22話 遠征の始まりと出逢い
ギルドを出て少し歩いたところ、『シリウス』では――
「だーかーら、絶対左!!」
「はぁ!? 何言ってんの! 迷った時は右でしょうが!」
フォルテとシアオが言い合いをしていた。理由は簡単。右と左に穴があり、分かれ道になっているのだが、それでどちらに行くか、という事である。
シアオは左、フォルテは右で主張している。両者、一歩もひく気などないようだ。
「アルはどっちだと思う?」
「……どっちでもいいから黙秘しとこうと思う。」
スウィートが聞くと、アルは疲れたように答えた。
その様子をみて、スウィートは黙ってシアオフォルテを見ることにした。言い合いはとまっていない。
「左の方が絶対正解だから!」
「何を根拠に言ってんのよ!? 絶対右! 迷った時には右って決まってんの!!」
「それはただの迷信でしょ!!」
「アンタの直感よりはマシだし、迷信なんかじゃないわよ!!」
あの言い合いが終わるかどうか本気で分からなくなってきたアルは、シアオとフォルテの方に歩み寄り、言い合いをとめる。
「……ちょっとストップ。これじゃ決まらないだろーが」
「「うっ……。だってフォルテ(シアオ)が……」」
シアオとフォルテは言葉に詰まる。
アルは2匹を交互に見てからため息をついた。そして心底あきれたような顔をしながら
「コイントスでいいだろ。裏か表。はぁ……くだらない」
「あたしは表!」
「僕は裏!」
アルは何処から取ったのか、コインをはじいた。コインが落ちると全員がコインを見る。
コインは――表。
「やった! あたしの勝ち!」
「まけたぁぁぁあぁ!!」
((コイントスするほどの事じゃないでしょ(だろ)……))
フォルテが勝ち誇った顔で悔しがっているシアオを見ている中、少し冷めた目でスウィートとアルが2匹を見ていた。
――――沿岸の岩場――――
「っと、メロメロ!――からたいあたり!!」
スウィートはトリトドンの攻撃を避けてからメロメロで相手をメロメロ状態にし、そこからたいあたり一撃で倒した。
特性の「てきおうりょく」で威力が上がっているおかげでとても楽だ。
「こっちは終わったよ――きゃっ!」
近くにいるアル達に声をかけようとしたら後ろから水鉄砲が放たれる。
スウィートは気配を感じてギリギリで避けたが、水鉄砲を放ったポケモン、タマザラシが今度はアイスボールを放った。
「っ……冷たっ……! しん、くうぎり!!」
アイスボールが腹に当たったのだが、スウィートは態勢を立て直し、しんくうぎりを放つ。
そこでタマザラシが怯んだうちにアイアンテールを打ち込むと、タマザラシは倒れた。
「冷たかった……」
スウィートは当たった部分を暖めながら呟いた。
そしてシアオ達の方を見ると、フォルテが水タイプの攻撃を避けながら、一生懸命戦っていた。スウィートは一応「手助け」を発動させた。
「アリガト、スウィート! そして……調子にぃ……のるな! シャドーボールッ!!」
フォルテがスウィートの方を振り返ってお礼を言うと、その笑顔が嘘のようになり、鬼のような形相になってシャドーボールを連打で打ちまくった。
すると先程までフォルテに攻撃していたトリトドンとクラブは倒れた。
「はんっ、バーカ!」
「お前な……。大人気ないぞ」
「どうせまだ子供だからいーのよ!」
フォルテが2匹を鼻で笑うとアルはすかさずツッコんだが、本人は気にしている様子も見せなかった。
そしていつものように溜息をつくアルだった。
「……あれ? 皆もう終わってたの?」
やはり遅いシアオだった……。
――――ツノ山 入口――――
「……結構進んだね。どうする?」
「野宿? わぁ、楽しそう!」
何も言ってないのに喜ぶシアオ。
スウィートとアルは疲れ果てた表情でシアオを見た。まぁ、全く気付いていないが。といっても野宿はベットもないので、地面で横になって寝なければならないのだが。
すると何も言わなかったフォルテが――
「野宿反対ッ! 絶対嫌!!」
「……という意見の奴も出てきたんだが。どうするんだ?」
文句を言い始めた。アルはげんなりとしながらシアオとスウィートに意見を求めた。
スウィートは苦笑して、シアオは口を尖らせた。
嫌な予感しかしないスウィートとアル。勿論それは見事に当たった。
「もう遅いじゃん! そんなに急がなくていいでしょ!?」
「嫌!! 絶対に野宿だけは嫌! それだけはぜーったいに反対!!」
((また始まった…………))
本日二度目のシアオVSフォルテの言い合いが始まった。アルは勿論、今回は珍しくスウィートまでもが溜息をついた。
それが、第2ラウンドの開幕。
そして10分後。
「で? 分かれ道があるんだが。」
4匹の目の前にあるのは“沿岸の岩場”で見たようなものと同じ、右と左に分かれている穴。
さっきの言い合いは結局フォルテがまた勝った。
理由は「あたしが朝起きれなくてベースキャンプ行くの遅れても知らないわよ!?」。それを聞くとアルがフォルテに加勢したのだ。スウィートはうつらうつら、とうたた寝していたが。
「「ここは勿論――」」
フォルテとシアオが声を揃えて言う。その瞬間、スウィートとアルにまた嫌な予感がよぎった。
((また言い合いになる――!!)
