気にもせずにアメトリィ先輩は話し出した。
「あるところ――ポケモンが1匹死んでしまいました」
か、軽々と「死んでしまいました」って言われるは、何か不気味なのだけれど……。
それに昔話を話すみたいに話されても……。
「村の医師が、死亡確認もきちんとして、葬式もきおちんとおこないました」
「べ、別に普通じゃない?」
フォルテがたじたじになりながらも言葉を発する。でも確かにその通りだよね。
だけどアメトリィ先輩はそれが、と言葉を続ける。
「しかしその2年後。その死んだポケモンが…………生き返って、村にいたんです!!」
「ゆ、幽霊ーーッ!!!!」
「い、生き返るなんて、そんなこと……!!」
「さらにそのポケモンはきちんと記憶もあり、話の食い違いが全くなく、生活も普通にできていたりとか……」
フォルテとイトロ先輩はまたもや震えだし、ラドン先輩とディラさんはよく見ると大量の冷や汗をかいている。レニウム先輩は顔が青くなっている。
……大丈夫なんだろうか。心配になってきた。
「さて次は――」
「はいはーい!!」
アメトリィ先輩の言葉を遮った元気な声はメフィちゃんだった。
とても楽しそうにニコニコしながら。少しこの場に合わないような気も少しだけするけどね……。
周りが静かになるとメフィちゃんはゆっくり話し始めた。
「夜中にね、あるポケモンが起きてたの。そのポケモンはもう遅いから寝ようとしたんだ」
……早く寝ないから幽霊とか見えちゃうんじゃないかなぁ。
「そしたらね――どこからか歌声が聞こえてくるの。とっても綺麗な歌声。そのポケモンはその歌声を聞いて寝たんだ」
「神秘的で綺麗じゃないか?」
メフィちゃんの話に入ってきたのはディラさん。
夜中に歌って子守唄とかでもありえるんじゃないかな? あんまり怪談話じゃないような……。
「それがね、そのポケモン…………次の日の朝――灰になってたの」
「キャアァァァ!!??」
「灰ィィィィイ!?」
「の、呪いの歌ですわーーッ!!」
「そのポケモンが寝てた場所に、灰だけが残ってて。窓も閉まってたし、出入り口から出たとしても指紋がつくはずなのに……何もなかったんだって」
被害者がどんどん増えていく。
乗り気だったルチル先輩までもが震えだした。あとハダル先輩も。フォルテは顔がとても青い。
メフィちゃんは笑顔だから逆に凄く怖いんだけどね……。
でも、皆よくそんな怪談話知ってるよね…。
記憶がない私にはありませんとも……。あ、何か自分で言ってて悲しくなってきた。
「じゃあ次にいきましょうか。では……アルさん、お願いできますか?」
「俺? 対したモンはないんだが」
ああ……。ついにはアルにまで回ってきた。
元々乗り気ではなかったアルの目にはうっすら涙があった。おそらく欠伸でもしたのだろう。
そう思うと私も眠くなってきたかも……。
(Side.アルナイル)
「えっと……風が強い日、窓が割れて近くにいたポケモンの腕に刺さったんだ」
「…………」
……全員、そんな食い入るように聞かなくても。
つか怖いなら聞くなよ。フォルテ、耳塞げよ。バレないから。
「まぁすぐに治療したらしいけど」
辺りはシン、と静まり返っている。誰も茶々入れないところを見ると、おそらく疲れたんだろう。
……スウィートの場合、ウトウトなって今にも寝そうな状況だが。
「そのポケモンは気にせず、普通にいつものように布団をかけて寝たんだ。家族も寝たのをちゃんと確認して。だけど」
だけど、といった瞬間、フォルテとイトロ先輩の体がビクリと揺れた。ラドン先輩、ディラさん、ハダル先輩も心なしか、冷や汗をかいている。
おそらく本人達は全くもって気付いてなどいないだろう。
まぁ、続けるか……。
「朝見たら――そのポケモンの布団、何もいないのに布団が盛り上がっていたんだ」
「イヤァァァァアッ!!??」
「な、な、な……」
……ついにはシアオやフィタン先輩までもが震えた。
そんなに怖いか、この話?
