27話 VSグラードン
“霧の湖”の番人、グラードンと対峙することになった『シリウス』は未だグラードンが放つ威圧感に少し怯んでいる。しかし、気にしている場合ではない。
グラードンの特性、日照り相手が有利になるが、炎タイプのフォルテも少しは有利になった。
「喰らえ! マッドショットッ!!」
「アル、フォルテ、気をつけて!!」
スウィートはマッドショットを間一髪で避けながら忠告する。見るとシアオもフォルテもアルも何とか避けられたようだ。
マッドショットはそのまま真っ直ぐ地面に当たる。そこの地面は削り取られた。スウィートは冷や汗をかく。
(さすが……。技からして地面タイプ? そうなるとアルが1番不利……。そして、フォルテは効果抜群。相性が悪い……)
アルは電気タイプの技を結構使うため、電気タイプの技が効かないとなると戦いにくい。さらに地面タイプの技は効果抜群なのでとても不利。フォルテもそれは同じだ。
だとするとスウィートとシアオがその分頑張らなくてはならない。
「それくらい避けられたからといって調子にのるなッ! げんしのちから!!」
「しんくうぎり!!」
スウィートがしんくうぎりで全ての石を粉々にする。
その間にフォルテとシアオが前に出る。そしてグラードンに向かって
「はどうだん!!」
「火炎放射ッ!!」
技を喰らわせた。グラードンに直撃し、爆風が巻き起こる。
スウィートはこれで少しは動きが鈍るか、と思った。だが……少し甘く見すぎていた。
「なっ……!」
「これで終いか?」
爆風でおきた煙がはれ姿が見えると、グラードンは平然と立っていた。無傷といってもいい状態で。
『シリウス』は驚きで目を見開く。
(そんな……直撃したのに!? 二発もくらって全然平気……!?)
スウィートは身構えながらグラードンを見る。
様子を見る限り全くといっていいほど効いていないだろうが、ほんの少しのダメージなら与えられたはずだ。
スウィートは3匹に聞こえるように声を張り上げる。
「こうなったら地道にダメージを与えていこう! それしかない!」
「了解! シャドーボール!!」
フォルテは返事をしながらも、技をグラードンに向かって放つ。
シャドーボールが当たるかと思いきや、マッドショットで粉砕されてしまう。
そちらに気を取られている間に、後ろにいたシアオとアルが電光石火でグラードンに詰めよろうとすると
「甘い! 切り裂く!!」
「なッ!? ちっ……!!」
「うわぁ!? アル!?」
不意にグラードンが後ろを向き技を2匹に向かって放とうとする。
だがアルは舌打ちをしてシアオを思い切り突き飛ばし、1匹だけ切り裂くを喰らう。その攻撃に耐え切れるはずもなくアルの体は突き飛ばされ、そのまま壁に激突する。
「ぐぁっ……!!!」
「アル!!」
フォルテがアルの状態を確認しようと駆け寄る。
その瞬間の隙をグラードンは見逃さなかった。
「マッドショット!!」
「しまっ……!!きゃあ!?」
フォルテはまともに喰らい、体はそのまま崩れ落ちる。
効果抜群の技を喰らって平気なわけがなかった。スウィートはフォルテとアルを一瞬だけ見る。
アルはまだ平気そうだが、フォルテは少しマズいかもしれない。
「アル! フォルテにオレンの実! お願い!」
「あぁ!」
スウィートがそう指示すると、アルはフォルテの方に駆け寄りオレンの実を渡そうとする。
それをグラードンが許すはずもなく技を放ってきた。
「させん! マッドショット!」
アルが「やばい」と顔を顰める。間に合わない。スウィートもそう感じた。しかし、そこに震えてはいるものの、しっかりとした声が響いた。
「は、はどうだん!」
シアオが横からはどうだんを打ち込み、マッドショットを粉砕する。
その時にグラードンがギロッとシアオを睨んで、シアオが体震わしたのは見ないことにする。
「しんくうぎり!」
「むっ……!」
シアオに気をとられている間に、スウィートがグラードンに攻撃する。
当たるかと思ったが、グラードンはすぐに反応し、きりさくで爪を強化してシャドーボールを弾いた。
そのシャドーボールをスウィートは間一髪で避ける。
「よくもやって、くれたわね! 火炎放射ァ!!」
いつ復帰したのか、いきなりフォルテが参戦してきた。
その後にアルもアイアンテールで攻撃したが、やはり効いていない。
