24話 石像の心臓
ベースキャンプから少し歩いたところ――『シリウス』と凛音とメフィは順調に前に進んでいた。少々雑談を交わしながらも。大体の内容はメフィが質問しているのだが。
そこに
「あれ? なんだろう?」
スウィートが前に落ちている赤い物体の方に駆け寄る。見るとそれは赤い色をした石だった。
スウィートがその石を触ると、とても暖かかった。まるで生きているかのように。
「石なのに暖かい……。不思議な石だなぁ」
「どうしたの、スウィート。それ何?」
スウィートが石に触れながら考えていると、シアオが近寄ってきて声をかけてきた。
スウィートは石をシアオに渡す。石を受け取り触ったシアオは驚いたような顔をした。
「コレ、石だよね!? 暖かい……」
シアオも同じ感想を呟く。
するとシアオはそのままその石をバッグに入れた。スウィートは怪訝そうな顔をして聞く。
「どうしたの?」
「珍しいから取っとこうかなって」
シアオらしいと言ったらシアオらしい理由である。
スウィートは少し微笑むとまだ少し後ろにいるアル達の方を見た。まぁ、すぐに来たのだが。
「どうかしたか?」
「ううん。特には。珍しい石を拾っただけ。それにしても、霧濃いね」
スウィートはあたりを見回しながら言う。確かに霧が濃い。全員近くにいるのは分かるが、よくみえないくらいの霧の濃さだ。ダンジョンも進みにくかった。
だがメフィ達は――
「とうか敵ポケモンが全然出てこないから『シリウス』の戦闘が見れない〜!!」
「出てこないに越した事はないでしょう。全く……貴女は何を期待しているのですか」
声でよく分かった。
メフィはいじけているのかずっとこんな調子だった。凛音はメフィに丁寧な答え方をしている。
「でも……敵ポケモンが出てこないってラッキーじゃないかな……?」
スウィートが恐る恐る少し微笑んで言う。しかしメフィは「そうですけど〜」とまだ納得いっていないようだった。
すると同時に
チャリーン……
と小さな音がした。
その瞬間、1匹が素早く反応した。そのポケモンとは――
「ポケの音ッ!?」
……凛音だった。凛音は音が聞こえたその一瞬で思いっきり振り返った。
スウィート達『シリウス』は目を見開いて驚き、メフィは焦っていた。凛音は森の深くを見つめていた。
「り、凛音! 気のせいだよ!! ね!」
「いえ、絶対ポケの音です。私は行きます」
「た、たった1ポケだって! だからいいじゃんッ!」
「1ポケではありません。128ポケです。そして「たった」とは何ですか。1ポケも大切です。私は取りに行って来ます」
「り、凛音ぇぇぇぇええぇ!!」
そんやり取りをしているうちにダッシュで凛音は走っていった。
スウィート達はポカーンとしている。どうやったらあんなに早く走れるのだろうか。フシギダネではありえないくらい速かった。
メフィは少し固まったあと、溜息をついた。
「さっきのは一体…?」
「あ、えっと……凛音の家って世間でいう「びんぼー」っていうものらしいんです。凛音はポケのことになると我を忘れて……。なぜか落ちた音で何ポケか分かっちゃうんです」
「「「「…………」」」」
全員で黙った。なんとなく凛音は大人びていてまとめ役なポケモンなような気がしていた。知らなくていい一面を知ったようだった。
耳を澄ますと何やら悲鳴が聞こえた。……聞こえない事にしたほうがいいのだろうか。
「えっと……凛音をよびますね?」
「えっ? よべる訳?」
フォルテが首を傾げると、メフィは得意げに笑って持っていた小さなバッグから何かを取り出した。何かとは――ポケである。スウィート達はまさか、と思った。
まさにその通りだった。メフィはポケを持っている手を上げ、そして落とした。
チャリーン……
「危険だから離れてた方がいいですッ!」
「え、うん……」
『シリウス』は言われるがままに下がった。メフィも勿論ポケから離れた。
すると凄い速さで蔓が伸びてきて、ポケを素早く取った。蔓をたどってみるとそこには、凛音。
「……200ポケ。これは大金です」
「凛音〜そろそろ行こう……?」
「え? あぁ、メフィ。そうですね」
性格の変わりように驚いた『シリウス』だったが、どうにか慣れれそうだった。
だが、ポケの話をすると凛音はとまらないような気がした。
「? どうかしましたか、皆さん。」
凛音が首をかしげながら聞いてくる。スウィート達はなんでもない、というように首を横に振った。凛音は不思議そうな顔をしていたが、すぐに戻った。メフィは苦笑い。
スウィートは気にしないように進んだ。
暫く進み、結構奥深くまで来ただろう。スウィート達は敵ポケモンを倒しながら順調に進んでいた。そのまま進んでいると
「ヘイへーイ!! もしかして『シリウス』と2匹か!?」
「あれは……イトロ先輩?」
イトロがいた。スウィート達はイトロの方に駆け寄った。
その時メフィがこけたので駆け寄ろうとしたが「ほっといていいですよ」という凛音の一言でスウィート以外はほっておいた。
「どうかしましたか?」
「コレを見てみてくれよ、ヘイヘイ!」
アルが聞くとイトロは少しだけ先に進んだ。シアオ達もそれについていく。スウィートとメフィも遅れてついていった。
そこには
「おっきい……石像……」
シアオが呟いたとおり、大きな石像があった。石像は大きく、何かのポケモンのようだ。真っ直ぐには立っておらず、少し斜めになっていて地面に食い込んでいる。
スウィート達はまじまじとソレを見た。何か全く分からない。スウィートが分からず首を傾げていると
「あっ、何か文字がかかれてる……」
「文字?」
フォルテが声を上げた。スウィート達はフォルテの方に駆け寄る。確かにプレートのようなものに文字が刻み込まれてあった。
フォルテが「読むわね」と一言いって読みはじめる。
「『グラードンの命灯しとき 空は日照り 宝の道開くなり』……ですって。宝の道って事は……これをとけばいいってことよね!?」
フォルテが思い切りガッツポーズをする。おそらく手がかりを見つけたことを喜んでいるのだろうが、解かなければ意味がない。
だがフォルテの様子を見る限り、少しの間使えそうにない状態だ。スウィート達は言葉の意味を考える。
「命……命……なんだろう?」
「命灯しきときって事は……命を与えるという事か、生き返らせるということでしょうか?」
「……この石像をか?」
「そ、それは無理でしょ……」
メフィ、凛音、アル、そしてシアオの順で意見を述べ合う。だが一向に答えは見つからない。
スウィートは他にも何かないかと石像を調べ始めた。そのとき、石像に前足を当てると――
グゥゥン……
「ッ……!? またッ……!!」
前に初の探検をした以来、全くこなかった強い眩暈がスウィートを襲う。スウィートは思わず石像に背を預けた。
そして視界が真っ暗になった。
“そうか!ここに…………があるのか!”