「何もないところを触ったら、感触があるんだ。結局原因は何か分からなかったんだとさ」
「つまりガラスが刺さったせいで、そのポケモンが透明になって死んでしまった、という話ちゃうか? アル、結構オモロイ話、持っとったんやな」
「……は?」
セフィンが言ったことに俺は間抜けな声をあげて反応してしまった。
全然面白くねーだろ、この話。怖くもないけど。
……フォルテの目線が何気に痛いが、ここはあえて気付かないフリをしておこう。命が惜しいからな。
「じゃあ次、うちやってもええか?めちゃオモロイで!!」
……セフィンが怪談話を話すとロクな事がないような気がする。今でも暗くて十分不気味に見えんのに。流石ゴーストタイプだな。
つか凛音、さっきから何も反応してないが目をあけながら寝てるなんてことはないよな? 親方様じゃあるまいし。
俺がそんな疑問を感じていると、セフィンが話し出した。
「夜の2時…あるポケモンがトレジャータウンにいったんや。するとな――」
セフィンがニヤリ、とした。
あ、嫌な予感しかしない。いい予感がこれっぽっちもしない。
「――「ウヒヒ」と笑いながら…………大量のヨマワルがそのポケモンの方によって来んねん!!」
「キャァァァァァ!!!」
「ウゲッ!!」
「よ、よ、夜に大量の……」
メフィまでもがダウンしようだ。
……というかその「ウヒヒ」っての、ヨマワル銀行にいるヨマワルの笑い方じゃねーか。
フォルテが失神しかけてんのは目を瞑って見てないことにしよう。
スウィート完全に動かないが、本気で寝てないか?
というか、それはどちらかというと笑い話に入る気がするんだが。
「まぁ、これぐらいは怖ないわな。な、アメトリィ!」
「えぇ。平気です」
……あいつら、きっといい友達になれると思う。今も意気投合してるし。
フォルテは入っていけないと思うが。
すると何も喋らなかった刃が挙手した。まさか刃までするつもりかよ……。
一体、いつになったら終わるんだ。
「それでは拙者もはなさせてもらうでござる」
…前置きはいいから早くしてくれ。俺だって眠いんだ。
寝てるスウィートが羨ましい。というか俺も寝ていいだろうか?
「それでは……深夜、あるポケモンが墓の前を通ったでござる」
通るなよ、墓。朝か昼いけよ。なんで夜いった。そして深夜。
「そのときに1匹のポケモンとすれ違ったでござるよ」
……怪談話にも語尾に「ござる」がつくんだな。
雰囲気があわないのは無視しよう。
「するとすれ違う間際、そのポケモンが「振り向くな」といったでござる」
「そ、それで……?」
アメトリィ先輩が声を震わせて聞く。
……まさかアメトリィ先輩までもが怖がっているのだろうか?
「そのポケモンは……振り向いた。すると
「振り向くな」と言ったポケモンの首が、なかったでござるよ……」
「「「キャァァァァァァアッ!!??」」」
「「「ウワァァァァァァアッ!!??」」」
……悲鳴を上げなかったのは俺、凛音、セフィン。そして悲鳴で起きたのか、スウィート。
フォルテとイトロ先輩、レニウム先輩は気絶している。
ディラ先輩やラドン先輩も失神しかけているし、他も青い顔をしている。
「くだらない。ただの妄想話にしか過ぎないでしょう。何故怖がるのか、不思議でしょうがないです」
凛音は無表情でそう言った。
平気だからってそんなこと言ってやるなって……。苦手な奴には苦手なんだろうから。
「あーオモロ。全員の反応、面白すぎやわ」
……お前はそれで笑ってたのかよ。
絶対その言葉聞いたらフォルテが怒ってるな。まぁ今は気絶中で聞こえてなどいないだろうが。
「あ、れ……? 私、寝ちゃってたのかな……」
寝てたな。思いっきり寝てたぞ、スウィート。
セフィンの話あたりから何も聞いてなかっただろうな。なぜならスウィートは全く反応もせず動かなかった。
俺も寝とけばよかった……。
「今日はもうお開きになるでござるか?」
刃がアメトリィに聞く。
是非ともそうなってほしい。眠い。非常に今、眠い。頼むからもう寝させてくれ。
「そ、そうですね……。今日のところは、おしまいにしましょう」
こうしてようやく……ええと、怪談話大会が終わった。
俺はフォルテを担いで、スウィートはシアオを支えて、凛音はメフィを蔓で引きずりながら部屋に戻った。
セフィンと刃は気付いたらもういなくなっていた。……怪談話より不思議だ。