輝く星に ―時の誘い―












小説トップ
第3章 遠征と謎の正体
26話 伝説のポケモン
――熱水の洞窟――

「暑いね……」

「すっごい暑い……」

「同感する……」

 “熱水の洞窟”は非常に気温が高く、さらに炎タイプもいるのでとてつもなく暑い。
 入ってからずっと『シリウス』は汗を掻きながら「暑い」という言葉を繰り返している。1匹除いて。

「だらしないわね〜。これくらいどうって事ないでしょ」

 フォルテだけは平然と歩いてた。炎タイプにとっては全く暑くもなんともないのだろう。
 そのためスウィート達の気持ちが分かるはずもない。

「フォルテは炎タイプだからでしょ……。あ・つ・いーーーッ!!」

「お前はちょっと黙ってろ」

 アルがシアオの頭を軽く叩く。シアオはもろにアルの制裁を喰らった。
 スウィートは誰でもわかる苦笑いで見ていた。暑いのは変わらず、汗はちっともひいていない。

 そんなこんなでスウィート達は“熱水の洞窟”を進んでいる。
 その間にシアオはスカーフをとり、暑さを凌ごうとしていた。スウィートはスカーフを少し緩め、アルはとくに対策もせず歩いているだけ。勿論フォルテはいつもどおりだ。
 だがここはダンジョン。勿論敵ポケモンが出てこないわけもなく――

「しんくうぎり!」

 スウィートがフロアにいたカモネギ、コロトックにしんくうぎりをくらわせる。
 そしてスウィートの両隣にいたアルとフォルテが

「火炎放射ッ!」

「10万ボルト!」

 フォルテはコロトック、アルはカモネギをダウンさせる。シアオというと道具を拾っていて近くにはいなかったりする。
 「遊んでないで早く進め」、それは彼らにとっては無縁の言葉。

「あ、シアオ! 危ないッ!」

「へっ? ――うわッ!」

 シアオはなぜか敵ポケモンの前に気付かず行ったりしてもろに技をくらう。
 スウィートは忠告するものの間に合わず、シアオが攻撃を受けてから共に協力して倒すことになる。

「でんこうせっか!」

「火炎放射ッ! ――ってちょ!」

「!! っと……!」

 アルは大抵の場合は何かを倒そうとして接近する。しかし、フォルテの遠距離攻撃に当たりそうになり、ギリギリで避ける羽目になることが多い。
 だからといって遠距離攻撃で攻めようとすると――フォルテが敵に接近して逆の立場になったりする。
 大抵フォルテとアルかフォルテとシアオで起きるのだ。なぜかスウィートはフォルテの思考を読み取っているので、攻撃を受けないのだ。

 そんな感じで1階上がるのにも一苦労になることが多い。
 さらにたまにシアオのトラブルメーカーが発揮すると……また遅くなる。『シリウス』に早くダンジョンを抜ける、という言葉は無縁なのだった。





―――ベースキャンプ―――

「……イトロさんとメフィが見当たりませんね」

 報告するため凛音はディラがいる場所、ベースキャンプに辿り着いていた。
 イトロを追って、メフィと共に来たはずなのだが……なぜか凛音はベースキャンプに一番乗りで、さらに1匹で辿り着いていた。

「早すぎたでしょうか? ……まぁ、先にご報告しておきますかね」

 凛音は無自覚だが、実はというとベースキャンプ近くでポケの音がしたので凛音がダッシュして行ったのである。
 それに追いつけるわけもなく、メフィとイトロは置いていかれたのだ。凛音は無自覚である。

「ディラさん」
 
「ん? 凛音か。メフィと『シリウス』はどうした?」
 
 凛音はベースキャンプに歩み寄り、そしてテントの近くで立っていたディラに話しかける。
 ……欠伸していたことは黙っておくことにした。そんな凛音の気持ちも露知らずディラは怪訝そうな顔をしている。欠伸していたのが嘘のようだ。
 だがそんなこと気にしている場合ではない。

「とりあえず……ご報告が「凛音ーーーーーーーッ!!!」……来たみたいですね」

 凛音とディラは声が聞こえたほうをみる。そこには息を切らしたメフィとイトロの姿。
 やっとの思いで凛音とディラの元に来た2匹は、とりあえず息を整えた。

「凛音、も、報告、終わった?」

「いえ、今からですが。とにかく貴女は息を整えてから喋りなさい」

 凛音にそういわれると、メフィは凄い勢いで息を吸ったり吐いたりした。……逆に心配になる凛音だった。

「そういやディラ! “霧の湖”が何処にあるか分かったぜ!」

「何ッ!?」

 ディラが大きな声を出したせいで、弟子達がわらわらとテントから出てくる。
 おそらく『シリウス』以外は全員いるだろう。

「ある石像があってですね……。それに赤い石を嵌めたら霧が晴れたんです」

「んで上に“霧の湖”があるんだ! 今『シリウス』が向かってる!」

 凛音が順に説明し、イトロが補足説明をいれる。
 ディラはとてつもなく驚いた顔をした。勿論それを聞いた弟子達もだ。メフィは息を整え終わったようで、皆に顔を向けた。

「とりあえず行こッ! 見たら分かるよ! ね、凛音!」

「……そうですね。それが1番早いです」

「なら行くぞ!」

 ディラ&ランドが走っていった。慌てて他の弟子達も追いかける。
 凛音とメフィは顔を見合わせそして追いかけていった。

「楽しいトコだね!」

「……せっかちで賑やかすぎると思いますが」

 そんな会話をしながら。





―――石像の前―――

「ホラ! これだ!!」

 イトロが指を指したのはスウィート達が石を嵌めた石像。弟子達もきちんとついてきているし、凛音も今度ははぐれたりしなかった。
 凛音は石像をマジマジと見つめる。

(よく見るとこの模様……確か……)