(声だけだっ……た?)
男の声だった。眩暈が収まりスウィートは不思議に思う。
いつもは映像も見えるのだが、なぜか声しか聞こえなかったし、それに肝心の部分が聞こえなかった。さらにあれでは全く何か分からなかった。
そうやって考えていると
グゥゥン……
(二回目ッ……!?)
また強い眩暈が襲ってくる。スウィートは顔をゆがめた。また視界が暗くなっていく。
〈グラードンの心臓に日照り石をはめる。そうすれば霧がはれるのか! 流石は俺のパートナーだ!〉
〈あ、ありがとう……。じゃ、行こう?〉
「ッ……。おさまった……」
さっきのは映像は見えなかったが、声が二つほど聞こえた。1
つは一回目の男の声と、もう1つは幼いような感じの女の声だった。女の声は聞いたことがあるものだったのだが……分からなかった。
だがさっきの声でヒントを得られた。“グラードンの心臓に日照り石をはめれべ、霧がはれる”と。おそらくグラードンというのはこの石像のポケモンのことだろう。スウィートは日照り石のことを考える。
すると、ベースキャンプをでた直前のことを思い出した。
(そういえばあの石……あの石は暖かかった。あれって……心臓だからじゃ……)
自分が見つけ、そしてシアオに知らせるとシアオはバッグに入れた。あの暖かい石。
スウィートはシアオに一気に詰め寄った。シアオは目を見開いた。
「ど、どうしたの、スウィ――」
「ベースキャンプ出たあと拾った石持ってる!?」
「え、は!? い、石!? ……あ、コレの事?」
シアオがバッグからだしたのは、紛れもなくベースキャンプを出たあと拾った赤い石。スウィートは心の中でガッツポーズをとると、石像を調べる。
するとアルや凛音は勿論、喜びまわっていたフォルテもが怪訝そうな顔をした。
「どうしたの、スウィート?」
「えっと……くぼみとか、石がはまりそうな場所ない?」
スウィートがそう言うと皆石像を調べ始めた。石がはまりそうなくぼみはなかなか見つからない。すると
「あった!!」
いきなりメフィが大きな声をあげた。
スウィート達が駆け寄る。メフィが指差したほうを見ると、石像のポケモン、グラードンの胸の辺りにくぼみがあった。確かに石がはまりそうだった。
「シアオ、石はめてみて」
「う、うん!」
シアオは赤い石を石像に持っていってはめようとする。なかなかはまらないようだ。
シアオは「うーん」という声と一緒に腕を一生懸命動かしている。
すると
ガゴンッ
「は、はまった! って、わ!!??」
ゴゴゴゴゴゴ……
石がはまったようでシアオが歓喜の声をあげたのだが、だがいきなり地面が揺れたため声は中断させられた。
そんなことには構わず地面は揺れるばかり。どんどん揺れが強くなっていく。
「皆さん! 離れましょう! 危険です!」
凛音のいうとおり、全員が石像から離れた。
それと同時に周りを激しい光が包んだ。スウィート達は反射的に目を瞑る。それでも結構目がチカチカするものだった。そのチカチカも収まり目を開いて見ると、スウィートは目を見開いた。
なぜなら――
「霧が……はれてる……?」
スウィートがポツリ、と呟く。シアオ達も目を開いた。先ほどまで前まともに見えにくらいの霧が、綺麗サッパリはれているのだ。今では前もはっきりと見えるほどだ。
スウィートはキョロキョロとあたりを見渡してみた。そして――
「えッ……」
絶句した。シアオ達はスウィートが何故目を見開いて驚いているのか、不思議そうに見てみた。スウィートは全く気づいていない。
シアオは首を傾げながら顔を覗き込んで、聞いた。
「どうしたの、スウィート?」
「嘘……。もしかして“霧の湖”が見つからなかった理由って……」
「だからどうしたの?」
「あれ……!!」
スウィートが指を指した方向を全員が見る。
するとスウィートと同じように全員が、絶句した。指を指した方向、そこには――
「上に――湖がある!?」
フォルテの言う通り、湖が上に浮かんでいるのだった。