30話 後輩との休日
遠征の翌日の朝。
スウィートはクルッと体を振り返らせる。
目線の先にいるのは寝ているシアオとフォルテ。そして集中して本を読んでいるアルだ。
今日は朝礼がない。
何故かというと、今日は休みだからだ。因みに明日も休みである。
ディラ曰く、遠征が終わった次の日に仕事をすると疲れが溜まっていて危ないとのことだ。いつも遠征の終わったあとの休みは決まっているらしい。
遠征から帰ってきた夜、そのことを聞くとシアオとフォルテが「寝るぞー!」とはりきっていたので起こしはしない。
(でも……とくにやる事ないんだよね)
スウィートがそんな事を思っていると部屋の入口の方からドタドタッという騒がしい音が聞こえてきた。
そして現れたのは
「おはよーございます、『シリウス』の皆さんッ!」
頭にピンクリボンをしたメフィだった。
挨拶はとても大きく元気なもので、アルは本を読むのを止めてメフィに視線を寄越す。
流石にフォルテも起きたようだ。シアオは寝ているが。
その後から黄色のスカーフを首に巻いた凛音も来た。
「おはようございます。朝から騒々しくて申し訳ありません」
「あ、いや……。お、おはようメフィちゃん、凛音ちゃん」
スウィートは苦笑しながら挨拶する。
メフィはもう一度大きな声で「おはようございます!」と挨拶し、凛音は小さくお辞儀した。
するとフォルテが目を擦りながら会話に入ってくる。
「ん〜? あんた達、何してんの?」
「よくぞ聞いてくれました、フォルテ先輩! 実はですね、正式にギルドに弟子入りして探検隊になったんですよ!!」
メフィがフォルテにナイス!などと言いながら説明してくれた。
どうやらその事を報告しに来たらしい。よほど嬉しいのかメフィはニコニコしていた。凛音は分からないが。
「おめでとう。じゃあ明日から依頼受けるんだね」
「探検隊の名前は何になったんだ?」
スウィートが微笑んで祝福の言葉を言う。
そこに黙っていたアルがメフィ達に問う。そのには問い凛音が
「チーム名は『アズリー』です。メフィがずっと前から考えていたそうです」
簡潔に答えた。メフィは「言いたかったのに〜!」と凛音に文句を言っているが、凛音は全てスルーもとい完全無視した。
スウィートはその光景を見て「シアオとアルみたいだなぁ」などと思った。
そんな事を考えているとメフィがあ、と声をあげた。
「そういえば、ディラさんから言われたんですけど……。『シリウス』の皆さんにトレジャータウン案内してきてもらえって」
「「「…………。」」」
「む〜……もう食べれない……」
メフィの言葉に3匹が固まった。
沈黙した場に不似合いなシアオに寝言が聞こえてきたのは気のせいだという事にしておこう。
スウィートはおそるおそるといったようにチラッ、とフォルテとアルを盗み見た。
フォルテはなんだか怒っているような顔をしていて、アルは「勘弁してくれ……」といったような顔だ。
まぁフォルテがそんな表情をしているのはすぐに分かった。折角の休みを潰されるのだから。さらにフォルテが嫌いなディラがそう言ったのだから。そしていい様に使われているから。
アルに関しては休日ぐらいゆっくりさせてくれ、ということなんだろう。いつも振り回されてばかりいて休みたいのか。
スウィートはほんの少しアルを同情の目で見た。
「じゃ、じゃあ私1匹で行こうか?」
「いや、いい……。スウィートだってまだトレジャータウンに慣れてないだろ」
「うっ……」
呆れた声でアルにそういわれ、仰るとおりです……とでも言うようにスウィートは顔を俯かせた。
フォルテも諦めたようで小さく溜息をついたのが分かった。
メフィは気まずい空気にオロオロとし、凛音は無表情で何を考えているのか分からない。
すると少しの沈黙のあとフォルテはシアオに
「いい加減起きなさいよ、この馬鹿がぁぁぁぁあぁ!!」
「ギャァァァァアァ!!??」
火の粉を最大限の力で放ったのだった……。勿論あとでシアオはスウィートに手当てしてもらった。
――――トレジャータウン――――
「うわぁ!結構ポケモンがいるんですね!」
「メフィ、恥ずかしいのではしゃがないでください」
メフィがキョロキョロとトレジャータウンを見渡す。凛音はそんな彼女を小さく溜息をつきながら注意した。
だが言葉とは裏腹に全く恥ずかしがってなどいないのだが。
その様子を見ていたアルがあ、と声をあげ
「じゃあ……まず凛音には必ず必要な場所を1番に紹介するか」
「私、ですか?」
とアルが言った。凛音は珍しく驚いているようだ。
スウィートは少し考えた後、ああ、と頷いた。確かにメフィはともかく凛音には紹介していた方がいい。
そして不意に後ろを見ると、何故かシアオとフォルテはメフィと一緒にはしゃいでいた。