 凛音が1匹考えているとディラが声を上げた。

「これは……グラードンじゃないか!」

「「「「「「「グラードン??」」」」」」」

 弟子達全員が首を傾げる。凛音はプレートに書いてあったな、と思い返していた。
 ディラは説明をする。凛音も耳を傾けた。

「高熱で水を蒸発させて、大地を広げたといわれているポケモンだ……。伝説のポケモンといわれている」

「え、えぇぇぇぇ!? 伝説ッ!?」

「なんで石像がここに……!?」

 弟子達が口々に話してその場が騒がしくなる。
 メフィと凛音とイトロは顔を見合わせた。そしてディラに問う。

「……ディラ、そのグラードンってのが湖が守ってるって可能性は?」

「ありえるかもしれんな。ここに石像があるわけだし……」

「グラードンと戦って勝てるのかなぁ……?」

「はぁ!? そんなの死ぬに決まっているだろ!?」

 ディラの言葉を聞くと同時に、メフィとイトロの顔は一気に青ざめていく。
 凛音は少々バツの悪そうな顔をしてディラに顔を向けた。

「“霧の湖”に……『シリウス』さんたちは向かったのですよ?」

「「「「「「「!!??」」」」」」」

 凛音の言葉に全員が目を見開く。メフィはコクコクと首を縦に振り、イトロは慌てまくっていた。
 ディラは口をパクパクさせていたのだが、ようやく言葉を繋いだ。

「――お、追いかけるぞ!」





―――熱水の洞窟 奥地―――

「グォォォォ……」

「……? 何か、声がしなかった……?」

 スウィートが急に立ち止まり耳を澄ます。今は何も聞こえない。
 スウィートが首をかしげていると、シアオ達も首をかしげた。

「声なんかした……?」

 シアオがそう呟きながらも耳を澄ませる。勿論アルもフォルテもだ。
 すると暫くしてから――

「グォォォォ……」

「「「「!!」」」」

 声がした。今度は全員聞き取れ、顔を見合わす。
 もしかしたら奥に何かいるかもしれない。そう思うとスウィートはなぜか冷や汗が出た。

「……行ってみよう」

 スウィート達は慎重にさらに奥へと進んでいく。耳を澄ませながら。
 シアオは外していたスカーフをつけた。少なくてもスカーフをつけると意味があるのだ。
 そしてさらに進んでいくとスウィート達は足をとめた。その理由は

「グオォォォォ……!」

 声が大きくなっているからだ。耳を澄まさなくても聞こえてくるほどに、だ。威圧感さえ感じさせられる。
 スウィートは3匹に顔を向けた。

「気を引き締めていこう……」

「うん」

「ええ」

「ああ」

 スウィートの言葉に3匹とも頷く
 。そしてスウィート達は慎重に進んでいく。声は大きくなるだけ。まるで“こちらに来るな”とでも言っているようだった。

「グオォォォォォッ!!」

「ひッ……!?」

「!! ……近いね」

 ついには地面が少しだけ揺れている。
 シアオは情けない声をあげ、スウィートは声の大きさで場所を少しだけ特定したようだ。アルとフォルテは揺れている地面を見たり辺りを見渡したりしていた。

 そして洞窟の外に出る。とくに変わった様子はないようだ。
 スウィートは辺りを見渡す。

「何もいない……? そんなはず……」

 ない、と言おうとしてスウィートは言葉をとめた。それは大きな足音が聞こえたから。
 シアオは体を震わせ、フォルテも微かに体を震わせていた。アルとスウィートは冷や汗が顔をツーッと伝っていく。
 嫌な予感しかしない。
 
 その予感は、あたることになる。


「貴様らッ! ここへ何しに来た!?」


「せ、石像のポケ、モン……!?」

 フォルテが呆然と呟いた。その声の主はフォルテの言うとおり……石像のポケモンだったのだ。とても大きな、自分たちと比べると何倍もある、ポケモン。
 スウィートはそのポケモンを直視しながら言う。

「……“霧の湖”に行くためですけど」

「何ッ!!??」

 スウィートが答えると、そのポケモンの目の色は怒りに変わった。凄い威圧感だった。
 さすがのスウィートも反応が出来ない。

「我が名はグラードン! “霧の湖”の番人だ!!」

「番人……!? んなモンいたのか……!」

 グラードンの言葉を聞き、アルは苦い顔をした。
 まさかこんなデカいポケモンが“霧の湖”の番人としているとは思ってなかった。誰も考えてなどいないだろう。
 スウィートは真っ直ぐグラードンを見る。

「“霧の湖”に、行かせてはくれませんか……?」

「それは何匹たりとも許さぬ! 返り討ちにしてくれるッ!!」

 グラードンは戦う態勢に入った。スウィートも身構える。フォルテもアルもだ。
 そしてスウィートは、まだ体が震え恐怖というのが隠しきれていないシアオに声をかける。

「シアオ、大丈夫! 皆ついてるから!」

「……!!」

(そうだ、僕1匹じゃない……。皆が、いるんだ!)

「……うん! 大丈夫!」

 シアオも身構えた。グラードンの威圧感に圧倒されそうになるがなんとかこらえ、目の前に立つ。

「侵入者は生きては返さんッ! 覚悟しろッ!」

 『シリウス』と伝説のポケモン、グラードンとのバトルが始まった。

アクア ( 2012/10/18(木) 19:30 )