スウィートとアルは耳を澄ましてよく聞く。2匹が同じことを言うように、と願いながら。
すると――
「「――右でしょ」」
「「……ホッ」」
スウィートとアルは同時に安堵の息をついた。
これ以上時間をロスする訳にもいかないので、とりあえず安心した。他2匹は首を傾げているが。
「じゃあ、行くか。夜になったら困るからな」
――――ツノ山――――
「く、く、く、くもーーーーーーッ!!!!!」
「フォルテ、頼んだ」
「しょうがないわね。火炎放射ッ!!」
1番最初の叫び声が誰だったか分かっただろうか。
三番目の声が絶対にフォルテという事は分かるだろう。
すると後はスウィート、シアオ、アル意外残っていないだが二番目の声は絶対にアルのものだろう。だとすると後2匹しか残っていない。
スウィートか、シアオか。答えは
「……えーっと、大丈夫? シアオ」
シアオである。因みに先程の言葉はスウィートがシアオにかけたもの。
そしてクモというのは……アリアドスのことだ。フォルテが火炎放射で倒したが。アリアドスからしたら失礼な呼び方だ。シアオは全く気にしちゃいない。
「山だよねッ……!? なんでクモがいるの!? 山にはふつういないよねッ!?」
「山にアリアドスがいない訳ないだろーが……。そしてアリアドスといえ、アリアドスと」
シアオはもう涙目である。どれだけパニックになっているかというと、アルのツッコミを見事にスルーする程。
フォルテがゴーストタイプを怖がっているときの様子と言ってもいい。それほど煩いしパニックになっている。
「なんでそんなに苦手なの?」
何故こんなに苦手なのか。スウィートは気になってしょうがなかったので聞いてみた。
「む、昔……クモ(アリアドス)の巣に……引っかかったことがあってね……。それで、」
「もういい……。急ぐぞ、まだまだ出てくる」
「それだけは嫌だぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
「煩いッ!!」
シアオが思い切り叫ぶと、フォルテが思い切り尻尾でシアオの頭を叩いた。スウィートは久々だなぁ、このやりとり……などと思いながら前を進んだ。
スウィートはこっそりシアオが何回叫んでいたか数えていたとか……(本人曰く、8回)。
――――ベースキャンプ――――
「もう夜……。1つのダンジョンだけでどんだけ時間かかったと思ってる。シアオとフォルテは苦手を克服しろよ?」
「「うっ……」」
アルが殺気を込めた目でフォルテとシアオを睨みつけた。2匹は顔をひきつらせている。
“ツノ山”をやっとの思いで抜けたのはいいのだが、時間は七時くらい。ダンジョン内で一時間は軽くいたということだ。
スウィートは苦笑いしながら3匹を見ていた。
「ん……? テントがある、あれじゃないか?」
アルが指を指した方を見ると、テントがいくつもあった。
スウィート達が近寄ってみるとそこにはプクリンの形をしたテントが……。誰がこんなものを作ったのだろうか? さらに目立ちすぎである。
「す、凄いね。分かりやすい……」
「ちょっと悪趣味な気がするのはあたしだけかしら?」
「……かなり悪趣味じゃないか?」
シアオ、フォルテ、シアオがそれぞれ感想を言う。まぁ確かに悪趣味な感じはする。暫くテントを眺めていると――
「ん? 『シリウス』か?」
「あっ、ディラ! 『シリウス』だよ〜」
テントから出てきたディラが声をかけてきた。シアオはヘラッとしながら答える。
「早かったな、一番乗りだ♪ 今日はもう遅いからテントに入って寝なさい♪」
それだけ言うと、ディラはまたテントに戻っていった。
