23話 正反対な2匹
「……本当にごめんなさい」
「い、いえ……」
フシギダネは深々と頭を下げた。スウィートもなぜかフシギダネに頭を下げていた。
すると転んだアチャモが体を起こした。フシギダネは頭を下げるのをやめて、アチャモの方を見た。
「全く……何を見ているんですか。探検隊バッチをつけているのに、何故お尋ね者と見違うんですか? きちんと謝りなさい」
「ご、ごめんなさいッ……!」
フシギダネに言われてスウィートのつけているバッチを見ると、アチャモは急いで頭を下げた。スウィートはまた頭を反射的に頭を下げた。
凛音はもう一度ハァ、と溜息をついてからスウィートの方を向いた。
「本当にすみません。私は
草花 凛音と申します。凛音と呼んで下さい」
「あっ、あたしはメフィーレ・アペーディヌ。メフィって呼んでください!」
フシギダネの方が凛音、アチャモの方がメフィーレらしい。凛音はとても礼儀正しく、メフィは人懐っこさそうだ。
とりあえず自己紹介されたので、スウィートもしておく。
「あっ、わ、私はスウィート・レクリダです」
どこかに隠れたいスウィートだが、どこにも隠れれないので顔を伏せる。頭では分かっているのだが、どうしても人見知りは直らない。
そうして黙っていると――
「あの、スウィートさん。聞きたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「……ふえ?」
スウィートは恐る恐る顔を上げた。凛音の目は真剣そのものだった。
おどおどとしながらもスウィートは凛音と目線を合わせた。
「ど、どうぞ」
「ありがとうございます。あと言っておきますが、敬語は伏せておいて構いません。貴女の方が年上でしょうから」
それこそ無理なのだが。スウィートはそう言いたかったが、凛音はそんな事も気にせず話をどんどん進めていく。
「実は私達、今道に迷っているんです。ですから、道を聞きたいのですが」
「えっと〜こ、この辺の道なら私にもあまり分からないん……分からないの」
「分からないんです」と言いそうになったのを慌てて言い直す。
普段なら「敬語を使わなくてもいい」と言われても使ってしまうのだが、言いそうになった途端、凛音が怖かった。
「……もしかして、仕事中でしたか?」
「えっ、ち、違うよ。今はギルドで遠征に来ているの。だからここら辺の事はあまり詳しく知らないの」
「そうなんだぁ……。凛音、どうしよう?」
メフィがグッタリしながら凛音を見る。凛音は少し考えてから、スウィートの方に向き合った。
「ギルドのメンバーに、道などに詳しい方はいますか? いるならその方に道をお聞きしたいのですが……」
「えっと……(ディラさんなら詳しいよね……?)うん、いるよ。因みに、何処に行くのか聞いていい?」
スウィートはそう勝手に決め付けて尋ねると、メフィは目を輝かせながら答えようとしている。
凛音はメフィを見ると口を閉じた。メフィはスウィートの方を向いて
「実はあたし達――“プクリンのギルド”に行きたいんです!!」
「………………え?」
スウィートは思わず耳を疑ってしまった。
メフィの言葉からなんだか自分達のギルドの名が出たような……。聞き間違えたか?そう思っていると、よっぽど驚いた顔をしていたのか
「……もしかして、スウィートさんが入ってるギルドが“プクリンのギルド”だったりします?」
と凛音に聞かれた。
メフィは驚いたような顔をしながらスウィートを見る。スウィートは控えめにコクッと頷いた。すると――
「すっごい! 凄い偶然! 探検隊名はなんですかッ!? もしかして最近結成した『シリウス』だったりします!?」
メフィが凄い勢いでスウィートに詰め寄った。スウィートは苦笑いしながらコクコクと頷き、こっそり後ず去った。
メフィは気にすることもせず、とんで喜んでいた。凛音は溜息をついてから
「メフィ、それくらいにしなさい。スウィートさんが困っているでしょう?」
「あっ、ご、ごめんなさい!!」
「え、いや……」
注意され、メフィは慌てて謝る。
スウィートはもうなんだかついていけず、曖昧な返事しか出来ないでいた。
「じゃあ……行ってもいいかな?」
スウィートがいい合間を見つけて、恐る恐る聞く。
