25話 邪魔者、再び
「あ、あれが“霧の湖”だよな!?」
イトロが目を見開きながらスウィート達に問う。目線は思いっきり“霧の湖”の方に向いているのだが。だがスウィート達も驚いていて、返事ができていなかった。
謎があると思っていたけれど、まさか上にあるとは思っていなかった。
“霧の湖”からは水が溢れ出し、下に流れている。神秘的ではあるが、それどころでは全くなかった。
「俺は親方様に知らせてくる! 『シリウス』は先進んでてくれ!」
「え!? ちょっとイトロ!?」
フォルテが呼び止めようとするが、結構な速さでイトロは走っていった。きっとフォルテの声は届いていなかっただろう。
それに続き、凛音が蔓でメフィを引っ張る。
「メフィ、これ以上は足手まといになりますから、私達も行きますよ」
「えぇぇぇ! 何でぇ!?」
凛音が言うと、メフィは不満そうに顔を歪めた。そして小言の1つや2つを言っていたのだが凛音は完全にスルー。
メフィを引っ張ってイトロが走っていった方に行ってしまった。
こちらも話しかけても無意味だった。というか聞こえていないだろう。
スウィート達は暫く事の早さに呆然としていたが、互い互いの顔を見合わせた。
「と、とりあえず……進もうか?」
「……あぁ。それが1番だと思うぞ」
スウィートが恐る恐るといった風に聞くと、アルが返事をした。シアオもフォルテも首を縦に振っているので同意という事だろう。
「じゃあ行こうか」
そうして一歩だけ前に足を出す。それだけの動作のあと、スウィートは足を止めた。
シアオ達は不思議そうにスウィートを見る。しかし本人は前を見据える、というより睨んでいる、と言ったほうがいいだろうか。そんな感じだった。
数秒経つと、進もうとしていたところの木の陰から「クククッ」と不気味な笑い声が聞こえた。
流石のシアオ達も聞き覚えがあるので身構える。笑い声を発した人物は陰から出てきた。その姿を見た瞬間にフォルテが怒りを露わにする。
「しっつこいわね! またアンタ達!?」
「クククッ。謎解きご苦労だったな」
『ドクローズ』だった。フォルテはすぐに怒りを素でだし文句を言う。
フォルテの文句は見事にスルーし、ウェズンは不気味な笑いで返す。
スウィートはウェズンの言葉を聞いてやはりそうか、と納得した。
スウィートは遠征に参加すると聞いて薄々思っていたことがあった。
『ドクローズ』はギルドの遠征で何か企んでいる。まともに助っ人として、ましてや協力なんてものをするようなポケモン達ではないだろう、と予測はしていた。
先ほどの言葉を聞いて分かった。
謎を解かせた後、宝を独り占めして逃げるつもりだった。
スウィートはああやっぱりと思いながらも睨む。
元から協力するつもりなど全くなかったんだな、と理解した。ならばとっとと倒しておかねば、遠征に害が及ぶ。
スウィートは攻撃する準備に入った。
「……何か御用ですか」
「お前らが謎を解いたんならもう用はない。ここでくたばってもらう!」
ウェズンがそういい終わると同時にギロウが隣に並ぶ。スウィートは目を細める。後ろを見るとホルクスが下がっていた。
まさか、と思ったがきっと予測通りだろう。
「いくぞ! ギロウと俺の“毒ガススペシャル――」
「「「「!!」」」」
最初の部分を聞いて4匹が身構えた。
やはりリンゴの森で喰らって倒れた“毒ガススペシャルコンボ”なのだろう。くる! と4匹が思い防御の体勢に入った瞬間だった。
「あーん! 待って、僕のセカイイチ〜!!」
「「「「「!!??」」」」」
緊張で張り詰めていた場に、呑気な声と足音が聞こえてくる。
そしてコロコロと大きなリンゴ、セカイイチが『ドクローズ』と『シリウス』の丁度真ん中で止まった。
すると足音はだんだん近づいてくる。やって来たのは
「やっと捕まえた〜♪ 僕のセカイイチ!」
ロードだった。
場違いには程があるくらい「わーい!」などと子供らしい声を上げて回ったりしている。流石に全員驚きで何も言えなかった。
暫く回ったロードはようやく止まり、二つの探検隊の存在に気付いたようだ。
「あれ? 『シリウス』に……友達! 皆一緒だね! わーい!」
((((誰かこの人どうにかして……))))
ロードはまたクルクルと回り喜びを表す。
今回ばかりはロード以外全員の気持ちが揃った。本人は何も気にせず、子供のようにはしゃいでいるが。
ウェズンはそんなロードに向かって恐る恐る声をかける。
「お、親方様……なぜ此処に?」
「え? だってセカイイチがコロコロ転がって、僕から逃げていくから追ってきたんだよ? そんな事より、『シリウス』は何やってるの?」
「「へ?」」
「「は?」」
ロードは笑顔でウェズンの質問に答えると、急に『シリウス』に話を振った。急で反応できなかったスィート達は、間抜けな声を発する。
ロードは変わらず笑顔で何を考えているのか分からない。
「ホラホラ! サボっちゃ駄目だよ? “霧の湖”の探索に行ってきなよ♪ 楽しみにしてるからね、結果!」
シアオとフォルテは思いっきり間抜けな顔をしていた。アルはロードの顔をマジマジとみている。