フォルテは早速テントに入って行き、アルも疲れたような顔と足取りで入っていった。シアオも入ろうとするが、スウィートの様子が変な事に気がつく。
「スウィート?」
(ここ……懐かしいような……。見たこと、来たことがあるような気がする…。いつ……? 私はいつ来たことが――)
「――スウィートってば!!」
「ッ!?」
スウィートが我に返ると、シアオが心配そうに顔を覗き込んでいた。つい考え事をして何も聞いていなかった。
「ど、どうしたの?」
「それはこっちの台詞だよ。さっきからボーっとして。フォルテ達はもうテント入ったみたいだから僕達も入ろ?」
「う、うん……」
シアオはスウィートが返事したのを聞くと、すぐにテントに入っていった。
スウィートは不思議な感覚のことを考えながらも、テントに入った。
「ん……。今、何時だろ……?」
スウィートは不意に目が覚めて、テントから出る。あたりはまだ薄暗いが、少しずつ明るくなってきている。
だがいつもよりは起きた時間が早いようだった。スウィートはもう一度寝る、と選択肢も考えたのだが、これ以上寝れそうにないのでやめた。
(寝るところが違うからかな……? 落ち着かないのかも。)
スウィートはそう考えながら、この時間をどうやって過ごそうか、という事も考えていた。
「……! そうだ、この辺りの近くを探索してみよう」
(そんなに遠くに行かなきゃいいよね。それに……この感覚のことも知りたいし)
そう思いながらスウィートは森の中に入っていく事にした。何か記憶の手がかりがあるように、と願いながら。
そして暫く経った頃――
「とくに何にも手がかりないな……。ただの思い過ごし……?」
スウィートはブツブツ独り言を呟きながら、森の中を進んでいた。
だが何もないし、進んでも同じ風景があるだけ。スウィートは溜息をついた。
(戻ったほうがいいかな……。とくに何もないと思うし)
と、来た道をたどるため体を振り向かせ、一歩踏み出すと
「キャッ!?」
目の前に、1匹のポケモンが転んだのか、倒れこんできた。スウィートは驚いて一歩後ず去った。
そのポケモン、アチャモはなんとか体を起き上がらせた。
「いたた……。ん?」
「あっ……」
そして、目がバッチリとあった。スウィートはなんて言っていいのか分からず、オロオロするだけだった。
するとアチャモはバッと身構えた。
「も、も、もしかしてお尋ね者ッ!?」
「えっ……!? あ、あの……」
その逆でお尋ね者を捕まえている探検隊なのだが。
なんとか誤解を解こうとするが、アチャモは勝手に話を進めていく。
「つ、捕まえなきゃ……!! えっと――」
「……え? えぇぇぇえ!?」
完全にお尋ね者、と認識されてしまったらしい。
一応探検隊バッグとバッチを持っているのだが、気付かないのだろうか。アチャモは攻撃を仕掛けようとしていた。
スウィートはパニックになっている頭で一生懸命考えるが、全く説明の仕方が見当たらない。
そんなことをしている間に、アチャモは火をためていたようだ。
「ひ、火の――」
「ッ!?」
スウィートは火の粉だと思い、しんくうぎりの準備をする。
つまり、全て避けるつもりだ。アチャモの口からは火が見える。スウィートは身構えた。が
「――粉!!」
「一体何をやっているのですか。」
「ふえっ? って、きゃッ!!」
突然伸びてきた蔓によってアチャモはまた転んだ。
スウィートは驚いて身構えをとく。蔓が伸びている方を見ると、フシギダネが1匹、立っていた。
そしてアチャモの方を見てから溜息をつき、スウィートの方を見て
「……本当にごめんなさい」
謝ったのだった。