すると話していた2匹は話をやめ、
「あたしはオーケーですッ!」
「ええ、いいですよ」
といったのでスウィートは来た道を戻ることにした。
後ろには凛音とメフィがついてきている。スウィートに話しかけながら。大体がメフィだが。
「『シリウス』って確か……スウィートさんがリーダーですよね? あとは誰が??」
「えっとね……フォルテっていうロコンとシアオっていうリオル、あとアルナイルっていうピカチュウがいるよ。アルって呼んでるけど」
「そっかぁ……。やっぱ楽しいですか? 探検隊って」
「うん。とっても楽しいよ」
毎日トラブルおきたり、喧嘩がおきたりしているけど楽しいは楽しい。まぁその代わりアルの苦労が増えるだけなのだが。
「ところで……2匹はなんでギルドに行きたいの?」
「そりゃあもちろん探検隊になりたいからですよ! だけどあたしがまた先に進んじゃったから道に迷っちゃって……」
「……また?」
スウィートはその言葉に引っかかって繰り返してしまった。
メフィを見ると顔を伏せていた。代わりに凛音が口を開いた。
「前もメフィが勝手に先行くから道に迷ったことがあるんです。幸い村について、道を聞けたので良かったのですが」
「そ、そうなんだ……」
どうやらメフィもシアオと同じく少しトラブルメーカーのようだ。そんな事を言っている内に、ベースキャンプについた。
先ほどまで森の中だったから気がつかなかったが、いつも間にか太陽が昇っていた。メフィはテントを見て
「ひゃあっ! ギルド専用のテントだよね!? ギルドってこんなの使うんだぁ……」
などと呟いていた。一方、凛音の方はというと――
「悪趣味……。普通のテントの方が絶対安い……」
などとブツブツ言っていた。スウィートがその光景に苦笑していた。
しばらくそんな2匹の様子見ていると――
「あっ、アル!」
「ん? あ、スウィート。何処行ってたんだ?」
アルがこちらに寄ってきた。
スウィートは散歩、と答えておいた。そんなやり取りをしているとブツブツ何か言っていた凛音がアルに気付いたようだ。
「スウィートさん、もしかして話にあったアルナイルさん……ですか?」
「え、うん。そうだよ。あ、アル。散歩している途中で会ったんだけど……」
凛音と話していると、アルが怪訝そうな顔をしていたのでスウィートが説明した。
会った経緯と、ギルドに弟子入りしたい、という事と。因みに凛音とメフィには自分から自己紹介してもらった。
「そうか。それならディラさんのトコか親方様のトコに行ったほうがいいんじゃないか?」
「そうだよね。アル居場所知ってる?」
「ああ。んじゃ行くか」
「はいッ!」
「はい」
大人しく返事をした凛音に対し、メフィは元気よく返事した。正反対の2匹だな、とアルは思いながらもディラとロードがいるテントに向かった。
「ディラさんか親方様いますか?」
アルがテントに向かって声を発すると、ディラが出てきた。ディラは怪訝そうな顔をしている。
「どうした? 何かあったのか?」
「いえ……。いや、あったっていえばあったんですけど。あの、たまたまギルドに弟子入りしたいっていうポケモンにスウィートが会ったんですが……」
チロッとスウィートが2匹を見れば、凛音は少しだけ前に出て自己紹介をした。
「草花 凛音です。凛音と呼んでください」
「メ、メフィーレ・アペーディヌですッ!」
続いてメフィも慌てて自己紹介した。
ディラはメフィの名前を聞いた瞬間、目を見開いて
「ア、アペーディヌ!? ま、まさかあの有名な探検隊の娘!!??」
「えっ……パパを知ってるんですか?」
メフィはキョトンとしていて、凛音はとくに驚いた様子もなく見ていた。ディラはもう興奮状態。
スウィートはなんだか分からずアルに目線で“説明プリーズ”みたいなものを送る。アルは気付いたようで説明してくれた。
「アレイ・アペーディヌ、種族はバシャーモ。『ウォレル』っていう探検隊のリーダーなんだ。『ウォレル』はマスターランクで、難しい依頼でも解決するって有名なんだ」
「へぇ……。そんなに有名なんだ」
自分って世間知らずだな、と思ったスウィートだが、記憶喪失なのでしょうがないと開き直った。
するとディラは落ち着きを取り戻したようだ。