スウィートはハッとなり、3匹の背中を押した。
「そ、それじゃ行ってきます!」
「うん、いってらっしゃ〜い♪」
スウィートは強引に背中を押しながらその場を去った。ロードは笑顔で手を振っていた。
シアオ達はされるがままに押されていっている。結構な距離をおくと、スウィートは押すのをやめた。
3匹押すというのは疲労がたまるもので、少しばかり顔がゲッソリとなっていた。
「ちょっと、スウィート。どうしたの?」
フォルテが不思議そうにスウィートに尋ねる。スウィート少し間を空け、息を吸い込んでから返答する。
「親方様が私たちだけを探索に行かせてくれるような発言をしたから、チャンスだと思って。多分『ドクローズ』は追ってこないよ」
するとアルとフォルテは納得しように頷いた。シアオに至っては何のことかさえ分かっていないようだが。
説明しながら行くから、とシアオに言い聞かせ、スウィート達は穴に入っていった。
「あ〜早くいい知らせ来ないかな♪」
ロードはルンルンとしながらスウィート達が去ったほうを見ていた。
その近くでは『ドクローズ』がヒソヒソと小声で何か話していた。
「(アニキ! どうするんですか!?)」
「(くそ……。これじゃ『シリウス』に先を越されてしまう……!)」
ウェズンはロードの方をチラリと見やる。相変わらず何を考えているのか全く分からない笑顔だった。
ウェズンは観念して、また恐る恐るといったような形でロードに話しかける。
「あの〜親方様。我々もそろそろ探索に」
「えッ! 友達にそんなこと任せられないよ! それに『シリウス』が“霧の湖”の謎を解いてくれるから大丈夫♪ ここで待っていようよ♪」
全くもって聞いていないようだ。
ウェズンは心の中で舌打ちをする。面倒くさいことになった、と。ロードは話し終えるとまた同じ方向を向く。
『ドクローズ』はまた小声で作戦会議。最初と同じ状態に戻ってしまった。
「(くそ……。こうなれば実力行使だ)」
「(アレを使うんですか?)」
実力行使、と聞きホルクスが尋ねる。ウェズンは頷いた。
ギロウは乗り気であるが、ホルクスははっきり言って乗り気ではない。
理由は簡単。耐えるのが辛いから、それだけである。がウェズンとギロウはそんなホルクスの気持など分かってもいない。
意を決したような顔になると、ウェズンはギロウと隣で並び、ホルクスは後ろで待機、という形にんる。
そしてウェズンは息を思い切り吸い込んだ。
「ロード!!」
「ん? どうしたの、友達。そんな怖い顔して」
ロードの反応にウェズンはより一層困った。雰囲気で分からないか。そうロードに言ってやりたくなった。
ロードは不思議そうに『ドクローズ』を見ている。そして思いついたように声をあげた。
「分かった! にらめっこがしたいんだね?」
「「「は?」」」
「フフーン、負けないよ〜! べろべろ、んべ〜!!」
ロードの言ったことにウェズン達は目を見開き、口を阿呆みたいに開けた。ロードは気付いていないようで、懸命に変顔をして笑わそうとしている。
しかしウェズン達的にはそんな気にしている場合ではなかった。
「と、とにかく! 有名な探検家ロードもこれでおしまいだ!」
「へッ??」
「くらえ! 毒ガススペシャルコンボ!!」
ロードの周りを紫色の煙が覆った。
以前スウィート達が受けたものだ。ウェズンはロードに直撃したのを見ると口の端を上げていた。
「フン。案外あっけなかったな」
「じゃあアニキ! あいつら追いましょう!」
あいつら、とはスウィート達のことだろう。ホルクスの言葉に頷き、『ドクローズ』が歩を進めようとすると
「残念だなぁ……。何もしてこなかったら、何もせずに済んだんだけどね」
「「「!!??」」」
ウェズン達は目を見開いてロードがいた方向を振り返る。だがそこには誰もいない。
しかし、先ほど聞こえた声は紛れもなくロードのものだった。
「ど、どこにいった!?(アレが効かなかっただと!?)」
ウェズンは焦りと困惑でまともな判断が出来なくなっていた。
まさか“毒ガススペシャルコンボ”が効かないとは思ってもみなかったようだ。
ホルクスもギロウもキョロキョロと辺りを見回すが、その顔は不安を表していた。
「くッ……どこにいやがる……!?」
「ここだよ♪」
ウェズンは声のした方に振り返った。そこには――満面の笑みを浮かべたロード。
そしてロードは――ウェズンに向かって往復ビンタをした。流石にウェズンは避けられず、まともに喰らってしまった。
よくみると、ホルクスもギロウも倒れていた。
往復ビンタが終わると、ウェズンは力なく倒れた。ロードは笑顔でウェズン達を見ながら言葉を発した。
「君達の噂は聞いてたんだよ。結構な悪さをしている探検隊らしいって。被害をうけた探検隊から話は聞いたんだ。注意しといて正解だったよ。じゃあね♪」
そういってロードはスウィート達が向かっていた方に歩いていった。
ウェズン達は返事も何も出来ず、ただただ薄れていく意識の中、ロードが歩いていくのをみることしか出来なかった。