スウィートは心の中で二匹にツッコミたくなった。
そんなスウィートに気がついたアルと凛音が同じ方向を向けると同時に
「「ハァァ……」」
二匹とも深い深い溜息をついたのだった。
「シ、シアオ、フォルテ、メフィちゃん。もういこっか……?」
スウィートはその空気に耐えられなくなり3匹に話しかける。
するとすぐに首を縦に振った。
始めにこれだと後から凄く疲れそう……とスウィートは思ったが、それは心の中に閉じ込めておいた。
「此処が私に紹介しておきたい場所ですか?」
建物を見ながら凛音が問う。シアオは「ああ!」と納得したように声をあげ、メフィは凛音同様、首をかしげている。
アルは……フォルテのスカーフを掴んで逃げないようにしている。
フォルテの反応を見れば分かるだろう。この建物は
「うん。此処は“ヨマワル銀行”っていう、金(ポケ)を預けておく場所なんだ」
そう。スウィートの言うとおり、店主がゴーストタイプのヨマワル銀行だった。
フォルテは相変わらず逃げようとしているが、アルの力が弱まることは決してないだろう。
ポケといった瞬間、凛音の目が光ったのはきっと気のせいだろう。
「ダンジョンで負けるとポケはなくなっちゃうから。出来るだけここに預けてればいいよ」
「そうですか。ありがとうございます、スウィート先輩、アルナイル先輩」
いつもはあまり感情を表に出さない凛音が少々嬉しそうに言う。……こんな場面で嬉しそうに言われてもどう反応しろというのだろうか。
スウィートは曖昧に笑って誤魔化した。
すぐに利用している凛音を見ていると、どこから声が聞こえてきた。
「あっ、スウィートちゃん! それにシアオ君、フォルテちゃん、アル君も!」
「あっ、フィーネさん、シャオさん」
声をかけられたほうを見ると、フィーネとシャオがいた。
フィーネはニッコリ微笑むとスウィートに問いかけた。
「遠征はどうだった? 楽しかったかしら?」
「はい。とっても楽しかったです。貴重な体験が出来ました」
スウィートも笑顔で答える。
いつも遠征、と聞くとあの“霧の湖”で見た絶景が思い浮かぶ。それほど強く印象づいたのだろう。
するとフィーネは「それは良かった」と言った。そしてメフィと凛音に視線を向ける。
「そっちの子達は?」
「あっ、つい最近『探検隊』になった2匹で……」
「あ、あたしメフィーレ・アペーディヌっていいます! メフィって呼んで下さい!」
「……草花 凛音と申します。凛音、とお呼びください」
スウィートがチラリと視線を向けると自己紹介をしてくれた。
メフィは少し戸惑ったようだが元気よく、凛音は礼儀正しく頭を下げた。
するとフィーネは微笑みながら2匹に自己紹介をした。
「メフィちゃんに凛音ちゃんね? 私はフィネスト・イレクレス。フィーネと呼んで」
「僕はシャオレア・レスファイ。シャオと呼んでくれ。よろしく」
フィーネに続くように、シャオもふんわりとした感じで自己紹介をしてくれた。
この調子なら仲良くなれそうだ。
メフィは早速、質問みたいなものをし始めようとしているし。だが
「ごめんなさいね。私達これから少し遠くまで行くの。質問は帰ってきてからでいいかしら?」
「遠く……? 何か用事があるんですか?」
「ええ……。少し調べものを、ね」
スウィートは首を傾げる。調べものとは一体なんなのだろうか。
気になるところだが、部外者が口出しをするものでもないと思い、あえて聞かなかった。
「じゃあ……気をつけて行って来てくださいね」
「あぁ。スウィートちゃん達も気をつけて」
スウィートがそう言うと、頭を撫でながらシャオが言う。
そして一言二言だけ言葉を交わすとフィーネ達は行ってしまった。すると
「不思議なポケモンだな。謎が多いというか……」
アルがポツリ、と呟いた。
だがその呟きは誰にも聞こえることなく賑やかなトレジャータウンの中に消えていった。
「さて……お店は全部案内したかな?」
「そうね。トレジャータウンはこんな感じでいいかしら?」
シアオとフォルテが一息つく。
今いるのはパッチールのカフェ。6匹でテーブルを囲むようにしてジュースを飲んでいた。
あれから凛音は予想通り金(ポケ)を預け、そして他を案内をした。
それから最後になった此処で一休みしているところ、というわけだ。
「ありがとうございます! おかげで次からはきちんと準備をしていけそうです!」
「それは良かった」
元気よく言うメフィにスウィートは笑顔で答える。まぁ人(ポケモン)の為になったのなら嬉しいだろう。
それからシアオとフォルテはいつもどおりに喧嘩をして、メフィとスウィートは世間話のようなものをしていた。
……アルはも喧嘩を止めることなどせず、凛音のように4匹を見ながら黙ってジュースを飲んでいた。因みにギルドに帰るときにアルが何とか喧嘩を止めた。