「まぁ、弟子入りは構わないが……今ここでは無理だ。遠征が終わってギルドからに帰ってからじゃないと……」
「ではそれでも構いません。遠征が終わるまでの間、私達はどうしてたらよいでしょうか?」
凛音は顔色を全く変えず、聞く。ディラは首を捻らせ悩んでいる。スウィートはディラの様子をジッと見ていた。
するとアルが
「いっそ遠征に参加させたらどうですか? 誰かと一緒ならいいと思いますけど……」
「え、いいんですか!?」
という意見を聞いた瞬間、メフィが目を輝かせながらディラを見る。
この期待の目を裏切ると、なんとも人(ポケモン)でなしのような感じだった。
「じゃあお前らが一緒に行動しろ! 分かったな!?」
「「「はーい」」」
「やった〜♪」
もう半ばヤケクソのディラに、スウィートとアル、そして凛音が短く返事し、メフィはクルクル回って喜びを表すのだった。
「あ」
……結局回りすぎて転んだメフィだった。
「よし、全員揃ったな。では今回の事について説明するぞ」
あれから数時間後、全員がベースキャンプについたようだ。
そしてディラを中心にして説明が行われるところだった。
「昨日も言ったように、“霧の湖”の宝を探すことだ。だが“霧の湖”は名の通り霧に覆われている。おそらくこの霧のせいで発見しにくいのだろう。
もしも“霧の湖”について何か分かったらワタシか親方様に知らせてくれ」
全員がディラの言葉を聞いて気合を入れる。相変わらずなロードは何を考えているか分からないが。
「何か質問はないか?」
「あの〜……」
ディラが聞くとアメトリィがおずおずと声を上げた。全員の視線がアメトリィの方に向く。
「質問ではないんですが、実はここに来る途中聞いたんですけど、“霧の湖”にはユクシーというポケモンがいて、そのポケモンが湖を守っているらしいんです」
「「「「「ユクシー?」」」」」
全員が声をハモらせアメトリィに聞く。アメトリィは1回頷くと話を続ける。
「なんでもユクシーは目を合わせたものの記憶を消すと言われているようで……その為“霧の湖”についての情報が全くないとか……。そんな噂があるようなんです」
アメトリィの話に全員が黙った。驚きを隠せないのだろう。しかしただ1匹、スウィートだけは別のことを考えていた。
(もしかして私は一度ここにきて……ユクシーに会って記憶を消されたって考えられないかな……?)
だがそれなら何故人間からポケモンになってしまったのだろうか? とスウィートがそんな事を考えていると、ラドンが不安そうに声を上げた。
「ワシ……記憶を消されたらどうしよう……」
「あら、貴方は大丈夫ですわ。だって元から物忘れが激しいんですから」
少し馬鹿にしたような笑みを浮かべてルチルがラドンに言う。
ラドンは頭にきたようで、ルチルに向かって怒鳴ろうとしたが――
「ゴホンッ!! とりあえずユクシーに関してはまた調べる」
ディラが大きな咳払いをして、なんとか喧嘩にならなかった。大変だな……と同情しながらアルが見ていたのは誰も知らない。
「それじゃ皆、頑張っていこうーーー!!」
「「「「「おぉぉぉーーーー!!」」」」」
とても大きな声で弟子達はやる気を見せた。
「父さん、もしかしたら湖は地下にあるかもよ」
「さすがだな、我が息子よ。それでは行くか」
そう言うとハダルとフィタンは地面を潜って探しに行った。他の弟子達も散り始める。
「あたし達も行きましょ。真っ直ぐ進む以外ないみたいだし」
「だね!! 頑張って“霧の湖”を見つけよう!」
フォルテとシアオは結構気合が入っているようだ。スウィートとアルはその気合が空回りしないことを願う。
「楽しみだなぁ……。『シリウス』の戦い! エヘヘ……」
「メフィ、ニヤニヤして気持ち悪いですよ。そして貴女も戦うんですから。忘れていませんよね?」
「うっ……凛音ははっきり言い過ぎだよ……。もうちょっと遠慮してよ!」
「知りません」
顔がニヤけているメフィに対して、凛音がはっきり言った。多少傷ついたようでメフィは涙目で軽く凛音を叩いている。
凛音はその攻撃を普通にスルー。気にしていないようだ。
「じゃあ行こっか」
こうしてギルドの“霧の湖”の探索が始まったのだった。