「その程度の攻撃、痛くも痒くもないわ! げんしのちから!」
「ちっ……!」
アルはすぐさま反応して、電光石火で避けた。
スウィートは3匹を順に横目で見た。
おそらくフォルテとアルは次、一度でもマッドショットを喰らうと辛い。シアオも……何発かくらうと危ういだろう。
それは、自分も。
「皆、一斉に攻撃して! しんくうぎり!」
「わ、わかった! はっけい!」
「火炎放射!」
「アイアンテール!」
スウィート、フォルテが先に攻撃して、その後にシアオとアルが攻撃した。
また爆風がおきる。さて、これでどうか、と見ようとすると
「マッドショット!!」
「なっ……!」
マッドショットが連続で打たれた。
咄嗟に反応できなかった4匹は何発か当たってしまう。
痛さのため目を瞑っていたスウィートが目を開くと、目を見開いた。
「フォルテ! アル!」
効果抜群の技を何発もうけて、平気なわけがなかった。シアオはまだ平気そうだが、他2匹は平気とはいえない。
スウィートは急いでシアオに指示を出した。
「シアオ! 急いで2匹の手当てをして! お願い!」
「う、うん!分かった!」
シアオは返事をすると慌ててまずフォルテの方に駆け寄った。起きる気配はなく、気絶しているようだった。
たった1匹で戦っているスウィートに不安を抱きながらも、治療する。
一方スウィートは、グラードンに2匹の治療の邪魔をされないように出来るだけ自分の方に気が向くように戦おうとしていた。
当然、1匹だけで倒せるなど思っていない。囮となり仲間を避難出来るように時間稼ぎをするだけだ。
「アイアンテールッ!!」
「フン、効くか! げんしのちから!!」
「……!!」
なんとか直撃は避けたが、少しだけげんしのちからが右後ろ足に当たった。
これでますますダメージが与えにくくなった。スウィートは心の中で自分を責めてやりたいが、今はそれどころではない。
とにかく時間稼ぎだけが頭の中を支配していた。
(覚えたばかりだけど使えるかな……?)
「分からないけど……シャドーボール!!」
黒い塊がグラードンに向かって一直線にとんでいく。
また技で粉砕されると思いきや、シャドーボールはグラードンに直撃した。そのせいで砂煙が出来てしまった。
スウィートは少し驚いたがすぐに気を引き締める。
(相手が何処にいるのか分からない……。また、不意打ちで……?)
スウィートはその場を動かずキョロキョロと辺りを見渡してグラードンを探す。
シアオ達はもう安全な場所に隠れてると思うが……そんな事を考えていると
「マッドショットッ!!」
「うぐッ……!?」
スウィートはまともに直撃し、体を近くにあった岩にぶつけた。
全く威力が違ったマッドショットにスウィートは痛みに耐えながら疑問を浮かべる。その謎はすぐに解けた。
「まさか……能力をあげる技を、あの間に……!」
「そうだ。ビルドアップだ」
つまりスウィートのシャドーボールを避けなかったのはビルドアップの最中だったから。
そして砂煙がはれていない間にビルドアップは完了したという事だろう。まさかビルドアップが使えるとは計算外だった。
スウィートは何とか体を起こそうと力を入れるが……全く入らなかった。
(嘘でしょ……!? 動いてよッ……!!)
まだフォルテ達が隠れていないかもしれないのに。まだ敵は立っているのに。
スウィートは何とか体を起こそうとする。その時――
「スウィート!? 大丈夫ッ……!?」
シアオがスウィートの様子を見てから近づこうとしてきた。
スウィートはすぐに静止の声をかけようとした。
「シアオッ! 駄目っ、危な――」
「余所見などしていていいのか!? 切り裂く!!」
「――っ!!」
シアオは呆然と、声にならない悲鳴を上げて目を瞑っていた。
グラードンは手をシアオに向かって振り上げようとしている。当たったら命が危ないかもしれない。
スウィートはその動き全てがスローモーションに見えていた。
(シアオがッ……!! お願いだから動いてよ……! ねぇッ……)
スウィートは動かない体に訴えかける。
危ないのに。シアオが、仲間が危ないのに。何故体は動くことをしてくれない?
(助けたいッ……!! シアオを、皆を助けたいのッ……!!)
誰か、お願い。シアオを、皆を助けて……!
「《水のはどう!!》」
「グァァァァッ!?」
「!?」
聞いた事のない女性の声と、グラードンの苦しんだ声にシアオが驚いて目を見開く。
そこには技が当たって苦しんでいるグラードンと……ボロボロの体で立ち、水色の目をしたスウィート。
「イーブイが……水のはどうを放っただと……!?」
「はぁッ……シアオ、離れてて……」
息を切らしながら言うスウィートにシアオは心配になるのだが、足手まといになることは分かるのでフォルテ達の元にいく。
スウィートはグラードンをしっかり見据えていた。
「はぁ、はっ……貴女、は……」
《フフッ、はじめまして。と……そんな呑気に挨拶してる場合じゃないみたいねぇ》
スウィートの頭に大人っぽい女性の声が響く。
そんなことを言っているが口調はとてものんびりとしている。スウィートは色々と聞きたかったが我慢した。
(今は、時間がないの……。力、貸してくれますか……?)
《勿論よ。貴女のいう事を拒んだりしないわ。さて、やりましょうか》
スウィートは心の中で感謝した。そして再びグラードンに意識を集中させる。
どうやら先ほどの水のはどうが余程効いたようで、顔を少々だが歪ませている。
《もう分かってるとは思うけれどグラードンは地面タイプ。水タイプの技で攻めていきましょう》
「は、はい! 水鉄砲!!」
「喰らうかッ! マッドショット!!」
水鉄砲はそのままグラードンの方に向かってとんでいくが、グラードンはやはり技で粉砕する。
スウィートがどうしようかと悩んでいると
「ふぇっ!?」
体がなぜか勝手に動いた。体は自分の意思とは関係なくグラードンの背後に回りこんだ。
そして口から勝手に言葉が出た。
「《甘いわねぇ、しおみず!!》」
「な……!? グオォォ!!」
スウィートから出た声はスウィートのものではなく、頭に響いていた女性の声。
グラードンも声が変わった事に驚いたのか、目を見開き技に当たった。
「《さぁ、止めをさっさとさしちゃいましょうかね〜》」
スウィートは体と声に驚いて全くついていけなかった。
何故自分の意思とは関係なく体が動き、そして声が頭の中に響いていた声なのか。その女性はスウィートの様子など微塵も気にしていないようだが。
《スウィートちゃん、止めさすわよ》
「えッ!? あ、ハイ……!」
スウィートは戸惑いながらも返事をする。
そうすると何故か、技命が自分の頭の中に浮かんできた。そしてそのまま技名を口にする。
「《
大河海嶺!!!》」
スウィートの声と女性の声が被る。
グラードンは咄嗟に身構えたのだが、何もおこらないことに対し、呟いた。
「……? 何もおこらない?」
怪訝そうな顔をし、呟く。その通り、全く何もおこらないのだ。
なのに目の前のイーブイは勝利が確定したかのような顔をしている。それが不思議だった。
「《クスッ、油断してると足元すくわれるわよ〜?》」
「何――なッ!?」
グラードンが立っていたところから大きな音がし、水が現れる。
地面から噴出した水は一気にグラードンに向かって流れる。頭の声はクスクスと笑っている。
その水がひくと、グラードンは力なく倒れていた。
スウィートはその様子を見てから体の力が一気に抜けていき、力なく地面に崩れ落ちた。
「勝っ、た……」
《お疲れ様。よく頑張ったわね〜》
スウィートが呆然と呟くと、女性は小さな子供を褒めるように言ってきた。
スウィートはそれにほんの少しだけムッとしたが、1番聞きたかったことを聞く。
「ねぇ、貴女は一体誰なんですか……?」
《……そう、ね。その事について、貴女は聞きたいはずよね?》
スウィートはコクリと頷いた。女性は少しだけ黙ってからまた声を発した。
《……スウィートちゃん。貴女の首に、サファイアのペンダントがあるわよね?》
「え……? これ、ですか?」
スウィートは前足でサファイアを持つ。
「そう、それそれ」という声が頭の中に響く。このサファイアが何に関係しているのだろうか。
《目を瞑って、意識をサファイアに集中させてみて》
「わかり、ました」
スウィートは何故かと思ったが、目を瞑ってサファイアに意識を集中させる。そこだけに意識がいくように。
すると、風の音が聞こえなくなり、暑さなども感じなくなった。
「……ッ!?」
スウィートは驚いて目を開く。
そこに広がっているのは白。後ろを見ても、横を見ても白ばかりの空間。先ほどの場所ではない場所にいた。
「ここは……!?」
「――ここはサファイアの中。貴女は意識だけでここに来たの」
「!?」
スウィートは突然の凛とした声に驚いて声の方に振り向く。
そして目を見開いて呆然とそのポケモンの種類を呟く。信じられないような目でそのポケモンを凝視しながら。
「グレイ、シア……?」
スウィートの目線の先には、水色よりも薄い色をしたグレイシアが、スウィートを見ながら立っていた。